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2017/03/22

スティーヴィー入門に是非このライヴ盤を

Unknown









なぜだか持っているスティーヴィー・ワンダーのライヴ・アルバム『ナチュラル・ワンダー:ライヴ・イン・コンサート』。1995年リリースの CD 二枚組で、スティーヴィーのライヴ・アルバムとしては四作目になるが、これ以前の三つは全て1970年までのリリースだから、まだ例の傑作群を創る前のもの。だからスティーヴィーのライヴ・アルバムとしては『ナチュラル・ワンダー』が最も充実しているように思う。

まだスティーヴィーのことをよく知らず、いろんな有名曲が一気に聴ける入門用ベスト盤を教えてくれと言われたら、僕は迷わずこの『ナチュラル・ワンダー』をオススメする。二枚組じゃないか、一枚物でスティーヴィーのベスト盤が何種類もあるじゃないかと言われそうだけど、ちょっとチェックしてみたら曲数は『ナチュラル・ワンダー』の24曲が最も充実しているのは言うまでもないが、さらに格安なのだ。

しかも1995年時点までの(ということはスティーヴィーが良かったほぼ全ての時期の)代表作・ヒット作が揃っている。さらに CD 二枚組ながら、いまや中古なら1000円もしない価格にまで下がってきている。お買い得だ。もう一つ、日本のリスナーに嬉しいのは、『ナチュラル・ワンダー』は日本公演盤みたいなんだよね。

といってもリリースが1995年だから、その頃の日本のどこかでのライヴ収録なんだろうとしか確たることは言えない。パッケージや附属ブックレットのどこにも録音年月日、録音場所が書かれていない。中身を聴くとスティーヴィーが日本語をよく喋るし、またこれは明記してある東京フィルハーモニー交響楽団が管弦楽の伴奏を付けているという、この二つから僕は日本公演だと推測しているだけ。

僕の持つ『ナチュラル・ワンダー』はアメリカ盤(当然モータウン)。日本公演盤(なんだろう?)ということは日本盤もリリースされているに違いないから、それに附属の日本語解説文(があるのかどうか知らないが)にはそのあたりの情報が詳しく書かれてあるかもしれない。ご存知の方、教えてください。一説によればイスラエル公演の音源も混じっているらしいのですが…。

書いたように『ナチュラル・ワンダー』は、三曲のおそらく未発表曲(「ダンシン・トゥ・ザ・リズム」「スティーヴィー・レイ・ブルーズ」「ミズ&ミスター・リトル・ワンズ」)以外は、全て1995年時点までの有名ヒット曲が並んでいる。『ナチュラル・ワンダー』に最もたくさん曲数が収録されているオリジナル・アルバムは、1976年の『ソングズ・イン・ザ・キー・オヴ・ライフ』で、七曲。

その七曲のうち、オリジナル・アルバムでもオープニング・ナンバーだった「ラヴズ・イン・ニード・オヴ・トゥデイ」が『ナチュラル・ワンダー』でもオープニングだと言えるかも。正確にはその前に「ダンシン・トゥ・ザ・リズム」があって(この曲、このライヴ盤でしか聴けないはず)それが幕開けになっているが、聴いてみたらそれは一種のプレリュードなんだよね。まあ序奏といっても、アルバム中最も長い七分以上あるけれど、演唱内容から判断して、どうもそんな気がする。

僕が受ける感触だとライヴ<本編>の幕開けであろう「ラヴズ・イン・ニード・オヴ・トゥデイ」。スタジオ・オリジナル通りヴォーカル・コーラスから入って、スティーヴィーがフェンダー・ローズ(の音を出すシンセサイザーかも、『ナチュラル・ワンダー』の方は)を弾きながら歌いはじめる。三人のバック・コーラス隊は全員名前が明記されていて、アメリカから連れてきた人たちのようだ。

コーラス隊だけでなく、リズムを演奏するバック・バンドは全員やはりアメリカ本国から一緒に来た連中。スティーヴィー以外の鍵盤奏者が二名、ギター、ベース(が音楽監督もやっている)、ドラムス、パーカッションという編成。それにくわえ上述の通り、東京フィルハーモニー交響楽団が管弦楽伴奏を付けているんだよね。

このクレジットを見ないまま『ナチュラル・ワンダー』を何回か聴いていた頃は、一枚目10曲目の「イフ・イッツ・マジック」の伴奏は、オリジナルである『ソングズ・イン・ザ・キー・オヴ・ライフ』ヴァージョンと同じくハープの音だから、これはあるいはシンセサイザーかなにかで出しているのか?それにしてはリアルな音だなあ?と謎だったのだが、やはり東京フィルハーモニー交響楽団のハープ奏者が弾いているに違いない。

1970年あたりからしばらくのあいだ、スティーヴィーはメッセージ色の強い曲をたくさんやっていたので、『ナチュラル・ワンダー』で聴けるそれらもやはり同様に、友愛とか社会問題とかを語って投げかけるような雰囲気になってはいる。特に一枚目12曲目の「ヴィレッジ・ゲトー・ランド」は黒人スラム街の貧困問題を歌ったもので、『ナチュラル・ワンダー』でのスティーヴィーは、歌いながら一瞬「1995年のいまでもね!」と喋っているしね。

「ヴィレッジ・ゲトー・ランド」はそんなシリアスな歌詞を持つものであるにもかかわらず、『ソングズ・イン・ザ・キー・オヴ・ライフ』のオリジナル通り、旋律は流れるように美しく、伴奏もストリングスのクラシカルで流麗な響きで組立てられている。間違いなく東京フィルハーモニー交響楽団の演奏だろう。

そもそもああいった1970年代のニュー・ソウル連中(スティーヴィーは少し違うかもしれないが、あの頃には共振していた)って、社会問題とか戦争とか人種差別とかの深刻な内容を歌いながら、しかしサウンドとリズムはファンキーで、しかも美しく、だからこそ聴いてもらえると思うんだよね。誰とは言わないが、日本の一部音楽家がやっているようなやり方では大勢の聴衆に届きにくいはず。

それでも『ナチュラル・ワンダー』で、少なくとも僕は、あまりそんなシリアスな歌詞内容に共感してうなずきながら聴いているのでもなく、ただ単に楽しいなと感じて、聴きながら膝を揺すったり肩でリズムをとったりしているだけだ。スティーヴィーがやっているのはそういうエンターテイメント・ミュージックだもね。

『ナチュラル・ワンダー』では、特に二枚目に入るとヒット・パレードになる。どれもこれも大ヒットした有名曲ばかり。二曲目の「マイ・シェリ・アモール」から、その後「サインド、シールド、デリヴァード、アイム・ユアーズ」「サー・デューク」「ユー・アー・ザ・サンシャイン・オヴ・マイ・ライフ」「スーパースティション」「アイ・ジャスト・コールド・トゥ・セイ・アイ・ラヴ・ユー」「アナザー・スター」などなど。

こう並べて書くと、シリアスな歌詞内容の曲は案外少ないね。「スーパースティション」(迷信)だけがそうで、他は全部シンプルなラヴ・ソングじゃないか。「サー・デューク」は男女間の恋愛を歌ったものではないが、音楽愛を捧げる内容だから似たようなもんだ。僕は特に「サインド、シールド、デリヴァード、アイム・ユアーズ」と「アイ・ジャスト・コールド・トゥ・セイ・アイ・ラヴ・ユー」が大好きなんだよなあ。

でもいろんな意味で僕の最愛スティーヴィー・ナンバーは『ソングズ・イン・ザ・キー・オヴ・ライフ』の(附属 EP を除く)二枚組ラストを飾っていた「アナザー・スター」だ。どうしてかというと、これはややサルサ気味のラテン・ソウル・ナンバーだからだ。『ナチュラル・ワンダー』でも、スティーヴィーがオリジナルと同じブロック・コードでのピアノ・リフを弾きはじめ、ドラムスとパーカッションも入り、バック・コーラスが「ららららら〜、ら、ららら〜」とリピートしている。

そしてスティーヴィーが歌いはじめるのだが、その歌詞は一瞬シリアスかな?と勘違いしそうになるが、君にとってはもっと輝いている別の星があるのかもしれないが、僕の目に映るのは君の輝きだけだよ、しかしでも…、という、これまたごくごく普通の恋愛歌でロスト・ラヴ的なものでしかない。親しみやすい世界共通の普遍的な内容。万人向け。

だからそんな英語詞をさほどシリアスに受け取らなくてもいい。楽しいのはラテンの旋律とリズムを使ってあるところで、ダンサブルに激しくグルーヴし、聴いている僕も踊り出しそうになるっていうところ。ただ惜しむらくは『ナチュラル・ワンダー』ヴァージョンの「アナザー・スター」では、オリジナル・ヴァージョンには入っていたティンバレスとフルートがない。

ティンバレスはサルサ(などラテン音楽)には欠かせない打楽器だし、またオリジナル・ヴァージョンの「アナザー・スター」では、後半部でボビ・ハンフリーの吹くフルート・ソロが、これまた強烈にラテン臭を醸し出していて効果満点だったのだが、『ナチュラル・ワンダー』ヴァージョンにはそれらがないのがちょっぴり残念ではある。

『ソングズ・イン・ザ・キー・オヴ・ライフ』最終盤にあるオリジナルの「アナザー・スター」でのそのフルート・ソロは、歌本編が終ってのち、打楽器とコーラス隊オンリーのアンサンブル・パートになって、それに続く反復部分でボビ・ハンフリーがアド・リブで吹いているもの。そのフルート・ソロ部分背後でのリズム・セクションとコーラス隊は全く同じ短いフレーズをひたすらリピートしているから、いわばキューバ音楽のソン後半のモントゥーノ部分みたいなものなんだよね。

だからそれがライヴ収録盤である『ナチュラル・ワンダー』ラストの「アナザー・スター」でも聴けたら最高だったんだけど、まあないものねだりをしてもね。二枚全体を通し、基本的には有名ヒット・ソングばかりというレパートリーといい、またスティーヴィーの歌い方も伴奏もオリジナルにまあまあ忠実で、曲数も多く充実し、さらに超安価。だからやっぱりこれがスティーヴィー入門には好適だよ。

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