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2016/12/14

八代亜紀さんへの公開ラヴ・レター

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八代亜紀さん、大好きです。もう40年間以上あなたのことを想い続けています。

僕が八代亜紀さんを知ったのは中学生の時。テレビの歌番組で歌うあなたを見て、なんて綺麗な女性なんだろう、そして歌がなんて魅力的なんだろうと、一目(一耳)惚れしてしまいました。その時八代さんがなにを歌っていたのか、もう記憶が曖昧になっているんですが、僕が中学生の頃だから「しのび恋」だったかもしれません。

それは「なみだ恋」だったような気が僕はするんですが、あの曲は1973年リリースですから、その時僕はまだ小学生でした。ですがテレビの歌番組ですから、あるいは最新曲ではなく八代さんの最初の大ヒット・ナンバー「なみだ恋」を歌っていらっしゃったかもしれません。

とにかく大好きになってしまったんです。惚れてしまったんです、八代さんに。僕の通っていた中学校でクラスメイトに「僕は八代亜紀が一番好きな女性なんだ」と言うと、「なんだ 、お前はあんな年上女が好きなのか?」と笑われたりしました。それでも僕は頻繁に八代さんのことを喋り、歌も容姿もどれほどチャーミングなのか熱く語っていたのです。

今考えたら世の中のことをなに一つ知らないただの中学生がそんなことを、しかも他はみんな同年代か少し上のアイドル歌手のことをいいと言っていたのに、僕だけ10歳以上年上(と言ってもあの頃八代さんの年齢は知りませんでしたが)の、それも演歌歌手がいいんだなんて、ちょっと変わった中学生だったかもしれません。

その後、僕が少しは演歌好きになったのは間違いなく完全に八代さんのおかげです。中学生の時に八代さんに出逢わなかったら、その歌と容姿の虜にならなかったら、その後の僕が演歌を聴くようにはならなかったかもしれないし、いまだに演歌の魅力に気がついていないかもしれません。全ては八代さんのおかげなんです。

中学生の時に八代さんに惚れてしまって以来、現役日本人女性歌手では僕は八代さん一筋で追いかけてきたというのが事実です。僕は17歳の時にジャズをきっかけにいろんな音楽にどっぷりハマってしまうようになり、人生がすっかり狂ってしまい現在までそれは続いています。

17歳頃からは主に洋楽をどんどんキチガイみたいに聴きまくるようになり、そしてその関連で日本の音楽も聴くようになり、日本人女性歌手もいろんな人を聴いてきました。スウィングする洋楽歌手が大好きな僕ですから、日本人女性歌手でも同資質の歌手、例えば生田恵子さんとか10代の頃の美空ひばりさんとかが凄いと思うんですが、最も感情移入できるのは今でも八代さん、あなたの歌です。八代さんこそが僕にとってのナンバー・ワンなんです。それくらい中学生の時に聴いた「なみだ恋」(だったように思うんですが)の魅力は大きかったのです。

これは八代さんがスウィングしないという意味ではありません。演歌歌手とそうではないポップス歌手とでは「スウィング」の質が違っているように思います。演歌はそもそも快活で軽快にノルようなものは多くありません。がしかしリズミカルなフィーリングはもちろんあって、というかそれがない大衆音楽なんて存在しないわけですから。

この意味では八代さんは最高に「スウィングする演歌歌手」に違いないと僕は考えています。今まで八代さんが発売した全106曲のシングル・ナンバーのなかには、確かに多くは演歌らしいしっとりした粘り気のあるノリ、スウィング感のものが多く、それらにおける八代さんの歌いこなしは見事というしかありません。

例えば、今まで八代さんが歌った曲のなかで最もドロドロした怨念に満ちたものは1974年の「愛の執念」なんじゃないかと思います。なんといっても川内康範さんの書いた歌詞がもう尋常ではなく、それに合わせ曲調もリズムのノリも、これでもかというような女の執念を吐露するような粘っこいことこの上ないものです。

そんな「愛の執念」における八代さんの歌い方、リズムへのノリは、しかし必ずしも男に向けた執念をしつこく引きずるようなフィーリングではないように聴こえます。楽器伴奏のアレンジや八代さんの発声は確かにドロドロしているんですが、フレイジングのリズム感は典型的な三連のリズムの上に軽く置くような感じが僕はします。

「愛の執念」みたいな曲でもそうなんですから、したがって「おんなの夢」(1975)、「ともしび」(1975)、「おんな港町」(1977)や「もう一度逢いたい」(1976)といったリズミカルでポップなものでは、八代さんの軽快なノリが抜群に活き活きとしています。しかも非常に細かい部分の息遣いの隅々にまで歌い分けがされていて、時にドスを利かせ、時に優しくささやいて、声の質や歌い回しを微妙に変化させ、僕たち聴き手の情感に忍び込んできます。

ちょっとした変わり種は1976年の「花水仙」ですね。これは演歌というよりまるで小椋佳さんが書きそうな曲なんですよね。布施明さんが歌った1975年の「シクラメンのかほり」にちょっと似ています。でも小椋佳さん作じゃないんですよね。池田充男さんと浜圭介さんの書いたものです。ちょっと日本のいわゆるフォークっぽいフィーリングがします。

八代さんは「なみだ恋」で大ブレイクしたのちはどんどん大ヒットを連発するようになり、女性演歌歌手としては不動の地位を築き、国民的歌手となりました。それはおそらく1979年の「舟唄」、翌80年の「雨の慕情」、このあたりからなんでしょう。これら二曲は日本歌謡史に残る名唱だと僕は確信しています。

僕は特に1979年の「舟唄」が大のお気に入りで、メロディ(浜圭介さん)も歌詞(阿久悠さん)もアレンジ(竜崎孝路さん)も、そして全体的な八代さんの歌い方、特に中間部でテンポ・ルパートで挿入される「ダンチョネ節」部分でのコブシ廻しなどなど、絶品だとしか言いようがありません。

八代さんの歌ったもののうち、当時から現在に至るまでの僕の最愛曲である「舟唄」なんですが、 最近、僕はこの曲でちょっと面白いことを発見しました。それはこの曲はレゲエだということです。一番のなかで 0:47 あたりから伴奏が突然賑やかでリズミカルに変化する「しみじみ飲めばしみじみと」部分から、「ダンチョネ節」に入る 1:11 までのあいだ、エレキ・ギターの刻むのはレゲエのリズム・パターンです。

二番でも同じようにスキャットで「ダンチョネ節」を歌いはじめるまでのあいだ、エレキ・ギターが(ン)ジャ!(ン)ジャ!と裏拍で刻む典型的なレゲエのパターンを弾いています。かなり控え目の小さな音での隠し味ですから、耳を凝らさないとちょっと気づきにくいもので、八代さんの演歌のなかにレゲエを聴き取るファンがどれだけいるのかも分りませんが、右チャンネルから間違いなく聴こえます。

さて、ここまで全て八代さんのテイチク時代の話ですが、実際1971年のレコード・デビュー(前まではいろんなことがあったとうかがっています)から1982年にセンチュリーレコードに移籍するまでのテイチク時代こそが、僕にとっての八代さんが最も輝いていた時期に聴こえます。

もちろん八代さんはテイチク時代以後も、そして2016年現在でも第一線で大活躍中です。演歌の女王、日本の国民的歌手という地位はもはや揺るぎのない確固たるものになっているにもかかわらず、そんなステレオタイプを打ち破るべく様々なチャレンジをされています。だからテイチク時代が一番良かったなんて言い方をするのは失礼だと承知してはいます。

がしかしそれでも今の僕が八代さんの CD を聴いてこの歌が最も素晴らしい、最も輝いているなと心の底から実感するものは、1982年までのテイチク時代に圧倒的に多いというのが偽らざる心境なのです。テイチク時代の全35曲、どれもこれも大好きなんですが、僕が普段最もよく聴くものはそのなかから30曲を選び CD 二枚組に収録したものです。

その二枚組はだからベスト盤なんですが、全30曲 CD 二枚で計1時間47分ほど。これで八代さんが名曲を歌いこなす名唱を聴いている時間が僕にとっては至福の時間なんです。発売順に並んでいるのではなく、一枚目が「おんな港町」ではじまり「舟唄」で終り。二枚目が「雨の慕情」から「愛の終着駅」まで。

あと五曲追加するだけでテイチク時代の八代さんの完全集になりますし、五曲追加しても CD 二枚に入る長さだと思いますので、できうればテイチクさんにはコンプリート集をリリースしていただきたいです。1970年代以後の日本に出現した現役女性歌手では最高峰に違いないと僕は考えている八代亜紀さんの、その絶頂期の歌唱の完全集が是非ほしいところです。

僕の今日のこの文章が、どうか八代亜紀さんご本人の目にとまりますように。あ、いや、本当に届いてしまったりしたら、僕としてもちょっと困ってしまうかもしれませんが、それでも僕の八代さんへの気持をなんとか分っていただけたらと思い、恥ずかしながらしたためました。

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