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2017/03/09

1953年頃のメンフィスにて

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上掲画像の通り、このアルバムのジャケットにはエルヴィス・プレスリーが大きく写っている。がしかしエルヴィス本人は歌でも演奏でも全く一曲も参加していないという一枚なのだ。この画像とこの言い方だけで、なんの話になるのか、ブルーズ〜アーリー・ロックンロールのファンであればみなさんお分りのはず。

そう、このアルバムのタイトルは『ミステリー・トレイン』だ。言うまでもなくエルヴィスがサン・レーベルに録音したので有名化したブルーズ〜ロック・スタンダード曲の名前。もちろんエルヴィスがオリジナルではない。オリジナルはジュニア・パーカーというブルーズ・マンで、このアルバムはサン・レーベルへのジュニア・パーカーその他二名名義の録音をコンパイルしたもの。

ジュニア・パーカーはさほど知名度の高いブルーズ・マンではないかもしれないが、それでも名前が憶えられているとすれば、やはりエルヴィスがやった「ミステリー・トレイン」のオリジネイターであるという、ただその一点のみが理由だろう。エルヴィスがやったので、その後いろんな音楽家がたくさんカヴァーしているのはご存知の通り。

「ミステリー・トレイン」は、エルヴィスのあと、ポール・バタフィールド・ブルーズ・バンド、ザ・バンドなどがやったのが最も有名かなあ。問題はザ・バンドのヴァージョンだよね。原曲にはなく、したがってそれまで誰もやっていないサビを書きくわえている。あれは誰のアイデアだったんだろう?その後はネヴィル・ブラザーズのヴァージョンも、サビ付きのザ・バンド・ヴァージョンに即している。

「ミステリー・トレイン」は、ジム・ジャームッシュ監督がこのままのタイトルで映画化もしている。工藤夕貴と永瀬正敏を主役コンビに抜擢し、舞台もメンフィス。この二名が旅行で同地を訪れた設定になっていた。つまりこの曲が録音された街で、映画のなかでサン時代のエルヴィスの曲が実にたくさん流れるので、僕はすごく楽しかった。1990年代はじめ頃に下高井戸の映画館で(確か封切り上映ではないものを)観た。

この曲「ミステリー・トレイン」の話は長くなってしまうので今日はやめておいて、CD アルバム『ミステリー・トレイン』に限って話をしたいのだが、こういうアルバム・タイトルになっているので、当然この曲のオリジネイターであるジュニア・パーカーが一番たくさん収録されている。全部で九曲。それ以外はジェイムズ・コットンが三曲、パット・ヘアが二曲。それら全てメンフィスのサン・スタジオでの録音だから、レコーディング・プロデューサーはもちろんサム・フィリップス。

このアルバム収録曲で一番有名な曲はもちろん「ミステリー・トレイン」だが、しかしジュニア・パーカーがこれを書き、1953年9月に録音し、サン・レーベルが発売したレコードは大してヒットしていない。この点、一部のネット上の文章には間違っているものがある。この曲がジュニア・パーカーの代表作とみなされるようになったのは、あくまでエルヴィスによるカヴァー後であって、ジュニア・パーカー自身のレコードは失敗だった。

ジュニア・パーカーの最初のヒットは「ミステリー・トレイン」ではなく、1953年6月18日録音の「フィーリン・グッド」なんだよね。しかしこの曲はアルバム『ミステリー・トレイン』では三曲目という微妙な位置。一曲目が「ミステリー・トレイン」になっているのは当然であるとはいえ、録音順も無視しているし、ヒットした代表作を先にという意味からも外れているんだよね。

ジュニア・パーカーのヒット作「フィーリン・グッド」は、完全なるジョン・リー・フッカー的なワン・コード・ブギで、これはスタイルの模倣というよりも「ブギ・チルン」そのまんまというに近い。フッカーのそれは1948年のレコードだから、ジュニア・パーカーは間違いなくそのままやっている。

フッカー「ブギ・チルン」https://www.youtube.com/watch?v=G4pp02_GN9A
ジュニア・パーカー「フィーリン・グッド」https://www.youtube.com/watch?v=azaMkrna0KU

フッカーのはもちろん自分一人でのエレキ・ギター弾き語りだが、ジュニア・パーカーはヴォーカルだけで、ワン・コード・ブギを弾くギタリストが誰なのか、実は正確にはいまだ確定していない。僕の持つ CD アルバム『ミステリー・トレイン』附属の紙には「たぶん(prob.)」フロイド・マーフィーだと書いてあるが、僕は知らない人だ。ギター名人マット・マーフィーの甥であるフロイド・マーフィーなら知っているが、ドラマーだしな。録音年から推測しても別人物に違いない。

だいたいアルバム『ミステリー・トレイン』に収録されているジュニア・パーカーの九曲は、ヴォーカルが彼であること以外のパーソネルが正確には判明していない部分が多いのだ。1950年代前半のサン・スタジオって、そのあたりのデータをちゃんと残していなかったのかなあ。これだけはちょっぴり残念。

それにアルバム『ミステリー・トレイン』収録の1953/54年、サン・スタジオ録音での九曲では、ジュニア・パーカーはヴォーカルに専念していて、ハーモニカは全く吹いていない。まあでもこれはかえってよかったかもしれない。このブルーズ・マンのヴォーカリストとしての特徴が非常に分りやすく仕上がっているからだ。

その特徴を端的に言えば都会的洗練。お聴きでない方はえ〜っ?と思うかもしれないけれど、間違いない。メンフィス録音であるとはいえ、南部的な泥臭さ、アーシーさはほぼ全く聴き取れず、むしろジャジーであるとすら感じるソフィスティケイションがある。直接的にはおそらくロイ・ブラウンから影響を受けているんじゃないだろうか?そのあたり全く調べていないが、僕の耳にはそう聴こえるね。

だからヴォーカリストとしてのジュニア・パーカーは、1940年代のジャンプ〜リズム&ブルーズ歌手の流れを汲む人なんだろう。録音物を聴けばこれは断言できる。ちょうど同じような系統にあるように思うB・B ・キングに似たような歌い方なんだよね。BB があれだけ大人気なのは、やっぱりギタリストだからだろう?ギターを弾かないブルーズ・マンって、どうしてこんなに人気がないんだろう?

そんな具合で、ピュア・ブルーズというより都会的なリズム&ブルーズ・シンガーに近い歌い方のジュニア・パーカー。そういう持味は、ヒット作「フィーリン・グッド」でも、有名になった「ミステリー・トレイン」でも実はあまりよく分らない。アルバム『ミステリー・トレイン』でなら、テナー・サックスが入る四曲目「ファシン・アンド・ファイティン」、七曲目「シティン、ドリンキン・アンド・シンキン」が一番分りやすいだろう。
どうです、この都会的に洗練されたリズム&ブルーズ風なヴォーカルは。いいでしょ。僕はこういうジュニア・パーカーが一番好きだなあ。二つ目の「シティン、ドリンキン・アンド・シンキン」で T ・ボーン・ウォーカー風に洗練されたギターを弾くのがパット・ヘア。パット・ヘアのリーダー録音は、上述の通りアルバム『ミステリー・トレイン』に二曲収録されている。

その二つのうちでは、間違いなくアルバム・ラストの「アイム・ゴナ・マーダー・マイ・ベイビー」が有名すぎるほど有名。どうしてかって、パット・ヘアはこの曲をサン・レーベルに録音した1954年から何年かあと(60年代初頭らしい)、現実にガールフレンドを銃で撃って殺してしまうのだ。それで刑務所に入り、そのまま亡くなってしまった。

パット・ヘアはアルバム『ミステリー・トレイン』に収録されている二曲の1954年録音のあと、ジェイムズ・コットンとともにマディ・ウォーターズのバンドに参加して名をあげた人だけど、いまでは現実の殺人を予告したような「アイム・ゴナ・マーダー・マイ・ベイビー」一曲こそが最も有名だろう。
しかし曲題と歌詞は凶暴極まりないもので、ギターもアグレッシヴなスタイルが中心だったパット・ヘアだけど、いま音源を貼った「アイム・ゴナ・マーダー・マイ・ベイビー」でお分りのように、ヴォーカルはやはり乱暴だけど、ギター・プレイは気配りの行き届いた繊細さも感じられる。

上で貼ったジュニア・パーカーの「シティン、ドリンキン・アンド・シンキン」でのパット・ヘアのギター・スタイルなんて、かなりオシャレで洗練されていて都会的じゃないか。まあでもやはりその後ギターも攻撃的なものになっていくけれど、ネットでパット・ヘア関連の文章を読むと、どれもこれも全員揃って「凶暴」としか言っていないのは、現実に殺人罪を犯したからなんじゃない?それを予告したような曲を1954年に録音したからなんじゃないの?

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