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2017/02/05

真冬に聴きたいジャズ・スタンダード

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ちょうど今の時期、一月後半〜二月前半って、日本では一年で一番寒い季節だね。そんな厳寒(愛媛県住まいの僕が「厳寒」とは笑われそうだが)の時期になると、毎年必ず聴きたくなるジャズ・スタンダードが「コートにすみれを」(ヴァイオレッツ・フォー・ユア・ファーズ)。

Furs だから「コート」は不正確だけど、雰囲気があっていいじゃないか。僕は好きだなあ。それにこれ以外和訳しようがないと思うよ、この場合の Furs は。「毛皮にすみれを」とか「襟巻きにすみれを」じゃあ全く面白くない。特に「襟巻きにすみれを」なんてやった日には、まるでキツネが花をくわえてそうじゃないか。

「コートにすみれを」はマット・デニスが1941年に書いた曲。歌詞はトム・アデア。マット・デニスっていい曲をたくさん書いていて、スタンダード化しているものが多いよね。でもマットはピアノ弾き語り歌手でもある。ソングライターとしては今でも評価が高く話題にもなるけれど、ピアニスト兼シンガーとしては全く誰も言及しなくなってしまった。

1958年の Kapp 盤である自作自演集『プレイズ・アンド・シングズ・マット・デニス』なんか名盤だと僕は信じていて、大学生の頃から LP で、今は CD でよく聴くものなんだよね。「ウィル・ユー・スティル・ビー・マイン?」「ザ・ナイト・ウィ・コール・イット・ア・デイ」(「僕たちが別れたあの夜」の意)「エンジェル・アイズ」「エヴリシング・ハプンズ・トゥ・ミー」など有名曲ばかりやっているが、やはり「コートにすみれを」もある。
このマット・デニスの書いたチャーミングなウィンター・ソングを、僕はこのマット・デニス自身のピアノ弾き語りライヴ・ヴァージョンで知ったのではない。これまたフランク・シナトラの歌で初めて知ったのだ。僕がかなりのシナトラ・ファンであることはもはや繰返す必要がないはず。リプリーズ時代のシナトラを全部は持っていないが、トミー・ドーシー楽団時代、独立後のコロンビア時代、キャピトル時代についてはコンプリートに CD で持っていて普段からよく聴く。

シナトラの「コートにすみれを」は1954年のキャピトル盤10インチ LP『ソングズ・フォー・ヤング・ラヴァーズ』に収録されていたが、僕が聴いていたのは同年の、やはりキャピトル盤10インチ LP『スウィング・イージー』との2in1でリリースされていた12インチ LP だった。

シナトラのその『スウィング・イージー/ソングズ・フォー・ヤング・ラヴァーズ』12インチ盤は、そもそも僕が生まれて初めて買ったジャズ・ヴォーカル・アルバムだ。えっ?シナトラはジャズ歌手じゃないって?アホかいな。やはりグレイト・シンガーだったと僕は思うよ。ジャズであるかどうかはどうでもいい。無意味な区別をしてシナトラを軽視しているのは、日本のジャズ・ファンとロック・ファンだけじゃないかなあ。

シナトラのその『スウィング・イージー/ソングズ・フォー・ヤング・ラヴァーズ』に収録されている「コートにすみれを」は ヴァースから歌っている。『レイディ・イン・サテン』のビリー・ホリデイもそうだ。インストルメンタル演奏ならヴァース部分をやる意味はなく、やはり誰もやっていないが、 歌手がこの曲をやる場合、ヴァースから歌わないとリフレイン部分の意味もちょっと分りにくい。シナトラ・ヴァージョン、以下の YouTube 音源は歌詞が文字で表示されるので、理解がたやすいだろう。
こんな内容の歌なので、やっぱり真冬に聴きたくなっちゃうね。真夏の炎天下で「雪がひらひらと舞い落ちて、通り一面が凍りつき、でもそんな時でもちょっとしたことで春が来たような感じじゃないか」なんて歌われたって、ま〜ったく気分が出ない。まあ愛媛県在住だし、しかも僕の外出時の足は50ccバイクなのでコートとは縁がないし、東京時代に大のコート好きだった僕でも、どなたか女性に、コートに付けてとすみれを買ってあげたことなどあるわけがない。だいたい僕は相手がどんな性別だろうと、音楽以外のものをプレゼントしたことがないのだ(苦笑)。

さてこんなチャーミングなバラードなので、当然ジャズ楽器奏者もいろんな人がやっている「コートにすみれを」。たくさんあるけれど、僕が特に気に入っている二つをご紹介しよう。どちらもモダン・ジャズのテナー・サックス奏者によるもので、録音順にズート・シムズとジョン・コルトレーン。

ズート・シムズの「コートにすみれを」は、しかしズート名義のリーダー作品収録のものではない。ドイツ出身の女性ジャズ・ピアニスト、ユタ・ヒップのブルー・ノート盤『ユタ・ヒップ・ウィズ・ズート・シムズ』にあるものだ。原題はシンプルに『Jutta Hipp』というだけの1956年録音盤。

しかしこの『ユタ・ヒップ・ウィズ・ズート・シムズ』は、こういう邦題になっているのでご存知ない方でも推測できるように、実質的にはユタとズートの双頭クインテット録音だ。しかも下手くそなトランペットのジェリー・ロイドはあまり演奏せず(本当に実に下手だからカルテット編成にしてほしかった)、アルバム一枚全面的にズートのテナー・サックスが活躍する。

その『ユタ・ヒップ・ウィズ・ズート・シムズ』の A 面二曲目「コートにすみれを」。これが美しくって、マット・デニスの書いたこのメロディをこんなにも美しく吹くジャズ・テナー演奏って他にはないんじゃないかと、大学生の時にこのアルバムを最初に聴いた時に惚れてしまった。ズートの生涯最高のバラード吹奏だと断言する。
お聴きになってお分りのように、名義上のリーダーであるユタ・ヒップのピアノ演奏はなんでもないようなものだよね。はっきり言って凡庸なピアニストでしかないように聴こえる。ましてや終盤でちょっとだけ出てくるジェリー・ロイドのトランペットなんか邪魔でしかない。アルフレッド・ライオンは、マジでどうしてカルテット編成にしなかったんだろう?

そこいくと、カルテット編成でピアニストも一流というテナー・マンの「コートにすみれを」がジョン・コルトレーンのやったものだ。ズート・シムズ・ヴァージョン録音の翌年1957年録音の、トレーン生涯初リーダー・アルバムであるプレスティジ盤『コルトレーン』の A 面二曲目。
これも美しいなあ。レッド・ガーランドが弾くイントロも絶品で、ユタ・ヒップの数倍いいじゃないか。ジョン・コルトレーンの1957年というと、レギュラー・メンバーだったマイルス・デイヴィスのファースト・クインテットが解散していて、58年に再びマイルス・コンボに参加するまでの端境期。

1956年にマイルスがファースト・クインテットでやったプレスティジへのマラソン・セッションでは、ボスがこの曲は重要!と判断したバラード・ナンバー、例えば「マイ・ファニー・ヴァレンタイン」(『クッキン』)などでは一音も吹かせてもらえなかったジョン・コルトレーンだけど、翌57年にはグングン上達してきているのが、上掲「コートにすみれを」でも聴き取れる。

1956/57年時点なら、テナー・サックスの腕前はジョン・コルトレーンよりもズート・シムズの方がかなり上であって、「コートにすみれを」もやっぱりズートのヴァージョンの方がだいぶいいぞと僕は思うんだけどね。腕前以前にこのマット・デニスの書いたチャーミングなウィンター・バラードには、コルトレーンの硬くて武骨な音色より、ズートの柔らかめの音色の方が似合っているような気がするんだよね。

まあそのあたり、二つとも音源を貼ってご紹介したので、みなさん聴き比べてみてほしい。そんでもってマット・デニス自身のとシナトラのと、やはりこれも音源を貼ったヴォーカル・ヴァージョンと、それら全部で四つお聴きになって、この日本では一年で一番寒い季節に、歌詞通り、真冬にちょっとだけ春が来たみたいだねという気分を味わって、ほんの少し気持だけでも暖まってください。

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コメント

…しっかり書いたんだ。だけど、確認しようとしたら全部消えちゃいました。
(T_T)
またね。

ひでぷ〜、じゃあ明日の火曜日は予定通りのつもりだから、明日に期待します。

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