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2017/02/27

諧謔と滑稽〜ビートルズのオールド・ポップ

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イングランド・サッカーに FA カップというものがある。FA はザ・フットボール・アソシエイション(The が必要)の略で、イングランド・サッカー協会のこと。サッカー発祥国なので、イングランドだけは協会名に国名が付かない。FA カップは、日本だと Jリーグ杯(スポンサーがついて旧ナビスコ杯、現ルヴァン杯)が似た位置付けだ。

ご存知の通りサッカーの世界では、ラグビー同様、UK の四ヶ国は別々に活動している。いわゆる英国四協会があって、各国のリーグ戦も別々だし、W杯予選などの国際大会にも四ヶ国別々に出場する。サッカーの世界で四協会合同の連合王国代表チームが存在したのは、僕の知る限り、2012年のロンドン五輪の時だけだ。開催「国」は予選なしで本大会に出場できる、というか「国」代表として出場しなくちゃいけないので、やむをえなかったんだろう。

そんな FA カップの今年2月21日に行われた五回戦で、一部リーグ(プレミア・リーグ)のアーセナルと対戦したイングランド五部リーグのサットンというチームに、ウェイン・ショーという控え GK がいる。この巨漢(体重100キロ以上)GK がアーセナルとの試合中にパイを食べたというので批難の対象となり、所属チームのサットンはショーを解雇したと報道されている。

この一件で、ショーの解雇を撤回してほしいという声が英国内で強くあがっていて、一般のファンばかりかプロのサッカー関係者でも同様だったりする。イングランド代表でも大活躍した往年の名選手ゲイリー・リネカーもその一人で、解雇したサットンを批判するメッセージを送り、自身の公式 Twitter アカウント(@GaryLineker) でも「サッカー界は日ごとに愛情とユーモア・センスを失いつつある」(Day by day football is losing its heart and its sense of humour.)と残念がっている。

どうしてこんなサッカー関連の話をマクラにしているかには理由がある。ウェイン・ショーが試合中にパイを食べたのかどうか本当のところを僕は知らないが、本当だとしたらたとえ控え選手でもあるまじき姿だと僕も思う。本人は「お腹が減っていたから食べただけだ」と説明しているらしい。このコメントも笑えるが、もっと重要なのは、上でも引用したゲイリー・リネカーの発言にもあるように、英国にはこんなユーモア文化が今でもしっかり根付いているんだっていうことだ。そして、それは英国ポピュラー・ミュージックの世界でも同じなんだよね。

ようやく本題に入る。英国最大の人気音楽家ビートルズのなかにも確実に存在する、1920年代のアメリカにあったようなジャジーでユーモラスなオールド・ポップ・チューン。ビートルズはそういうものを模したわけだけど、聴いた感じモロそのまんまというものだって多い。先走って少し言っておくと、それらはアメリカン・ポップというよりも、そのルーツたる英国ミュージック・ホールに繋がっているんだよね。だからその意味ではビートルズは伝統主義者であって、他の1960年代 UK ビート・バンドとは一味違うところだ。

ビートルズのなかにあるそんなオールド・(アメリカン・)ポップ・チューン。1970年の正式解散前までにリリースされていたなかで最も早いものは、1967年の『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』B 面の「ウェン・アイム・シックスティー・フォー」だろう。これはディキシー・ランド・ジャズだ。
お聴きになれば分るように、この曲のサウンドの中心はクラリネット。たぶん三本入っていて、そのうち一本はバス・クラリネット。このクラリネット・トリオが強烈にディキシー・ランド・ジャズ風な雰囲気、じゃなくってそれそのものを表現し、ポールの書いた曲のメロディも懐古的だ。クラリネット・トリオのアレンジは、ポールではなくジョージ・マーティンが書いたかものかしれない。

読みかじった情報によれば、ポールはこの「ウェン・アイム・シックスティー・フォー」を、ビートルズのキャヴァーン・クラブ時代に既に書いていたらしい。キャヴァーンはビートルズ・ファンには説明不要だが、リヴァプールにあった音楽クラブで、独ハンブルクから戻ってきた1960年代初頭のビートルズも出演していた。

ハンブルク時代にもたくさんポップ・ソングをやっていたみたいで、『アンソロジー 1』の最初のあたりで断片的に垣間見ることができるよね。しかしそこまで突っ込んで話をすると少し面倒くさくややこしいので、今日はやめておく。とにかく独ハンブルク〜英リヴァプール(キャヴァーン)時代のビートルズは、自作か他作かを問わずたくさんのポップ・ソングをやっていた。

1962年にレコード・デビューした頃のビートルズは、やはりロックンローラーであって、それもアメリカの黒人リズム&ブルーズや白人ロックンロール・スタンダードなどを下敷きにしたり、あるいはそのままカヴァーしたりなど、典型的なロッカーという趣が強かった。意図的・戦略的にそうしたのかもしれない。

地球上で売れまくって大成功したあとからのビートルズは、好きなことがやりたいようにできるようになったからということなのかどうなのか、元々彼らのなかにあったオールド・ポップ好き資質を鮮明に出すようになっている。といってもそのずっと前の二作目のアルバムである1963年の『ウィズ・ザ・ビートルズ』には、「ティル・ゼア・ワズ・ユー」があるけれどね。
しかしポールの歌うこの曲は、別にオールド・ポップではない。1957年が初出のものだからビートルズにとってはコンテンポラリー・ヒットだ。それもたぶんポールはペギー・リーが61年に歌って出したレコードが英国でヒットしたのを下敷にしているみたいだからね。だから全く古くはないのだが、しかし曲調はレトロ風のポップ・チューンだよね。

まあでもこれは初期ビートルズでは例外中の例外みたいなものだ。オールド・ポップ志向が鮮明に顔を出すのが、やはり上述の1967年「ウェン・アイム・シックスティー・フォー」からで、この67年というのは、四人がライヴ活動を引退して、スタジオ録音に(ほぼ)専念するようになった年なんだよね。

その後のスタジオ録音アルバム(しかないからさ)ではどんどん増えていく、ビートルズの懐古的オールド・ポップ・ソング。それが最もはっきりと、それも質量ともに表現されているのが1968年の二枚組『ホワイト・アルバム』だ。このアルバムが個人的に最も好きなビートルズ・アルバムだという僕の嗜好は、このせいなのだろうか?そこは自覚がない。

最も露骨なのからご紹介しよう。『ホワイト・アルバム』二枚目 B 面二曲目の「ハニー・パイ」。まずとにかく聴いてもらいたい。
どうです、これ?ロックンローラーが書きやっている曲だとは到底思えないよね。書いたのも歌っているのもポール。なんたって歌本編(リフレイン)の前にヴァースが付いているのが、古式ゆかしきオールド・ポップ・ソングの流儀。しかもヴァース部分では、一節歌うと "Now she's hit the big time!" 部分で突然 SP 盤を再生しているような針音(スクラッチ・ノイズ)まで入っているという手の込みよう。

一応エレキ・ギターのサウンドが薄〜く聴こえるのが効果的ではあるけれど、僕なんかは残念でならない。全編フル・アクースティック・サウンドでやればよかった。リフレイン部分になってポールがピアノを弾きながら歌うと、またしてもクラリネット中心のリード楽器隊が、極めてスムースな、まるでストリングス・セクションかと一瞬聴き間違えそうなほど滑らかなアンサンブルを奏でる。

こんな「ハニー・パイ」は、直接的には20世紀初頭におけるアメリカの古いティン・パン・アリーの作風を模したものかもしれないが、もっと重要なのはやはりこれは英国のミュージック・ホール伝統へのダイレクトなオマージュだということだろうなあ。曲の歌詞の流れはティピカルなミュージック・ホール・プロットだし、メロディ・ラインだってサウンドだってそうだ。

ヴィクトリア朝時代の1850年ごろ、英国で盛んになったらしいミュージック・ホールは、20世紀半ばまでは存在したようだ。アメリカのヴォードヴィル・ショウみたいな大衆娯楽の場で、ポップ・ソングの演唱を含むコメディなどの舞台演芸がメイン。低層労働者階級のためのものだった。

重要なことは米国のヴォードヴィル・ショウがそうだったように、英国のミュージック・ホールもまた、時代の新しいポップ・ソングが産まれる母胎となったということだろう。僕は音楽ファンなので、やはりそこに一番注目している。時代のキャッチーな流行歌が、19世紀後半〜20世紀頭の英国ミュージック・ホールで誕生した。

20世紀に入って少し経つと、アメリカからジャズが流入してきて英国でも一斉を風靡しはじめたので、音楽の新作品を産む場としてのミュージック・ホールの意義は薄くなっていたかもしれない。だがしかしコメディを中心とするユーモア感覚や舞台演芸の伝統は連綿と流れ続けて、以前このブログでも書いたように、1960年代後半〜70年代前半のモンティ・パイスンまでその流れのなかにある。
ビートルズの四人もまたこんなコミカルでポップなミュージック・ホールの伝統の末裔だ。『ホワイト・アルバム』の「ハニー・パイ」はあまりにもダイレクト過ぎるオマージュだけど、それっぽい雰囲気が聴き取れるビートルズ・ソングとなると、かなり数が多いんだよね。それも今日ここまで紹介してきたポールだけでなく、曲を書いた他の二名、ジョンとジョージも持っていたテイストだ。

1966年の『リヴォルヴァー』には、リンゴが歌う「イエロー・サブマリン」があるし、同じくリンゴが歌う同系統の曲としては、録音順ならラスト作である69年の『アビイ・ロード』に「オクトパシズ・ガーデン」があるじゃないか。しかもその『アビイ・ロード』には「マックスウェルズ・シルヴァー・ハマー」があるもんなあ。

「マックスウェルズ・シルヴァー・ハマー」は、歌詞内容だけなら極めて恐ろしい曲だが、メロディと曲調とアレンジされたサウンドは極めてコミカル。この両要素共存で面白くするのが英国ミュージック・ホール由来なんだよね。『アビイ・ロード』ヴァージョンはどうやら YouTube にアップロード不可のようなので、仕方なく『アンソロジー 3』収録ヴァージョンを貼っておく。ちょっとは雰囲気が分ると思う。
ビートルズのなかにある英国ミュージック・ホールの伝統が、1960年代のコンテンポラリーなロックやポップに昇華され最高の音楽作品になっているのが、他ならぬ『アビイ・ロード』B 面の「ユー・ネヴァー・ギヴ・ミー・ユア・マニー」ではじまるあのグランド・メドレーなんじゃないかと僕は考えている。ジョンのいんちきスペイン語が炸裂する二曲目の「サン・キング」以後は全てかなり短い断片のコラージュだけど、曲題といい歌詞といい旋律といいサウンドといい、笑えることこの上なく、しかもポップだ。

その最後にある「ゴールデン・スランバーズ」ではじまる三曲メドレーはかなりシリアスな感じだけど、そのメドレー・ラストの「ジ・エンド」で、三人のギタリスト・ソロ応酬も終ったまさにジ・エンド部分で実に美しく大団円になって、あぁ(録音順なら)ビートルズも綺麗に終ったんだなとシリアスな感慨にひたっていると、しばらく経って「ハー・マジェスティ」が流れちゃうもんね。ポールも余計なことしてくれるよなと、昔は思っていた僕だったのだが。

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コメント

えーと、Twitterでは以前から親しくさせていただいているのですが、初めてコメントしてみよかと思いまして…
僕は高校時代から吹奏楽をやってまして楽器はクラリネットで…という流れから少しずれるのですが…
金管五重奏の曲に「ミュージックホール組曲」というなかなか面白い曲がありますので、皆様にオススメしようと…思います。

あ、げんさん、楽器はクラリネットだったんですね。なんだか勝手に金管をやっていたんじゃないかと思ってました。そのおっしゃる「ミュージックホール組曲」というの、YouTubeにありますかね?あるのなら早速聴いてみようと思いますが、この日本語題で出ますかね?ひょっとして原題があったりしますか?

今になって思うと金管楽器やりたかった気持ちもあるのですが…
まぁ、それはおいといて…
僕が知る限りだと
フィリップジョーンズブラスアンサンブル演奏のCDがAmazonで普通に売ってると思います。(「スイスの休日」ってアルバムだったかな?)
youtubeにも演奏はあるのですが、アマチュアの演奏なので…参考程度に効いてみて下さい…

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