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2016/12/13

美しきベースとサックスのユニゾン〜ウェザー・リポート

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「お前のしるし」などという、どうしてこんな和訳題になっているのか分らないウェザー・リポートの「ア・リマーク・ユー・メイド」。ローリング・ストーンズの『メイン・ストリートのならず者』みたいに結果的にカッコよくなるならまだしも、誤訳した上にダサくなってしまうという醜態を演じているじゃないか。

“You” が「お前」になるのを我慢すれば、“A Remark You Made” とは「お前が言ったこと」の意。だからあえて言えば「お前が残したこと(もの)」ということだ。そこから転じて「お前のしるし」になってしまったのだろうか?そういえばこの曲をアル・ジャロウが(当然歌詞入りで)カヴァーしていたなあ。

そのアル・ジャロウ・ヴァージョンのタイトルが「サムシング・ザット・ユー・セッド」だったから、これを参考にすれば、ちょっと分りにくいあの「ア・リマーク・ユー・メイド」という曲題の意味が誰でもはっきりするはずだ。それはそうと、あの「ア・リマーク・ユー・メイド」、ウェザー・リポート・ナンバーのなかで最も美しい曲じゃないかなあ。
この「ア・リマーク・ユー・メイド」はウェザー・リポートの1977年作『ヘヴィ・ウェザー』のA面二曲目。作者はジョー・ザヴィヌル。ザヴィヌルが書いた数多くの曲のなかで最も美しいメロディーを持つものに違いないと僕は思う。特に美しいと思うのが、あのサックスとベースのユニゾン部分だ。1:58〜2:16まで。

そこへ至るまでも全てが美しい。ザヴィヌルのアクースティック・ピアノを中心とする各種鍵盤楽器のイントロに続き、ウェイン・ショーターがテナー・サックスでメロディを吹きはじめる。その背後でジャコ・パストリアスが下降するベース・ラインを弾いている。

その最初のショーターのソロ部分はもちろんアド・リブではない。ザヴィヌルの用意した譜面通りだ。そもそも「ア・リマーク・ユー・メイド」でもアド・リブ・ソロだと言える部分はほとんどない。終盤でザヴィヌルが弾くシンセサイザー・ソロだけじゃないかなあ、アド・リブは。

そのシンセ・ソロ部分以外は全てあらかじめ綿密に組み立てられていたものだ。ある時期以後のウェザー・リポートの曲はだいたいそうだけどね。そう思うと、このバンドの支配者だったザヴィヌルの曲創りはジャズというよりクラシック音楽みたいなものに近かったのかもしれないね。

火花を散らすような丁々発止のやり取り、命を削るようなスリリングで緊張感に満ちたアド・リブの応酬。ジャズとはそういうものを軸に据えた音楽だと一般的には考えられているよね。ビ・バップやフリー・ジャズなんかはその典型だ。もちろん素晴らしいものだけど、そうじゃないジャズだってたくさんあるよね。

ジャズ界最高の作曲家にして最高のバンド・リーダー、あるいはなんの付属言葉もいらない「至高の存在」デューク・エリントン。そうであることに異論を挟む人は誰もいないだろうが、エリントンの音楽もあらかじめ緊密に構成されて譜面化されていたようなものだ。これも誰も疑わないよね。

いつ頃だったか、ザヴィヌルは1970年代以後のデューク・エリントンになりうる可能性があると書いていた専門家がいた。誰だっけなあ。それを大学生の時に読んだ時はアホなことを言うな、いくらなんでもザヴィヌルとエリントンは並べられないだろうと笑っていた僕だったんだけど。

今でもこのザヴィヌル=現代のエリントンみたいな言い方はやっぱり言いすぎ、ザヴィヌルを褒めすぎだろうとは思う。だがしかし一面の真実を言い当ててもいたのかもしれないなあ。上で書いたような両者の音楽志向の共通性を踏まえ、さらに両者ともオリジナル楽曲を自分のバンドで演奏することにこだわったという意味においても。

そしてエリントンとはやはり比べれられないが、ザヴィヌルもそこそこ多くの良作を世に送り出してきた。『ヘヴィ・ウェザー』収録の「ア・リマーク・ユー・メイド」はそのメロディ・ラインの美しさという点ではザヴィヌルの最高傑作なんだろうなあ。

少し話が横道に入ってしまったが、『ヘヴィ・ウェザー』の「ア・リマーク・ユー・メイド」。鍵盤イントロに続きショーターの吹くメロディは、しかしなんかちょっとヘンではあるね。しゃくり上げるような旋律の短いパッセージを吹くと一瞬パッと止まって、再びまた少し吹いて終る。

ショーターのテナー吹奏がすぐに終ると、ジャコのベースがモチーフを弾く。その部分も最高に美しいが、それも短いパッセージですぐに終り、ザヴィヌルがシンセサイザーで少し弾くと、ショーターの本格的なソロに入る。ところであのジャコの弾く短い部分こそが「ア・リマーク・ユー・メイド」最大のモチーフじゃないだろうか。

というのは曲の後半部でもジャコは同じ旋律のパッセージをリピートしているからだ。それが「ア・リマーク・ユー・メイド」の曲構造の土台になっているのが、その後半部を聴くと分るので、やはりあれこそがザヴィヌルが根幹に据えたモチーフなんだろうと僕は判断している。

さて前半部におけるジャコの弾くモチーフに続くショーターのやや長めのソロは、おそらくウェザー・リポート時代の彼のテナー吹奏最高傑作だね。長めといっても 1:22〜1:57 までと一分間もないのだが、このバンドでのショーターとしては長い方だし、かなり美しいので聴き惚れる。特に吹き終りの三秒間が泣けるのだ。

こりゃいいねと思っていると、それに続いてもっと泣けてしまうパートがやってくる。それが上でも書いた 1:58〜2:16までのサックスとベースのユニゾン部分だ。こんな完璧なメロディを書いていたこの頃のザヴィヌルには心服するしかない。悪口を言う人も多いけれど、そんなことに構わず僕はソングライターとしてのザヴィヌルは天才だったと言いたい。

「ア・リマーク・ユー・メイド」のあのテナー・サックスとベースのユニゾン部分で泣けるんだというファンはかなりいるんだよね。この旋律を思い付き、しかもそれをテナー・サックスとベースの、しかもジャコのあのフレット抜きエレベ音とのユニゾンでやらせようと思い付いた時点でザヴィヌルの勝利だ。

それくらいあのサックス+ベースのユニゾン部分は至高の美しさ。もちろんジャコがフレットを抜いたフェンダー・ジャズ・ベースで出すあの独特のサウンドを持っていなかったら、ザヴィヌルもこんな発想は持たなかっただろう。ジャコのあの音色ありきで思い付いたユニゾンに違いないんだけどね。

テナー・サックスとベースのユニゾンが終った 2:16 以後の「ア・リマーク・ユー・メイド」は、僕にとってはイマイチ魅力がない。引き続きショーターがソロを吹き、その背後でのジャコのベースもかなりいいが、まあ余韻が後を引いているみたいなもんだよなあ。

その後書いたようにジャコは冒頭部でも弾いたモチーフを何度も反復し、その上でザヴィヌルがシンセサイザーでソロを弾いたりもするが、あのアド・リブ・ソロはない方がよかったと僕は思う。ジャズ・ファンがジャズ(系のもの)を聴いてアド・リブなしがいいと発言するなんて、オカシイのかもしれないけどね。

「ア・リマーク・ユー・メイド」はウェザー・リポート自身によるライヴ・ヴァージョンが二種類公式発売されている。一つは1979年リリースの『8:30』収録のもので、録音年は78年か79年かはっきりしない。もう一つは2015年リリースの四枚組『ザ・レジェンダリー・ライヴ・テープス: 1978-1981』収録の78年東京録音。

どっちもはっきり言って面白くない。前から繰返しているように、ウェザー・リポートのライヴ演奏がスタジオ・オリジナルより上を行くということはまずない。完璧性こそが売りのバンドだから、やはり緊密に構成された構築美を持つスタジオ録音の方が、それが若干緩むライヴ演奏よりもずっといいんだよね。

他の音楽家による「ア・リマーク・ユー・メイド」カヴァーを僕は三種類だけ持っている。一つが前述のアル・ジャロウによるヴォーカリーズ・ヴァージョン。2000年のヴァーヴ盤『トゥモロウ・トゥデイ』七曲目。歌詞はもちろんアル・ジャロウ自身が書いている。
キューバ人ピアニスト、トニー・ペレスの2002年作『ライヴ・イン・ハヴァナ』ヴァージョンの「ア・リマーク・ユー・メイド」は、ピアノ+ベース+ドラムスのトリオ編成で実に淡々と弾く。これはあんまり面白いもんじゃないなあ。だからなにも言わないでおこう。それにしてもどうして僕はこの CD を持っているんだろう?

そして最もいいのが、リゾネイター・ギター(まず100%ドブロ)弾きのジェリー・ダグラスの2005年作『ザ・ベスト・ケプト・シークレット』の四曲目の「ア・リマーク・ユー・メイド」だ。これは本当に美しい。基本的にギター+ウッド・ベース+ドラムスのトリオ編成で、後半でヴァイオリンが少し絡む程度。
美しすぎるだろう、これは。このジェリー・ダグラスのカヴァー・ヴァージョンが、ウェザー・リポート以外の音楽家による「ア・リマーク・ユー・メイド」カヴァーでは間違いなく一番いい。全てアクースティックでシンプルな楽器編成と、ドブロをスライドで弾いたあのサウンドが、原曲の持つリリカルさと感傷を際立てているよね。

あまりそう話題になっていないように思うジェリー・ダグラスだけど、かなりいいドブロ弾きなんだよね。彼がスライド・プレイをする時は、たいていラップ・スティール・スタイル、すなわち膝の上にドブロを寝かせて置き、その上からバーで押さえるという弾き方。その腕前が一流であることは、上で音源を貼った「ア・リマーク・ユー・メイド」一つ聴くだけで分っていただけると思う。

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