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2017/05/24

遂にフェイルーズを継いだ30のヒバ・タワジの30

Anghamicoverartakamaizednet








入手した新作をかけて、冒頭の歌い出し一声だけで聴き手を納得させることのできる歌手は、むかしもいまもそんなに多くはないはず。2017年ならヒバ・タワジはそんな稀代の天才女性歌手の一人だろう。昨日月曜日(5/22)の夜六時過ぎに届いたヒバの新作『ヒバ・タワジ 30』を聴いて(いまは5/23火曜夕方)、このことを非常に強く実感した。そして同じ国の大先輩フェイルーズも喜んでいるはず。自分の命あるうちに、自分を継いだと判断できる(フェイルーズはそう思っているだろう)歌手が同じ国から立派に成長したのだから。

『ヒバ・タワジ 30』というこの新作アルバム。どうやら制作側はネット・オンリーで売りたいというのが本音じゃないかと思う。僕はヒバのTwitter アカウントをフォローしているので、この新作のこともリリース(確か今年三月頃)と同時に知ったのだが、ヒバ(本人かアカウントの中の人)がプロモートするのは Spotify や AppleMusic や iTunes などなどストリーミングやダウンロード・サーヴィスばかりで、CD についてはいまに至るまで一言もない。

『ヒバ・タワジ  30』のリリースを知るや否や僕はエル・スールの原田さんにお願いしますとメールしたら、半日ほどして来た返信に「どうやらうちとは取引関係のないところのようです、難しいかもしれません、確約できませんが努力してみます」とあったので、僕もどうなるのか分らなかったのだ。ダウンロードやストリーミングであっけないほど簡単に入手できる『ヒバ・タワジ 30』だから、どうもやはり CD などフィジカル時代はもはや終焉しているんだろうな。

原田さんが頑張ってくれて、結果的にエル・スールに極少数の CD が入荷したらしい『ヒバ・タワジ 30』だけど、そんな具合だから、ご興味のある方は CD にこだわらず、電子データのストリーミングやダウンロード・サーヴィスで是非『ヒバ・タワジ 30』を入手して聴いていただきたい。いまでもやはり熱心なフィジカル愛を持つ僕ですらこう言うのは、そうじゃないと入手が容易じゃないということと、それ以上にこのアルバムを聴かずに済ませるなんて、そんなもったいないことはないと強く思うからだ。本当に大傑作なんだ。フェイルーズを継いだと思える内容なんだよね。だから物体じゃないと…、などとおっしゃらず、是非聴いて!

さて新作『ヒバ・タワジ 30』というこのアルバム・タイトルには、直接的には二つの意味が込められているのだろう。一つは主役が今年暮れでちょうど30歳になるということ。もう一つは二枚組の一枚ずつ各15曲で計30曲が収録されているということ。なんだか他にもいろいろとあるみたいだけど、難しそうだからそれを考えるのは今日はやめ。ただ容貌も美しいヒバの、容貌よりもはるかに美しい歌声に耳を傾けるだけにしたい。

『ヒバ・タワジ  30』で主役歌手が大先輩フェイルーズに、しかも存命中に追いついたと僕が判断している部分は随所にある。例えば一枚目一曲目の「Aarrafta am la」。前作『ヤ・ハビビ』同様、この新作でもほぼ全面的にウサマ・ラフバーニが曲のメロディと管弦楽のアレンジを書いているが、一曲目「Aarrafta am la」では、偉大なフェイルーズ/ラフバーニ兄弟の伝統へのダイレクトなリスペクトを感じる曲創りとアレンジなんだよね。
いま貼ったこの「Aarrafta am la」だけでなく、『ヒバ・タワジ 30』収録の30曲は、全て YouTube で無料で聴けるので、お金を出す気のない方も是非ちょっと聴いてみてほしいのだ。どうです?このメロディとアレンジと、そしてヒバの歌い方は?プロデュースもしているウサマ・ラフバーニが、フェイルーズと共同作業をやったアシ・ラフバーニ(は夫)とマンスール・ラフバーニのラフバーニ兄弟の仕事を意識したのは間違いない。

さらに主役ヒバの歌い方もフェイルーズの伝統を強く意識しているように僕には聴こえる。そしてその大先輩歌手の偉大な境地を継いだ…、が言いすぎであれば、かなりいいところまで接近しているとは言えるんじゃないかなあ。こういうフェイルーズ/ラフバーニ兄弟の伝統を継いでいる、少なくともその意思は明確に示したような曲は、アルバム『ヒバ・タワジ 30』にいくつもあるので、これ以上は書かないが、みなさんも探してみてほしい。

アルバム『ヒバ・タワジ 30』で聴ける管弦楽のサウンドは、前作『ヤ・ハビビ』同様、ポピュラー・ミュージック界で探せば往年の黄金アメリカン・ポップスのそれで、しかし西洋クラシック音楽のシンフォニック・サウンドの方がもっと近いんじゃないかとも思う。そして言うまでもなくそれら二つは深い関係があるもんね。だから『ヒバ・タワジ 30』でも格別目新しいサウンドじゃないのだが、普遍的な美しさだからなにも文句をつける部分などない。

「直接的に」西洋クラシック音楽を引用してあるものが一曲あって、それは二枚目二曲目の「Al Nizam Al Jadid」。これはフランスのモーリス・ラヴェルが書いたかの有名な「ボレロ」のパターンをそのまま使っている。本当に知名度の高いものだから、みなさんすぐにお分りになるはず。リズム・パターンも、終盤の劇的なオーケストラ・サウンドも、そのまま下敷きにしている。
『ヒバ・タワジ  30』では、かなりラテン・テイストの強い曲も複数あるのがやはり僕好み。しかもこれまた大先輩フェイルーズがずっとむかしに実証しているアラブ〜ラテンの相性の良さを、ヒバとウサマ・ラフバーニが再現したものだ。例えば一枚目13曲目の「La chou ta ehtam」もそう。しかし使ってある打楽器はラテン系のものだけじゃなく、アラブ系のダルブッカなどもあるだろうなあ、このサウンドは。
ブラジル音楽だから厳密にはラテンから外れてしまうかもだけど、ボサ・ノーヴァ・ナンバーも『ヒバ・タワジ 30』には一曲だけある。二枚目四曲目の「Bkhatrak」がそれ。ボサ・ノーヴァ・スタイルなのは間違いないが、伴奏のオーケストラ・サウンドもまるで1960年代風レトロ。陽光がさすような明るい一曲で、いいねこれ。
こんな感じの快活なリズム・ナンバーは、特にラテン云々を言わなければ、アルバム『ヒバ・タワジ 30』にはたくさんあって、バラード調のものとちょうど半々くらいで収録されている。僕が特にお気に入りなのが、一枚目八曲目の「Yalla norkos」とか、二枚目七曲目の「Balad El Tanaod」とかだ。どっちも激しいダンス・ミュージックであるダブケ由来のスタイルなんだろうなあ。
新作『ヒバ・タワジ 30』でのヒバのヴォーカル表現は、前作『ヤ・ハビビ』で聴けたようなテクニカルな面は目立たなくなっていて、むしろ一歩引いて落ち着いた表情を見せているのが、かえってより一層の深みと奥行きを感じさせるようになっているのが素晴らしい。それでもやはり歌唱技巧をフルに発揮したような曲もあって、例えば4オクターブを楽々と歌う一枚目五曲目の「Enta habibi」とか、終盤部の約30秒間、ずっと同じ一つの音程を完璧に揺るぎなく維持したままスクリームする一枚目九曲目の「Aylan」とか、聴いているこっちの目が、いや、耳がクラクラする。
二分もない非常に短いものだが、アルバム『ヒバ・タワジ 30』で僕がかなり気に入っているのが、二枚目10曲目の「La Omri」。どうしてかというと、もともとローカルなアラブ色は表面的には強く打ち出さないヒバが、濃厚なアラブ歌謡のコブシ廻しを聴かせてくれるからだ(二枚目にはこの他数曲ある)。これ、もっと長く、五分とか七分とかやってくれたらよかったのになあ。このヴィデオで分るように、この曲は2016年制作のドラマかなにかのワン・シーン用のものだったんだろう。
アルバム『ヒバ・タワジ 30』には、そんなもともとはウサマ・ラフバーニとの共同作業でやったドラマやミュージカル(?)かなにかのために用意され、既にレコーディングも終っていたものがたくさんある様子。そういえばヒバは女優としても活躍しているんだったよね。たぶん役を演じながら劇中で歌っていたりするんだろう。そのあたりのちゃんとしたことは、レバノンや中東アラブ圏に住んでいないと分らないんだろうね。

アルバム・ラストの「Haza Zamani」はディズニー・ソング。3Dアニメ番組『アバローのプリンセス エレナ』からの一曲で、オリジナル英語題は「マイ・タイム」。
これをヒバがやるとこうなる。たぶん『アバローのプリンセス エレナ』のアラビア語圏放映にともなってレコーディングされたものなんだろう。ヒバがヘッドフォンをつけてスタジオで歌う風景が映っているが、美しいなあ。顔も声も表情も仕草もなにもかもが美しい。
ディズニー・ソングのアラビア語ヴァージョンをアルバム『ヒバ・タワジ 30』のラストに収録したのは、まあコマーシャルな目的と、あとは単なるちょっとしたオマケなんだろうが、しかしそれでも、こんなディズニーみたいなアメリカン・ポップスが、ヒバの音楽的養分のかなり大きな一つになっていることを考えると、笑って聴き逃すことはできないね。だいたい僕はディズニーの世界がむかしもいまも大好きだ。上質のエンタータイメントだからね。

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