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2017/05/08

1956年のエルヴィス

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これだけエルヴィス・プレスリーが好きだ好きだと言いながら、いままでただの一度もまとまった単独記事にしていないという事実に、僕自身いま初めて気がついた^^;。普段からどんどん言及しまくっているので、なにか書いているはずと錯覚していたんだなあ。今後は少しずつ書いていくことにしようっと。第一回が今日。

といってもいまの僕が単独記事にしたいと思うエルヴィスは、サン・レーベル時代、RCA 移籍直後の1956年、68年のカム・バックにともなう一連、翌69年のメンフィス・セッション、70年のライヴ・アルバム『エルヴィス・オン・ステージ』〜 この五つだけだ。いろんな方々が指摘しているように、一番良かったエルヴィスはやはりサン時代だと僕も確信しているが、それ以外の上記四つもかなりいいんじゃないかなあ。年代順にではなく、なぜだか今日は1956年の話をしたい。

映画『ラヴ・ミー・テンダー』用の録音を除けば全部で21曲ある1956年のエルヴィス。それらをまとめて全部聴く際に一番いいと僕が思うのがこれ。エルヴィスのメイジャー・デビュー40周年を記念して96年にリリースされた『エルヴィス 56』。これはかなりよくできた一枚だ。はっきり言うが、エルヴィスでなにか一枚だけ推薦盤を教えてくれと言われたら、僕は迷わずこれをオススメする。つまりこれは<ベスト・エルヴィス>とも言うべき一枚なんだよね。

前述の通り、ベスト・エルヴィスはメイジャーの RCA に移籍する前のサン・レーベル時代じゃないかと言われそうだ。僕もそれに異論は全くない。だがサン時代のエルヴィスは、レーベルの本拠があったテネシー州メンフィスなど、アメリカ南部を中心に人気があったローカル・スター、いや、まだスターだったとも言いにくいような存在で、歌ったものは激しく魅力的だが、<ロックの時代>を考える際には、やはり RCA 時代初期を聴いておかないとダメだ。

1955年11月20日に RCA ヴィクターがサム・フィリップスに35000ドルを支払ってエルヴィスのレコーディング権利を購入。直後にサン・レーベル時代の録音をシングル盤でリイシューするが、やはり翌56年1月に RCA に録音を開始して以後こそがエルヴィスのメイジャー時代だと言えるはず。初録音は「ハートブレイク・ホテル」だと思われているかもしれないがそうではなく、レイ・チャールズのカヴァー「アイ・ガット・ア・ウーマン」。と言っても同じ1月10日録音なのだが、歌ったのは後者の方が先だった。同日三つめにドリフターズの「マニー・ハニー」も録音。

しかし「ハートブレイク・ホテル」が RCA 録音第一弾シングルとしてリリースされたので、やはりこれこそがエルヴィスのメイジャー・スタートだったと見るべきだろう。そのあたり、『エルヴィス 56』CD附属ブックレットに詳細な1956年のエルヴィス・クロノロジーとディスコグラフィカルなデータが記載されているので非常に助かる。さらにこのアルバムの収録順はリリース順だが、五十嵐正さんの書いた日本語解説文は録音順になっているので、比較すればまた一層分りやすい。

エルヴィスは1958年にアメリカ陸軍に入隊。その後は急速に輝きを失っていくので、いや、そうは言ってもあれだけの歌手なので充分聴けるのだが、54〜56年あたりのエルヴィスが放っていた、かなり危険な香りもプンプンするようなまばゆい光は薄くなっている。だからサン時代と RCA 移籍直後の56年だけで「ある意味」エルヴィスは必要十分なんだよね。その二つのうち、書いたように<ロックの時代>を考えるには、やはり56年こそが最も重要。まあそんなわけでこの年の(映画『ラヴ・ミー・テンダー』のためのものを除く)全曲が一堂に会している『エルヴィス 56』という一枚の CD こそが最高の推薦盤なのだ。

しかし<ロックの時代>などと言ってはみたものの、1956年の RCA 録音集で聴くエルヴィスで、いまの僕が最もチャーミングだと感じるのは、「ハウンド・ドッグ」や「ブルー・スウェード・シューズ」のようないかにもなロック・ナンバーじゃなくて、ミディアム〜スローなテンポで歌うポップ・バラードみたいなものだ。例えば「ラヴ・ミー」「ドント・ビー・クルール」など。ポップじゃないかもだけど第一弾シングルの「ハートブレイク・ホテル」もかなり好き。

あとでしっかり褒めたいので、悪口の方を先に書いておく。1956年録音のハードでアップ・ビートなロックンロール・ナンバーの数々。56年のエルヴィスの歌い方は相当に魅力的で、どこにも欠点が見当たらないほど素晴らしいが、バック・バンドとバック・コーラスがダメだ。もう、完全にダメだと断言したいほど聴けたもんじゃない(などと書くと、一定年齢以上のロックンロール信奉者のみなさんから総攻撃されそうだが)。

あまりご存じない方(っているのだろうか?)のために、三つだけ音源を貼ってご紹介しておく。発売順に。括弧内は録音日付。

「ブルー・スウェード・シューズ」(56/1/30)https://www.youtube.com/watch?v=a8O8qdHeKl0
「トゥティ・フルティ」(56/1/31)https://www.youtube.com/watch?v=AtFxryGZ3NE
「ハウンド・ドッグ」(56/7/2)https://www.youtube.com/watch?v=-eHJ12Vhpyc

三曲ともエルヴィスのヴォーカルには文句のつけようがない。三つともまずいきなりア・カペラでエルヴィスが歌いはじめるが迫力満点だしセクシーだし、言うことない素晴らしさ。リトル・リチャード・ナンバーのカヴァー「トゥティ・フルティ」の例のあのミョ〜な歌い出しも見事だ。しか〜し!バック・バンドのノリがダメすぎる。特にエレキ・ギター(スコッティ・ムーア)とドラムス(D・ J・フォンタナ)とコーラス隊(ジョーダネアーズ)がひどい。

彼らに(ウッド・)ベースのビル・ブラックをくわえた編成が当時のエルヴィスのレギュラー・バンドだったのだが、サン時代のノリと比較すると、バタバタ・ドタドタしていてせわしなく余裕がない。サン時代のロカビリー・サウンドにあったゆったりとしたあの余裕のあるノリが消えている。しかもスコッティと DJ はリズム感も悪い。走りすぎだ。

その一番悪い典型例が「ハウンド・ドッグ」だ。と言うとこの曲こそが1956年のエルヴィスが成し遂げたロックンロール革命の旗印だったように考えられているのでちょっと書きにくいが、大友康平さんゴメンナサイ。この「ハウンド・ドグ」も、エルヴィスの歌には文句のつけようがないが、バンドがダメすぎる。さらにジョーダネアーズの♪あ〜あ〜♫っていうあのバック・コーラス。なんだあれ?ダサいことこの上ない。到底耳を傾けてなどいられない。

スコッティのエレキ・ギター・ソロもよく走るし、DJ のドラミング、特にスネアの叩き方も走りすぎ。DJ はさらにスネアの音の大きさと色も悪い。二名ともモタるよりはまだマシなんだろうと、ちょっぴり好意的に解釈しておきたいが、いまでは聴いたらこりゃちょっとねえ…、ダメじゃないか。聴けないぞ。

サン時代の録音と比較して冷静に判断すると、スコッティ、DJ の二名にとっては、あれらのロック・ナンバーはテンポが速すぎるので、演奏技量がついていっていないということなんじゃないかと僕は思う。この二名にアップ・ビートのハードなロック・ナンバーを満足に演奏する技量はなかったと僕は断じる。フロントで歌うエルヴィスがあんなにチャーミングなだけに、ギャップが激しい。しかしあれくらいのアップ・ビート・ナンバーにテンポ・アレンジしないと、1956年のロックンロールとしては値打ちがなかったのも確かなことだろうから、う〜ん、どうなんだ…。困ったなあ…。

ただあのスコッティと DJ のリズム感の悪い走り方に典型的に表れているようなドタバタしたフィーリングは、いかにも1956年という<あの時代>の気分を反映している、時代がドタバタしていたのだ、それを音で表現しているのだとは言える。ジョン・F ・ケネディがアメリカ合衆国大統領に就任するのは1961年だが、その前の上院議員時代の56年民主党全国大会で JFK の名が一躍知られるようになったという、そんな時代。キューバ危機は JFK 大統領在任時の62年だが、その前から東西冷戦のテンションが高まっていた、そんな時代1956年の気分をね。<ロックの時代>と上で書いたのはこういう意味合いも含む。

そう見れば、あのスコッティのギターと DJ のドラムスに典型的に出ている、走りすぎの感じの悪いリズムのドタバタしたフィーリングも、<純音楽的に>面白いものだと聴くべきものかもしれないよね。だ〜けどさ〜、実際、CD(今日の場合『エルヴィス 56』)で音だけを2017年に聴いたら面白くないという、僕のこの素直な気持はやはり言っておきたい。ことに「ラヴ・ミー」「ドント・ビー・クルール」「ハートブレイク・ホテル」などのセクシーさと比較すれば、なおさら一層そう感じちゃう。

ってことでここからは称揚の言葉ばかり並べよう。それら三曲、発売順に「ハートブレイク・ホテル」(1956/1/10録音)「ラヴ・ミー」(56/9/1)「ドント・ビー・クルール」(56/7/2)。この三つは、いま聴いてもため息しか出ないほどセクシーでチャーミングで、いくらほど賞賛の言葉を重ねても重ねたりないと思うほど素晴らしい。まずそれら三曲の音源を貼ってご紹介しておく。

「ハートブレイク・ホテル」https://www.youtube.com/watch?v=e9BLw4W5KU8
「ドント・ビー・クルール」https://www.youtube.com/watch?v=ViMF510wqWA

音楽作品としての出来は、三つ目の「冷たくしないで」が一番いいんじゃないかと思う。出だしのエレベ音みたいのは、ビル・ブラックはウッド・ベーシストだし、実際その音が入っているのでビルではなく、スコッティがギターの低音弦を弾いてベース・ラインみたいにしているんだろうね。そのベース・ラインが聴こえただけで、僕なんかはもう降参だ。エルヴィスが歌いはじめると夢心地。

僕が個人的に一番好きだと思っているのは、ブルーズ愛好家だから「ハートブレイク・ホテル」なんだろう?と思われるかもしれないがさにあらず。「ラヴ・ミー」なのだ。あの出だしの「とぅり〜〜み、らいく、あ、ふ〜る」と低音ヴォイスのア・カペラで歌いはじめるエルヴィスのあの声が最高にステキ!歌詞内容も、まるで僕のために書かれたものなのかと思うほど激しく共感するし、ラヴ・バラードとしてのテンポと曲調も言うことなしだ。

僕はこの「ラヴ・ミー」が好きで好きで、好きすぎて、実にいろんな場所で頻繁に鼻歌で口ずさんでいた。大学教員時代のある時、研究室で僕なりの低音ヴォイスで、やはり「とぅり〜〜み、らいく、あ、ふ〜る」とやっていたら、当時の同僚だったアメリカ人男性教師に「ちっ!ちっ!そうじゃない、こうだ」と、僕以上にエルヴィスそっくりな歌い方で、あの低音部での歌い出しを披露してくれた。

そのフロリダ出身のアメリ人男性同僚教師、結構なエルヴィス・ファンだったらしく、また別の時に僕がやはりエルヴィスの、こっちはサン録音ヴァージョンの「ザッツ・オール・ライト」を鼻歌で口ずさんでいたら(ってつまり、研究室でもどこでも、いつもいつもそんな具合に歌いまくっていたわけです、みんながいる場所で)、そのアメリカ人同僚は「オォ〜!エルヴィス!テュペロ・ボーイ!」と反応してくれたので、僕はすごく嬉しかった。21世紀のはじめ頃のことだったっけなあ。

みなさんにとってはどうでもいい僕の思い出話だった。さて1956年 RCA 録音・発売のエルヴィス・ナンバーでは、上で書いたように1月10日のナッシュヴィルでの第一回レコーディング・セッション(エルヴィスはのちのちまでナッシュヴィルで録音することが多かった)で録音されたレイ・チャールズの「アイ・ガット・ア・ウーマン」もかなり面白く、魅力的だ。
この録音はサン・レーベル時代のロカビリー・サウンドをかなり残している。ビルだってウッド・ベースのスラップを弾くし、テンポそのものがまさにサン時代にたくさんある録音とほぼ同じ中庸速度でちょうどいい。しかし非常に大きな違いもある。それはサン時代のロカビリー風でありながら、当時にサン時代のどの録音よりも黒く、黒人リズム&ブルーズに近いフィーリングがあるという部分。

黒いなどと言っても現代的視点からすれば真っ白けだが、サン時代のエルヴィスと比較してほしいのだ。テンポからなにから全てサン時代のロカビリー風でありながら、できあがりが全くサン時代にはないリズム&ブルーズ風。サン時代といわずメイジャーの RCA 移籍後だって、こんな「アイ・ガット・ア・ウーマン」みたいな黒いのはあまりない。

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