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2016/12/18

エディ・コンドンの古典録音集

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アメリカの戦前ブルーズや戦前ジャズばかりどんどんリイシューしている英国のレーベル  JSP。ある時ギリシアの古いレンベーティカのボックスを五つだったか六つだったか次々とリイシューしたことがあるけれど、あれはなんだったんだろう?あれで随分楽しませてもらったし、今でもよく聴くシリーズだ。知らなかったこともたくさん教えてもらった。

まあしかし JSP は基本的には戦前アメリカ音楽のリイシューを専門としているので、僕みたいな趣味嗜好の人間には大変ありがたい。このレーベルが2014年にエディ・コンドンの1927〜49年録音集CD四枚組ボックスをリリースした。僕が気が付いたのは翌2015年。この古いシカゴ派ジャズの親玉のまとまった録音集はなかなかないからね。

そのJSP 盤のタイトルは『クラシック・セッションズ 1927-1949』。名前通りの年代の録音集だが、エディ・コンドン名義のものばかりではない。というかコンドン名義のものの方が少ない。そもそもこのエディ・コンドンという人物は音楽家ではあるものの、その音楽的才能で他を引っ張った存在ではない。

いや、あれも一種の「音楽的」才能と言えるのか、とにかくエディ・コンドンはまさにフィクサーとでも呼ぶべき存在で、1920年代の禁酒法がありマフィアが暗躍した時代のシカゴで活躍したボスなのだ。楽器は一応ギター。初期はバンジョーだった。その腕前はまあ大したことはないというか、ほぼ聴こえないに等しい。

『クラシック・セッションズ 1927-1949』でも、ものによってはコンドンのギターの音なのかなと思うものが鳴っている時間があるけれど、そんなのはかなり稀なのだ。そして歌も歌わないから、録音集を聴くだけではエディ・コンドンとはいったいなにをした人物なのか分りにくいかもしれない。

音楽に関連して彼の最大の仕事だったのは、禁酒法時代のシカゴでは密造酒(ブートレグ)の製造・販売が横行し、違法物だからマトモな人間がやるわけはなく、当然マフィアが手掛けていた。音楽家の毎夜の演奏場所は酒の飲めるナイト・クラブなどなので、そこでブートレグを取り仕切るマフィアと関わっていかなくてはならなかった。

だから1920〜30年代のシカゴのジャズ・メンは全員マフィアと関係があったというかその庇護下にあった。マフィアがブートレグを販売するナイト・クラブなどが主な活動場所だということは、まあ無法連中なわけだから無理難題を押し付けられることもあって、そこで普通に音楽をやりたいだけのジャズ・メンとの間で調整役をやったのがエディ・コンドンだったのだ。

つまりシカゴのジャズ・メンの親玉がエディ・コンドンで、コンドンがマフィアとの間を取り持ってくれるおかげで、他の普通のジャズ・メンも安心して演奏活動ができたというわけだ。だから主にギターをやった楽器の腕前がイマイチでも、彼とは比較にならないほど楽器が上手い連中もみんなコンドンを慕って集まってきた。

といいながら、しかしコンドンのギターが、油井正一さんの言うほどそんな聴くに耐えないくらい下手だなんてこともない。『クラシック・セッションズ 1927-1949』でもちょっとだけ聴こえる彼のギター演奏や、戦後録音でならもっと明瞭に聴こえる音は、わりとしっかりしているんだよね。

ギターを弾いている時のコンドンはシングル・トーンでのソロみたいなものは全く弾かない。おそらく生涯で一度も弾かなかったというか弾けなかった。そんな腕がなかったからだ。もっぱらジャカジャカとコードを鳴らしているだけだ。それもかなりシンプルなものを。1930年代に登場するフレディ・グリーンみたいな上手さは当然ない。

脱線になるが名前を出してしまったついでに書くと、生涯カウント・ベイシー楽団で活躍したフレディ・グリーンも、(かなり稀な例外を除き)もっぱらコード弾き一本槍だけど、この人はものすごく上手い。複雑な構成の和音を、それも一拍ごとにどんどんチェンジして、それを極めて正確なタイミングで一小節に四つ刻む。

コンドンにそんな腕前はない。ただなんとな〜くジャカジャカ鳴らしているだけみたいなギター演奏ばかりだ。だから楽器の腕前でリーダーシップを発揮した人ではないんだよね。楽器が上手くないとはいえ、しかしながら普通の意味での音楽的才能がなかったとも僕は思わない。

なぜならコンドン名義や、あるいはそうでなくてほかのジャズ・マン名義のセッションにコンドンが参加して実質的リーダーだったものなどを『クラシック・セッションズ 1927-1949』で聴いていると、まず人選の的確さがある。どんな楽器奏者をどんな編成で組合せるとこんな音楽ができあがるという青写真がしっかりあるもんね。

またなんの曲を採り上げるか、その曲のテーマ演奏はこんな感じでやろう、ソロ廻しはお前とお前が何小節ずつこの順番で、エンディングはこうやろうなどなどコンドンは指示も的確であることが、できあがった録音物がリイシューされているのを聴くとヒシヒシと伝わってくる。

そういうのはやはり音楽的才能と呼ぶべきだろう。つまり調整、アレンジ、バンド・リード能力に長けていたのがエディ・コンドンというジャズ・マン最大の特長だ。それが抜群であったがために、マフィアとの調整能力とあわせ、肝心の楽器の腕前がイマイチでもみんなが集まって、その結果いい音楽ができあがったのだ。

『クラシック・セッションズ 1927-1949』は年代順に CD 四枚に分割されているが、1927〜30年録音の一枚目からして既にシカゴ録音は少ない。なぜならばコンドンは1928年にニュー・ヨークに進出しているからだ。だからこのボックスにあるシカゴ録音は、冒頭の27年録音の四曲と続く28年録音の四曲の計八曲のみ。

JSP はいつものことでデータ記載はかなり簡素に見えるが、実は全部書いてあるそのクレジットでは、それら八曲ではコンドンはバンジョーとになっている。がしかし全く聴こえない。1927/28年だから録音技術のせいもあるだろうが、おそらくそれ以上にコンドン自身あまりしっかりした音で弾いていないか、あるいは全く弾いていないためだ。

コンドンがバンジョーからギターにスイッチするのが、『クラシック・セッションズ 1927-1949』で辿ると二枚目収録の1933年10月21日録音から。それ以後はおそらく死ぬまでずっとギターで、その腕も下手くそだとはいえ活動を続けていたわけだから徐々に向上しているのが分る。

まあでもコンドンのギター演奏そのものを話題にはできないね(苦笑)。演奏内容自体は他の参加ミュージシャンの旨味を楽しむというのがコンドンの録音集では昔から定石だ。『クラシック・セッションズ 1927-1949』の一枚目でちょっと面白いのはレッド・マッケンジーだ。

一枚目に約10曲も参加しているレッド・マッケンジー。JSP の一見簡素だがしっかりしているデータ記載でも “Comb, Vocal” となっている。ヴォーカルはいいとして「コーム」ってなんだそれ、櫛じゃないか、そんなもの楽器じゃないだろうって思われるよねえ。これがマッケンジーの「楽器」なのだ。

レッド・マッケンジーは歌は歌うが、普通のいわゆる楽器はできなかった。その代わり櫛にパラフィン紙を巻きつけて、それをブーブー吹いて鳴らすという人。ちょっとカズーに似たようなサウンドで、まあ素人楽器ではあるけれど、なかなか楽しいよ。ちょっとご紹介しよう。マウンド・シティ・ブルー・ブロワーズ名義の「インディアナ」。
ところでこの「インディアナ」。スウィング時代あたりまではよく演奏された有名スタンダード曲なんだけど、モダン・ジャズの時代には完全に忘れ去られた。「曲」自体はね。でも聴いていてなんとなく聴き覚えのある流れだなと感じる人が多いんじゃないかなあ。

そう、「インディアナ」のコード進行は「ドナ・リー」のそれと同じなのだ。「ドナ・リー」を書いた(チャーリー・パーカーではなく)マイルス・デイヴィスは「インディアナ」のコード進行だけ拝借して新しいテーマ・メロディを乗せ「ドナ・リー」にしたのだ。

「ドナ・リー」はビ・バップ・スタンダードになったし、チャーリー・パーカー・ヴァージョンその他をお聴きでない方でも、ジャコ・パストリアスがソロ・デビュー・アルバムでやったのはご存知のはずだ。そんなわけで古い曲「インディアナ」もコード進行だけは生き延びている。

ビ・バップ・スタンダードの多くがこんな具合で、古い有名スタンダードのコード進行だけ借りていて、それは例のレコーディング・ストライキがビ・バップ勃興の真っ只中で、著作権問題で古いスタンダード曲をそのままは使えなかったせいだとかは、以前この記事で詳しく書いた。ディキシーランド・ジャズをマイルスも聴いていたってことだ。
そんなことはともかく上掲音源の「インディアナ」。ヴァイオリンの音が出るまでブーブーっていう音がしているが、それがレッド・マッケンジーの吹く櫛だ。ヴァイオリンのあとに続いて出るヴォーカルは当然マッケンジー。コンドンはバンジョーで参加となっているが、やはりその音は聴こえない。ある時期、マウンド・シティ・ブルー・ブロワーズという名前でマッケンジーは活動した。

演奏風景もちょっとご紹介したいので、エディ・コンドン関連ではないが YouTube にあったのを貼り付けておく。古いジャズ(関連)音楽がお好きな方ならみんな知っている有名曲「アイ・エイント・ガット・ノーバディ」。英文説明も是非読んでほしい。
お前はいつも古臭いジャズの話ばっかりじゃないかと思われそうだけど、このレッド・マッケンジーの櫛の場合はそうとばかりも言い切れないぞ。これは要するにスキッフルと同じようなものだ。ってことは UK ロックの誕生と非常に密接に繋がっているんだよね。

そんなマッケンジーのマウンド・シティ・ブルー・ブロワーズにベニー・グッドマンが参加して(となっている)録音したのが1930年録音の「ガールズ・ライク・ユー・ワー・メント・フォー・ボーイズ・ライク・ミー」。エディ・コンドンの『クラシック・セッションズ 1927-1949』に収録されているのだが、しかしこれ、グッドマンのクラリネットの音は聴こえない。

グッドマン云々よりも、コールマン・ホーキンスのテナー・サックスとファッツ・ウォーラーのピアノ演奏が立派なので、それに聴き入るという一曲だなあ。そしてやはりマッケンジーが櫛を吹いてヴォーカルも取る。ファッツはこのほか『クラシック・セッションズ 1927-1949』でたくさん聴ける。

僕はだいたいいつもデータの類を見ずに音だけ聴いている人間だけど、突然ピアノの音が違って聴こえるし、なんだかスタイリッシュで立派なもので、こりゃ誰だ?と思ってデータ記載を見ると、ことごとくファッツ・ウォーラーなんだなあ。やっぱり超一流の人は音だけで目立ってしまうんだよなあ。

さて『クラシック・セッションズ 1927-1949』全四枚に一番たくさん参加しているジャズ・マンは、エディ・コンドン以外ではテナー・サックス奏者のバド・フリーマンだ。この人はコンドン一派、すなわちシカゴ派の番頭格みたいな人物だった。ボックス二枚目の1933年10月21日録音以後、かなり多くのセッションに参加している。パキパキ・ポキポキっていうあのテナーの音、いいよねえ。

クラリネットのピー・ウィー・ラッセルも非常に多く参加していて、頻繁にあの独特のサウンドが聴けるのも楽しいが、僕は『クラシック・セッションズ 1927-1949』を通して聴いていて、一番グッと来るのが三枚目冒頭から。トランペットの音が突如変貌するからだ。

その一曲目「エンブレイサブル・ユー」で、あのビックス・バイダーベックにそっくりなサウンドが聴こえ、ってことはトランペットじゃなくコルネットだな、しかも白人のあの人に違いないと思ってデータ記載を見たら、やはりビンゴだった。ボビー・ハケットだ。

ハケットは『クラシック・セッションズ 1927-1949』三枚目冒頭の四曲(1938年1月と6月録音)でだけ吹いているが、そのコルネット演奏がもう絶品で、聴いていて僕は嬉しくてたまらない。それら四曲ではピー・ウィー・ラッセルのクラリネット、バド・フリーマンのテナー・サックスも聴ける。ピアノはジェス・ステイシー。

エディ・コンドンの『クラシック・セッションズ 1927-1949』。多くのジャズ・ファンにとっては四枚目末尾にある1949年の NBC スタジオ・セッションでビリー・ホリデイが歌ったりルイ・アームストロングがトランペットを吹いたりする二曲が目玉なんだろう。もちろん素晴らしいものだが。

しかし僕にとっての『クラシック・セッションズ 1927-1949』最大の好物は、三枚目冒頭の四曲、1938年1月と6月録音だなあ。それほどボビー・ハケット、ピー・ウィー・ラッセル、バド・フリーマンの三人が好き。そしてそれら四曲では珍しくエディ・コンドンのギターの音もクッキリと聴こえる。

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