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2016/01/24

ミンガスの最高傑作は『クンビア&ジャズ・フュージョン』

Tijuana_moods

Cumbiaandjazzfusion









チャールズ・ミンガス自身が「最高傑作」("the best record I ever made")と1962年に語った『メキシコの想い出』("Tijuana Moods")。2014年に二枚組の『完全盤』なるものが出ていることに、なんと今年ようやく気が付いて(遅すぎ!)、買って聴いてみた。

もっとも、2014年にリリースされているのを今年発見したというのは日本盤で、調べてみたら、アメリカ本国ではレガシーが2010年に同じ内容の二枚組をリリースしていたようだ。僕は全く気付いていなかった。だいたい僕はマイルス・デイヴィス以外の音楽家のリイシュー情報には、かなり疎い。

ミンガス自身がそう言っているせいもあってか、これを彼の最高作と位置付ける人は昔からたくさんいたようだ。でもこれ、大学生の頃に初めて聴いた時に感じた強烈なラテン音楽色は、今聴くと、なぜだかそれほどには感じない。こういうアルバム・タイトルだし、ラテン音楽指向のアルバムなんだろうけど。

改めて聴直してみると、ラテン色を感じるのは二曲目の「イザベルズ・テーブル・ダンス」くらいで、それも昔は完全にフラメンコ音楽だと思っていたのに、今聴くと、若干そんな雰囲気があるなと思う程度。カスタネットが入っていたり、フラメンコ・シンガーっぽい女性の歌が入っていたりするけれど。

このアルバムを録音した1957年のミンガスが、どうしてラテン音楽風のアルバムを創ろうと思ったのか全く知らないし、調べてもいない。ミンガスには同じ57年にアトランティックに吹込んだ『道化師』の一曲目に「ハイチ人の戦闘の歌」という曲がある。もっともこれはハイチという言葉があるけど、音楽はハイチ風では全くない。

何度か書いているように、元々ジャズとラテン音楽(というか中米カリブ海音楽)は、発生当時から実に密接な関係があるわけだし、1957年のミンガス以前から、ジャズマンがラテン音楽風の曲をやったりするのは、別に珍しくもなんともないから、特段これという理由もなく、なんとなくやってみたんだろう。

『メキシコの想い出』の収録曲の中でラテン風味を感じるのは、さっき書いたように「イザベルズ・テーブル・ダンス」だけで、これ以外はスケールも全然スパニッシュではないんだけど、今聴いて、ラテン風云々を抜きにして一番いいなと思うのは、五曲目の「フラミンゴ」だ。これはミンガスの曲ではない。

「フラミンゴ」の作曲者はルーマニア生れのテッド・グロウヤで、初演は1940年のデューク・エリントン楽団のヴィクター録音。随分後にハーブ・アルパート&ティファナ・ブラスも録音している。エリントン・ヴァージョンはヴォーカル入り。僕はミンガスのが一番好きだなあ。
冒頭から、終始メインのメロディを吹くハーマン・ミュート・トランペット(クラレンス・ショウ)が、たまらなく美しいね。複数の管楽器が絡んできて、ミンガス独自の濃厚なアンサンブルになる。アレンジも最高だよね。『完全盤』には、三分以上長い別テイクも収録されている。

さてミンガスのラテン音楽風味の作品というと、僕は今聴くとあまりラテン的とも感じられない『メキシコの想い出』よりも、断然1977年録音、1978年リリースの『クンビア&ジャズ・フュージョン』だ。これは最初に聴いた時からそうだし、今聴き返しても完全にラテン音楽だとしか思えないような内容だ。A面だけだけどね。

実を言うと、僕が初めて買ったミンガスのレコードが、その『クンビア&ジャズ・フュージョン』だった。僕がジャズを聴始めたのが1979年だったから、78年リリースのこのアルバムは、当時の最新作のような感じで買ったのに違いない。最新作だから、当然名盤ガイドの類には載っていなかったはずだ。

その頃の名盤ガイドでは、『直立猿人』とか『道化師』とか『ミンガス・アー・アム』とか『オー・ヤー』などが挙っていて、ちょっと変り種では、エリントンがリーダーのトリオ作品『マニー・ジャングル』が載っているような感じだった。でもそういうものには全く手が伸びなかった。

前にも書いたけど、僕がジャズを聴始めたきっかけが植草甚一さんのエッセイを読んだからで、その中で植草さんはミンガスの「ハイチ人の戦闘の歌」(『道化師』)を、他の二つとともに、ジャズ入門者用に推薦していた。だから僕は『道化師』を買いにレコード屋に行ったけど、ジャケットが怖くて買わなかった。

この話は何度もしたから、くどいね。それでミンガスを買うのは少し遅れたのだった。『クンビア&ジャズ・フュージョン』は、おそらくレコード屋店頭で見てのジャケ買いだったのかもしれないなあ。クンビアというコロンビア音楽のことは全くの初耳で、聴いてもクンビアなのか分るわけがなかった。

アルバムA面いっぱいを占めるのタイトル曲(B面は『トード・モード』という映画のための音楽で、何の関連もない)と、コロンビア音楽クンビアとの関係については、どなたかクンビアに詳しい方にお任せするとして、一曲丸ごとYouTubeにあるから貼っておこう。
ミンガスをあまりお聴きでない方も、あるいはラテン音楽に縁の薄い方でも、この音源をお聴きになれば、一聴普通のいわゆるモダン・ジャズのムードとはかなり異なる強いラテン風味を感じることができるはず。最初に聴いた時から、僕はこの音楽の虜になってしまって、そのまま30年以上経っている。

最初小鳥のさえずりのような音から静かにはじまって、徐々にヴォリュームが上がっていき、ミンガスのベースが入ってくる辺りから本格的に音楽がはじまる。ホーン・セクションのラテンなアンサンブルがたまらなく気持いいね。ホーン・アンサンブルには、当時流行していたサルサに通じるものすら感じる。

ラテン・パーカッションも、コンガ奏者が四人、それ以外のパーカッション奏者が一人と、大勢参加していて、中盤でも、ダニー・リッチモンドのドラムスとそれらパーカッション群だけのやり取りを聴けるパートがある。これにもしティンバレスでも入っていれば、サルサ風になるね。

『クンビア&ジャズ・フュージョン』は、ビッグ・バンド作品で、ミンガスは以前からわりとビッグ・バンド作品があるよね。彼はスモール・コンボでもビッグ・バンドでも真価を発揮する音楽家だ。僕はジャズではどっちかというとコンボよりビッグ・バンドのサウンドが好きだから、その意味でも好みだった。

ミンガスの最高傑作は、この『クンビア&ジャズ・フュージョン』だと、大学生の頃から現在でもそう考えている。このアルバムの日本盤LPライナーノーツ担当だった油井正一さんが、その中でそう言っていた影響もかなりあるのは確かなことだけど、どう聴いても推薦盤として挙げられる『直立猿人』とかよりいいんじゃないの?

油井さんは自著の中で「ジャズはラテン音楽の一種」という説を展開していたから、ライナーノーツというレコードの附属品でなくとも、おそらく『クンビア&ジャズ・フュージョン』を推していたはずだ。僕もラテン音楽をいろいろ聴くようになってからの現在の方が、このアルバムの面白さが一層分るようになった。

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コメント

ミンガスの熱心なリスナーではないので説得力は弱いですが、このアルバムはおそらく最高の作品と言っていいのではないかと思います。多くのジャズファンが「クンビア」という音楽あることを知っているのもおそらくこの作品があったから。

このアルバムは発売当時にジャズ喫茶で聴いているし、話題の作品だったことも覚えている。しかし、印象は殆ど残っていません。むしろ、同じジャズ喫茶で聴いたドン・チェリーの『ブラウン・ライス』の方がしっかり記憶に残っています。なぜなんだろう?

時は流れて、ひょんなことからサウス・アメリカン・ジャズと呼ばれる南米大陸のジャズに興味を持ちました。その流れでそれこそ北から南までの南米大陸のいろんな音楽を聴いたのですが、強く心に引っ掛かった音楽のひとつにクンビアがありました。

しかし、『クンビア・アンド・ジャズ・フュージョン』は長らく廃盤状態でCDでもなかなか見つけられなかったんですね。2006年に復刻された "Three or Four Shades of Blues" という作品とカップリングされた2枚組CDを見つけて聴いてみたら一発でお気に入りになりました。

コロンビアに限らず南米大陸全体で愛好され、サルサでも重要な地位を占めるクンビアの奥深さを知ったことでこの作品の素晴らしさを理解することが出来たのだと思います。南米大陸のリズムの魅力は、ワルツに由来する3拍子系のものが支配的な中で、そこにアフロ系の6/8が2拍子の感覚で同時進行で絡みつくクロスビートにあります。地域が変わればノリもアクセントも違うので一度はまり込むとなかなか抜けられません。

なので、2拍子のクンビアは異色とも言えるのですが、実は4ビートのジャズとも相性は悪くない。『クンビア・アンド・ジャズ・フュージョン』も最初にクンビアのリズムにたっぷり浸ったあとで終盤は4ビートに変わっていくわけですが、違和感なく繋がるところが感動的だったりします。ビッグバンドスタイルになる管のアンサンブルにしてもオープニングは南米のブラスバンドのイメージ。ミンガスはクンビアを取り上げる上で彼の地音楽をかなり研究したのではないかと思います。

ちょっと残念なのは、せっかくミンガスが「クンビア」で南米大陸への扉を開けてくれたのに、なかなかジャズファンの関心が他の音楽に向かわなかったようにみえること。サッカーでは急速にアフロ系の人達の存在感が増す南米ですが、音楽でもアフロ系の人達の活躍は無視できません。ペルーのアフロ系音楽はとくに魅力的で、心情的にもジャズにフィットする音楽だと感じます。

ウェザー・リポートの『ヘビー・ウェザー』に「ザ・ジャグラー」という曲が収められていますね。3拍子系のリズムに乗ったアンデス風味の五音音階の旋律が一際印象的な曲。この曲のリズムが実はアフロ・ペルー音楽のリズムであることに気づいたのはかなり最近のことでした。当時のドラマーはペルー出身のアレックス・アクーニャだったので、ザヴィヌルが何らかの影響を受けてこの音楽を作曲したのかも知れません。

https://www.youtube.com/watch?v=XlklUPUqSm4

recio y romanticoさん、まああれですよ、普通のジャズ・ファンはクンビアはおろか、もっと人気のあるラテン音楽だって聴きませんよ。ブログで何度か書いているように、僕の場合は、父親が若い頃ラテン音楽ファンで、クルマのなかでラテン音楽、特にキューバのマンボの8トラばかり掛けていて、それを幼少時から助手席で聴いて育ったせいで、すっかりラテン音楽好きになりましたから、ミンガスの『クンビア&ジャズ・フュージョン』も一回聴いて一発で大好きになりました。これはクンビアを知らなくても良さが分るA面だと思います。優れた音楽とはそういうもんです。

なお、ウェザー・リポートの場合は、もちろんアレックス・アクーニャが出身地ペルーの音楽を持込んだ可能性大ですが、そうでなくともザヴィヌルは第三世界の音楽をたくさん聴きまくっていた人ですので、自らディグして曲を書いたという可能性だってあります。ウェザー・リポート時代からそうですが、解散後のソロ・プロジェクトでは、さらに多くの南米〜アフリカ出身のミュージシャンを起用していますしね。そのことも、このブログで既に書いてあることです。

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