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2016/11/28

消える直前の炎の輝き〜ロイ・オービスンとトラヴェリング・ウィルベリーズ

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1988年の(日本では)11月に突如登場した謎の覆面バンド、トラヴェリング・ウィルベリーズ。覆面バンドなどといっても、そのあまりに明白な声とサウンドに、ファースト・アルバムを買ったリスナーは全員の正体が分っていた。個人的にはあの時初めてロイ・オービスンの魅力に気が付いて、すっかりあの声の虜になってしまった思い出がある。

ロイ・オービスンといえば1964年の「オー、プリティ・ウーマン」だけど、この曲は1982年にヴァン・ヘイレンがカヴァーしたのがリヴァイヴァル・ヒットしていた。がしかしあの頃はヴァン・ヘイレンとか僕はバカにしていてちゃんと聴いていなかったもんなあ。

1990年のアメリカ映画『プリティ・ウーマン』の主題歌にもなったわけだけど、あの映画も観なかった。ただまあそんな具合だったので、一応「オー、プリティ・ウーマン」という曲があるっていうことと、それはロイ・オービスンという歌手が歌ったものだという知識だけは持っていた。

あの時初めてロイ・オービスンの魅力に気が付いてと書いたけれども、『トラヴェリング・ウィルベリーズ Vol.1』が1988年11月に日本でリリースされた翌12月に、ロイは心筋梗塞で死んでしまうのだ。その時ロイはまだ52歳。僕が現在54歳であることを考えると、なんだか震えてくるなあ。

ロイの「オー、プリティ・ウーマン」がリリースされた1964年というと、トラヴェリング・ウィルベリーズのうち、ボブ・ディランとジョージ・ハリスンは既に大活躍中。ジェフ・リンも活動していたが、この人は1970年に ELO(エレクトリック・ライト・オーケストラ)をはじめてから大注目された。

1950年生まれのトム・ペティも60年代末から活動はしているが、大成功したのはやはり1976年にトム・ペティ・アンド・ザ・ハートブレイカーズを結成して以後だ。以上五人がトラヴェリング・ウィルベリーズの本隊で正体。これにドラムスでジム・ケルトナー、パーカッションのレイ・クーパー、サックス奏者が参加しているが、彼らはゲスト扱い。

ベーシストがいないじゃないかと思われるかもしれないが、彼らは超一流のプロ・ギタリストたちなわけだから、普通の四弦ベースであれば間違いなく全員弾きこなす。実際にはトム・ペティが二枚のアルバムの両方で(ギターとあわせ)ベースを担当している模様。

二枚のアルバムと書いたけれど、1988年に一枚目が出て以後、二枚目が出たのは1990年。しかしそれのタイトルはなぜだか『Vol. 3』だ。これは当時いろんな憶測を呼んだ。ロイが一枚目のリリース直後に急逝してしまったがために『Vol. 2』の計画が頓挫しただとか、デル・シャノンがどうたらこうたらとか。

そのあたりはネットで検索すれば日本語の記事もたくさん出てくるので、もしご存知ない方で興味をお持ちの方はちょっと調べてみてほしい。でも真相みたいなものはいまだにはっきりしていないと思うんだけどね。いずれにしてもトラヴェリング・ウィルベリーズのアルバムは上記二枚で全部。

書いたように僕にとってはロイ・オービスンの「声」こそがトラヴェリング・ウィルベリーズ最大の魅力のように聴こえていたので、ロイのいない二枚目はどうもイマイチであまり繰返し聴かなかった。でも今聴き直してみたら『Vol. 3』も音楽的に面白い部分がまあまああるなあ。

ただ、二枚目『Vol. 3』のオープニング曲「シーズ・マイ・ベイビー」ではいきなりハードなエレキ・ギターが鳴りはじめ、曲全体もハード・ロックな趣で、僕の大好きな分野ではあるものの、トラヴェリング・ウィルベリーズにそういうものは似合わないというか、僕は求めていなかったというのが正直な気持。

あの「シーズ・マイ・ベイビー」でのハードなエレキ・ギターはゲイリー・ムーアらしいね。好きなギタリストだけど、トラヴェリング・ウィルベリーズの一作目のあのちょっとレトロ風のオールド・アメリカン・ポップ〜ロックンロールにはイマイチ似合っていない。

あれよりも『Vol. 3』を今聴き直して面白いかもしれないと思うのは、三曲目「イフ・ユー・ビロング・トゥ・ミー」、四曲目「ザ・デヴィルズ・ビーン・ビジー」、五曲目「7・デッドリー・シンズ」だなあ。この三曲以外はいまやどうでもいいような気がする。

「イフ・ユー・ビロング・トゥ・ミー」は」ちょっとカリブ風というか、いわゆるボ・ディドリー・ビート(3・2クラーベ)を使っている。かなり薄い感触だけど、間違いなくある。それをアクースティック・ギターで表現しているんだなあ。そこがちょっと面白いように思う。
「ザ・デヴィルズ・ビーン・ビジー」ではシタールが、といっても例のギター型のエレクトリック・シタールだけど、使われている。おそらく弾いているのはジョージだね。ジョージってことはアクースティック・シタールじゃないかと言われそうだけど、そういう音には聴こえない。
「7・デッドリー・シンズ」では、僕はなぜだかギル・エヴァンスを連想する。あれを聴いてそう思うリスナーはいないだろうなあ。でもあの曲の出だしで「せゔん〜、せゔん〜、せゔん〜」と追いかける輪唱があるんだけど、それがあの日本のテレビ番組『ウルトラセブン』の主題歌の出だしによく似ているんだなあ。
『ウルトラセブン』の主題歌ではホルンが効果的に使われている。こう書けばもうギル・エヴァンスとの繋がりはお分りのはず。ギルも(フレンチ・)ホルンやチューバなどの、ジャズでは通常使われることの少ない管楽器を効果的に頻用した。
トラヴェリング・ウィルベリーズの二作目にある「7・デッドリー・シンズ」からギル・エヴァンスへ繋げるなんて、まるで連想ゲームだけど、まあ単に僕が『ウルトラセブン』(に出演なさってブレイクしたひし美ゆり子さん)とギル・エヴァンス狂いなだけ。

トラヴェリング・ウィルベリーズの二作目『Vol. 3』で今でも面白いと思うのは以上で全部。やはり僕にとってのこの覆面バンドはロイ・オービスンのあの声が聴ける一作目こそ全てだ。といってもロイが歌っているのは三曲だけなんだけど。

ロイの歌う三曲のうち、一曲を通しロイだけがリード・ヴォーカルを取っているのは五曲目の「ナット・アローン・エニイモア」だけだ。いいなあこれ。YouTube には同じ曲が他にも上がっているが、ロイやその他メンバーの顔が見えるこれが一番楽しい。
お聴きになれば分るように、これは1960年代のロイのヒット・ナンバーに似せて創られた一曲だ。誰が書いたのか分らないが、曲もサウンド創りも間違いなく意識している。特にジム・ケルトナーがスネアを二連符でバン・バンと叩くあたりは、「オー、プリティ・ウーマン」その他にソックリ。

「ナット・アローン・エニイモア」は、歌っているのがロイだということを踏まえると歌詞も沁みてきて泣きそうになるが、まあそれはただの個人的感傷みたいなもんだから、公の文章で詳しく書いてみたところであまり意味もなく、お読みになる方々にとってはアホみたいなものだろう。

『Vol. 1』一曲目「ハンドル・ウィズ・ケア」で歌いはじめるのはジョージだけど(そもそもこの曲はジョージのソロ・アルバム『クラウド・ナイン』のスピン・オフみたいなもの)ブリッジ部分をロイが歌っている。
このミュージック・ヴィデオが1988年当時流れたもんだから、このトラヴェリング・ウィルベリーズ、覆面バンドもくそもないだろうと全員笑っちゃったんだなあ。全員顔と声でバレバレじゃん。ジョージやディランは僕も既に大ファンだったけれど、ロイ・オービスンの声に惚れちゃったのだ。

「ハンドル・ウィズ・ケア」でロイが歌っているのはブリッジ部分だけで、メインはあくまでジョージ。スライド・ギターが入るけれど、それは音だけ聴いてもジョージが弾いているものだと分る鮮明なスタイル。ロイがブリッジを歌ったあと、お馴染のディラン(と他の人とのコーラス)の声が聴こえる。

『Vol. 1』で部分的にロイが歌うもう一曲は、四曲目の「ラスト・ナイト」。ここでのメイン・ヴォーカリストはトム・ペティ。ロイはやはりブリッジ部分だけを担当しているが、その部分に来るとやっぱりいいなあ。
ところでこの「ラスト・ナイト」はサウンドがかなり面白いんじゃないだろうか。まずドラマーのスティック音が聴こえるが、その部分ではダブ的なサウンド処理が施されている。曲全体もカリブ調、というかジャマイカン・レゲエ風のものだよなあ。サックスもそんな雰囲気だ。

『Vol. 1』にはカリブ風サウンドがもう一曲ある。八曲目の「マルガリータ」だ。まずシンセサイザーの音が聴こえるが(誰が弾いているの?)、それに続き薄く入るアクースティック・ギターのカッティング、ヴォーカル・コーラス、スライド・ギターと来て、ベースが鳴りはじめる。
そのトム・ペティが弾くベースが聴えはじめたあたりからは鮮明なカリブ音楽になる。はっきり言えば 3・2クラーベのリズムだ。ベースは明らかに 3・2と弾いているしなあ。リード・シンガーはディラン(とトム・ペティ)で、ブリッジ部分がジェフ・リン。

しかも一曲全体で聴こえるジョージが弾いているに違いないスライド・ギターの音は、普通のエレキ・ギターじゃなくちょっとペダル・スティールっぽいものだよなあ。普通のエレキ・ギターなのかペダル・スティールなのか、僕の耳では判断できない。どなたか教えてください。

もしこれがペダル・スティールだとすると、カリブ風な 3・2クラーベのリズムを使って、曲調も南洋風なロック・ソングのなかにそれが入っているなんていうのは、かなり珍しいんじゃないだろうか?ロックじゃなければたくさんあるように思うんだけどね。

リリース直後に亡くなってしまうロイ・オービスンのあの独特の声の魅力を初めて教えてくれたので僕には忘れられない『トラヴェリング・ウィルベリーズ Vol. 1』。今聴き返してもやっぱりロイの声が聴える三曲が群を抜いていると思うけれど、カリブ風だったりする部分は当時は聴き逃していた。

それに『Vol. 1』はアルバム全編を通しエレキ・ギターが派手じゃなく、アクースティック・ギター中心のサウンド創りなのも、最近の僕の気分にはピッタリ来る。それまではロックはやっぱりエレキだぜとか思い込んでいたんだけどね。

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