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2016/11/08

プリンスのジャズ

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ブルー・ノート・レコーズの創立者でプロデューサーだったアルフレッド・ライオン。ジャズ・ファンなら知らない人なんていない人物だよね。日本で1986年にマウント・フジ・ジャズ・フェスティバルの第一回目が開催された際に招待されて来日した。彼の来日はこの時の一回だけじゃないかなあ。

第一回目がはじまった時のあの祭典の正式名称は「マウント・フジ・ジャズ・フェスティバル・ウィズ・ブルーノート」で、日本でも大人気の同レーベルに録音したジャズ・メンを中心としたコンボや各種ジャム・セッションなどを繰広げるという内容だったので、象徴であるアルフレッド・ライオンを招いたんだろう。

あの時アルフレッド・ライオンは当然のように日本のジャズ・ジャーナリズムからインタヴューされていたけれど、そのなかで当時も今も僕が最も鮮明に憶えているのがこれだ。「今活躍中のミュージシャンで一番注目しているのは誰ですか?」と聞かれたのに答え、ライオンは「プリンスですね」と即答した。

1986年なら僕も既にプリンスが大好きだったので、そのアルフレッド・ライオンの発言がかなり嬉しかったのは確かだが、しかし彼はリバティ傘下に入って二年後の1967年にブルー・ノート・レコーズを退任して既に引退状態だった。67年というと同レーベルはまだストレート・アヘッドなジャズ録音ばかり。

だから「ジャズ」のイメージしか僕は持っていなかった(といってもブルー・ノートは元々ブギ・ウギ・ピアニストを録音したくてはじめた会社)アルフレッド・ライオンが1986年にプリンスの名前を出した、それも現在最も注目している音楽家としてだったというのは、当時の僕には驚きだった。

1986年のプリンスというとアルバム『パレード』がリリースされた年で、父親がジャズ・マンだとはいえ、それまでのプリンスの音楽にジャズの要素は、少なくとも僕はあまり聴き取っていなかった。だからある意味モダン・ジャズのシンボルともいうべきアルフレッド・ライオンは、プリンスの音楽のなにをそんなに評価していたんだろう?

あの時は確かインタヴュワーもプリンスの名前に驚いて「それはどのあたりを評価なさっているのですか?」と聞返していたように記憶している。それに対するアルフレッド・ライオンの返答はちょっと記憶がおぼろなのだが、確かリズム&ブルーズ的な部分がいいとかなんとか。

いやまあちゃんとしたことは憶えていない。がしかしアルフレッド・ライオンが評価するとして名前を出したので、僕もそれまでとはプリンスの聴き方が少し変りはじめたのは間違いない。ジャジーなフィーリングがある曲はあるが、ストレート・アヘッドなジャズだとかは、でもやはり1986年までのプリンスにはないんじゃないかなあ。

僕が気が付いている範囲ではプリンスのストレート・アヘッドなジャズ・ナンバーは、1991年の『ダイアモンド・アンド・パールズ』五曲目の「ストローリン」だ。これは聴く前から分る。この曲名がもう既にジャズを暗示している、というかそのまんまというに近いよね。リズムも4/4拍子で曲調もジャズそのものだ。

以前からプリンスについて書く際はいつも嘆いているが、やはり音源を貼って紹介できないのが残念極まりない。その「ストローリン」では、プリンス自身が弾いているギター・サウンドも空洞ボディにピック・アップの付いた、いわゆるフルアコ、またはセミアコと呼ばれる種類のものの音だ。これは間違いない。

そういう種類のギターはジャズ・ギタリストがよく使う。というかストレート・アヘッドなスタイルでやる専業的なジャズ・ギタリストはほぼそれしか弾かない。以前どなただったか日本人のプロ・ジャズ・ギタリストが「ソリッド・ボディのギターではほしい音がどうやっても出せません」と言っていたことがあった。

『ダイアモンド・アンド・パールズ』の次作1992年のいわゆる俗称『ラヴ・シンボル・アルバム』(正式名称は例のあの記号)。これの二曲目に「セクシー・M .F.」という曲がある。アメリカではそのまんまの表現を公のリリース物や放送では使えないので「M. F.」になっているだけのナスティ・ソング。

このナスティというかエロというか、プリンスのいつものお得意パターンである「セクシー・M. F.」もややジャジーだ。使われているギターもカッティングしているのはソリッド・ボディの音だが、ギター・ソロはやはりフルアコかセミアコを使ってプリンス自身がジャジーに弾いているサウンドだ。

そんでもって「セクシー・M. F.」では管楽器が大きくフィーチャーされている。これはジャズというよりもリズム&ブルーズ〜ファンク・マナーでの使い方だけど、それらの音楽におけるホーン・アンサンブルはそもそもジャズ由来だかね。エリック・リーズもジャジーなサックス・ソロを吹いている。

ところで『ミュージック・マガジン』増刊のプリンス特集で小出斉さんが、「セクシー・M. F.」でエリック・リーズのフルートがクールに聞え・・・、とお書きなんだけど、フルートの音らしきものは全く聞えませんが?小出さん、フルートはどこに?サックスの間違いじゃないでしょうか、小出さん?

「セクシー・M. F.」はもちろんジャズ・ナンバーではなくファンク・チューンだ。しかしプリンスの弾くギター・ソロのサウンドといい、バリトン・サックスでリフを入れ、テナー・サックスでソロを吹くエリック・リーズといい、かなりジャジーなフィーリングが聴取れるように僕は思うよ。

1996年の僕の大好きな三枚組『イマンシペイション』にも一枚目五曲目に「コーティン・タイム」がある。これは完全なる1930年代風スウィング・ジャズなんだよね。ジャズ・ファンじゃなくても誰が聴いてもこりゃジャズ・ナンバーだと分るもの。ホーンの使い方は30年代後半のビッグ・バンド・スタイルだ。

『イマンシペイション』では、その「コーティン・タイム」というタイトルの曲の次にスタイリスティックスの「ベチャ・バイ・ゴーリー・ワウ!」が続くというなんとも甘い展開。この三枚組には三枚目にデルフォニックスの「ラ、ラ、ラ・ミーンズ・アイ・ラヴ・ユー」もあるし、その他カヴァー曲がいくつかある。

プリンスの全アルバムで他人の曲のカヴァーがあるというのは、ほぼこの『イマンシペイション』だけなのだ。しかも全体的に非常にスウィート。スウィートすぎるだろう、なんたって二枚目には「子供をつくろうよ」なんて曲もあるくらいだ。当時のプリンスのマイテとの新婚生活が完全に音楽に反映されているんだなあ。

『イマンシペイション』は本当に大好きな三枚組だから、また別の機会にまとまった文章を書きたい。さてまあ絶対量としてはやはり多くないプリンスのストレート・アヘッドなジャズ・ナンバー。その少ないうちの一曲が1999年のワーナー盤『ザ・ヴォールト:オールド・フレンズ・4・セール』にある。

三曲目の「シー・スポーク・2・ミー」がそれ。最初通常のリズム&ブルーズとしてはじまり、そんな感じのギター・ソロも出るのだが、3:48 あたりで突然4/4拍子に移行。エレベが一小節に四分音符を四つ均等に置くというウォーキング・ベースを弾き、ドラマーも完全に4ビート・ジャズな叩き方になる。

するとプリンス本人が弾いているに違いないギター・ソロが入ってくるのだが、その部分は誰がどう聴いてもジャズ・ギタリストが弾いているだろうとしか聴こえない。モダン・ジャズ・ファンならケニー・バレルを思い浮べるだろう。というかこのソロはプリンスじゃなくて、本当はケニー・バレルが弾いているんじゃないの?

いやホントそう言いたくなってくるくらい「シー・スポーク・2・ミー」中間部でのソロはモダン・ジャズ・ギターなんだよね。プリンスの全音楽生涯で最も完全なるジャズをやっているのがこの部分だと断言してしまいたい。ジャズ・ファンが聴いたって好きになるに違いない一曲だ。

以前もプリンスのブルーズ関連で書いたけれど、1999年の『ザ・ヴォールト:オールド・フレンズ・4・セール』は本当に面白いアルバム。これがお蔵入り音源集としてワーナーが手抜きで申し訳程度の体裁でリリースしたなんてのが信じられないクオリティの高さなんだよね。誰も話題にしないものだけどね。

『ザ・ヴォールト:オールド・フレンズ・4・セール』ラストの「エクストローディナリー」が絶品バラードだと以前も書いたが、この曲は僕の大好きな2002年リリースの三枚組ライヴ・アルバム『ワン・ナイト・アローン・・・ライヴ!』でもやっている。そのライヴ・ヴァージョンがこれまたジャズになっているんだなあ。

『ザ・ヴォールト:オールド・フレンズ・4・セール』のオリジナル・ヴァージョンは楽器イントロなしでいきなり歌いはじめるジャジーではないバラードなのに、『ワン・ナイト・アローン・・・ライヴ!』ヴァージョンではキャンディ・ダルファー(セクシー美女!)のアルト・サックスによるジャジーなイントロが付いている。

そんでもってプリンスがワン・コーラス歌い終るとバンドの演奏がこれまた突然4/4拍子をやりはじめ、プリンスが「みなさん、オランダ出身、ミス・キャンディ・ダルファー!」と言って、彼女のアルト・サックス・ソロになる。バンドが4ビートを刻んでいることもあって、完全なジャズ・サックスに聴こえる。

『ワン・ナイト・アローン・・・ライヴ!』ヴァージョンの「エクストローディナリー」の中間部では、キャンディ・ダルファーのアルト・アックス・ソロが終ると、レナート・ネトのピアノ・ソロになる。これはもちろんデジタル・ピアノだろうが、やっぱりハード・バップ・スタイルでの弾き方なんだよね。

さてさて曲単位では今まで書いてきたようにジャズが散見されるプリンスだけど、アルバム単位でジャズ・アルバムと呼べるようなものはないはず。いや待てよ、2001年の『ザ・レインボウ・チルドレン』があるなあ。これがアルバム単位ではプリンスが最もジャズに接近した一枚だと言えるかもしれない。

しかしながらあの『ザ・レインボウ・チルドレン』は確かにかなりジャジーで、あるいは完全にジャズだという部分もあるけれど、それ以上に宗教的なアルバムで、これは当時プリンスがエホバの証人にドップリはまっていたのが原因。それでアルバム全体にわたって相当に宗教的敬虔さが聴き取れて、だからゴスペル・アルバムだと言う方が近いのだ。

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