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2017/05/07

ミンガスのブルーズ・アルバム二種

Bluesandroots

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スモール・コンボ編成でやったチャールズ・ミンガスのアトランティック盤では、評価も人気も高い1956年の『直立猿人』や57年の『道化師』よりも、僕だったら59年の『ブルーズ&ルーツ』と61年の『オー・ヤー』を選ぶ。断然後者二枚の方が僕好み。これは普段から僕の文章を読んでくださっている方々であれば、そりゃそうなるでしょとご納得のはず。

ミンガスのアトランティック盤は、1970年代に数枚あるのを除けば、以上四枚と、60年のライヴ・アルバム『ミンガス・アット・アンティーブ』で全部になる。アンティーブ・ライヴも素晴らしく僕好み。しかしこれは1976年に初めてリリースされたものだから、リアルタイムで発売されていたコンボ編成のアトランティック盤ミンガスに限定すると、僕の場合、『ブルーズ&ルーツ』『オー・ヤー』の二枚こそベストなのだ。

理由を一言にすれば真っ黒け。ドロドロにエグいブルージーさが全開で、実際、定型ブルーズが多いし、12小節三部構成でなくたって、実質的には二枚とも全部ブルーズ・ナンバーばかりだと言って差し支えないはず。しかもある時期のハード・バップに顕著だったゴスペル・ベースのアーシーさ、言い換えればファンキー・ジャズが爆発しているもんなあ。

『ブルーズ&ルーツ』の方はこういうアルバム名になっていることもあって、ミンガス自身、ルーツであるブルーズを強く意識した一枚であるのは間違いない。ライノがリリースしたボーナス・トラック入りのリイシュー CD を僕は持ってなくて、手許にある『ブルーズ&ルーツ』はオリジナル LP 通り全六曲。何年のリリースだかどこにも記載がないが、アメリカ盤で、ごくごく普通のアトランティック再発物だ。それで充分じゃないかな。

『ブルーズ&ルーツ』一曲目の「ウェンズデイ・ナイト・プレイヤー・ミーティング」でいきなりのノック・アウト・パンチ。ボスの野太いウッド・ベースぶんぶんに続き、アーシーなホレス・パーランがいつも通りのブロック・コード弾き。テナー・サックスのブッカー・アーヴィンがリードする六本のホーン・アンサンブルになって、ダニー・リッチモンドが6/8拍子を叩きはじめたら、僕はもう昇天。
そう、これはハチロクのリズムだから、ブルーズというより黒人教会音楽、すなわちゴスペルを土台にした一曲なのだ。曲題も曲のメロディもゴスペル・ソング風。ミンガス最大の得意分野の一つだね。そのリズムが最高だし、六管によるテーマ合奏が終わると、一体誰がどの順番でソロをとっているのか判然としないほど複数が入り乱れる状態になるが(まるで教会現場を垣間見るよう)、ホレス・パーランのアーシーなピアノ・ソロは鮮明だ。

その後右チャンネルでブッカー・アーヴィンのテナー・サックス・ソロが出るが、その途中でほぼ無伴奏になり、テナーの背後でハンド・クラップしか入っていない状態になる。その部分は短くほんの10秒も続かないが、そのテナー&ハンド・クラップのみのパートが、こりゃまたカッコイイよなあ。

ダニー・リッチモンドの短いドラムス・ソロが出たあとは再び六管のテーマ吹奏になって「ウェンズデイ・ナイト・プレイヤー・ミーティング」はあっという間に終わってしまう。約5分43秒。たったのこれだけかよ。10分は続けてほしかった(という向きには是非ライヴ盤『ミンガス・アット・アンティーブ』をオススメします、11分以上もやっています)。しっかしシビレルよなあ、こういうファンキーさ、アーシーさ。黒/白の区別なんか無意味だって、そりゃまあそうだろうけれどもさ、こういう音楽を、黒人がやっているという事実を無視して聴くことなどもまた無意味だ。

あっ、そういえばどの本のどの部分だったか、油井正一さんが同じことを書いたいたのを思い出した。その部分は確かレナード・フェザーの姿勢に疑問を投げかけていたもの。フェザーはイギリス生まれでその当時からジャズ関係の文章を書いて仕事をしていたのだが、アメリカに移住して以後は、このジャズ・マンは黒人だ白人だを言わなくなったと。そりゃなにかちょろっと言うとすぐにジム・クロウ(黒人差別)だとか、逆のことでも言えばすぐにクロウ・ジム(白人差別)だみたいに糾弾される国のなかで仕事をするならば、ワタクシは色盲でござんす、黒も白も一色にしか見えませんと言うしかないだろうと、フェザーだってイギリス時代はジャズ・マン紹介文の末尾に必ず黒人か白人かを付記していたじゃないか、ミンガスとデイヴ・ブルベックのジャズを、黒/白意識せずに聴けますかって〜の!と油井さんは書いていたなあ。どの本だっけ?

そんなようなめんどくさい国なんだよねアメリカは(悪口ではない)。まあいい。ミンガスの『ブルーズ&ルーツ』二曲目はスロー・ブルーズの「クライン・ブルーズ」。ある時期のブルーズ・ロックの一傾向に用いられる言葉でいえば、レイド・バックした(死語?)フィーリングで、これもブルージーだ。やはりホレス・パーランのピアノ・ソロがいいね。ホレスにしては珍しくシングル・トーンで弾いている。
レイド・バックと書いたので、ここで途中だがいきなり1961年盤『オー・ヤー』の話に移る。どうしてかって、このアルバムは、やはりまたブルーズ・アルバムでありながら、ミンガスの諸作中最もレイド・バックしているからだ。一曲目の「ホグ・コーリン・ブルーズ」はドライヴィングだが、最高にレイジーな二曲目の「デヴル・ウーマン」を聴いてほしい。
このヴォーカルはミンガス自身。そうでなくたって普通のアルバム中でも頻繁にしゃべるというか叫んだりなど、よく声を出すミンガスだが、『オー・ヤー』での彼はヴォーカリストだと言いたいほど歌っている。さらにベースは全く弾かない。全面的にダグ・ワトキンスに任せていて、楽器ではピアノに専念しているのだが、これがまた上手いブルーズ・ピアノを弾くんだよね。

この「デヴル・ウーマン」が、アルバム『オー・ヤー』では一番長い九分以上もあるのでやはりハイライトだろうが、その後も一曲はさんで「イクルージアスティックス」(Ecclusiastics ってどういう意味?)がこれまたレイジー。レイド・バックとはこの曲を形容するためにある言葉だ。ローランド・カーク、ブッカー・アーヴィン、ジミー・ネッパーの三菅アンサンブルも強烈にブルージーだが、同時にデューク・エリントンの作風にかなり影響されているのが分る。やはりボスが歌う。ピアノも弾く。
これに続く「オー・ロード、ドント・レット・ゼム・ドロップ・ザット・アトミック・ボム・オン・ミー」は、こんな曲題だから社会派なのかと思いきやさにあらず。これまたスローなレイジー・ブルーズなのだ。そう、社会派でシリアスな(側面がしばしば強くある)ミンガスではなく、ただのスロー・ブルーズなんだよね。いちおうボスがなにやらしゃべってはいるが、同時に「うふ〜ん」「あは〜ん」「おー、ジーザス」などと歌う部分では、社会派というより黒人教会風だ。
さて『ブルーズ&ルーツ』の話に戻って、二曲目「クライン・ブルーズ」まで書いたのでそれ以後。三曲目は「モーニン」という曲題なので、ボビー・ティモンズの書いたあれか?と思うとそうじゃなく、ミンガスのオリジナル・ナンバー。がしかしやはりこの「Moanin’」という言葉自体、教会とか宗教への言及なので、それっぽいゴスペル・ベースのファンキーさがやはりある。ここではペッパー・アダムズのバリトン・サックス・ソロもいい。
次の「テンションズ」は飛ばして、CD では五曲目の「ミスター・ジェリー・ロール・ソウル」。これがかなり面白い。オールド・ジャズ風なアンサンブルで、1959年録音にして、まるで時代を30〜40年くらい遡ったみたいな雰囲気の曲想、主旋律、アレンジなんだよね。一番手でソロを吹くトロンボーン・ソロ(ジミー・ネッパー?ウィリー・デニス?)も、二番手のホレス・パーランのピアノ・ソロも、三番手のジャッキー・マクリーンのアルト・サックス・ソロも、みんなそんなレトロ調を意識したかのようなスタイルでやっている。
だから「ミスター・ジェリー・ロール・ソウル」ってのは、曲題通りやはりジャズ初期の巨人、ニュー・オーリンズのクリオール、ジェリー・ロール・モートンへの敬愛を表現した一曲なんだろうね。これは1959年録音だから間違いなくレトロ・ミュージックだけど、僕はこういうの好きなんだよね。ミンガスには、やはり59年のコロンビア盤アルバム『ミンガス・アー・アム』にも、ラストに「ジェリー・ロール」というちょぴり違うタイトルの曲があるが、同じ曲なんだよね。
アトランティック盤『ブルーズ&ルーツ』には、このあともう一曲「Eズ・フラット・Ahズ・フラット・トゥー」というグルーヴィ・ブルーズがあって、しかしこれだけピアノがホレス・パーランではなくマル・ウォルドロンだ。短いがマルもいいソロを弾く。でも僕の好みだと断然ホレス・パーランの方が…。その後出てくるアルト・サックス・ソロは、最初に出る方がジョン・ハンディ、二番手がジャッキー・マクリーンのスタイルだろう(といつもの僕のテキトー耳判断)ね。最終盤は、まるで初期ニュー・オーリンズ・ジャズみたいな集団即興のホーン・アンサンブルになって、その後再びテーマを合奏し終る。

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