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2017/01/11

ひょっとして矢野顕子の大先輩?〜 ネリー・ラッチャー

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第二次大戦が終わるか終らないかという時期に出現したアメリカ大衆音楽の特色の一つとして、ピアノを弾きながら歌う黒人女性歌手というのがある。むろんもっと前からいるにはいて、パイオニアはおそらくクリオ・ブラウンじゃないかなあ。クリオの初録音は1935年だからね。

同じような音楽の場合、男性だとファッツ・ウォーラー、そしてなんといっても1940年からのナット・キング・コールで有名だけど、女性の活躍が一般化するのはやはり40年代半ば以後だったんじゃないかと思う。その後はたくさん出てくるようになって、例えばニーナ・シモンなんか有名だし、21世紀の現在までたくさんのピアノ弾き語り黒人女性歌手がいる。そんななか、僕にとって忘れられない一人がネリー・ラッチャー。

しかしこのネリー・ラッチャーという黒人女性ピアノ弾き語り歌手、どこへ分類したらいいのかよく分らない。僕のなかではジャズ系のイメージもあるんだけど、でもジャジーな感じは薄いなあ。かなりスウィングするピアノの弾き方と歌い方だけどね。黒っぽいという人もいるようだけど、そんなフィーリングも僕はあまり感じない。

もっとこうポップだよね、ネリー・ラッチャーは。ポップ〜ジャズ〜ブルーズ〜 R&B を全部足して四で割ったような人だ。だからどれか特定のジャンルを熱心に聴いているリスナーだと、ネリー・ラッチャーは見逃している場合が多いかもしれない。ネリーだけでなく、クリオ・ブラウンもローズ・マーフィーも。

ルイジアナ生まれのネリー・ラッチャー。キャリアのスタートは早い。12歳の時(1924年)にマ・レイニーの伴奏をやった経験があるらしい。その後30年代から活動が本格化するが、このピアノ弾き語り黒人女性歌手が一般に広く知られるようになったのは、やはりなんといっても1947年にキャピトル・レーベルと契約してからだ。

特に同年のシングル盤「ハリー・オン・ダウン」が大ヒットして、ビルボードの R&B チャート二位、ポップ・チャートですら20位まで上昇したミリオン・セラーになって、これでこのちょっと危険な香りもするポップ・ソングを歌うネリー・ラッチャーも有名になった。

危険な香りっていうのは、この「ハリー・オン・ダウン」は、ボーイ・フレンドを電話で呼びつけ、早く家に遊びに来て!私以外誰もいないのよ、早く!早く!早く来てくれないと別の男(サム)を呼ぶわよ、という内容の歌なんだよね。ネリー・ラッチャーの自作。だからまあピアノを弾く女性シンガー・ソングライター(矢野顕子とか)の走りみたいな人だった。

そんな歌であるのに、しかしネリーのピアノの弾き方と歌い方にはねっとりとしたセクシーさみたいなものはなく、もっと軽快でポップで、明るく笑っているようなフィーリングだよね。黒さみたいなものもほぼ全くないと言って差し支えない。
僕が持つネリー・ラッチャーの録音集は、27曲入りの『ハリー・オン・ダウン』という英 Sanctuary Records がリリースしているもの。2003年リリースとジャケット裏に記載があるが、この年はおそらく僕がこの女性歌手をちゃんと知った最初だったはずだ。英国のレーベルが出しているというのは理解できる。ネリーは英国でも人気があったからだ。

1947年の「ハリー・オン・ダウン」の大ヒットで、ネリーはその後キャピトルから続々とレコードを出せるようになった。僕の持つ録音集『ハリー・オン・ダウン』でも17曲目までは全部47年録音。その後48〜51年までのものが10曲。

ただしそのうち、22曲目以後は、24曲目の「パズ・ナット・ホーム - マズ・アップステアズ」という、「ハリー・オン・ダウン」の歌詞と完全に同内容の曲名のものを除き、全て管楽器奏者も参加している。特に最後の三曲は大編成オーケストラの伴奏。しかしこの頃になると、ネリーのチャーミングさは失われかけていて、ピアノも弾かず、あまり面白いもんじゃないなあ。

ただしその直前である1950年録音の22、23曲目が、トランペット奏者とサックス奏者が参加して、伴奏だけでなくソロも吹くが、大変面白い。なぜかというとナット・キング・コールがピアノとヴォーカルで参加しているからだ。言うまでもなくナットもまたキャピトルと契約していた。

ナットとの共演はネリーにとっては願ったり叶ったりというものだったはず。1947〜49年のネリーの録音は、僕の聴いている限り全てギター、ベース、ドラムスのカルテット編成で、ドラムスを外せばナット・キング・コール・トリオと同じことになるし、実際、サウンドを聴いても非常によく似ている。

ナットはネリーにとってのアイドルでありお手本だったようだ。むろんネリーは1930年代から活動しているので、最初はナットの影響化でやりはじめたわけじゃない。特にピアノの方は例によってアール・ハインズ・スタイルの持主だけど、書いたように1947年に活動を本格化するわけだから、その頃には既にレコードも売れていたナット・キング・コール・トリオの影響も大きくなっていたはずだ。

カルテット編成だってナット・キング・コール・トリオを真似してドラマーを足しただけじゃないかなあ。ピアノの弾き方も似ているし、ポップな感じの強いジャズ・ピアノ弾き語りと、そしてそれにジャイヴィーでユーモラスな味があるヴォーカルを乗せるスタイルもナットを下敷きにしたんだろう。

ネリーの歌い方には、ホント面白い味がある。発音のやや誇張した感じとディクションに特徴があって、これは女性に限れば彼女がはじめたものかもしれない。その後は上で名前を出したニーナ・シモンなど、いろんな女性歌手がいるけれど、第一号はネリーじゃないかなあ。

だから真っ当というかシリアスなものを好むタイプのジャズ・ファンであれば、こんな芸能色の強いネリーは敬遠するだろう。音楽的にはジャズにかなり近いものだと僕には聴こえるが、まあジャズには入れず、録音時期からしてもリズム&ブルーズなどに分類した方が理解されやすいんだろう。

とはいえ、ネリーは有名ジャズ・ソングも複数やっている。最も有名なのは、僕の持つ録音集だと11曲目の「ファイン・アンド・メロウ」だ。その他15曲目には「アレクサンダーズ・ラグタイム・バンド」もある。前者はビリー・ホリデイであまりにも有名。後者はアーヴィング・バーリンが書いて、ベシー・スミスやルイ・アームストロング以下、実にたくさんのジャズ歌手・演奏家がやっているもんね。

「ファイン・アンド・メロウ」はビリー・ホリデイ最大の得意レパートリーの一つで、1939年4月のコモドア録音を手はじめに、その後もヴァーヴ、(戦後の)コロンビアにも録音している。これは12小節3コードという、意外に思われるかもしれないが彼女としてはかなり少ないブルーズ・ソングだ。

ブルーズ・ソングだから、ジャズ・バンドの伴奏でやる洗練された都会の1920年代女性ブルーズ歌手、アルバータ・ハンターも録音している。それは1939年8月録音と、ビリー・ホリデイのコモドア・ヴァージョンの直後。ビリーのもアルバータのも、いかにも粘っこい感じの歌い廻しでやるブルーズ。

アルバータ・ハンター https://www.youtube.com/watch?v=N4s94lQwwZU

どっちかというとアルバータ・ヴァージョンの方が僕は好き。ビリー・ホリデイ最大の得意分野は小唄、すなわちポップな流行歌であって、ブルーズはちょっと得意じゃない人だというか、僕にはやや聴き苦しいんだよね。オカシイかなあ?アルバータのはやっぱりブルーズが本領の歌手だけあるという出来だ。

ところがネリー・ラッチャーがこのネチっこい「ファイン・アンド・メロウ」をやると、まあブルーズを歌っているというフィーリングはあるけれど、それよりもグッとポップになって軽快な感じで、やはりまるで小唄。こういう感じになるのがネリーの持味だったと僕は思うんだよね。ビリー・ホリデイやアルバータ・ハンターと比較すれば、違いは瞭然としている。
「ハリー・オン・ダウン」同様大ヒットになった「ヒーズ・ア・リアル・ゴーン・ガイ」 もいいなあ。ポップで軽快でスウィンギー。同じく大ヒット・ナンバー「ファイン・ブラウン・フレイム」はミドル・テンポで軽々と粋に歌うお洒落な感じで、これまたポップで黒い感じはない。
僕の持つネリーの録音集だと13曲目は、最初に聴いていた時「オォ、レイ・チャールズ!オォ、レイ・チャールズ!」と歌っているように聴こえるもんだから、あれれっ、レイ・チャールズのことを歌ってるのか?あるいはなにか関係があるのか? と思ったんだけど、これは Ray Charles ではなく Lake Charles だったという(恥)。曲名も「レイク・チャールズ・ブギ」。その後知ったが、ネリーはルイジアナのレイク・チャールズ生まれらしい。
1940年代後半以後、ホントこういった感じでピアノを弾きながら歌う黒人女性歌手がたくさん出てくるようになって、しかもだいたいどの人も一つの特定ジャンルにだけおさまるような味じゃないから、意外に看過されがちなんじゃないかなあ。ネリー・ラッチャーの他にも、上で名前をあげたローズ・マーフィーの他、ジュリア・リー(はキャリアは古い)、ヘイゼル・スコット、ベティ・ホール・ジョーンズ、マーサ・デイヴィスなどなど。

だから「ピアノ弾き語り黒人女性歌手」という一つの枠を作ってほしいと思うくらいだけど、欧米にはむろんそんなのは存在しないし、日本でもそんな括り方は中村とうようさんしかしていないような気がする。とうようさんは、今日話題にしたネリー・ラッチャー を世界で初めてフル・アルバム化した人なんだそうだ。

ネリー・ラッチャーに関してはドイツのベア・ファミリーが CD 四枚組のコンプリート集をリリースしているが、僕はそれを持っていない。そこまで買う必要はない人なんじゃないかと思うんだけどね。しかし上で名前をあげたようなピアノ弾き語りの黒人女性歌手は、みんな一個の特定ジャンルにおさまらないからこそ持味を発揮できた、いわばブラック・ポップ・エンターテイナーだね。ブルーズとか R&B 寄りだけど、ジャズ・ファンも聴いてほしいな。

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