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2016/10/28

マイルス&ギルの『ポーギー・アンド・ベス』に聴ける黒人音楽とカリブ音楽

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20世紀アメリカ大衆音楽における最も偉大で最も影響力のあるパートナーシップとして、デューク・エリントン&ビリー・ストレイホーン、フランク・シナトラ&ネルスン・リドルと並び、マイルス・デイヴィス&ギル・エヴァンスのコンビをあげているアメリカ人がいた。誰だっけなあ?印象に残っている。

この三組のうち、エリントン&ストレイホーンは、後者が前者の楽団員として常駐し長期にわたりコンビを組んでいたわけだけど、しかしストレイホーンは時々その名前が記されてはいたものの、全くクレジットされていない完全なる影武者的役割を果したものが実はたくさんあるみたいだ。研究も進んでいる。

シナトラ&ネルスン・リドル・コンビの場合はそんなこともなく、後者が前者のアルバムでオーケストラ・アレンジをしたものは、キャピトル時代の1953年録音『ソングズ・フォー・ヤング・ラヴァーズ』からリプリーズ時代の1966年録音『ストレンジャーズ・イン・ザ・ナイト』まで相当な数があるよね。

三大パートナーシップの最後、マイルス&ギルの場合は、フル・アルバムに限って言うと数はかなり少ない。コロンビア盤『マイルス・アヘッド』(1957)、『ポーギー・アンド・ベス』(58)、『スケッチズ・オヴ・スペイン』(60)、『アット・カーネギー・ホール』(61)、『クワイエット・ナイツ』(62)の五枚しかない。

『クワイエット・ナイツ』はマイルスとギル側にリリースする気はなく、コロンビアが勝手に出しただけのものだけど、そんな事情と音楽的中身は全く無関係。実際ファンも多いんだけど、僕はどうもリリース事情とは関係なくあまり面白くないように聴こえてしまう。だからこの際外してしまいたい気分。

となるとアメリカ大衆音楽三大パートナーシップの一つとまで呼ぶ人もいるマイルス&ギルのコンビ作で良いものはたった四枚だけだ。もちろん曲単位であれば、マイルスの1949/50年『クールの誕生』から84年『デコイ』までギルが関わったものが結構あり、さらに日陰の存在としても貢献している。

マイルスの作品でギルの名前が全くクレジットされておらず関わったことすら一般には知られていないものは、僕も音を聴いてなんとなくこれはギルの仕事だったんじゃないかと推測するばかりで、確証みたいなものは全くなにもない。このあたりは専門的研究家に今後の解明をお願いしたいところ。

というわけで僕にとってのマイルス&ギルは『マイルス・アヘッド』『ポーギー・アンド・ベス』『スケッチズ・オヴ・スペイン』の三枚に尽きる。もう一枚1961年のカーネギー・ライヴがあるけれども、あのライヴ盤で内容が良いものは当時のマイルス・レギュラー・コンボでの演奏部分だけだから、これも除外する。

『マイルス・アヘッド』については今まで二度書いた(http://hisashitoshima.cocolog-nifty.com/blog/2015/10/post-9f82.html  http://hisashitoshima.cocolog-nifty.com/blog/2015/11/post-d6d5.html)。どっちにも書いてあるようにこれこそが僕が一番好きなマイルス&ギルのコラボ・アルバムで、マイルスの全アクースティック・ジャズ作品中でも最も好きなものだ。

『スケッチズ・オヴ・スペイン』については今まで散発的かつ部分的にしか書いていないけれど、それはこのアルバムがあまり面白くないように最近では聴こえるようになっているからだ。いわゆるクラシック・ミーツ・ジャズな金字塔的作品とされていて日本にもファンが多いので、あまり言い過ぎない方がいいんだろうな。

残る一枚、1958年の『ポーギー・アンド・ベス』。これは昔も今もかなり好き。というか長年『マイルス・アヘッド』がイージー・リスニングにしか聞えていなかった僕にとっては、『ポーギー・アンド・ベス』がマイルス&ギルではナンバー・ワンだった。最大の理由は黒い音楽性が聴き取れるから。

『ポーギー・アンド・ベス』は元はジョージ・ガーシュウィンの書いたクラシックのオペラ作品なのでブラック・ミュージックではない。しかしご存知の通りアメリカ南部の黒人生活を描いた作品で、ガーシュウィン自身作曲にあたり南部に赴いて黒人音楽を取材して、そのイディオムを学習したらしい。

『ポーギー・アンド・ベス』は1934年作曲で翌35年初演。ジャズ・イディオムというだけならガーシュウィンはもっと前からそれを取込んだような作品を書いているので、34年なら身につけていただろう。そんなわけで『ポーギー・アンド・ベス』には黒人音楽要素が元からあると言えなくもない。

ただし僕の場合、あの発声法が全く好きになれないのでクラシックのオペラ作品を聴くのはこれだけという『ポーギー・アンド・ベス』のオペラ・ヴァージョン(が本来の姿だ)に、僕たち熱心なブラック・ミュージック・ファンが聴いて納得できるような黒い音楽性を聴き取るのは、ちょっと難しいように思う。

だから僕の場合、やっぱりジャズ・ヴァージョンの『ポーギー・アンド・ベス』こそが最高なのだ。といっても史上初のジャズ・ヴァージョンであるルイ・アームストロングとエラ・フィッツジェラルドによる1957年録音を、なぜだか分らないが僕はいまだに一度も聴いたことがない。

ジャズ界における『ポーギー・アンド・ベス』人気を決定づけたのは、やはりマイルス&ギルの1958年録音盤じゃないかなあ。ちょうどロドリーゴの「アランフェス協奏曲」のジャズ界におけるそれが同様であるように。もちろん僕はマイルス&ギルの『ポーギー・アンド・ベス』をクラシック・ミーツ・ジャズ的には聴いていない。

書いたようにブラック・ミュージックの要素が濃いアルバムとして聴くわけだ。そんでもって先走ってちょっと触れておくと、マイルス&ギルの『ポーギー・アンド・ベス』にはカリブ音楽風味もある。アメリカ南部の黒人音楽とカリブ音楽。この二点こそ重要で、しかもこの二つは関係があるもんなあ。

マイルス&ギルの『ポーギー・アンド・ベス』にはブラック・ミュージック的と言える曲がたくさんあるけれど、鮮明にそれが出ているのがA面四曲目の「ゴーン、ゴーン、ゴーン」、五曲目の「サマータイム」、B面一曲目の「プレイヤー」、三曲目の「マイ・マンズ・ゴーン・ナウ」の四曲だろう。

まずA面の「ゴーン、ゴーン、ゴーン」。これの曲調はスローなゴスペル・バラードだ。曲名だけでも推察できると思うけれど、オペラ版では第一幕で、ベスの内縁の夫クラウンに殺されたロビンズの遺体を取囲み、人々がその死を悼むという場面での曲。
だからこの「ゴーン、ゴーン、ゴーン」がまるで哀悼曲のような沈鬱な雰囲気の演奏になっているのは当然。ギルのアレンジしたホーン・アンサンブルに乗ってオープン・ホーンで吹くマイルスのトランペットも追悼の祈りを捧げているかのような雰囲気だよね。ホーン・アンサンブルも黒人教会音楽風なサウンドだ。

この「ゴーン、ゴーン、ゴーン」のフレーズからヒントを得てギルが書いたオリジナル・ナンバーがその前三曲目の「ゴーン」。しかしテンポが違うだけでフレーズは全く同じだから、オリジナル曲とのクレジットもちょっとどうなんだろうと思う。これはホットなジャズ・ナンバー。
A面では「サマータイム」もブラック・ミュージック的だと思うけれど、これは『ポーギー・アンド・ベス』のなかでは最も有名になった曲で、この曲だけを単独で抜出して本当に大勢のジャズ歌手や演奏家がやっている。それらについてみなさんがたくさん書いているので、今日は省略。
さてマイルス&ギルの『ポーギー・アンド・ベス』で僕が最も黒いと感じるのがB面一曲目の「プレイヤー」(祈り)。お聴きになれば分るように、これもスローなブラック・ゴスペルにしか聴こえない。少なくとも僕にはね。まず最初テンポ・ルパートで出る。
その 1:42 までのテンポ・ルパート部分は、主役のマイルスとギルのアレンジしたホーン・アンサンブルとのコール・アンド・リスポンス形式だ。リード・ヴォーカルとコーラス隊のチャントとのやり取りみたいなもんで、これはブラック・ゴスペルその他アメリカ黒人音楽、あるいは他国の黒人音楽にも多いもの。

「プレイヤー」ではそんなアフリカ由来のコール・アンド・リスポンスが 1:42 まで続き、その直後にゆったりとしたテンポになってリズム・セクションの伴奏も出てくる。テンポ・インしたあとでは、ギルの書いたホーン・アンサンブルが徐々に迫力を増していき、それに乗るマイルスも力を入れて吹く。

後半部から最終盤にかけての盛上がりは圧巻の一言だ。まるで黒人教会において、牧師のリードに乗ってどんどんヒート・アップしていく白熱のゴスペル合唱を聴いているような気分。大学生の頃から現在に至るまでマイルス&ギルの『ポーギー・アンド・ベス』では「プレイヤー」が一番好きだなあ。

B面三曲目の「マイ・マンズ・ゴーン・ナウ」もゆったりとしたバラード調ではじまるもので、これもオペラ版第一幕で、夫をなくしたセリーナが悲嘆に暮れるという歌だから、こんな雰囲気になっているわけだ。これも黒人教会風スロー・ゴスペルに聴こえるね。
面白いのはマイルス&ギルのこの「マイ・マンズ・ゴーン・ナウ」におけるリズム・アレンジだ。全体的は悲哀歌らしいスロー・テンポで進むのだが、途中でちょっぴりテンポ・アップして4/4拍子のリズムになる部分がある。そこはちょぴりモダン・ジャズ風だ。しかもその部分はメジャー・キー。

さてさて今日も長くなってきたので、上でちょっと予告したようにマイルス&ギルの『ポーギー・アンド・ベス』におけるカリブ風味についてちょっとだけ触れておこう。A面ラストの「オー・ベス、オー・ウェアズ・マイ・ベス」。まずマイルスが吹きはじめる。
その無伴奏で吹くマイルスの直後に出てくるホーン・アンサンブルの響きを聴いてほしい。カリブ音楽風じゃないだろうか。特に金管群、なかでもトランペット・セクションがミュートをつけて吹き入れる短いリフが何度かリピートされるけれど、その部分に僕は鮮明なカリブ音楽の香りを感じるんだよね。

またB面二曲目の「フィシャーメン、ストロベリー・アンド・デヴィル・クラブ」。オペラ版第三幕から採ったこの三曲メドレーは、このアルバム中最もカリブ要素が濃い。漁師とか悪魔蟹とかいった曲名だけでもそれは想像できるけれど、サウンドが完全な南洋風だもんね。
この「フィシャーメン、ストロベリー・アンド・デヴィル・クラブ」ではギルのアレンジのペンも冴えている。まず無伴奏でフルートが出て、直後にミュート・トランペット、そして本編に入るんだけど、その本編に入った瞬間のホーン・アンサンブルのゆらゆらと漂うような感じは見事としかいいようがない。

そんなに面白いマイルス&ギルの『ポーギー・アンド・ベス』だけど、残念なことにアンサンブルの乱れが散見される。A面三曲目の「ゴーン」とB面一曲目の「プレイヤー」に特に顕著だ。マイルスとアンサンブルの息が合わず乱れる部分がある。ギルの回想によれば、スタジオで充分な時間が取れなかったためらしい。

ギル自身は「あれはあと一度か二度リハーサルを繰返せばなくせたものなんだ。今にして思えばコロンビアにもうちょっと時間をくれと言えなかった自分が悔しい」と回想している。一方で主役のマイルスは、(クラシックと違って)ジャズのアンサンブルは完璧でなくてもいいんだぞと言っているよね。

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