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2017/07/30

今夜うんと奢るからな

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(いま耳が聴こえにくいので音楽の細かいことが分らないシリーズ 8)

いつまで続くのか分らないこのシリーズ。とりあえず7月28日現在でも、まだ耳はよく聴こえない。右耳が聴こえなくなったのが16日の朝だもんなあ。まあいいや。辛抱強く治療を続けるしかない。耳鼻科で毎日30分の点滴に通っているけれども、そのほかでも最近は病院での待ち時間がけっこうあるので、いろんな本を、特に音楽書を読みなおしている。

油井正一さんのものや中村とうようさんのものや荻原和也さんのものなど、どれもいままで読んでいたときには気づかなかったことに気づく新鮮な新発見があり、それは間違いなく僕自身が音楽についてどんどん書くようになったからだよね。このお三方の本を、病院での待ち時間や点滴中などに読むと、いかに僕が無知無理解な人間なのか思い知り、こ〜りゃ恥ずかしい、もう音楽について書いて公にするのは絶対に嫌だ!やめる!と思うと同時に、こんなに面白く刺激的な一行は、ぜひ自分でもグリグリ展げてみたいと思ったり、ど〜すりゃいいのよ!?

ここ数日は油井正一さんの『生きているジャズ史』を少しずつ読みなおしているが、この本、油井さんの筆致が本当に素晴らしい。中身の面白さではアルテスパブリッシングからリイシューされた『ジャズの歴史物語』(もとはスイングジャーナル社)のほうに軍配が上がるだろうが、まるで小説でも読んでいるような、あるいは寄席で落語家や講談師のうまい話を聴いているような、グイグイ迫る活き活きとした描写では、断然、立東社で文庫化リイシューされた『生きているジャズ史』(もとは東京創元社『ジャズの歴史』)のほうが上だ。断言する。
7月27日の僕の Instagram にはアップしてあるが、油井さんの『生きているジャズ史』、大いに泣けてしまったり、しかも泣く際に思わず声が出てしまうほど真に迫る文章のうまさで、そのときちょうど点滴中で、僕がウゥ!と声を出てしまったせいで女性看護師さんが次の瞬間に慌てて飛んできて、「どうしたんですか?戸嶋さん、大丈夫ですか?気分悪いんですか?」と心配され、泣いている理由を説明せざるをえない羽目になってしまったり。


今日7月28日に糖尿病治療で二ヶ月に一回通っている大病院での待ち時間でも続きを読んだ油井さんの『生きているジャズ史』。今日、最も面白く笑ってしまったのが「レコードをききながらの妄想」という一章(pp. 89 - 97)。なかでもとくにそのなかのワン・セクション「ご馳走と名演奏」だ。


結論から言ってしまうと、いい演奏をするためには美味しいご馳走を食べて満足しないと、あるいはそうなるように食べられるという見込みがないと、音楽もダメなのである、お腹が空いたままでその空腹を満たすのがいつになるやら分らない状態のままだとか、あるいは食べても粗末な食事だったりすると、決していい演奏はできないのである、ということで、まあ当たり前の話だよなあ。ジャズに、音楽に限らず、世の中なんでもそうじゃないか。


べつに油井さんのその「ご馳走と名演奏」を読む/読まないに関係なく、僕はむかしから料理好き人間で、美味しいご飯を食べるのも好きだが、つくるのも好きで、いまは自分一人のためにつくっているだけだが、結婚していた当時も食事をつくるのは常に僕だった。妻が料理下手だったとか、共働きだったので家事の妻夫での役割分担を考えてなど、そんな理由からなんかじゃない。たんに僕が料理したいだけだからやらせてくれ!と妻にお願いしていただけ。


料理だけでなく、僕はそもそも家事好きで、家のなかのことをいろいろやるのが、必要に迫られてではなく、やることじたいが楽しくてやっている人間であるのは、僕の Instagram アカウントをご覧になっている方はみなさんとっくにご承知のはず。



いっぽう外に出て働くのは嫌いな僕だから、もしかりに今後もう一度結婚することでもあれば、ぜひ妻のほうに専業的に働いてもらい、僕は家の中でもっぱら専業主夫をやりたいと願っている。音楽聴きながら(と言っても家事をしながらだと聴こえにくい場合があるが、換気扇とか掃除機とか水道とかさ)できちゃうしねえ。

しかし今後またもう一回僕が結婚できる可能性なんてゼロだとしか思えないのではあるが。


とにかく油井さんの『生きているジャズ史』にある「ご馳走と名演奏」には笑ってしまうのだ。笑うと同時に、こりゃこの通りだよなと大いに納得。日本にだって「腹が減っては戦ができぬ」という表現がむかしからあるし、アメリカのジャズ・メンでも、どこの国の人間でも、どんな職でも、万国共通普遍的に当てはまる真実だよね。


油井さんが例証にあげているのは二つ。一つは1930年代後半、テディ・ウィルスンのブランズウィック・セッションでビリー・ホリデイが歌うもの二曲。もう一つは何年のことか記載がないがルイ・アームストロングの来日公演の際の実地体験エピソード。後者の方は音源がないので、こっちから触れておこう。


油井さんによれば、サッチモの来日公演でも、楽屋でラーメンを食べたり、残り汁にチャーハンを混ぜて食べたりしていた夜には、彼は決して最高の演奏はしなかったのだが、神戸の聚楽館(もうないよなあ、1978年閉館だ)での二回目がはじまる前に、駐留米軍からの使者がやってきてこう言ったそうだ。


「我らが敬愛する偉大なるアームストロング様、当地の司令官がディナーを準備してお待ち申し上げております。」

油井さんが言うには、いったいなにをご馳走になったのか知らないが、その夜の二回目のステージでのサッチモは魂から躍動していた、滞日全期間を通じてまさしく最高の演奏を繰り広げたのだったと。


人間ってこんなもんだよね。サッチモほどの超一流プロフェッショナルになれば、腹が減っていようと粗末な食事だろうなんだろうと、聴衆の面前で披露する演奏が「一定水準」を下回るなんて事態は起きえない。しかし、その一本引いた線のギリギリ上を行くという程度の出来ならしばしばあったのかもしれない。それをグンと上廻り、はるか上空を飛翔するか否かは、やっぱり環境にもよるよなあ。

美味いご馳走で体も心も満足なら、充足してほかのことはどうでもいいとはならず、気力・体力ともにみなぎって、仕事方面でも上手く行くっていうもんじゃない?


油井さんがもう一個例証にあげているテディ・ウィルスンのブランズウィック・セッション。1935年7月2日録音の二曲「ワット・ア・リトル・ムーンライト・キャン・ドゥ」「ミス・ブラウン・トゥ・ユー」。この二つはビリー・ホリデイの名唱が聴けるので、彼女の CD10枚組完全集にも当然のように収録されている。まずご紹介だけ先にしておこう。
「What A Little Moonlight Can Do」  https://www.youtube.com/watch?v=YB_qFu1Lbec
この二曲、確かに素晴らしいなんてもんじゃない躍動感だ。以前ベニー・グッドマン関連でも僕は触れた。ベニーのクラリネットも最高にチャーミングだが、ロイ・エルドリッジ(トランペット)もベン・ウェブスター(テナー・サックス)も絶好調なら、ジョン・カービー(ベース)、コージー・コール(ドラムス)らリズム・セクションのノリも極上。
そして油井さんも指摘しているように、この二曲(とほか二曲)を吹き込んだ1935年7月2日は、その後1939年まで200曲以上を録音するテディ・ウィルスンのブランズウィック・セッション・シリーズのファースト・デイトだったのだ。そしてこれら二曲は、同じくビリー・ホリデイが歌い、こっちはレスター・ヤングらが参加した1938年録音の「ウェン・ユア・スマイリング」と並ぶ、テディのブランズウィック録音最高傑作だと呼んで差し支えないほどの出来栄え。


ここからが油井さんの妄想なんだけど、そこまで最高の出来栄えになっているのは、油井さんによればテディ・ウィルスンが、今日は僕の最初の(リーダー)吹き込みだから(その記念に)セッションが終わったら、あとで最高のご馳走をふんだんに食べてもらおうと準備しているんだよ、とスタジオのみんなに「一発ブったにちがいないと思うんです。」(『生きているジャズ史』立東社文庫 p. 94)。


確かに、このあと最高のお楽しみが待っているんだ、まさに美味しい料理が運ばれてくるときの食器のカチャカチャ鳴る音を耳にし、いい香りを嗅いだ際のワクワクする胸の高鳴り・期待感が、上掲二曲にはみなぎっているよね。油井さんは「うそだと思ったら聴きなおしてください」とまで書いている。この1935年7月2日、同じ日にもう二曲録音されているもの:「アイ・ウィッシュト・オン・ザ・ムーン」「ア・サンボネット・ブルー」のことには一切触れずに(爆)。
まあなんにせよ、得られる教訓はこれ:人の上に立つ者の心得としては、「今夜うんと奢るからな」という殺し文句でハッパをかけること。それで部下、サイド・メンは働く。

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