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2015/10/29

ひばりは十代の頃に限る

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以前ある友人が、美空ひばりの「上海」というのを上岡龍太郎司会のテレビ番組で聴いて、それが最高だったんだけど、CDになっていないのかと聞くので、『ジャズ&スタンダード』に入っているよと教えたら、あっ、それは持っているぞ!と答えるという、コメディみたいなやり取りがあった。

上岡龍太郎は2000年に芸能界を引退しているので、それ以前の話。友人がテレビ番組で聴いたのはSP盤だったらしい。その友人は『ジャズ&スタンダード』を持っているけど、買ってからおそらく一度も聴いていなかったんだろうと笑っていた。僕もそういうCDたくさんあるからなあ。

ひばりの歌う「上海」は1952年録音で、彼女15歳の時。僕の持っているCDとは音が違うけど貼っておこう。 どうだろう?最高にチャーミングじゃないだろうか?その友人だって、買ったCDを聴いていれば、当然忘れるはずがないと思うほど素晴しい。
お聴きになれば分る通り、これは完全なるジャズ・ナンバー。国民的大歌手になった「柔」以後の演歌路線のひばりしかご存知ない(という方が多いだろうと思う)と、かなり意外に聞えるかもしれないが、デビュー当時のひばりはこういう軽快でスウィンギーなポップ・ナンバーをたくさん歌っている。

「上海」というジャズ・ナンバーは、ひばりが録音する前年1951年に、アメリカのジャズ系ポップ歌手ドリス・デイが歌ったもの。 お聴きになれば分るけど、ひばりのヴァージョンは、このドリス・デイのオリジナル・ヴァージョンの完コピ。
ひばりのヴァージョンは一部日本語詞でも歌っているけど、英語の部分も完璧だ。彼女は英語は全くできなかった、というか1937年生まれだから、ちゃんとした英語教育を受けていない。だから完全に耳での聴取りだけでコピーしているわけだ。

英語歌詞の意味も全く理解していなかったはずで、それなのに耳からの聴取りだけで、あそこまで完璧な発音でコピーして歌いこなせるひばりの耳のとんでもない良さには、感嘆の溜息しか出ないね。ポピュラー音楽では、歌詞の意味を理解しているかどうかは、歌手の表現や聴き手の聴取には、関係ないんだ。

「上海」が入っているCD『ジャズ&スタンダード』には、ジャズやジャズ系のポップなスタンダード・ナンバーばかり入っていて、これ、僕が持っているひばりのCDの中でもよく聴くものなんだけど、「柔」「悲しい酒」「愛燦燦」「川の流れのように」などしか知らない人には、縁のないものだろう。

10曲目の「アゲイン」は、「上海」同様モノラル録音でスクラッチ・ノイズがが入るので、これもやはり1950年代前半の録音だね。この頃は本当にスウィンギーでポップで、ジャズ・シンガーとしてもひばりは最高にチャーミングだ。こういうのがもっと聴かれないかなあ。

その他、「オーヴァー・ザ・レインボウ」「ラヴ・レター」「恋人よ我に帰れ」「スターダスト」「A列車で行こう」、あるいはシャンソン・ナンバーの「バラ色の人生」など。モノラルの「上海「アゲイン」以外は、全部ステレオ録音だから、もっと後年の録音だろう。絶品の「上海」以外はイマイチだ。

というのも、新しめの録音だと「上海」で聴けるような軽快なスウィング感が若干失われていて、悪い意味での演歌的な節回しが散見されて、ジャズやジャズ系のポップ・ナンバーの歌い方としては、少し胃にもたれるような感じがするのだ。各曲が何年の録音なのか書いてないんだけど、だいたいの想像は付く。

「上海」「アゲイン」の二曲は違うと思うけど、それ以外のジャズ系ナンバーでの伴奏は、全部、原信夫とシャープス&フラッツが務めているはずだ。どう聴いてもそういうサウンドだし、ある時期以後のひばりはシャープス&フラッツに絶大なる信用を置いていて、ジャズ以外も全部彼らの伴奏だったから。

ジャズ・ナンバーに限らず、全ての録音で、ひばりが本当によかったのは、私見では甘く見ても1957年の「港町十三番地」まで。つまり二十歳までだ。歌手として魅力的だったのは十代の頃だけという、この僕の見解は厳しすぎるだろうか。

ひばりのレコード・デビューは1949年12歳の時の「河童ブギウギ」だけど、タイトル通りブギウギ系のスウィング・ナンバーなのだ。劇場デビューはその二年前10歳の時で、その頃のひばりは、主に笠置シヅ子のブギウギ・ナンバーなどをカヴァーして歌っていたらしい。全く録音は残っていないけど。

笠置シヅ子の曲を書いていたのが服部良一で、服部は同時代のアメリカのポピュラー音楽をよく吸収し、軽快でスウィンギーなポップ・ナンバーをたくさん書き、笠置シヅ子に提供していた。笠置の歌い方は、僕にはあまりスウィングしていないように聞えるので、ひばりが歌えれば最高だったんだけどね。

でもそれは笠置もひばりが服部の書いた自分のレパートリーを歌うのを厳しく禁じたらしいので、レコーディングするなどはもってのほかだった。ひばりにとっても服部にとっても昭和歌謡音楽にとっても、これは史上最大の悲劇だったろうと思う。もしひばりが服部の曲を録音できていたら、その後全く違う歌手人生を歩んだはずだ。

現在、その初期のひばりの劇場での姿を聴けるCDがたった一枚だけあって、ほんの二年前に発掘・発売された『ひばり & 川田 in アメリカ 1950』だ。タイトル通り、ひばり13歳の時の、師匠だった川田晴久とのアメリカ公演を録音したもの。これには数多くの軽快なポップ・ナンバーがある。

このCDで、デビュー当時は劇場で歌っていたらしい服部の「東京ブギウギ」が聴ければ最高だったんだけど、それは入っていない代りに、同じ服部が書いた笠置シヅ子ナンバーの「ヘイヘイブギー」が聴けるし、それ以外にもいくつもブギウギ・ナンバーが聞けて、ひばり本来の持味がどういうものか、よく分る。

デビュー曲1949年の「河童ブギウギ」も入っている。これはひばりのための曲なので、当然正規にレコーディングされていて、『特選オリジナル・ベストヒット曲集 Vol.1 / 1949~1957』というCDに収録されているのを愛聴している。この三枚組、ラストが「港町十三番地」なのだ。

つまりデビューから「港町十三番地」までという、先にも書いた彼女の一番良かった時期だけを集めた三枚組なので、これと『ジャズ&スタンダード』と『ひばり & 川田 in アメリカ 1950』の三つがあれば、それだけでひばりは充分。これ以後はダメだ。スウィンギーでポップなのがひばり本来の味。

「柔」以後、演歌路線になってからは、ひばりが本来持っていた才能が完全に消え失せている。誤解しないでいただきたいのは、演歌そのものがダメということではない。僕は演歌だって大好きで、演歌こそが持味の歌手も多いわけだから。さらに、ひばりもその時代の方がはるかにヒットして国民的大歌手になったのではあるし。

だけど、はっきり言って駄曲が多いというといささか失礼だけど、曲に恵まれていないように思う。唯一グループ・サウンズのジャッキー吉川とブルーコメッツとやった「真赤な太陽」があるけど、あれはひばりとしてもグループ・サウンズとしても、いい出来とは言えない。やはりひばりは十代の頃に限るね。

そういうわけで、ひばりの最高傑作は、私見では「上海」なんだけど、オリジナル曲では1952年の「お祭りマンボ」が一番いい。この曲は後年も繰返し歌ってはいるけど、くどいけど後年の録音はほぼダメ。ノリが全然違っている。そして、「お祭りマンボ」を書いた原六朗とは、服部良一の弟子なのだ。
これを聴くと、僕はいつもブラジルの大歌手カルメン・ミランダを思い起す。短い小節数の中に詰込まれた数多くの言葉を速射砲のように繰出して、苦しい感じが全くなく、抜群のリズム感で余裕綽々で極めて自然に歌いこなしているあたり、よく似ている。この頃のひばりなら、カルメン同様、世界に通用する歌手だったね。

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コメント

十代のひばり、というなら『ミソラ ヒバリ  アーリーソング コレクション 1949-1957』コロムビアミュージックエンタテインメント COCP34306-07 が決定盤じゃないでしょうか。
「上海」「アゲイン」の名唱も、後年の立派なジャズ・スタンダードとごっちゃに収録した『ジャズ&スタンダード』より、こちらの外国曲をまとめたディスク2で聴くほうが断然いいですよ。

bunboniさん

あ、そういうのがあるんですね。コレかぁ→ http://www.amazon.co.jp/dp/samples/B000P0I54I/

これはほしい。でもちょっと高いなあ。ちょっとお金に余裕ができたら、買ってみます。

美空ひばりについてききこむほどに、初期楽曲の素晴らしさに気づきますね。後年の船村徹は美空ひばりの裏声にこだわり過ぎてかつての楽曲で発揮されていたリズム感には無頓着だった嫌いがあります。もちろん、みだれ髪も悲しい酒も好きですが
実感的なひばりの佐渡情話は、やり過ぎでしょう。


余談ですが、川の流れのようには、駄曲だと当時から思っています。また、この秋元康作詞の薄っぺらな人生論の歌を良い歌だと勘違いしてしまう人たちは、こじんまりした人間の哀愁を歌うことで発展した1970年代以前の楽曲の良さには気づかない人達です。
大衆に文学的な教養が無いと、陳腐な表現でも平気で受け入れてしまうという典型例です。

こちらもよろしくお願いします。

http://hisashitoshima.cocolog-nifty.com/blog/2017/11/2-30ac.html

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