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2016/04/01

テオのやりすぎ編集はマイルスのせいもある

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マイルス・デイヴィスの1958年作『ポーギー・アンド・ベス』の制作途中からプロデュースにかかわるようになり、その後83年の『スター・ピープル』までコロンビアでの全てのマイルスのアルバムをプロデュースしたテオ・マセロ。テオは別にマイルス専属プロデューサーというわけではない。

そもそもテオはジャズ・サックス奏者で作曲もやっていた。なんだったか忘れてしまったのがマイルス・マニアの僕にしてはアレだけど、マイルスのアルバムでもちょっとだけテナー・サックスを吹いているものがあったはずだ。調べても全然出てこないので僕の記憶違いだったのかもしれない。

テオがコロンビアとプロデューサー契約を結んだのが1957年で、彼自身の述懐によれば彼がプロデュースをしたアルバムで一番成功したのは、サイモン&ガーファンクルなどが入っている映画『卒業』のサウンドトラック盤だったらしい。あれは1968年リリースだからマイルスのプロデュースもやっていた時期のことだ。

マイルス・ファンやその他大勢のジャズ関係のファンには、テオはやはりマイルスのプロデューサーとして名前が知られている存在なんだろう。一般的にテオが大胆な編集作業をマイルスによる録音後に行うようになるのは、1969年2月録音の『イン・ア・サイレント・ウェイ』からだろう。

しかしそのもっと前からテオはいろんな編集・切貼り作業はやっている。僕が分る範囲での一番早い例は1961年のブラックホークでのライヴ盤二枚。あれの『フライデイ』の方に入っている「ウォーキン」は異なる二つのテイクを繋ぎ合せている。あまり知られていないかもしれない。

僕も最初にあのブラックホークの『フライデイ』での「ウォーキン」を聴いた時、そんなことには全く気付いておらず、随分と後になってあれでドラムスを叩いたジミー・コブがそう言っているので初めて知って、えっ!?と思って改めて聴直してみて納得したという次第。途中でほんのちょっとだけテンポが変るもんね。

テンポが変るといっても実に微妙なもので本当に気付かれにくいものだ。そんな誰にでも分るような違いなら当時から指摘されていたはずだからね。ジミー・コブはドラマーなのであの「ウォーキン」でのテンポの揺らぎの責任を問われることがたまにあったらしく、それで自分じゃないんだテオなんだと指摘したというわけ。

そのジミー・コブの発言を受けて、テオ・マセロも「ウォーキン」の途中で別のテイクを繋いだと認めたのだった。繋いだ後半の別テイクでのソロの方が出来がいいと思ったかららしい。しかもこれはスタジオ録音じゃないからねえ。ライヴ録音でそういうことをやったかなり早い例じゃないかなあ。

その後はマイルスのスタジオ録音ではもちろんライヴ録音でも、レコード作品にする際にテオが短めに編集したりすることはよくあった。1960年代半ばにたくさんあるハービー・ハンコック+ロン・カーター+トニー・ウィリアムズのリズム・セクションによるライヴ盤でもそういう痕跡は散見される。

しかしそれらはどれも目立たない地味なもので、録音時の姿を大きく変えてしまうような編集作業ではなかった。録音時のオリジナル・セッション・テープからテオが跡形なく編集しまくるようになるのは、やはり最初に書いたように『イン・ア・サイレント・ウェイ』からだ。これはもうホントやりすぎ。

テオが『イン・ア・サイレント・ウェイ』をああいう形にしたのにはマイルス自身の責任もある。実を言うとテオが編集をする前に、マイルス自身がコンソールで指示を出してオリジナル・セッション・テープから編集しまくって片面九分ずつ程度にしてしまい、しかも「これでアルバムだ」と言放ったらしい。

しかし片面九分ではアルバムになるわけがないので、それを受けたテオがもう一度編集をやり直して現在聴けるような片面20分程度のものになるまで「引き延した」のだった。あのアルバムでは両面ともリピートが多いのはそれも一因。B面のジョー・ザヴィヌルが書いた「イン・ア・サイレント・ウェイ」だって二度出る。

ザヴィヌルの「イン・ア・サイレント・ウェイ」も元々のセッション・テープ(2テイク聴ける)では四分程度のものだ。これは2001年リリースの公式盤『コンプリート・イン・ア・サイレント・ウェイ・セッションズ』に入っているから誰でも簡単に買って聴くことができるので確かめてほしい。

その『コンプリート・イン・ア・サイレント・ウェイ・セッションズ』収録の2テイクを聴くと、ファースト・テイクはトニー・ウィリアムズがハイハットとリム・ショットで一定のテンポを叩くややミドル・テンポに近いもので、お馴染みのメロディをマイルスだけが吹く。セカンド・テイクで現在聴けるような形になっている。

もちろんながら「イン・ア・サイレント・ウェイ」の録音はそれら二つで全部ではないので、真の意味では「コンプリート」ではない。最初にザヴィヌルが書いて持ってきた曲はもっと複雑なコードがたくさん使ってある難しい曲だったらしい。その通りに演奏してみたけれど納得できなかったようだ。

そのことは以前も書いた(http://hisashitoshima.cocolog-nifty.com/blog/2015/12/post-877d.html)ので繰返さない。公式発売されているセカンド・テイクは現在聴けるものと全く同じもので、そのままアルバムに収録されたわけだけど、最初にマイルスが編集した時は「イン・ア・サイレント・ウェイ」は一回しか出てこないような形だったらしい。

しかしそのマイルス編集の九分では短すぎるので、テオは後半に全く同じものを最後にもう一回リピートすることにしたわけだ。すなわち「イッツ・アバウト・ザット・タイム」が終った後に。これはしかし絶妙な効果を生んでいるのではないだろうか。素晴しい編集だよね。

「イッツ・アバウト・ザット・タイム」はもちろん録音時には全く別の曲として別個に演奏されている。これもオリジナル・テイクが完全盤ボックスにある。それ抜きで完成品の『イン・ア・サイレント・ウェイ』アルバムだけ聴いていた頃から分っていたことだけど、オリジナル演奏はギター・ソロからはじまる。

1969年7月に発売された『イン・ア・サイレント・ウェイ』B面の「イッツ・アバウト・ザット・タイム」はマイルスのソロではじまっているが、これもテオによる編集だ。リピートされて全く同じソロがもう一度出てくる。オリジナル演奏では、エレピとベースがリフを弾くなかマクラフリンが弾くところからはじまる。

A面の「シー/ピースフル」でもマイルスによる同じソロが前半と後半で二度出てくるもんね。以前誰だったかアメリカ人(名誉のために名前を伏せるのではなく本当に忘れた)が書いたマイルス本で、後半に出てくるソロの方が出来がいいように思うとあったけれど、完全に同じものだ。『コンプリート・イン・ア・サイレント・ウェイ・セッションズ』収録のオリジナル演奏では、終盤に一回出てくるだけ。

もっともそう書いた人の耳がオカシイとは言えない。同じものだとは気付いていなかったようだけど、それでも二回目に出てくるものの方がいいように聞えるのは確かで、それこそ編集が功を奏してるということだからね。(マイルスと)テオの目論見通りなのだ。

それはそうと「シー/ピースフル」で二回出てくるマイルスの同じソロ、二回とも同じ箇所でカウベルみたいな音が一回チンと鳴るんだけど、あれなんだろうなあ?オリジナル録音から既に入っている。大学生の頃からあれがなんの音なのか、なんのために入っているのか、気になって仕方がない。

それはともかく『イン・ア・サイレント・ウェイ』は両面ともそんな感じでリピート編集が多いアルバム(マイルスのアルバムでは一番多い)なのだが、それもこれも全部元はマイルス自身が片面九分にしてしまって「これでアルバムだ」と言ってしまったせいなのだ。その結果テオによる編集が功を奏して見事な作品になっているけど。

マイルスのアルバムでの編集作業はなにもかも全部テオがやっていた全部テオの仕業のように以前は言われていたけれど、実はマイルス本人もかなり関わっていたことが分っている。音楽家本人なんだから考えてみたらそれが当然なんだけどね。大部分がマイルスとテオの共同作業だったのだろう。

なお『コンプリート・イン・ア・サイレント・ウェイ・セッションズ』には編集前のオリジナル音源(の一部)が収録されているが、『コンプリート・ビッチズ・ブルー・セッションズ』にはそれが一切収録されていない。そのせいで、このタイトルは詐欺だ!レガシーは金返せ!と散々言われまくっていた。

その批判があまりに強かったせいなのか関係ないのか、その後の『イン・サイレント・ウェイ』ボックス、『ジャック・ジョンスン』ボックス、『オン・ザ・コーナー』ボックスには全部編集前の元音源(の一部)が収録されるようになった。『ビッチズ・ブルー』に関しても早くオリジナル音源を出してくれないかなあ。

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