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2016/11/18

マイルス・ロスト・クインテットの公式盤はいまだにこれだけ

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前々から僕はマイルス・デイヴィスが率いた1969年のバンド、いわゆるロスト・クインテットにこだわる傾向が強いんだけど、それはどうしてかというと、マイルスが率い恒常的に活動していたものでは、初の電化バンドだからなんだよね。といっても電化されているのはチック・コリアの弾く鍵盤楽器だけなんだけど、バンド全体のグルーヴ感が既に従来のジャズ的ではない。

あのいわゆるロスト・クインテットは長らく公式音源がなく、ブートレグでしか聴けなかった。がしかしブートレグでならアナログ・レコード時代から『ダブル・イメージ』という二枚組があって、これは僕の知る限りおそらくマイルス関連初のブート盤だ。

僕はそのLP二枚組『ダブル・イメージ』を確か大学生の頃に、ってことはつまり松山のレコード店で買った。当時の松山に音楽ブート・ショップなど存在しない(今もない?)。普通のなんでもない店で正規商品に混じって並んでいたのだった。こういうことはCD時代になってもよくある。

東京に出てきてからもディスクユニオン各店(特に御茶ノ水店)やタワレコード各店(特に渋谷店)でよくマイルスのブートCDを買った。だいたい正規商品と海賊盤との厳密な線引は不可能だからね。その後渋谷マザーズ・レコードや、通販だけど名古屋のサイバーシーカーズなど専門店も見つかった。

ともかくマイルスの『ダブル・イメージ』はアナログ盤二枚組ブートとして、マイルス・マニアは30年以上前から聴いていた。それくらい有名だったのだ。ってことは公式盤は一枚もないものの、1969年ロスト・クインテットの音源は、結構前から一つだけ聴けはしたってことなんだなあ。

もちろんライヴ盤であって、『ダブル・イメージ』は1969/10/27のローマ公演。CD時代になってもすぐにCD化された。それはそうとこの二枚組、ある時、日本クラウンがバラ売り二枚のCDで出したのを新宿丸井地下のヴァージン・メガストアで発見したことがあった。あれはなんだったんだろう?

まあだからブート盤と公式盤との境界線は引けないっていう一つの証拠だけど、新宿ヴァージン・メガストアで発見したその日本クラウン盤二枚はジャケットもダサかったし、内容的には購入済の完全に既知の音源だし、僕は当然買っていない(がそれは『レコード・コレクターズ』誌にレヴューも載った)。その後『ダブル・イメージ』は内容・音質が拡充したものがブートで出た。

それが『ダブル・イメージ・アップデイティッド・ロング・ヴァージョン』という CD 二枚組の SO WHAT 盤。SO WHAT はおそらく日本人がやっている日本の業者なんだろうと推測するんだけど、マイルスのブートCDをメチャメチャたくさんリリースしていて、海外でもかなり有名。僕は渋谷マザーズで根こそぎ全部買ったなあ。

マイルス1969年のロスト・クインテットはブートでもライヴ盤しかない。っていうのはこのマイルス+ウェイン・ショーター+チック・コリア+デイヴ・ホランド+ジャック・ディジョネットによるバンドのスタジオ録音は、ただの一曲も存在しないのだ。少なくとも2016年現在でも確認されていない。

だからかなりたくさん出ているロスト・クインテットのブート盤は全てライヴ収録。公式盤だとこのバンド初のものは1993年リリースの『1969 マイルス』になる。しかもこれは日本のソニーがどうしてだか日本でだけ発売したもの。日本国外の熱心なマイルス・ファンは日本からの輸入盤を入手していたという話だ。

その後全世界的にロスト・クインテットの公式ライヴ盤(スタジオ録音はないので)がリリースされたのが、レガシーが2013年に出した『ライヴ・イン・ユーロップ 1969:ザ・ブートレグ・シリーズ Vol. 2』というCD三枚+DVD一枚盤。日本国外だと2016年現在でも公式ではこれしか存在しない。

ちなみにどうして『ザ・ブートレグ・シリーズ Vol. 2』かというと、「Vol. 1」 は2011年に『ライヴ・イン・ユーロップ 1967』というCD三枚+DVD一枚がリリースされているからだ。それの裏ジャケを見るとまだレガシーではなくSony Music となっているなあ。

マイルスの「ザ・ブートレグ・シリーズ」というのは、今年2016年にも1967年の例の黄金のクインテットのスタジオ未発表音源三枚組が「Vol. 5」としてリリースされた。このシリーズ名は言うまでもなくボブ・ディランの一連の例のやつから取っている。ディランの方の最初は1991年リリース。

マイルス・ロスト・クインテットの音源では、現在『ライヴ・イン・ユーロップ 1969』四枚組が公式盤では一番いいものだけど、というか全世界的にはこれ一つしかないからそうなってしまうが、しかしこのCDは三枚である公式盤はやや問題もあるのだ。まずこれの一枚目は前述の『1969 マイルス』だ。

同じものなんだよね。フランスでのライヴなので冒頭にフランス人によるフランス語でのMCが入っているが、それは『1969 マイルス』ではカットされていたのが『ライヴ・イン・ユーロップ 1969』一枚目にあるというだけの違いしかない。演奏内容は一秒たりとも違わないので、僕たち日本のファンはガッカリ。

『ライヴ・イン・ユーロップ 1969』の二枚目は、一枚目、すなわち『1969 マイルス』の翌日、1969/7/26に同じフランスのフェスティヴァルに連日出演した二日目の公演で、これもブートではかなり前から『1969 マイルス:セカンド・ナイト』として流通していた既知の音源なのだ。

しかもブート盤『1969 マイルス:セカンド・ナイト』の方が、冒頭のフランス人によるMCがほんのちょっと長く入っているという不可解さ。公式盤『ライヴ・イン・ユーロップ 1969』二枚目の方は、その冒頭のMC出だしをなぜだか数秒カットしてあるんだなあ。三枚目だってちょっと問題あるぞ。

『ライヴ・イン・ユーロップ 1969』三枚目は1969/11/5のストックホルム公演で、この日2セット演奏したのがヨーロッパのFMラジオで放送されたので、それをソースにブート盤が前々から流通していた。それなのに『ライヴ・イン・ユーロップ 1969』ではファースト・セットしか収録していない。

これは2013年に『ライヴ・イン・ユーロップ 1969』がリリースされた時の最大の謎にして最大の憤慨だった。1969/11/5のストックホルム公演は、ロスト・クインテットのベスト・パフォーマンスとしてマイルス・ファンの間では評価が定着しているが、それは2セットあわせてのことなんだよね。

その2セットがそのまま公式化するのであればこんな嬉しいことはない、これでブートを買い漁るようなマニアではない一般の音楽ファンの方々にも、ようやくマイルスの1969年ベスト・ライヴを聴いていただけると喜んだのも束の間、レガシーはアホなのか?と怒りの感情しか湧いてこなかったなあ。

レガシーの名誉のため書き添えると、『ライヴ・イン・ユーロップ 1969』三枚目の11/5、ストックホルム公演ファースト・セット音源は、ブート盤で聴ける同日同セット音源とはほんの少し内容が違う。ブート盤では聴けない部分が少しだけど収録されているのだ。それはセットの冒頭と末尾。

1969/11/5、ストックホルム公演ファースト・セットの一曲目は「ビッチズ・ブルー」。ブート盤にも公式盤にも収録されているジョージ・ウェイン(スウェーデンまで行っていたんだね)のMCに続き、ブート盤ではいきなりチックのフェンダー・ローズが聴こえる。ところが公式盤ではベースの音ではじまる。

デイヴ・ホランドが、既にスタジオ録音済(リリースはまだ)の「ビッチズ・ブルー」でも聴ける冒頭のリフを弾きはじめ、0:15 に初めてチックのフェンダー・ローズが入ってくるが、その15秒目のチックのエレピがブート盤では一曲目の一秒目なのだ。つまり公式盤は15秒だけ長く収録されている。

末尾が違うというのは、ブート盤だとこの日のファースト・セットの最後は「マスクァレロ」で、それが完全収録ではなく、チックがアクースティック・ピアノでソロを弾いている途中でフェイド・アウトして終っている。それが公式盤では、やはり不完全でフェイド・アウトは同じだが、そのあともう一曲あるんだなあ。

公式盤では「マスクァレロ」がフェイド・アウトしたのち、続いてチック作曲の「ディス」が収録されている。それは約六分間。これら書いているような冒頭と末尾の違いはある。公式盤の方が少しだけ充実しているのは確かだから、やはりオフィシャルだけはあるなという内容だ。

しかしこれでレガシーの面目躍如とは言えないだろう。それら冒頭と末尾以外は完全に同一であるばかりか、前述の通り同じ日のセカンド・セットをどうしてだか収録していないからだ。録音テープがあるのは分っているんだぞ。なぜリリースしなかったんだ?セカンド・セットの方が演奏はむしろ凄いのになあ。

『ライヴ・イン・ユーロップ 1969』の一枚目(『1969 マイルス』と二枚目(『1969 マイルス:セカンド・ナイト』)になった1969/7/25〜26のライヴではちょっと面白い発見もある。七月というと『ビッチズ・ブルー』のスタジオ収録前だけど、同二枚組収録曲を既に演奏している。

「マイルス・ランズ・ザ・ヴードゥー・ダウン」と「スパニッシュ・キー」だ。「サンクチュアリ」もやっているが、この曲のマイルスによるスタジオ初録音は1968年2月のセッションだった。だがしかし『ライヴ・イン・ユーロップ 1969』収録のライヴ演奏は、一ヶ月後録音の『ビッチズ・ブルー』のと同じパターンだ。

1969/7/25〜26のライヴでは、1967〜68年の例の黄金のクインテットのレパートリーもやっている。「フットプリンツ」「ネフェルティティ」などなど。面白いのは25日の「イッツ・アバウト・ザット・タイム」、26日「スパニッシュ・キー」、ならびに「マイルス・ランズ・ザ・ヴードゥー・ダウン」。

なにが面白いかというと、それら三曲においてウェイン・ショーターはソプラノ・サックスでソロを吹いているが、実に頻繁にショーター・ファンならオッ!と思うに違いない同じフレーズを繰返し演奏している。なにかというと「スーパー・ノヴァ」だ。そう、1969年リリースのブルー・ノート盤一曲目。

あのショーターのリーダー・アルバム『スーパー・ノヴァ』は1969/8/29と9/2に録音されている。そこでレコーディングされる曲のテーマ(というかモチーフだが)の断片を、同年七月のマイルス・バンドでのライヴで繰返し吹いているのがその時の即興的思い付きだったとは僕には思えない。

自身のリーダー作でのレコーディングはたったの一ヶ月・二ヶ月後なんだから、ショーターの頭のなかに「スーパー・ノヴァ」のモチーフは既にあったと判断するのが妥当だろう。そう考えないと絶対に理解できないほど、完全に同じフレーズを、それも違う曲のなかで何度も何度も吹いているからだ。

また7/26における「スパニッシュ・キー」では、フェンダー・ローズを弾くチックが、のちのリターン・トゥ・フォーエヴァーで開花するスパニッシュ路線のフレーズを断片的に演奏する瞬間もあってちょっと面白い。『ビッチズ・ブルー』録音後の1969年のマイルス・スタジオ録音などでもそうなる瞬間は垣間見えたからね。

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