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2016/02/02

アメリカの戦中ジャズ録音〜V-ディスク

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V-ディスクというものがあったことを今でも憶えていて、リイシューLPやCDを今でも聴くという人はどれくらいいるんだろう?まあ相当減ってはいるだろうねえ。そもそも「V-ディスク」という言葉がなんのことやら分らないという若いジャズや音楽ファンも、現在ではかなり増えているような気がする。

V-ディスクとは、第二次大戦中に、世界各地に出征している米軍兵士の慰問用に、米政府の肝煎で製作された音楽ディスクのこと。つまりV-ディスクのVとは “Victory” のことだ。制作・頒布されたのが1943〜49年で、ほぼ全て12インチの78回転グラモフォン。

78回転だけど12インチなので、やや長時間収録が可能だった。といっても八分程度までだけど、それでも当時主流だった通常のSP盤が三分程度だったのに比べれば、長めの収録時間。1940年代半ばから後半にかけて相当な数のV-ディスクが制作されて、世界中の米軍兵士向けに頒布された。

V-ディスクが制作された1940年代後半は、ロックやソウルなどの新興ジャンルはまだ誕生していないので、主にジャズやジャズ系のポピュラー・ミュージック、あるいはカントリーなどその他の米国産ポピュラー・ミュージックやクラシック音楽などだったらしい。僕が興味を持ったのはもちろんジャズ。

ジャズだって、ビバップという新しいスタイルが誕生してはいた時期だけど、僕の知る限りV-ディスクにビバップ系のジャズ録音は存在しない。ジャズ系のV-ディスクは、全部それ以前の古典スタイルのジャズ、特に、古い言葉で恐縮だけど中間派(大橋巨泉の造語らしい)のスウィング・セッションが多い。

僕はV-ディスクの本物、すなわち12インチの78回転盤現物は写真でしか見たことがない。1945年に第二次大戦は終ったけれど、49年までは駐留米軍のために制作されていたV-ディスク、その後に米軍から流出したのが、日本のマーケットでも流通していたらしく、その頃ジャズ・ファンだった方は現物を知っていたらしい。

僕が大学生の頃にたくさん買って聴いていたのは、もちろんV-ディスク音源を商業用に33回転LPでリイシューしたものだ。結構な数があったように思う。LPリイシューがいつ頃のことだったのかは全く知らないし、ネットで少し調べてみても分らない。相当な数のジャズ系V-ディスク音源がLP形式で出ていた。

V-ディスクの現物は曲単位なので、LPリイシューは特定のテーマのもとに元音源をまとめて収録したものだ。書いたようにニューオーリンズ、ディキシー、スウィングばかり、実にいろんなのがあった。こういう古典スタイルが昔から大好きな僕にとっては、しかもそれがやや長めの演奏で聴けるのは嬉しかった。

1940年代後半は、いわゆるジャンプ・スタイルのジャズも最盛期だったので、ライオネル・ハンプトンなど、結構そういうジャンプ系の音源もあった。もちろん大学生の頃はジャンプなんて言葉は知らなかったが、そういう音楽そのものは大好きで、V-ディスクにあるそういうものも愛聴していた。

『フライン・オン・ア・V-ディスク』という一枚には、ライオネル・ハンプトンを中心にしたセッションで「フライング・ホーム」も入っている。恒例のテナー・ブロウが入っていないという、ちょっとした変り種。これもそれ以外の多くも米政府の肝煎で企画されたセッションだから、珍しい顔合せがかなりある。

米政府の肝煎だったわけだから、個々のレコード会社の専属とか意向とは関係なく集められたメンバーによるセッションも多く、はっきり言ってV-ディスクでしか聴けないというセッションが結構あるから、古典スタイルのジャズが大好きなファンには、V-ディスク音源は聴き逃せないものなのだ。

『フライン・オン・ア・V-ディスク』とか『V-ディスク・キャッツ・パーティー』とか『52nd・ストリート・シーン 1943−47』などは、そういう会社の枠を超えたスウィング・セッションだ。ルイ・アームストロングとかマグシー・スパニアとかレッド・マッケンジーといった中間派以前の人も混ざっている。

またV-ディスクのジャズ音源には、アート・テイタムやファッツ・ウォラーやテディ・ウィルソンやナット・キング・コールといった名人ピアニストによるソロ演奏もかなりあるし、デューク・エリントン楽団の単独演奏などは、LP(CD)リイシューでもたっぷり二枚分も収録されていて、楽しめる。僕はCDでは買い直していないけど、カウント・ベイシー楽団やグレン・ミラー楽団の単独盤もある。

非常に重要なことだが、その頃のアメリカ音楽界には、二度にわたるレコーディング・ストライキがあった。一度目は1942年8月〜44年11月、二度目は48年1月〜12月。いずれも著作権料の値上げなどの理由でAFM(アメリカ音楽家連合会)が起したもので、アメリカ音楽の歴史に興味があるファンなら知っている事実。

このため、レコーディング・ストライキが行われていた時期は、大手レコード会社(メジャー)は公式レコーディングができず、その結果、サヴォイやダイアルやロイヤル・ルーストなどのインディペンデント・レーベルが多く誕生し、この時期に勃興したビバップなどのジャズを録音した。ご存知チャーリー・パーカーもそうだね。

パーカーやその他ビバップのオリジナル曲に、古いスタンダード・ナンバーのコード進行だけを借りて、それに新しいメロディを乗せたものが多いのは、このレコーディング・ストライキによる著作権問題のせいだったというのが最大の理由だったはず。コード進行に著作権はない。もちろん、新しい音楽には新しいテーマを持ってきたいという音楽的理由もあっただろうが。

ところがV-ディスクの録音に関してだけは、このレコーディング・ストライキに関係なく、大手レコード会社のジャズマンが、従来からある著作権団体が権利を持つスタンダード・ナンバーをたくさん録音しているのだ。一般の商業目的ではなく、海外の米軍兵士慰問用に米政府肝煎で行われたものだったから可能だったのだ。

レコーディング・ストライキの時期に、こういう録音が公式に聴けるのは、V-ディスクだけなので、これは非常に貴重で重要なんだよね。新興インディペンデント・レーベルでは不可能だった大物ジャズマンが、1940年代に、古い有名曲をたくさん録音しているセッションの数々、これはV-ディスクの最大の魅力だ。

V-ディスク音源は、書いたように大学生の頃たくさんLPリイシュー盤を買って愛聴していたが、CDでは徳間ジャパンからかなりリイシューされているようだ。僕もまあまあV-ディスクのCDリイシューを買って、今でも時々聴き返すけど、実に楽しい。これ、ほぼぜ〜んぶ戦中録音なんだよね。戦中日本だって、たまに流れる娯楽禁止だったなんていう説は誤謬で、音楽含めいろいろとあったんだけど、規模が違うよね。負けるわけだ(笑)。

現在、V-ディスクの現物は、アメリカ議会図書館が全セットを揃えて保管してあるらしい。ジャズじゃない録音もたくさんあるV-ディスクだけど、公式にそうやって全部の現物が保存されているのであれば、かなり商業流通してはいるものだけど、できうるならば公式に全てをCD発売してくれたら嬉しいんだけどなあ。

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