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2015/10/12

マイルス〜ちょっとおかしなリイシュー事情

Kindofblue

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昨日、マイルス・デイヴィスの『アガルタ』『パンゲア』は、完全フル収録のものとそうでないものがあると書いたけど、事情が異なるとはいえ、似たような違いがあるのは、それだけではない。マイルスの他の作品でも、ものによっては、収録されていなかったものが収録されるようになっている。

誰が聴いても分るのは、コルトレーンやレッド・ガーランド等を擁したファースト・クインテットによる、プレスティッジへのいわゆるマラソン・セッション四部作。そのうち、オリジナル・アナログ盤では、『リラクシン』の一部にだけ、演奏前のやり取り等が収録されていたが、最近ではそれだけじゃない。

『リラクシン』一曲目の「イフ・アイ・ワー・ア・ベル」と二曲目の「ユア・マイ・エヴリシング」にだけ、演奏前のやり取りをする声や、レッド・ガーランドによるピアノ・イントロ弾き直しが収録されているというのが、従来盤LP。ある時期からのCDリイシューでは、「オレオ」にもそれが入っている。

『リラクシン」だけじゃない。『クッキン』二曲目の「ブルーズ・バイ・ファイヴ」も、LPと従来盤CDでは単に本演奏が入っているだけだったのが、最近のリイシューCDでは、本演奏前に会話や楽器のウォーミング・アップをしたりする様子が、少し収録されるようになっている。

プレスティッジのマラソン・セッション四部作では、その二つだけしか違わないのだが、これがいつ頃からそうなったのかは、僕もよく分らない。CDリイシューでも最初の頃はそれらはなく、アナログ盤と同じだったはず。ホントいつ頃からそれらが入るようになったんだろう?

しかも『リラクシン』の場合は、村井康司さんの紹介で知って買った、2013年リリースのプラチナSHM盤では、「オレオ」の前のそういうやり取りは入っておらず、アナログ盤と全く同様の内容になっている。SACDでも出ているけど、それは聴いていない。

そして、そういうちょっとした違いが、実はコロンビア移籍後のアルバムのCDリイシューでも少しだけあって、例えば『カインド・オヴ・ブルー』一曲目の「ソー・ホワット」、最近のCDではラストのフェイド・アウトのタイミングが少し遅い。つまり収録時間が若干長い。嫌になるほど聴いてきたので、即座に分った。

そういう曲終了時のフェイド・アウトが遅い(長く収録されている)のは、『ビッチズ・ブルー』一曲目の「ファラオズ・ダンス」でもそうだ。「ソー・ホワット」にしろ「ファラオズ・ダンス」にしろ、どっちも繰返し繰返し聴いてきている熱心なファンじゃないと、すぐには気が付かないような違いではあるけどね。

僕もマイルスの全作品を飽きるほど繰返し聴いてきていたというのでもなく、あまりそう何度もは聴いていないアルバムもあるので、探せば他にもこういうことが見つかるかもしれない。ギル・エヴァンスとやった『マイルス・アヘッド』では、モノラル盤と昔のステレオ盤で、一時期はテイクが違っていた(現在は統一されている)。

『ビッチズ・ブルー』の場合、ちょっと聞捨てならない話を小耳に挟んだことがある。それは、従来のマスター・テープが著しく劣化してしまったので、ある時期のリイシューCD発売時に、オリジナル・セッション・テープから、もう一度同じように新たに編集し直して、マスターを作り直したらしいというもの。

特に『ビッチズ・ブルー』一枚目の「ファラオズ・ダンス」と「ビッチズ・ブルー」は、テオ・マセロが跡形なく編集しまくっている(僕はブート盤でオリジナル・セッションを聴いているけど、そうでなくても分るはず)ので、マスター再作成は相当苦労するはず。音の質感も変ってしまうだろう。

僕はある時その噂を読んで、信じられない思いがすると同時に、「ああ〜、道理で音の質感が違うと思った」と得心もいった。僕の感触では、1998年に『コンプリート・ビッチズ・ブルー・セッションズ』ボックスが出て、その後単独でリリースされるようになった、「フェイオ」入り『ビッチズ・ブルー』から変った。

だいたい、『カインド・オヴ・ブルー』や『ビッチズ・ブルー』みたいな、完璧な形をしている作品に、それぞれ一曲ずつボーナス・トラックを入れて再発してしまうということ自体が許せないのだが、それはもう大勢の方々に言尽くされていることなので、繰返さない。しかし、マスター作り直しというのは、どうなんだ?

オリジナル・セッション・テープから、CDリイシュー用にマスターをイチから作り直すということは、あの複雑な編集作業もミキシングも、イチからやり直すということだし、いくらオリジナル・マスターが劣化しているとはいえ、ちょっと信じられない話なのだが、僕が聴く限りでは、音が変ったのも確か。

『ビッチズ・ブルー』同様に跡形なく編集されている『イン・ア・サイレント・ウェイ』の両面(こっちは、公式にオリジナル・セッションがリリースされているので、誰でも編集模様を確認できる)や他のアルバムでは、どんなCDリイシューを聴いても、そのような音の質感の違いは、僕の耳には感じられない。むろん、アナログとデジタルの音の違いとか、CDでも高音質化による違いとか、それは別の話。

マイルスのコロンビアでの音源は、ある時期にほぼ全ての音源がいろんな形のボックスで(「コンプリート」と称して)リリースされ、その際に同じセッションからの未発表テイクや未発表曲も収録・発売され、その後に出るようになった単独CD再発からは、いろいろと変っているものがある。ボーナス・トラック収録もその一つ。

ボーナス・トラックだけなら、CDだと聴かないことも簡単だから、あまり問題ではないような気もする(さっき書いたように許せないのではあるが)。がしかし、従来から収録されている曲の音の質感が変化したり、フェイド・アウトのタイミングが変って、長く収録されていたりするのは、やっぱりちょっとおかしいよなあ。

繰返さないと言ったけど、本当はボーナス・トラックにだって言いたいことはあるよ。最近は「『ビッチズ・ブルー』にビリー・コブハムが参加している」という文章をネット上で見掛け始めるようになった。しかしこれ、ビリー・コブハムが入っているのは、ボーナス・トラックの「フェイオ」のこと。大変にミスリーディングじゃないか。

もちろん『ビッチズ・ブルー』を録音した69年8月の三日間にビリー・コブハムは参加していない(彼が参加した「フェイオ」は、1970年1月録音)。そういう文章を書く人が、分って書いているのかどうか、判断しがたいことがあるんだけど、いずれにしてもそういう文章を書かせるようになった根本原因は、ボーナス・トラック入りで再発するレガシーにあるんじゃないの?

こんな些細なことは、普通の一般のリスナーにはあまり関係ないことかもしれない。こだわっているのは、故中山康樹さんや僕みたいな、一部の熱烈なマイルス・ファンだけかもしれない。しかし、逆に言えば、詳しい事情をあまり知らない一般のリスナーにこそ、ちゃんとしたものを届けるべきじゃないの?

だって、僕ら熱心なファンは、見たり聴いたりしたら、「おかしい」「違う」って分るからね。そういう違いが分らない普通のリスナーのみんなは、いわば「騙されている」ままなのだ。それこそ問題なんじゃないのかなあ。そのあたり、マイルスの再発を担当しているレガシーの関係者はどう考えているんだろう。

そんなにこだわるのなら、オリジナル通りのアナログ盤で聴けばいいじゃないかと言う声が聞えてきそうだ。そう言われたら、全くその通りで返す言葉もない。しかしまあ人それぞれ事情というものがあるのさ。それに僕のこういう発言は、21世紀になってから、リイシューCDでマイルスを聴始めた方々向けのものなのだ。

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コメント

こんにちは。
スミマセン!マイルスをあまり聴いてない僕がコメントなんかしてしまって。
としまさんに教えて欲しいレコードが我が家の棚にあるのですが、
昔、知り合いの人に貰ったもので、「MILES DAVIS BITCHES BREW SINGLES」という2曲入りのレコードと、4曲入りの「miles davis」という手の写真がジャケの盤です。
まぁ、遊びで作られたレコードだと思いますが・・・コレなに?
頂いたものなので売るわけにもいかんし、お暇な時にでも教えてください。

イワタニさん

なんのことやらサッパリ分らないので、ちょっと調べてみて、なにか分ったら報告します。

イワタニさん

『Bitches Brew Singles』というのは、多分これのことでしょう→ http://www.discogs.com/Miles-Davis-Bitches-Brew-Singles/release/475754

アメリカで1999年に出たヴィニール・シングル盤のようです。収録時間を見ると、二曲ともかなり編集されていますね。このシングル盤A面の「ビッチズ・ブルー」は、アルバムでは27:01。B面の「スパニッシュ・キー」は、アルバムでは17:34ですからね。

昔ははこういう編集された短くなったシングル盤が、マイルスも結構出ていて、いくつか僕も持っていますが、これは知りませんでした。

四曲入りという『Miles Davis』というものの方は、調べても分りません。せめてタイトルか、収録曲名とか、アルバム・ジャケットの写真とか、なんらかの手がかりがないと、どうにも分りようがないです。

イワタニさん

マイルスのアルバムで手がジャケットというと、『TUTU』なんですが、それだけをとっかかりにいろいろ調べてみたら、こういうのに出くわしました。これのことじゃないですか?→ http://eil.com/shop/moreinfo.asp?catalogid=567277

これ、ドイツで1986年に出た7インチ・ヴィニール・シングルですね。でも収録曲がどうにも分りません。元々、このジャケットは、同年に出たアルバム『TUTU』の、インナースリーヴのものです。『TUTU』のアルバム情報はこちら→ https://en.wikipedia.org/wiki/Tutu_(album)

おそらく、このアルバムから四曲選んで収録されているのでしょう。

調査を続行します。

アッ!コレです!間違いありません。
スミマセンお手数をおかけして。こんな訳の分からんレコードがたくさん出ているのも、マイルスが偉大な証拠ですね。
あと1枚は3曲入りでした。
タイトル「miles davis」
side1 TUTU(LPversion) side2 TUTU(edit) SPLATCH(LPversion)
1986 warner bros.records
ジャケは紫色で黒人(マイルス?)の左手のアップ写真です。
これもとしまさんが知らないぐらいだから、遊びのレコードでしょう。

おっー!
このジャケですよ。さすがだなぁー!
これは知ってましたか?

イワタニさん

二つともなんとか当ったようですね。二つ目も知りませんでした。

遊びというか、昔はオリジナル・アルバムから抜出して編集したシングル盤やEP盤がいろいろと出ていました。それらの殆どは、リリース各国だけでのものです。『Bitches Brew Singles』の方は、アメリカでのプロモ盤ヴィニールですから、一般にはあまり流通していないはずですし、二枚目の『miles davis』の方は西ドイツ国内だけでリリースされた7インチ・ヴィニールのようです。

こういう各国様々なシングル盤、1991年にマイルス本人が死んでからは、どういうわけか殆ど出なくなりましたけどね。

本当にありがとうございました。
全然訳の分からないレコードだったので、としまさんなら知ってるに違いないと思いコメントしました。
わざわざ調べていただき、大感謝です!
つまらんコメントでスミマセンでした。
ありがとうございました!!

私の「Bitches Brew」初体験は、SQ4チャンネルです。エコー掛かりまくり、音がぐるぐる自分の周りを回る!それはそれは「すげー」体験でした。2チャンネルの「Bitches Brew」は最初物足りなかったのを思い出します。
マスターテープの作り直しの話、中山康樹さんもおっしゃってましたね。昔のLPは友人が持っていったきりだし、最初に出たCDは安値で売ってしまったので今の作り直しバージョンとの比較はできないのですが。
そう言えば中山康樹さんの「マイルスを聴け!」のカラーバージョンのエレクトリック時代とカムバック時代は出ないんでしょうねえ。

TTさん、僕はプロでもなんでもないただの素人リスナーなので、スタジオ事情などには全く疎いわけですが、それでもマスター作り直しというのは、俄には信じがたい話ですよ。そんなことが果してあり得るのか、非常に疑問です。しかし音の質感が僕の耳には違って聞えるのも事実なんで、本当のところを、コロンビア(レガシー)の関係者に問いただしてみたい気持です。

なお、中山康樹さんの『マイルスを聴け!』のおっしゃっているそれらは、おそらく出ないと思います。

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