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2017/03/16

繊細な単弦ギター・スライドで聴かせる野卑なパンク・ブルーズ

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アメリカ戦前ブルーズ界一番の大物で最重要人物は、前から繰返すようにピアノのリロイ・カーだが、ギタリストに限定すれば、それはタンパ・レッドだ(決してロバート・ジョンスンではない)。リロイ・カーについては以前少しだけ書いたので(http://hisashitoshima.cocolog-nifty.com/blog/2017/02/post-951d.html)、今日はタンパ・レッドについて、それもかなりアッサリと書こう。どうしてアッサリかというと、僕はタンパ・レッドの全部は持っていないのだ。

全音源は持っていないどころか、ほんのちょっとしか僕の手許にはない。タンパ・レッド名義のリーダー・アルバム CD で僕が持つのはたった一枚だけ。1994年にコロンビアがリイシューした『ザ・ギター・ウィザード』。コロンビア盤なので、当然オーケーやヴォキャリオンという同社系レーベルの録音集で、全部で17曲しかないしょぼいアンソロジーだ。

タンパ・レッドの全録音は、これもまたまたまたオーストリアのドキュメント・レーベルが年代順に復刻している。14枚だか15枚だか膨大な数があるんだよね。しかも僕がこのギタリストの重要性に気が付いたのがかなり遅くて、こりゃ全部聴かないとダメだなんだなと悟った頃には時すでに遅し。廃盤で中古しかない状態だった。

それでも全く入手不可の状態ではないようだから、これから一枚ずつ買っていくつもりではある。それにしても以前も言ったけれど、ドキュメントさんと仏クラシックスさんは、一人の音楽家の全集はひとまとまりのボックスにしてくれませんかね?どうしてバラ売りなんですか?手間がかかって面倒くさいですよ。

そんなわけで僕は、コロンビア盤 CD『ザ・ギター・ウィザード』と、あとは各種戦前ブルーズ(など)のコンピレイション CD からタンパ・レッドのものを抜き出して、それらを全部まとめて一つのプレイリストにしてある。ただし最も有名で最も重要な1928年録音の「イッツ・タイト・ライク・ザット」2ヴァージョンは、同じものがいろんなアンソロジーに入っているので、それはダブらないようにして。そうすると全部で22曲。う〜ん、たったこれだけなのか、僕は…。

ところでその「イッツ・タイト・ライク・ザット」は2ヴァージョンだと前から書いているけれど、よく聴き直し、記載データも見直してみると、3ヴァージョンあるじゃないか。僕はタンパ・レッドをコンプリートには持っていないので、実はもっとあるのかもしれないが、それはいまのところどうしようもない。1928年にタンパ・レッドは、バンド編成を変えて(僕の知る限りでは)三回録音し、内容もかなり異なっている。

有名なのは初演である1928年10月24日録音でピアノのジョージア・トムとやったヴァージョンと、もう一個は同年11月9日録音で、やはりジョージア・トム(トーマス・ドーシー [例のゴスペル・ライター] とのクレジットだが同一人物)のピアノ、さらにハーフ・パイント・ジャクスンが歌い、カズーなども入るヴァージョン 〜 この二つだよね。各種アンソロジーに頻出するのも、全部それらのどっちかだ。

ところがもう一個ある。コロンビア盤『ザ・ギター・ウィザード』一曲目の「(ハニー・)イッツ・タイト・ライク・ザット」がそう。1928年12月11日のオーケー録音で、ヴォーカルがパパ・トゥー・スウィート(誰だ?このふざけた芸名は?)とハリー・ジョーンズの二名。伴奏はやはりタンパ・レッドとトム・ドーシーの二名となっている。

それら三つのヴァージョンがある「イッツ・タイト・ライク・ザット」がどんな曲で、どれほど重要かつ有名なのかは、僕が今日繰返す必要もないだろう。だから以下に音源を貼るだけにしておく。

この三回目のヴァージョンはコロンビア盤『ザ・ギター・ウィザード』に収録されているので、よく知られているもので有名かつ重要かというと、そうでもないみたいだなあ。だって各種戦前ブルーズのアンソロジーなどには全く収録されないもんね。見たことがない。確かにパンチが全く効いておらずおとなしいので、あまり面白くないよね。

一番強烈なのは、やはりハーフ・パイント・ジャクスンが歌う二回目の録音だ。これは P ヴァインがリリースした CD 四枚組『戦前ブルースのすべて 大全』や中村とうようさん編纂の『ロックへの道』その他に収録されている。1928年にして既にロックンロールだと呼びたいほどの強烈なビート感と猥雑さ。下品さ極まって価値がひっくり返り、崇高美を表現しているように聴こえるのが、ポピュラー・ミュージックの面白さ・怖ろしさだ。

ジョージア・トムとのデュオ・ヴァージョンによる初演の「イッツ・タイト・ライク・ザット」は、あくまでオリジナル・ヴァージョンであるという点にこそ意味があるものなんじゃないかなあ。そうだからいろんなアンソロジーに収録されているんじゃないの?曲自体が12小節ブルーズでありながら、定型の4+4+4の AAB 形式ではなく、4+8みたいな妙な構成で、しかも後半の八小節は、各コーラス全部同じ言葉をひたすらリピートするだけというもの。だからそんな曲の初演であることの意義は確かに大きいが。ジャズ・クラリネット奏者のジミー・ヌーンだってやっているもんね。

というのは12小節ブルーズのなかにあって定型におさまらず、いわば枠外に飛び出したいという自由への渇望、破天荒さを(歌詞などではなく)曲の構造で示したことは、さらにそれが強烈にダンサブルなビート感をともなって表現されているということは、1940年代以後のジャンプ〜リズム&ブルーズを経て、ロック勃興へと繋がっているもののように思えるからだ。

そんな曲だからこそ、タンパ・レッド&ジョージア・トムのデュオによる「イッツ・タイト・ライク・ザット」の初演ヴァージョンは重視されているんじゃないかなあ。しかし書いてきているようなフィーリングは、やっぱり二回目の録音であるハーフ・パイント・ジャクスンが歌うヴァージョンの方が、もっとはるかに強烈に表現されているよね。これが三回目のオーケー録音ではかなりおとなしくなるのがやや不可解だ。

タンパ・レッドのギター・スタイルを知るという意味でも、ハーフ・パイント・ジャクスンとやった二回目のヴァージョンの方が分りやすいもんね。上で三つ貼ったものをもう一回聴き直していただきたいのだが、初演ヴァージョンではギターの音があまりはっきりとは聴こえない。本当に弾いてるの?と疑いたくなるほどで、ほんのちょぴり入る程度なのだ。

ところがハーフ・パイント・ジャクスンとやった二回目の「イッツ・タイト・ライク・ザット」では、タンパ・レッドのスライド・ギターが冒頭から鮮明に聴こえるじゃないか。タンパ・レッドはアクースティック・ギターで単弦スライド奏法を確立した最初の人物なのだ。ここも重要だろう。

どうしてかというと、その単弦スライド、ゆくゆくは戦後のロック・ギターにおけるチョーキングなどスクイーズ・スタイルにまで影響を及ぼしているからだ。それもかなり繊細な気配りの行き届いた都会的洗練を感じる単弦スライドで、そんなものは間違いなくタンパ・レッドが最初なんだよね。南部のカントリー・ブルーズでは、もっと早くからギター・スライドがあったに違いないが(でも録音はちょっぴり遅い)、もっと野趣あふれるような弾き方だった。少なくとも録音物で聴いて判断する限り、これは間違いない。

タンパ・レッドはもっぱらシカゴとニュー・ヨークで録音したし、場所だけでなくスタイルだってやはり都会派のブルーズ・マンなんだよね。自らやりはじめたナショナル社製リゾネイター・ギターでの単弦スライドも、非常に微妙なフィーリングを繊細に表現するような都会的な洗練の極みなんだよね。「イッツ・タイト・ライク・ザット」は、ちょっと聴いた感じ、乱暴で野卑な曲に思えるだろうが、聴こえるギター・スライドにじっくり耳を傾けてみて。

そんなタンパ・レッドのギター・スライドの繊細さや洗練は、でもやはり「イッツ・タイト・ライク・ザット」ではよく分らないかもしれない。僕の持つコロンビア盤『ザ・ギター・ウィザード』だと、15曲目の「ブラック・エンジェル・ブルーズ」が1934年のタンパ・レッド一人での弾き語りだし、戦後 B・B・キングらが(「スウィート・リトル・エンジェル」などの曲名で)やって有名ブルーズ・スタンダードになったもののオリジナルだし、是非聴いてほしい。
『ザ・ギター・ウィザード』にはラストにギター・インストルメンタルも二曲収録されていて、それらだとタンパ・レッドのギターの上手さ、特に単弦スライドの繊細で絶妙な表現力が非常によく分る。どっちも1934年3月23日のシカゴ録音で、「シングズ・バウト・カミン・マイ・ウェイ」と「デンヴァー・ブルーズ」。
前者の「シングズ・バウト・カミン・マイ・ウェイ」は、戦後のシカゴ・ブルーズがお好きな方、あるいは英ロック・バンド、クリームのファンのみなさんもご存知のメロディのはず。そう、戦後はハウリン・ウルフがやって有名化した「シティング・オン・トップ・オヴ・ザ・ワールド」だからだ。

ウルフのあれは1930年にミシシッピ・シークスが録音したものがオリジナルだろうけれど、メロディだけはタンパ・レッドが先に書いたものだった可能性がちょっぴりあるかもしれない。コロンビア盤『ザ・ギター・ウィザード』収録のは1932年録音の「シングズ・バウト・カミン・マイ・ウェイ No 2」だけど、No 2とあるので分るように、その前31年に既に録音しているんだよね。
ミシシッピ・シークスが先かタンパ・レッドが先か、真相がはっきりしない。しかし1930年代という時代にたった一年しか録音年が違わないこと、それでここまでメロディが同じ(歌詞は違う)というのを考慮すると、あるいはミシシッピ・シークスやタンパ・レッドらの思い付きではなく、米南部における作者不詳の伝承ブルーズ・ソングだった可能性があるかもしれないね。みなさん、どう思います?

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