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2017/03/26

ロニー・ジョンスンと区別不可能な1928年のエディ・ラング

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エディ・ラングの知名度はさほど高くないかもしれないが、同じ頃のギタリストならロニー・ジョンスンの方は非常によく知られているはず。そしてこの二名のギタリストの共演が CD 四枚組『ザ・ニュー・ヨーク・セッションズ 1926 - 1935』の三枚目では最大の聴き物だ。

抜き出して数えてみると、『ザ・ニュー・ヨーク・セッションズ 1926 - 1935』三枚目でエディ・ラングとロニー・ジョンスンが共演するものは、様々な名義と編成で14曲もある。この三枚目は全部で24曲だから、この二名のギター名人の絡みこそが、量的にも質的にも最も重要だ。

『ザ・ニュー・ヨーク・セッションズ 1926 - 1935』三枚目では、一曲目からエディ・ラングとロニー・ジョンスンが絡み合う。二曲目まではこのギタリスト二名が、ブルーズ歌手テキサス・アレクサンダーの伴奏をやっているもので、発売されたレコードもテキサス・アレクサンダー名義のものだった。

テキサス・アレクサンダーは、先週の記事(http://hisashitoshima.cocolog-nifty.com/blog/2017/03/1-3496.html) でこいつ誰だか僕は知らないなと書いたサニー・ポーターみたいなことはなく、古いブルーズ愛好家には知られている名前だよね。『ザ・ニュー・ヨーク・セッションズ 1926 - 1935』三枚目には、ロニー・ジョンスンが参加していないものでも、テキサス・アレクサンダーのヴォーカルが四曲収録されていて、ギタリスト二名の同時伴奏の面白さを言わなければ、その四曲の方がいいので、まずはその話からしてみよう。

1928年11月20日に、テキサス・アレクサンダーはエディ・ラングのほか、コルネットのキング・オリヴァー、ピアノのクラレンス・ウィリアムズという、計三名を伴奏に従えて四曲録音している。先週書いた記事は27年までの録音の話だったが、翌28年になるとエディ・ラングは完全に自己のギター・スタイルを確立していて、シングル・トーンで華麗に伴奏やソロを弾きまくっている。初録音から三年目、そしてチャーリー・クリスチャン登場の十年前ということになる。

それら四曲から一つご紹介しよう。「テル・ミー・ウーマン・ブルーズ」。下に貼る YouTube 音源がキング・オリヴァー名義でアップロードされているのは、参加四名のうち最も知名度のある人物だから当然であるとはいえ、これはあくまでテキサス・アレクサンダー名義のレコード録音なんだよね。
お聴きになれば分るように、一般の多くのモダン・ブルーズ好きにもお馴染の、はっきり言って知名度がありすぎると思うほど有名な歌詞が出てくるよね。「ルイジアナに行ってモージョー・ハンドを手に入れるのさ」っていう例のやつ。マディ・ウォーターズもライトニン・ホプキンスも歌い込んでいるこれは、言うまでもなくかなり古くからある定型ブルーズ・リリックの断片なんだよね。<モージョー・ハンド>なるものがなんなのか説明しろとは言わないでほしい。

しかし今日の場合そんなことよりもはるかに重要なのは、エディ・ラングの見事なギター技巧、そしてキング・オリヴァーのコルネットのブルージーな表現力だ。前者も後者もヴォーカルの背後で絶妙なオブリガートを入れ、ソロも文句なしだ。特にギタリストの方は、リズムを表現する楽器がほぼこれしかないので、コード弾きでビートを刻みつつシングル・トーンでも推進力を形成している。

推進力といっても、この日のテキサス・アレクサンダーが録音した四曲は、全てゆっくり歩くようなスロウ・テンポのブルーズ・ナンバーばかりだから激しいスウィング感などではないが、エディ・ラングは的確で全く狂いのない正確なビートをギターで刻み、フロントで歌うヴォーカリストをしっかりと支えているじゃないか。

そうかと思うと、ヴォーカル・フレーズの切れ目切れ目で絶妙な装飾をシングル・トーンで入れて、さらに極上のソロも弾くので、これが1928年のジャズ界に存在した白人ギタリストなのかと思うとにわかに信じられない思いだ…、と書くとそれは僕の認識不足だろうなあ。シングル・トーンで弾くジャズ・ギターの録音数は確かにまだ多くなかった時期だけど、それはあくまで録音がというだけのことだろう。28年なら生演奏現場にはまあまあいたんじゃないかと思う。ジャズ界と限定しなければ、かなりたくさん。

がしかしそうは言ってみたものの、録音がなければ音を聴いて検証できないのも確かなことなので、しかもさらに紙で読めるものでもネット上で読めるものでも、エディ・ラング以前にこんな弾き方ができたギタリストがジャズ界に存在したと書いてあるものは、僕の知る限り皆無なので、う〜ん、こりゃやっぱりそういうことなんだろうか…。

また上で一個だけご紹介した「テル・ミー・ウーマン・ブルーズ」だけでもお分りいただけるはずだけど、キング・オリヴァーのコルネット演奏も素晴らしすぎる。今日の本題からは完全に外れてしまうが、あれを耳にして黙っていられる音楽リスナーなどいないだろう。

キング・オリヴァーは、1928年11月20日のテキサス・アレクサンダーの録音四曲全てに参加しているわけではなく、上で音源を貼った「テル・ミー・ウーマン・ブルーズ」と、もう一曲「フリスコ・バウンド・ブルーズ」の二つで吹くだけなんだけど、それらで聴けるコルネットが素晴らしいのなんのって、こりゃもう筆舌に尽くしがたいブルーズ・コルネットだ。我慢できないので「フリスコ・バウンド・ブルーズ」も貼っておこうっと。
この YouTube 音源、曲名が僕の持つ JSP 盤『ザ・ニュー・ヨーク・セッションズ 1926 - 1935』記載データと異なっているのは分るのだが、伴奏のギタリストがロニー・ジョンスンとなっているじゃないか。画像を見るとどうやらオーストリアのドキュメント・レーベル盤にたぶんそう書いてあるんじゃないかと思えるけれど、う〜ん、こりゃどうなんだ?別の録音だとは考えられない。音源自体はなにからなにまで完全に同一だ。録音年月日も同じだしなあ。同じものだろ?

今日の本題はあくまでギタリストであるエディ・ラングなので、この曲の伴奏ギターがもしロニー・ジョンスンであったならば(その可能性はあるだろう)問題は大きいが、まあとりあえずそれを無視すれば、キング・オリヴァーのコルネットが素晴らしいという事実に変わりはないので、そこだけは全員認めていただけると思う。

1928年でこんな感じでコルネットにワー・ワー・ミュートを付けてグロウルしながらブルージーかつ猥雑に吹くというと、同時期のデューク・エリントン楽団におけるバッバー・マイリーを連想してしまう。僕は大好きなんだよね、バッバー・マイリー。特に「フリスコ・バウンド・ブルーズ」の方ではソックリだ。キング・オリヴァーってあまりミュートは使わなかった人のはずだけど、こんなにブルージーな演奏を残していたんだなあ。

キング・オリヴァーの弟子格であるルイ・アームストロングが、同じ楽器で1920年代に都会派女性ブルーズ歌手の伴奏を実にたくさんやっているのはみなさんご存知の通り(のはずだが?)で、僕はそういうのが大好きでたまらないと前々からなんども繰返しているけれど、同時期の師匠もかなりいいじゃないか。とっくに弟子のサッチモに抜き去られていたのだという僕の認識を改めなくちゃいけないね。

さて、『ザ・ニュー・ヨーク・セッションズ 1926 - 1935』三枚目で最大の聴き物だと書いておきながら、エディ・ラングとロニー・ジョンスン二名の共演録音の話はまだ全くしていないので、これから書く。特に素晴らしく耳を奪われるのが、他に誰一人参加していない完全なるギター・デュオ録音で、この三枚目には全部で六曲あるんだよね(他の音楽家が参加しているものを含めれば、上述の通り14曲)。

それら六曲のうち最も早い時期の録音である1928年11月17日の二曲。聴いても僕みたいな素人では、どっちがエディ・ラングでどっちがロニー・ジョンスンなのか、ほぼ判別不可能だ。28年だとこの二人のギタリストはスタイル自体が似ているし、それがかなり複雑に絡まりあっているので、僕には無理。一つ貼っておこう。スウィンギーな「トゥー・トーン・ストンプ」の方を。
1929年5月7日録音の「ギター・ブルーズ」や翌8日録音の「ア・ハンドフル・オヴ・リフズ」もため息しか出ないギター・デュオ演奏。しかしこれ、ホントどっちがどっちなんだろう?ロニー・ジョンスンが最高のギター・ヴァーチュオーゾであることは有名だろうけれど、エディ・ラングはそれと区別できないもんなあ。やはり一つ貼っておこう。ロニー・ジョンスンの録音集にも当然入っている「ア・ハンドフル・オヴ・リフズ」を(「ギター・ブルーズ」も入っているが)。
エディ・ラング&ロニー・ジョンスンのギター・デュオ録音で最も凄いのは、1929年10月9日録音の「ホット・フィンガーズ」だろうなあ。なんなんだこの猛烈なスウィング感は!?アクースティック・ギターを弾く人がたった二人でやっているだけなんだぜ。これも絡み方からして、どっちがどっちなのか僕には分らない。
え〜っと、『ザ・ニュー・ヨーク・セッションズ 1926 - 1935』の三枚目の話しかまだしていない。三枚目ではヴァイオリンのジョー・ヴェヌティはほぼ活躍していない。四枚目の1930年録音以後になると、再びどんどんヴァイオリンを弾きまくっている。ちょっと面白いのは、古いジャズがお好きな方には有名人のジミー・ドーシーが参加している録音だね。ドーシー名義の録音は一つもなく、レコードは全てジョー・ヴェヌティの名前で発売されたものだ。

ジミー・ドーシーが参加してクラリネットや各種サックスを吹いている録音で、ジョー・ベヌティのヴァイオリン技巧が最も分りやすいのは、1930年10月7日録音の「ザ・ワイルド・ドッグ」だね。三分程度の演奏のなかでどんどんテンポがチェンジして、急速調部分では激しくスウィンギーに、ゆったりした部分では伸びやかで華麗に弾く。ドーシーはバリトン・サックスを吹く。
『ザ・ニュー・ヨーク・セッションズ 1926 - 1935』四枚目にあるジミー・ドーシー、ジョー・ヴェヌティ、エディ・ラング三名の共演録音では、ジャズ・ファンにもお馴染の「アイヴ・ファウンド・ア・ニュー・ベイビー」や「スウィート・スー、ジャスト・ユー」もある。どっちも有名スタンダードだから、どう料理しているかでヴァイオリニストやギタリストの腕前がクッキリと分るはず。

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