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2017/06/21

サッチモ 1929 - 33

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一昨日の1925〜27年のルイ・アームストロングが、全録音を一つにしてみても2時間20分、昨日の28年分だとわずか1時間7分なのに対し、それ以後、29〜33年分の全録音は115トラック(同一曲の複数テイクもかなり多い)で、計6時間14分もある。だから一度に全部なんども繰返し聴きかえすのが難しい。一昨日の「1929〜33年分については書けないかもしれない」というのは、こういう意味だった。

まあでもなんとかやってみようと思い、たったの一度だけとはいえその六時間超のプレイリストをじっくり聴きかえし、そこからまず最初、CD なら二枚組で全部入るという長さの2時間14分、計41曲のプレイリストを作成するまでに絞った。だけれども、1925〜27年分も28年分も、むかし LP で一枚ものがあったわけだから(いま、どうして CD でそれがないのだ?)、それにならって僕も CD で一枚に入るプレイリストを作ろうと悪戦苦闘。その理由が以下。

サッチモは1928年をピークに、その後は下降線を辿った、それも主たる理由は(技巧を褒め称えられたがゆえの)無意味な高音の乱発や、またオーケー(コロンビア)側の商略で、レコードが売れるようにと当時の流行歌をどんどん録音するよう指示されサッチモもそれに従ったがゆえ、ジャズとしてのシンシアリティが失われがちになっているだとか、そんなことをみなさん言うけれども、僕の考え方はかなり違う。後者についてはね。前者(高音の無意味な乱発)は僕もイタダケナイと思うが。

したがって油井正一さんがお書きだったことへの真っ向からの反論になるが、ジャズと時代の流行歌はどこが違うのだろうか?ことさら区別する必要があるのだろうか?っていうか、ジャズってのは演奏の方法論でしかないんだから、とりあげる素材はなんでもいい。なかでもことさらサッチモみたいな芸能エンターテイメント性と芸術性がピッタリ貼り付いているような、というか娯楽をとことんまで追求した結果、挙げ句の果てにその娯楽性が高度な芸術表現に「も」なりえているというようなジャズ・マンの場合なら、このことは言を俟たないではないか。

あぁ、それなのに、油井さん、どうしてですか?(『生きているジャズ史』立東文庫版 66ページ参照)。『ジャズの歴史物語』の方では、サッチモのこの芸能性=芸術性みたいなことを明確に指摘していらっしゃるではありませんか?でもあれも結局のところ、結果的にサッチモは芸術性を獲得できたからこそ偉いのだとでも言いたげな語気が感じられないでもないが、僕の読み違いだと信じたい。恩師にたてつくようだが、繰返して言う:サッチモだけに限った話じゃないが特にサッチモの場合は、聴衆を楽しませること第一優先、というかそれしか頭のなかになかったような音楽家だ。もうそれしかやっていないじゃないか。

というわけなので、面白いものがかなり少なくなっているとみなさんがおっしゃる1929〜33年録音でも、僕みたいなファンには楽しいものがいっぱいあるのだ。上で書いた2時間14分、計41曲のプレイリストからさらに絞るのに相当な困難があったというのは、そういう意味だ。それでもなんとかかんとか、断腸の思いであれを捨てこれも消しして、全24曲、計79分のプレイリストができあがったので、以下にそれを公開する。公開して後悔するかもしれないが、CD 一枚ものアンソロジーがあってしかるべきと僕は強く願っているからだ。どなたかソニー/レガシーに関係する方、お願いします!(ってどなたもお読みなわけがない)。並び順はラスト24曲目を除き録音順。括弧内がその年月日。

1. Knockin' A Jug (29/3/5)
2. I Can't Give You Anything But Love (ibid.)
3. Ain't Misbehavin' (29/7/19)
4. (What Did I Do To Be So) Black And Blue? (ibid.)
5. When You're Smiling (29/9/11)
6. After You've Gone (29/11/26)
7. St. Louis Blues (29/12/13)
8. Dear Old Southland (30/4/5)
9. My Sweet (ibid.)
10. I Can't Believe That You're In Love With Me (ibid.)
11. Exactly Like You (30/5/4)
12. Dinah (ibid.)
13. I'm Confessin' (That I Love You) (30/8/19)
14. Memories Of You (30/10/16)
15. The Peanut Vendor (30/12/23)
16. Shine (31/5/9)
17. I Surrender Dear (31/4/20)
18. When It's Sleepytime Down South (ibid.)
19. (I’ll Be Glad When You're Dead,) You Rascal You (31/4/28)
20. Stardust (31/11/4)
21. Georgia On My Mind (31/11/5)
22. All Of Me (32/1/27)
23. Mahogany Hall Stomp (33/1/28 Victor)
24. Standin' On The Corner (Blue Yodel No. 9) (30/7/16 Victor)

ラスト24曲目のタイトルをご覧になって、どうしてこれだけ録音順のなかに並べていないのかはお分りだと思う。ジャズ・ファンは誰も相手にしていないのかもしれないが、ヒルビリー歌手ジミー・ロジャーズと共演した一曲で、お得意のブルー・ヨーデルを聴かせるのにサッチモがコルネットで絡んでいるという最高度の面白さ(なのにどうしてみんな無視?)。まあでもレガシー盤 CD10 枚組『ジ・オーケー・コロンビア&RCA ヴィクター・レコーディングズ 1925-1933』でも、これは録音順からかなり遠い場所に収録されている。僕はそれに従っただけ。まあ音楽の種類も少し違うような気がするようなしないような。
この24曲目のヒルビリー+ジャズ合体の一曲以外は、全てシンシアなジャズ作品だと僕には聴こえる。それら23曲のなかでの、まず最高傑作の話からするが、八曲目、1930年4月5日録音の「ディア・オールド・サウスランド」。フロイド・バック・ワシントンのピアノ一台だけでの伴奏でサッチモが、この世のものとは思えない美しいコルネット吹奏を聴かせる。1925〜28年録音の数々と比較しても、僕はこの30年の「ディア・オールド・サウスランド」が一番好き。どうにもこうにも最高に、宇宙一に、大好きすぎる。サッチモの生涯最高傑作に違いないと僕は信じる。
これにシンシアリティを感じなかったらなにに感じるっていうんだよ〜?こんなにも誠実で、こんなにも美しいジャズ・コルネット演奏なんて、もうこの世に存在しないと断言してしまいたい。この「ディア・オールド・サウスランド」という曲はもとからそうだが、サビ部分でリズムがアバネーラ調に跳ねるのが特徴で、誰のヴァージョンもだいたい全部そうなっている。このサッチモ1930年ヴァージョンではそれがやや薄いけれどね。

リズムがアバネーラといえば、上記プレイリストでこれの前の七曲目29年録音の「セント・ルイス・ブルーズ」もそうだというのは、みんな知っている当たり前の常識だからいまさら繰返す必要はない。サッチモも(1920年代の女性ブルーズ歌手たち同様に)得意レパートリーにしていた。だからこれについてはいい。それよりも15曲目の30年録音「ザ・ピーナツ・ヴェンダー」に注目してほしい。言うまでもなくキューバン・ソングの「南京豆売り」。北米合衆国で大ヒットした直後にサッチモも録音したわけだね。時代の流行歌ですけれども〜、どこが悪いんでしょうか?
この「南京豆売り」でドラム・セットに座っていたのがライオネル・ハンプトン。ハンプのデビュー・セッションなのだ。といっても「南京豆売り」ではどうやらオミットされていたらしく、ドラムスの音が聴こえないのがちょっと残念。だからそれが鮮明に聴こえる、上記プレイリスト16曲目の翌31年「シャイン」をご紹介しておく。躍動的でいいよなあ。『生きているジャズ史』での油井さんは、これは素晴らしいとちゃんと指摘している。30年3月とお書きだが、それはミスだ。
上記プレリストでは、黒人差別問題を扱った四曲目の「ブラック・アンド・ブルー」(書いたのはファッツ・ウォーラー)と、ほか少しを除き、それ以外は全部ストレートなラヴ・ソングばかり(告白だったり求愛だったり失恋だったり)。それもだいたい全部1929〜33年当時に売れていた流行のポップ・ソングばかり選んでおいたのが僕の目論見なのだ。それら全部がサッチモの手にかかると、立派なジャズ作品に仕上がっているじゃないのさ。

13曲目の「アイム・コンフェッシン」はかなり面白いので、ちょっと書いておこう。間違いなくハワイアン・スタイルで弾くギター・スライドが聴こえる。アクースティック・ギターを膝の上に寝かせて上からバーで押さえているにちがいない弾き方だ。弾いているのがシール・バーク。アメリカ本土のギター・スライドはハワイ由来が定説だが、1930年のジャズ録音でここまで鮮明にハワイアン・ギター・スライドが聴けるのは珍しい。シール・バークは36年にもエリントニアンズと共演して、同様のハワイアン・スライドを披露している(エピック盤『ザ・デュークス・メン』収録)。
20曲目の「スターダスト」も問答無用の超有名曲だが、ちょっと誤解があるかもしれないように僕には見えているので、解説しておいた方がいいのかもしれない。ホーギー・カーマイケルが曲を、ミッチェル・パリッシュが歌詞を書いたこの曲は、なんとなくムーディでロマンティックなラヴ・ソングだくらいに思われているんじゃないのかなあ?確かにメロディはそうだけど。でもちょっと違う部分がある。歌詞をよく聴いて。一人寂しく夜を過ごし君のことを想う、失った恋を振り返って感傷にひたり、夢なんか見るだけ無駄だ 〜 そんな内容だよね。
他の曲は解説の必要もないラヴ・ソングばかり。レガシー盤 CD10 枚組『ジ・オーケー・コロンビア&RCA ヴィクター・レコーディングズ 1925-1933』に複数テイク収録されているものだと、ノン・ヴォーカル・ヴァージョンも並んでいたりするが、僕は全部ヴォーカル入りの方をチョイスした(って上の一覧では分らないが)。だって歌が聴こえた方が楽しいもんね。歌詞だってそのまま伝わる 〜〜「君にあげられるのは愛だけ」(2曲目)、「僕の愛しい人」(9曲目)、「君が僕に恋しているなんて信じられない」(10曲目)、「愛しているって言っているんだよ」(13曲目)、「君にくびったけ」(17曲目)。「君去りし後」(6曲目)はやめてくれ。

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