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2016/10/11

ニューヨリカン・ジャズ・ダンス

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多くのジャズ・ファンがアルト・サックス奏者ルー・ドナルドスンのオススメ盤を選ぶと、普通はやっぱりハーマン・フォスターがピアノを弾いているアルバムになるだろうなあ。何枚もあるし僕も大好きだ。1958年録音の『ブルーズ・ウォーク』とかいいよなあ。ブルージーでファンキーで。

同じ1958年録音の『ライト・フット』も好きだ。しかもこの『ブルーズ・ウォーク』『ライト・フット』の二枚には打楽器担当としてドラマーだけでなくコンガ奏者も参加している。コンガが入ったりしてちょっぴりラテン・テイストがある部分をシリアスなジャズ・ファンがどう聴いているかは知らないが。

普段から僕の文章を読んで下さっている方々にはもはやなんの説明もいらないけれど、ルー・ドナルドスンで検索して辿り着いて初めてお読みになる方のために書いておくと、僕はジャズでもなんでもシリアス一直線なアーティスティックなもの(を貶したいわけでもない)は今ではあまり好きじゃない。

ジャズがファンクやラテンなど他ジャンルの音楽とクロス・オーヴァーして、ちょっと猥雑でファンキーなラテン・テイストになったものの方が圧倒的に好みだという人間だ、僕は。ブルーズとはどう考えても1910年代のジャズ商業録音開始初期からクロス・オーヴァーしまくっているから言う必要はないはず。

いや、ブルーズ関連でもやっぱりいまだに言っとかなくちゃいけないのかもしれない。だって1930〜40年代のジャイヴやジャンプなど、あれらは要するにジャズそのものでしかないわけだけど、かなりブルーズ寄りで、だから相当に下世話で猥雑だから、どうもいまだにジャズ・ファンの多くは聴かないようだ。

一・二年ほど前だったか Twitter であるジャズ・ファンの方とライオネル・ハンプトンの話になり、しかしその方は1940年代のハンプトンのビッグ・バンドのことを全くご存知なかった。そもそも40年代のハンプトンがどんな音楽をやっていたのかどれほど楽しいか興味がなく、だから聴いてもいない。

ライオネル・ハンプトンみたいなシリアス・ジャズ方面でも大活躍したジャズ・マンについてすらジャンプ・バンド時代のことはスッポリと抜落ちていて、その存在に気付いてすらいない。ってことは・・・、と思って1940年代のジャンプ系ジャズ・メンの名前を出してみたがやはり一人もご存知なかった。

これはやっぱりあれだなあ、中村とうようさんのあの一連の啓蒙活動はブルーズ〜R&B〜ロック・リスナーの間にしか行届いていないってことかもなあ、2016年の現在でも。普通のジャズ・ファンは中村とうようという存在自体知らないかもしれない。だからそんなジャズ・ファンはどうやらいまだにジャイヴやジャンプなどのブルーズ系芸能ジャズは聴いていないようだ。

聴いていないというか、そんなものがあるってこと自体にその存在自体に気付いてすらいないんだろうね。こりゃやっぱりとうようさんのやったような仕事をもう一回誰かがやらなくちゃいけない、それも今度は普通のジャズ・ファン向けにやり直さなくちゃいけないってことじゃないのかなあ。う〜〜ん。

僕はそんな見識は持ち合せていないので、どなたかお願いします。通常のシリアスなメインストリーム・ジャズと、そこからちょっと脇道に逸れたようなブルーズ寄りの芸能ジャズと、その双方にお詳しい方!ってことはすなわちモダン・ジャズばっかり聴いているような人ではダメだということです。

今日もまた前置が長くなった。この人もまたブルーズが上手いルー・ドナルドスンのアルバムでハーマン・フォスターがピアノを弾いていて、しかもレイ・バレットがコンガを叩いているもの。本当に楽しくて、特に『ブルーズ・ウォーク』なんかコンガ入りのストレート・ブルーズをやっていたりする。

『ブルーズ・ウォーク』には二曲目に「ムーヴ」があるよね。デンジル・ベストが書いた有名曲だけど、僕はご多分に漏れずマイルス・デイヴィスの『クールの誕生』で知ったものだった。でもルーの『ブルーズ・ウォーク』ヴァージョンの方がはるかに愉快でいい。その他いろいろと楽しめるアルバムだよね。

しか〜しここからがようやく本当に本題なんだけど、僕にとって<ルー・ドナルドスンでこの一枚>と言われた時に迷わず選ぶのが1967年の『アリゲイター・ブーガルー』なんだよね。このチョイスも普段から僕の文章をお読みの方であれば、間違いなくそうなるであろうと想像がついちゃうようなアルバムだ。

1967年の『アリゲイター・ブーガルー』はルー・ドナルドスン五年ぶりのブルー・ノート復帰作。1963年の『グッド・グラシアス!』を最後に、その後はアーゴやカデットなどに録音していたのはどうしてだったんだろう?そのあたりの事情は僕は全く知らないが、このブルー・ノート復帰作が楽しいことこの上ない。

『アリゲイター・ブーガルー』をお聴きでない方でも、アルバム・タイトルだけで普通のモダン・ジャズではないんだろうと想像がつくはず。ブーガルーってのはラテン音楽の一種だもんね。しかしこのブーガルー、1960年代だけの一時的な流行で終り、その後は忘れ去られたようなダンス・ミュージック。

忘れ去られたというか、むしろかなり積極的に忌嫌われるようになっていたかもしれない。特にアメリカ人ラテン音楽家には。例えばリアルタイムで1960年代にブーガルーの流行を体験していたティト・プエンテも、1970年代以後はそんな主旨の発言をしているし、その他いくつか読めるから。

ニュー・ヨークで活動したプエルト・リコ系アメリカ人であるティト・プエンテの名前を出したけれど、ブーガルーってのは米ニュー・ヨークで流行した中米ラテン音楽で、ニューヨリカン(Nuyorican)・ミュージックなどとも呼ばれる。「ニューヨリカン」とはニュー・ヨーク+プエルト・リカンの合体でできた造語で、まあそんな混交音楽なわけだ。

しかしながら僕はブーガルーの音源はさほどちゃんと聴いていない。そもそも聴く機会が少ないよなあ。だからニューヨリカンなダンス・ミュージックであるブーガルーがどんなものなのかイマイチちゃんと理解できていない。そういうわけだからルー・ドナルドスンのでぼんやりと想像しているだけだ。

ルー・ドナルドスンの『アリゲイター・ブーガルー』はアメリカでは録音直後の1967年にレコードがリリースされているが、日本ではなかなか出なかったらしい。これは僕も実感がある。1979年にジャズに夢中になってルー・ドナルドスンも知ったものの、このアルバムのアナログ盤は見なかったもんね。

僕が現在CDで持っている『アリゲイター・ブーガルー』の裏ジャケットを見るとリリース年が1987年になっている。これは日本盤ではなくアメリカ盤。僕の記憶では日本でルー・ドナルドスンのこのアルバムが買えた最初だったんじゃないかなあ。なんて遅いんだ。その後は再リイシューもされているみたい。

この1987年のCDリイシューというのが、他ならぬアシッド・ジャズとかレア・グルーヴとかいった一連のムーヴメントによってじゃなかったかなあ。あれで教えてもらった面白い音楽もあるけれど、ことジャズ系の音源に関してはこのムーヴメントにあまりハマっていない僕。でもルーのこういうアルバムをリイシューしてくれたような功績には素直に感謝したい。

そんな世代論や時代背景はともかく『アリゲイター・ブーガルー』一曲目のアルバム・タイトル曲のファンキーでグルーヴィーなカッコよさといったらないよね。しかもこれ、ルー・ドナルドスンが書いたオリジナルだ。ビ・バップ時代から活動しているチャーリー・パーカー直系のアルト奏者なんだけどね。

リズムがラテン調であることを除けば、「アリゲイター・ブーガルー」はなんでもない12小節3コードのCキーのブルーズ形式楽曲。だからデビュー当時からブルーズが得意なルー・ドナルドスンにとっては、全然意外なものでも突然変異でもなく、自家薬籠中のものだったのかも。
あるいは上で書いたように1950年代後半にルーが雇っていたコンガ奏者のレイ・バレット。この人はブーガルーもやっているからその縁もあったもかも。「アリゲイター・ブーガルー」では特にドラマー、レオ・モリス(後に改名しイドリス・ムハンマド)の叩くスネアのパターンがカッコイイけれど、これもルーの指示だったんだろうね。

それに録音時の1967年ならブーガルー流行の真っ只中だから、ビ・バッパーであるルー・ドナルドスンでもたくさん耳にしていたんだろう。そんでもって後にブーガルー録音も残すコンガ奏者も使ったりしていたわけで、ブルーズが中心のメインストリームなジャズをやりながらラテン風味も足していたわけだし。

そういうことがあるから「アリゲイター・ブーガルー」みたいな曲をルーが書いても不思議ではない。しかもストレートなブルーズ形式の楽曲だしね。僕がこの大の愛聴曲を聴く時はいつもドラマーのハタハタといったスネアの叩き方がいいなあと感じながら聴いている。さらにオルガンのサウンドもファンキーだ。

オルガンでファンキーなリフを弾いているのがロニー・スミス。この人も大好きなハモンド B-3 奏者だ。それはそうとファンキーな弾き方をするジャズ系オルガニストには「スミス」姓が三人もいるよねえ(笑)。あと二人はジミー・スミスとロニー・リストン・スミス。紛らわしいなあ。

ジミー・スミスは混同しないけど、ロニー・スミスとロニー・リストン・スミスは混同している人がいるんじゃないかなあ。リストンの方は1973年頃にファンクをやっていたマイルス・デイヴィスのバンド参加経験もあって、スタジオ録音も公式ライヴ録音も残っているので、僕も昔から知っている。

オルガンにはギターが相性がいい。ってことをボスのルー・ドナルドスンが分っていて起用したのか、それともブルー・ノート側のアイデアだったのかは分らないが、『アリゲイター・ブーガルー』にはギタリストが参加している。それがジョージ・ベンスン。今では大御所だけど1967年だと新進の若手。

『アリゲイター・ブーガルー』でのジョージ・ベンスンもなかなか聴かせるギタリストぶりで僕は好き。アルバム・タイトル曲でもいいし、それ以外でもブルージーな弾き方だ。トランペットのメルヴィン・ラスティーだけが大したことないかなと思う程度だ。ラスティー以外でこのアルバムに参加しているサイド・メンは全員大成した。

ところで『アリゲイター・ブーガルー』について、特にヒットした一曲目のアルバム・タイトル曲について、これはブルーズ楽曲なんだからルー・ドナルドスンはふざけているわけじゃないんだ、ラテン調だとかオルガンとかギターとかそんなのは重要じゃなくて、あくまでこれは<ジャズ>だという意見を見る。

つまり要するに『アリゲイター・ブーガルー』をあくまでシリアス・ジャズの範疇で捉えて理解したいってことだよなあ。これはシリアスなジャズ・アルバムなんだから毛嫌いせず普通のジャズ・ファンのみなさんもどんどん聴いてくださいってわけだ。どんどん聴いてくれはその通りだけどさあ。

確かに僕も『アリゲイター・ブーガルー』をいろんな人に聴いてほしいと思う。しかし僕はシリアス・ジャズとしてじゃなく楽しい芸能ジャズとして聴いてほしい、ジャズにもそういうものがいっぱいあるんだ、ジャズだってポップ・エンターテイメントに他ならないってことをこそ強調したいんだよね。

アルバム『アリゲイター・ブーガルー』には一曲だけ従来からの保守的なジャズ・ファンもお馴染みのスタンダード曲がある。ラストの「アイ・ウォント・ア・リトル・ガール」だ。プリティなバラードだよねえ。しかしこの曲は1938年にレスター・ヤングがコモドア・レーベルに録音したので有名になったものなんだよね。

そのレスターがクラリネットを吹く1938年コモドア録音ヴァージョンで「アイ・ウォント・ア・リトル・ガール」がスタンダード化し、その後ジェイ・マクシャンや T・ボーン・ウォーカーやレイ・チャールズなどもこの曲をやっているって事実を、『アリゲイター・ブーガルー』をシリアス・ジャズにしたいファンはどう考えるんだろうね。

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