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2016/12/05

ブギ・ウギ・ベースのロックンロールとサイケの合体〜『メイン・ストリートのならず者』再び

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リリースされたばかりの11年ぶりの新録音による最新作『ブルー・アンド・ロンサム』がなかなかの快作であるローリング・ストーンズ。CD などフィジカル現物はまだ買えないけれど(12/03時点)、我慢できないので iTunes Store でダウンロード購入したのを CD-R に焼いて聴いている僕。

『ブルー・アンド・ロンサム』は伝えられていた通り、全曲アメリカ黒人ブルーズのカヴァーで、かなりの有名曲から、熱心なブルーズ・ファン以外には馴染が薄いだろうようなものまで全てキレキレの演唱で、このバンドのキャリアを考えたらありえないとすら思える新鮮さだ。ポール・サイモンといい、2016年は老人が活躍する年なのか?

むろん音楽的中身が斬新だったポール・サイモンの『ストレンジャー・トゥ・ストレンジャー』と違い、ストーンズの『ブルー・アンド・ロンサム』は全てが完全なるモダン・シカゴ・ブルーズだから、キレキレとはいえ目新しさなどは全くどこにもない。しかし老成の境地かというとそうでもなく、むしろこのバンドのデビュー当時のような瑞々しいサウンドなのだ。

ただ一点、ご覧の通りジャケット・デザインだけがどうにも面白くないようには思う。ブルーズだから青色で、それの上にストーンズのベロ・ロゴなんだろうが、もうちょっと工夫できなかったのかなあ。かなりテキトーに仕上げたようにしか見えないのが残念。中身はいいだけにね。

なお次号の『ブルース&ソウル・レコーズ』誌附属 CD に『ブルー・アンド・ロンサム』全曲のオリジナル・ヴァージョンが収録されるそうだ。九曲をユニバーサル、三曲を P ヴァインが原盤権利を保有しているので可能だったようだ。もしご存知ない曲があるという方には格好の機会じゃないだろうか。

そんな『ブルー・アンド・ロンサム』は CD 現物が届いて詳しいことが判明したらまたなにか書くかもしれないが、おそらくそれは来年のことになるだろうなあ。今日は前回書いた時の予告通り、またまた1972年の最高傑作『メイン・ストリートのならず者』。
この時は「シェイク・ユア・ヒップス」と「ダイスをころがせ」の話しかしていないように思うんだが、このアルバムについては書きたいことが山ほどあるからなあ。あともう一つ、ストーンズのカントリー・ソングについて書いた際に「スウィート・ヴァージニア」の話をしただけだよなあ。
だから今日はそれら三曲以外の話をいろいろとしたい。それはそうと僕はこの『メイン・ストリートのならず者』の CD を、一番多い時期で五枚も持っていたことがある。アホだとしか言いようがない。

たくさん買ったからといって、AKB48やその他みたいに握手券がもらえるわけでもないのに、どうして五枚も持っていたのか自分でも分らない。バッカじゃないの。そのうち三枚はパッケージング含め完璧に同じものだからなあ。だからその三枚のうち一枚はかつて卒論指導をしていたさなかの学生にあげた。

以前も書いたんだけど、その学生はボブ・ディランで卒論を書きたいということで僕が指導教官をやったのだった。音楽専攻コースなんか存在しない大学だったので、僕が所属していた文学部やその他の学部でも、米英大衆音楽で卒論を書きたいという学生が出ると、教務部は全部僕のところへ廻していただけ。

外国文学専門の学部もなかった時期が長いので(なんたって日本のことについてが本領の大学)、米英の小説や、あるいは米英でなくても20世紀小説や批評論で卒論を書きたい学生の面倒も見ていた。ミラン・クンデラ(チェコ)やガルシア・マルケス(コロンビア)などいろいろと。

ともかくボブ・ディランで卒論を書く学生といろいろとディランやその他ロックの話をしていて、ある時関連でストーンズの話題になったので突っ込んで聞いてみたら、『メイン・ストリートのならず者』は聴いたことがない、持っていないというので、じゃあ僕は何枚も持っているからと一枚あげたのだった。

卒論指導は一ヶ月に一回やっていた。次回来たときにその学生は「参りました、凄いです、傑作です」と『メイン・ストリートのならず者』のことを言ってくれた。18年か19年くらい前の22歳だから、今は40歳程度になっているであろう男性。CD だと一枚ものになっているというのも、かえって聴きやすいのかもしれない。

昔話はこのあたりにしておいてストーンズの『メイン・ストーンズのならず者』。一曲目の「ロックス・オフ」は、これに先立つ「ジャンピング・ジャック・フラッシュ」(この曲はアルバムによって「ジャンピン」だったり「ジャンピング」だったり一定しない)とか「ブラウン・シュガー」みたいだよね。
つまりキース・リチャーズが冒頭からカッコいいギター・リフを弾いてかっ飛ばす爽快なロックンロール。似たような曲が『メイン・ストリートのならず者』にもう一曲ある。二枚目B面一曲目の「オール・ダウン・ザ・ライン」。こっちの方は聴いたらオープン G の五弦テレキャスターだとみんな分るものだ。
ストーンズやキース・リチャーズ・ファンはみんな知っているが、キースは1968年か69年頃に、ひょっとして最初はライ・クーダーから教わったのかオープン G・チューニングでギターを弾くようになり(ライはこの類のことにあまりにも詳しい)、その際6弦がルート音の G じゃなくなるので、張らなくなった。

1〜5弦の五本だけ張って、一番低音の5弦が根音のGなので、どこも押さえずそのままジャ〜ンと鳴らせば G の和音になるというもの。ギターのオープン・チューニングは、アメリカでもかなり古くから、例えばブルーズ界にもたくさんあって、オープン G や A 系と並びオープン D 系などもよく使われる。ギターのチューニング・スタイルはその他たくさんある。

一番とんでもないのがクラシック・ギターの世界におけるチューニングだろうなあ。どうなっているのか聴いてもさっぱり分らないものがいろいちろあるもん。近年知ったビルマ・ギターのチューニングもワケが分らない。そこいくとブルーズやロックにおけるギター・チューニングはまだ分りやすい場合が多い。

分りやすいというか慣れているだけなんだろうけどさ。ともかくキースはそれまでレギュラー・チューニングで弾いていた曲でもオープン G チューニングで弾くようになったりもしている。オープン G の五弦テレキャスターだと誰でも分りやすいのが「ホンキー・トンク・ウィミン」。あれは曲のキーも G だからそのまま全弦解放で鳴らせばオッケー。

『メイン・ストリートのならず者』では「ダイスをころがせ」もオープン G だ。このチューニングじゃないとあの印象的なリフはちょっと弾きにくい。僕は最初これを知らずレギュラー・チューニングでコピーしようとしていたので、どうしてこの曲のリフを弾くときはこんなヘンテコな指の形になるんだと思っていた。

でも「ダイスをころがせ」をレギュラー・チューニングで弾けないってことはない。指の形が若干いびつになるのを我慢すれば充分いけるのだ。しかしある時事実を知りオープン G にしてみたら、な〜んだ楽ちんじゃんって(苦笑)。本屋でタブ譜本を買ったらしっかり書いてあったもんね。もっと早く買えばよかった。

そんなオープン G の五弦テレキャスターで弾いている「オール・ダウン・ザ・ライン」も超カッコいいロックンロール。特にキースが弾きはじめてミックが一節歌ったその次のジャカジャカジャカっていう短い数秒間がスーパー・クールだ。すぐにミック・テイラーのスライド・ギターも出てきて、僕は完全に昇天。

さっきからロックンロール、ロックンロールと書いているが、ロックンロールとロックは完全に同じもの。区別する人もいるが無意味だね。特に日本の内田某がなにかというとすぐにロケンロールとか言ってバカじゃないのと。僕はそう考えているのだが、たまにこれはロックンロールと言う方が相応しいと思う場合がある。

その一つがキース・リチャーズがチャック・ベリー・スタイルのああいったギター・リフを弾く場合だ。ホントそういう感じのものが多いよね。『メイン・ストリートのならず者』における「ロックス・オフ」や「オール・ダウン・ザ・ライン」もそんなもののうちの二つ。しかしこの二曲には違いもある。

それは「オール・ダウン・ザ・ライン」が終始一貫チャック・ベリー風ロックンロールなのに対し、「ロックス・オフ」の方は中間部でかなり雰囲気が変るのだ。音の質感も変ってかなりくぐもったようなモヤモヤした音でサイケデリックな曲調に変化して、それが少しのあいだ続くんだよね。

最初の頃、僕はあのサイケデリックな中間部が嫌いで、ミックのヴォーカルも妙な音加工が施してあるし、なんでこんなことしているんだ?ストレートにやってくれよ、「ブラウン・シュガー」みたいにさとか思っていたのだった。そんな中間部以外は明快にカッコイイから昔から大好きだったんだけど。エンディングでフェイド・アウトしていきながら入ってくるミック・テイラーのソロもいいよね。
 
それはそうと「ロックス・オフ」で聴こえるピアノは完全なるブギ・ウギ・スタイルのロック・ピアノだから、間違いなくイアン・スチュアートだろうと思って見てみたら、ニッキー・ホプキンスなんだよね。意外だなあ。ああいった弾き方ならスチュの方が得意なように思うのに、どうして弾かせてあげなかったんだろうなあ。

「ロックス・オフ」においてブギ・ウギ・ベースのロックンロールで、サイケデリックな中間部を挟むというあの発想は、それまでのストーンズにはなかった。「サティスファクション」「ジャンピング・ジャック・フラッシュ」「ブラウン・シュガー」などストレートなロックと、それ以外のサイケ路線は分けていたもんね。

それをアルバム一曲目のなかで両者を合体させているのはちょっと面白い。本当に面白いと僕が感じるようになったのはわりと最近で、1990年代半ば以後のこと。どうして面白いかというと『メイン・ストリートのならず者』というアルバム全体の構造を、いきなり一曲目で暗示しているように思うからだ。

『メイン・ストリートのならず者』におけるブギ・ウギやブルーズや、それ由来のストレートなロックのことは、いまさら書かなくてもいいだろう。「ロックス・オフ」中間部における音処理とサイケデリック風味は、例えば二枚目A面四曲目の「アイ・ジャスト・ワント・シー・ハー・フェイス」が同じだ。
https://www.youtube.com/watch?v=EymLq0htbL8

続く五曲目「レット・イット・ルース」も似たような感じだよなあ。キースの弾くギターの音に、これはおそらく弾いている時にではなく録音後にスタジオで加工処理が施されてあって、サイケデリックな響きになっている。この曲ではマック・レベナック(ドクター・ジョン)その他大勢のコーラス陣が入る。
一般に二枚目A面では、トップのキースが歌う「ハッピー」が一番人気があるはず。僕も長年同じだった。でも最近は二〜五曲目の展開の方が面白いように感じている。二曲目「タード・オン・ザ・ラン」はアメリカ南部ブルーズ風だし、三曲目の「ヴェンティレイター・ブルーズ」のレイジーな雰囲気もいい。
一枚目B面三曲目の「スウィート・ブラック・エンジェル」ではかなりクッキリとギロ(ヒョウタンの側面に刻みを入れて、それを棒でこすってギジギジという音を出す打楽器)の音が聴こえる。パーカッションとのクレジットになっているジミー・ミラーの演奏だろう。それがハーモニカやマリンバと絡む。
どうでもいいがこの「スウィート・ブラック・エンジェル」という曲名は、おそらく B・B・キング・ヴァージョンが一番有名なあのブルーズ・スタンダードと全く同じだ。でも全然違う曲。紛らわしいよなあ。全く異ジャンルの音楽家ならそうでもないんだろうが、ストーンズはアメリカ黒人ブルーズを実によくやるバンドなもんだから。

一枚目B面では続くラストの「ラヴィング・カップ」も面白い。一番面白いのはこの曲もやはり中間部が少しサイケデリックになりかける瞬間があるのだ。ホーン・セクションが入ってくるところだ。ジミー・ミラーの叩くドラムスはドタバタしていてチャーリー・ワッツとは比較できないが、そんなに悪くもない。
なお「ラヴィング・カップ」にはスティール・パンが入っている。えっ?スティール・パンなんか聴こえないぞって言われるだろう。確かにほとんど聴こえないが、ヘッドフォンで耳が痛くなるほどまでにかなりヴォリュームをあげて、その状態で相当に耳を凝らして集中して、それでようやくかすかに分る程度。

だから「ラヴィング・カップ」におけるスティール・パンは無視してもいいんだろう、普通のリスナーは。だって書いたようにしないと聴こえないもんね。『メイン・ストリートのならず者』がメチャメチャ好きなファンじゃないと気付いてないはずだ。しかしストーンズはあの曲にどうしてスティール・パンを入れたんだろう?

もう一つだけ、二枚目B面二曲目のロバート・ジョンスン・ナンバーについて書いておこう。その「ストップ・ブレイキング・ダウン」ではミック・テイラーのスライド・ギターが大活躍。なんて美味しいんだ。ストーンズがアメリカ黒人ブルーズをたくさんカヴァーしているもののなかでは、僕はこれが一番好き。
ミック・テイラーのスライド・ギター・ソロは全4コーラス。3コーラス目が終わりかける刹那に、あまりにカッコイイのでミック・ジャガーが「もう一つ!」と叫んでいるもんね。その瞬間に入るピアノのフレイジングも好きだけど、これもスチュじゃなくてニッキー・ホプキンスだと書いてあるなあ。

ロバート・ジョンスン・ナンバーはいろんな UK ロッカーがカヴァーしているけれど、個人的な好みだけなら僕はストーンズのやった「ラヴ・イン・ヴェイン」と「ストップ・ブレイキング・ダウン」で決まり。ストーンズのそれらはロバート・ジョンスンの原曲の持つかたちではなく、フィーリング、本質から汲取っているもんね。

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