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2016/10/27

ファット・ポッサムとR・L・バーンサイドのブルーズ

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米ミシシッピ州北部ヒル・カントリーのブルーズ・マン、R・L・バーンサイド( R・L はロバート・リー)。この人の音楽家としてのキャリアは結構長いらしいんだけど(なんたって1926年生まれだから)、一般的に知られるようになったのはやはりファット・ポッサム・レーベルと契約してからだろうなあ。

R・L・バーンサイドがファット・ポッサムと契約したのは1991年。この会社が発足したのが同91年。ってことはミシシッピ州の田舎町オックスフォードに拠点を置くこのレコード会社はそもそも R・L・バーンサイドを録音したくてはじまったものだったのか?

ファット・ポッサムからはジュニア・キンブロウもたくさんCDを出していて、一応キンブロウの方がバーンサイドよりも先輩らしいんだが、まあそのへんについては僕はよく知らない。ジュニア・キンブロウ、R・L・バーンサイド、この二名のブルーズ・メンこそがファット・ポッサムの象徴だと言える。

ジュニア・キンブロウも R・L・バーンサイドもファット・ポッサムとの契約以前から、地元ミシシッピ北部のヒル・カントリーでは地道に活動してきていたブルーズ・メンだけど、この二人がファット・ポッサムからCDアルバムを初リリースしたのは同じ1992年のこと。どちらも高く評価されたようだ。

ジュニア・キンブロウのファット・ポッサム一枚目は『オール・ナイト・ロング』。R・L・バーンサイドのそれは『バッド・ラック・シティ』。キンブロウの話はまた別の機会にするとして今日はバーンサイドの話をしたい。しかし『バッド・ラック・シティ』は僕はリアルタイムでは知らないアルバムだ。

R・L・バーンサイドという人がいるんだということを知ったのは1994年のファット・ポッサム二作目『トゥー・バッド・ジム』でだった。これは当時渋谷警察署の裏にあった黒人音楽専門店サムズで見つけて買ったアルバム。それまで全然知らない人だったのにどうして買ったのかはもう憶えていない。

『トゥー・バッド・ジム』はジャケ買いするというほど魅力的なジャケット・デザインでもないしなあ。サムズで買ったのは、この店に通うようになったのがちょうどその頃だったというのもある。僕が専任的に仕事をする大学が決まったのが1990年の秋で、翌年春から勤務する。その大学のメイン・キャンパスは渋谷にあった。

渋谷駅で降りて勤務先まで歩いていくのには、あの大きな歩道橋を渡り渋谷警察署の裏を通り抜けるというのがいつものルートだったので、いつ頃のことか、当時は渋谷警察署裏裏の雑居ビル二階にあったサムズを発見し、大学での勤務を終えた帰り途ばかりでなく、夕方からの講義の前などにも入り浸っていたのだ。

そんなことで宇田川町へ移転してしまう(現在はもうないようだ)前までは、その黒人音楽専門店サムズで本当にたくさんのCDを買った。この店で黒人ブルーズ、リズム&ブルーズ、ソウル、ファンクなどの音楽家で知らない人を見つけて知り買って聴いて好きになったケースも多い。

だから R・L・バーンサイドの1994年作『トゥー・バッド・ジム』もそんな具合で、それまで名前も見たことがない人だったけれど、まあなんとなく買ったんだろうなあ。しかし今ではこれこそアルバム単位でのこのブルーズ・マン最高傑作だと僕は思っているのだが、最初の頃はこれにはさほどハマらなかった。

どうしてかと言うと『トゥー・バッド・ジム』におけるギター(バーンサイドは一部を除ほぼエレキ・ギターを弾く)のサウンドはクリーン・トーンであまり歪んでいないからだ。ブルーズ・ピュアリストのみなさんはその方が好きだろうけれど、僕はブルーズ・ギターでもファズが効いている方が好きなんだよね。

というわけで R・L・バーンサイドにハマったのは、ファット・ポッサム三作目の『ミスター・ウィザード』によってだった。これは1997年リリースのアルバムで、収録の全九曲ほぼ全てバーンサイドの弾くギターのサウンドが激しく歪んでいる。そんな音で伝承ブルーズなどをやっているんだよね。

『ミスター・ウィザード』には「ローリン&タンブリン」といったミシシッピ(・デルタ)・ブルーズのスタンダードや、 R・L・バーンサイドの最大かつ直接の影響源であるミシシッピ・フレッド・マクダウェルがやった「ユー・ガッタ・ムーヴ」もある。どっちでもギターには強くファズがかかっている。

と僕は思って聴いていたのだが、どうもこれは違うようだ。ファズやオーヴァードライヴやディストーションなどエフェクター類を使っているわけでなく、単にギターとアンプのヴォリュームを最大まで上げているせいで、自然にあんな音になっているだけだというのを、生演奏ステージで見て確認した。

僕が R・L・バーンサイドの生演奏ステージを見たのは1997年のパークタワー・ブルーズ・フェスティヴァルでのこと。しかしエフェクター類を一切使っていない(ように見えた、ステージ上に全く見当たらなかったから)のに、あそこまでエレキ・ギターの音が歪みまくるというのも、やや意外だった。

元々はクリーン・トーンに近い音で弾いていた R・L・バーンサイドがそんな歪んだギター・サウンドを出すようになったきっかけは、1996年のファット・ポッサム二作目『ア・アス・ポケット・オヴ・ウィスキー』からだったようだ。これはジョン・スペンサー・ブルーズ・エクスプロージョンとの全面合体作。

普通はジョン・スペンサー・ブルーズ・エクスプロージョンを知っていて、そのバンドが一緒にやったというので R・L・バーンサイドが知られ人気も上がったに違いない。合体作『ア・アス・ポケット・オヴ・ウィスキー』が売れて、ロック・ギタリストや音楽家や批評家も高く評価したアルバムなんだそうだ。

『ミスター・ウィザード』より『ア・アス・ポケット・オヴ・ウィスキー』の方が一年早くリリースされているが、僕が買った順番は逆だった。どうしてかって、サムズ店頭で見た時にジャケット裏に知らない名前ばかり書いてあったからだ。それがジョン・スペンサー・ブルーズ・エクスプロージョンだった。

ということを(おそらく世間一般とは反対に)僕は少し後になって知り、ジョン・スペンサー・ブルーズ・エクスプロージョンというバンドと中心人物のヴォーカリスト兼マルチ楽器奏者のジョン・スペンサーを知って、じゃあというので『ア・アス・ポケット・オヴ・ウィスキー』を買って聴いてみたのだ。

すると『ア・アス・ポケット・オヴ・ウィスキー』は、これが R・L・バーンサイドのアルバム中最も過激なサウンドで、まあブルーズでもないような音楽で、なんといったらいいのか、やっぱりジョン・スペンサー・ブルーズ・エクスプロージョンにバーンサイドが客演しているようなアルバムだなあ。

ジョン・スペンサー・ブルーズ・エクスプロージョンもアルバムをたくさん買って聴きはしたものの、ブルーズという名前がバンド名にあって、やっている音楽もブルーズ・オリエンティッドだなとは分るけれど、僕にはイマイチに聴こえていた。今ではほぼ聴かないが、この印象に今でも違いはない。

でもジョン・スペンサー・ブルーズ・エクスプロージョンとの全面合体作『ア・アス・ポケット・オヴ・ウィスキー』で R・L・バーンサイドが人気者になって、自身の単独作も売れるようになったという事実に間違いはない。そんでもってこのアルバム以後バーンサイドのギターの音が歪むようになった。

その結果が上で書いた1997年作『ミスター・ウィザード』で、僕の場合これで R・L・バーンサイドにハマったんだから、ジョン・スペンサー・ブルーズ・エクスプロージョンに感謝しなくちゃいけないんだよね。『ミスター・ウィザード』以後は、テクノ系やヒップホップ系リミックス・アルバムもある。

テクノやヒップホップが大好きなブルーズ・ファンなら、そんなアルバムも好きだろうなあ。1998年の『カム・オン』とかさ。僕の場合はあのヒップホップ的リミックス・ブルーズみたいな『カム・オン』が R・L・バーンサイドのアルバムを買った最後になった。あまり面白くなかったからだ。

1998年に買って何度か聴いた時はちっとも面白くないように感じていた1998年の『カム・オン』。気を取り直して今聴いているのだが、これはこれでいいなあ。ミシシッピ州北部ヒル・カントリーのブルーズに元からあるグルグル廻るようなグルーヴ感、あれをヒップホップ的なループ感として拡大したような感じ。

しかしながらミシシッピ・フレッド・マクダウェルとか R・L・バーンサイドその他ヒル・カントリーのブルーズ・メンは、別にコンピューターなどのデジタル・ツールを使わなくたって、ギター弾き語りだけでそんなループ感覚のグルーヴィーさを表現できるわけだから、僕はその方がはるかに好きなんだよね。

そういうわけで最初の方で触れたように2016年現在の僕にとっての R・L・バーンサイドとは、1994年のファット・ポッサム二作目『トゥー・バッド・ジム』こそが最高作となっている。このアルバムのプロデューサーはあのロバート・パーマー(歌手の方じゃなくブルーズ研究家の方)なんだよね。

R・L・バーンサイド1994年の『トゥー・バッド・ジム』を聴くと、バーンサイド一人でのギター弾き語りナンバーは、基本的にはいかにもアメリカ南部ミシシッピのカントリー・ブルーズ・マンらしい雰囲気だけど、同時にデトロイトを本拠にしたジョン・リー・フッカーのスタイルにもかなり似ている。

R・L・バーンサイドのやるブルーズの多くはコード・チェンジがないワン・コード・ブルーズ。自身のギターのスタイルもしばしばヘヴィーなドローンを鳴らし続け、シンプルなベース・パターンに基づく同一フレーズを延々と反復するようなもの。そして12小節とか8小節とか16小節といったブルーズの定型がない。

自在に伸び縮みするんだよね。そもそもワン・コーラスという概念が存在しないんだろう。こういうのはカントリー・ブルーズ・メンには多い。またさらに R・L・バーンサイドのロングタイム・パートナーである白人ケニー・ブラウンの弾くスライド・ギターのフレーズはしばしばアトーナルになる。

すなわち音程がなく無調というか調性感を無視して、リズムとかノリで弾いているようなスタイルだ。ギターもかなり素朴な楽器というか古くからあるものだけど、ケニー・ブラウンのスライド・プレイを聴くと、もっとシンプルでプリミティヴなものを連想するようなサウンドなんだなあ。

例えばカズーとかおもちゃの笛(正式名称は「ピロピロ笛」とか「巻き笛」というらしい、吹くとシュ〜ッと伸びてまた戻るあれ)とかそんな音だ、ケニー・ブラウンのギター・スライドは。DJ がレコードをスクラッチするサウンドみたいでもある。ギターでどうやってあんな音を出しているのか不思議だったのだが、1997年に生演奏を見て理解できた。

その1997年新宿のパーク・タワー・ブルーズ・フェスティヴァルに出演した R・L・バーンサイドのバンドに当然同行したケニー・ブラウン(なんたってバーンサイドが「自分の白い息子」と呼ぶくらい)。彼のスライド・バーは、しばしば高音部のフレットの付いていない部分を滑っているんだよね。

それであのシュ〜ていうかヒュ〜っていうおもちゃの巻き笛みたいなサウンドを出しているんだなあ。誕生期の初期型ブルーズや、その原型だったかもしれないようなものを想像したら、西洋音楽的な半音単位での音程表現や調性感なんてあってないようなもんなんだから、ケニー・ブラウンのあれもルーツ回帰なんだなあ。

そんなアトーナルなギター・スライドを聴かせるケニー・ブラウン参加曲もいいけれど、R・L・バーンサイドの最高傑作である1994年の『トゥー・バッド・ジム』にある個人的ベスト・トラックは、六曲目の「ピーチズ」だなあ。これはカルヴィン・ジョンスン(だけどクレジットはない)のドラムス伴奏だけでバーンサイドがエレキ・ギターで弾き語るもの。

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