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2016/12/21

1964年、アップタウン・シアターの興奮

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アメリカ黒人歌手ならここに出演したいっていうステイタスみたいな場所が各地にある。一番有名なのはおそらくニュー・ヨークのアポロ・シアターだね。その他シカゴのリーガルだとかいろいろあるけれど、フィラデルフィアにおける黒人音楽の拠点がアップタウン・シアターだ。

そのフィラデルフィアのアップタウン劇場で1964年7月24日に行われたレーベル・パッケージ・ショウをライヴ録音したアルバムがある。そのレーベルはアトランティックで、アルバム名は『サタデイ・ナイト・アット・ジ・アップタウン』。しかしこの日は金曜日だったらしいのだが。

金曜日がどうして「サタデイ・ナイト」になるのか僕は無知にして全く分らないので、どなたか教えてください。とにかくフィラデルフィアのアップタウン劇場における金曜日は<ティーネイジ・ショウ>となっていて、若者が安価で観聴きできたんだそうだ。それでこの日に実況録音が設定されたんだろうね。

つまり1964年当時の若者が当時のソウル・ショウに熱狂する様子をパッケージングしようってことだった。がしかしアルバム『サタデイ・ナイト・アット・ジ・アップタウン』はたったの38分程度なので、この日のライヴの全てではないはずだ。この点だけはちょっと残念。

『サタデイ・ナイト・アット・ジ・アップタウン』に収録されているソウル歌手のうち、現在最も知名度があるのは間違いなくウィルスン・ピケットだ。次がドリフターズ。がしかし1964年というとピケットはまだアトランティックと契約したばかりで、まだ大成功はしていない時期。

だから『サタデイ・ナイト・アット・ジ・アップタウン』になった1964年7月のライヴ時点ではドリフターズが一番の大御所的存在だった。だからライヴ当日はトリだったんだろけれど、アルバムではトップに収録されている。最大の目玉音楽家だから頭に持ってきたんだろう。

ドリフターズとウィルスン・ピケット以外で『サタデイ・ナイト・アット・ジ・アップタウン』に収録されている音楽家は、ソウル素人の僕には馴染が薄い人たちが多い。全然知らない名前というのはないけれど、あまりたくさんは聴いていない人たちばかりだ。それでもパティ・ラベルはまあまあ知っている。

なぜならパティ・ラベルはのちにラベルを率いるようになるからだ。『サタデイ・ナイト・アット・ジ・アップタウン』ではパティ・ラベル&ハー・ブルーベルズとなっている。これはのちのラベルの前身だ。あとアルバム・ラストにある「ウィ・ガット・ア・グッド・シング・ゴーイン」は僕もよく知っている曲。

なぜならばローリング・ストーンズが1965年の、アメリカにおける(というのは当時のストーンズは英米でリリース内容が異なっていた)三枚目のアルバム『ザ・ローリング・ストーンズ、ナウ!』のなかでカヴァーしているからだ。まあホントあの頃のストーンズはアメリカ黒人音楽のカヴァーばっかりだったよなあ。

アトランティクのレーベル・パッケージ・ショウと書いたけれど、この1960年代頃はこういうのよくあったみたいだ。モータウンのアポロ・シアター盤とかもあったよね。でも『サタデイ・ナイト・アット・ジ・アップタウン』にあるヴァイブレイションズとカールトンズはチェス系じゃなかったっけ?

そのあたりは緩いというか、まあおおらか、のどかだったんだろうなあ。とにかく『サタデイ・ナイト・アット・ジ・アップタウン』を聴くと、アップタウン劇場の若い観客、特に女性の嬌声がかなり大きく聴こえる。現在の感覚からしたらちょっと考えられない録音方針だと思うほど賑やかだ。

でもあの時代の熱狂ぶりがよく伝わってきて、そんな崩れたような録音バランスもマイナスにはなっていない。荒いのは録音だけでなく、演奏も歌も良くも悪しくも荒いのだ。しかしこの日のこのバック・バンドは誰なんだろう?『サタデイ・ナイト・アット・ジ・アップタウン』CD パッケージやブックレットに記載がない。アール・ウォーレン(Earle Warren)のバンドだという説もあるが。

アール・ウォーレンはカウント・ベイシー楽団出身のアルト・サックス奏者(兼ときたま歌手)だ。もし彼のバンドだというのが本当だとすると、やはりベイシー楽団の音楽とリズム&ブルーズやソウルなどの黒人音楽はかなり密接に繋がっているっていうことではあるなあ。

『サタデイ・ナイト・アット・ジ・アップタウン』でまず最初に出るドリフターズは三曲。アルバム中最も収録曲数が多いから、やはりこの日の目玉だったんだろう。「渚のボードウォーク」「オン・ブロードウェイ」「ゼア・ゴーズ・マイ・ベイビー」、いずれもかなり有名。

シングル盤「渚のボードウォーク」は1964年6月発売だから、『サタデイ・ナイト・アット・ジ・アップタウン』になった7月24日の本当に直前だ。今の感覚だとそんな感じじゃないかもしれないが、1960年代だからマジでこの日のライヴ前夜に発売されたばかりというのが実態。

それにもかかわらず『サタデイ・ナイト・アット・ジ・アップタウン』における「渚のボードウォーク」では、観客は早くも歌詞を憶えていて、大きな声で一緒に合唱している。この当時のドリフターズがどれだけ人気があったのかを如実に物語る様子が聴けて楽しい。

そんな様子は「オン・ブロードウェイ」「ゼア・ゴーズ・マイ・ベイビー」でも全く同じで、観客(特に女性)が大きな声で合唱している。「オン・ブロードウェイ」では、(誰がリード・シンガーなのか?)歌詞のなかの「ブロードウェイ」を地元フィラデルフィアの「ブロードストリート」に置き換えて歌っているので、これまた大騒ぎ。

「ゼア・ゴーズ・マイ・ベイビー」でのリード・シンガーはチャーリー・トーマスだと思うんだけど、この人は完全なるサム・クック・フォロワーだね。『サタデイ・ナイト・アット・ジ・アップタウン』の「ゼア・ゴーズ・マイ・ベイビー」でもそのまんまのサム節だ。同曲のオリジナルではご存知ベン・E・キングだった。

さて九曲目、十曲目のウィルスン・ピケット。前述の通りまだアトランティックと契約したばかりで、1965年リリースの『イン・ザ・ミッドナイト・アワー』(スタックス録音)収録の同曲が大ヒットしてスターになるのだが、64年7月というと、アトランティックで「アイム・ゴナ・クライ」をリリース済だった。

だから『サタデイ・ナイト・アット・ジ・アップタウン』でも「アイム・ゴナ・クライ」は当然披露している。もう一曲は「イフ・ユー・ニード・ミー」。後者は1963年にドン・コヴェイと創った曲で、アトランティクのジェリー・ウェクスラーに提供しソロモン・バークが歌って大ヒットした。

ウィルスン・ピケット自身はこの曲をダブル・L に録音し、しかしそこそこのヒットにしかならなかった(ビルボードの R&B チャート30位)。それを『サタデイ・ナイト・アット・ジ・アップタウン』でも当然作者のピケットが歌っているのだが、これも見事なゴスペル風ソウル・バラード。

まるで黒人キリスト教会における説教師と会衆との掛け合いみたいだ。つまり「イフ・ユー・ニード・ミー」でのウィルスン・ピケットは、歌うというよりもまるで語りかけるような感じで、アップタウン劇場の聴衆もその<説教>に呼応して歌っている。『サタデイ・ナイト・アット・ジ・アップタウン』のなかで最もゴスペル色が濃いのがこの曲だ。

ドリフターズ、ウィルスン・ピケット二名以外の歌手たちは、前述の通り曲「ウィ・ガット・ア・グッド・シング・ゴーイン」に馴染があるだけであまりよく知らないので書けないが、五曲目でパティ&ジ・エンブレムズが歌う「ミクスト・アップ、シュック・アップ、ガール」はリオン・ハフの書いたものみたいだ。

また『サタデイ・ナイト・アット・ジ・アップタウン』に二曲あるヴァイブレイションズのうち「マイ・ガール・スロッピー」は、マッコイズの「ハング・オン・スルーピー」だなあ。ちょぴり改題してカヴァーしたってことなんだろうか。いやよく知らないけれども。

カールトンズも名前とチェス系だということしか知らないが、収録の「キャント・ユー・ヒア・ザ・ビート」を聴くと、ちょっとあのカーティス・メイフィールドのインプレッションズみたいな雰囲気のコーラス・グループだ。似ているんじゃないかな、特にファルセットで歌うリード・シンガーが。

アルバム・ラストのバーバラ・リンが歌う「ウィ・ガット・ア・グッド・シング・ゴーイン」は、書いているように曲自体はローリング・ストーンズ・ヴァージョンで馴染があるが、『サタデイ・ナイト・アット・ジ・アップタウン』収録のを聴くと、姉御肌みたいな雰囲気のこっちの方がいいよなあ。

いずれにしても有名・無名(だと思っているのは僕だけかも?)取り揃えた『サタデイ・ナイト・アット・ジ・アップタウン』。リズム&ブルーズ、ソウルなど1960年代半ばの現場のあの熱気を、たった38分間とはいえたっぷり味わえる好盤でオススメ。

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