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2017/07/09

アメリカ音楽におけるアコーディオン

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昨2016年にフランスのフレモー&アソシエからリリースされた CD 三枚組コンピレイション『Accordion In Americas 1949-1962』。選曲・編纂・解説はテカ・カラザンスとフィリップ・ルサージュ。附属ブックレットにはフランス語解説文に続き英訳も載っているので助かるのだが、この編集盤、タイトルをよく見ないといけない。「アメリカズ」と複数になっている。もうこれだけで僕の言いたいことは分っていただけると思うけれど、以前から繰返しているように、America とはあの一国だけの呼び名なんかじゃない。南中北米すべてひっくるめての(カリブ海を含む)あの大陸の地理的名称だ。それらすべてを頭に入れた上でのものが、真の意味での「アメリカ」音楽なんじゃないかなあ。

『Accordion In Americas 1949-1962』の副題は「Brésil - Colombie - Mexique - Saint-Dominigue - USA」なので、最初からこれも書いておけばこんな解説は不要だったかもしれないが、それじゃあ入ってきていただきにくいんじゃないかと思ったのだ。複数形になっていることにうっかり気付かず、そっか、アメリカ音楽におけるアコーディオンかと興味を持っていただいて、それで迷い込んでもらいたかったのだ。

しかしうっかりアメリカ合衆国音楽におけるアコーディオンか、そうか、じゃあザディコとかテックス・メックスとかだなと思われると、この三枚組『アコーディオン・イン・アメリカズ 1949-1962』にはどっちも一つも収録されていないので、またもやガッカリされるかもしれない。がしかしザディコとかテックス・メックスとかはアコーディオンが大活躍する、というかそもそもこの楽器こそが主役の音楽じゃないか。だからそれらをこの編集盤に収録する必要はぜんぜんない。

『アコーディオン・イン・アメリカズ 1949-1962』三枚の編纂方針は(どこにも明記はないが)かなりハッキリしている。CD1がブラジル、CD2が北米合衆国ジャズ、CD3がカリブ海〜コロンビア〜メキシコ(&ちょっとだけ US )と鮮明に分割されているので、非常に聴きやすく分りやすい。文字サイズがすごく小さいので苦労するが、さほど詳しくはないブックレット解説文と、こっちは詳しくちゃんとしているディスコグラフィカルなデータ記載を眺めながら音源を聴いていると、ヨーロッパの楽器であるアコーディオンが新大陸でどういう役目を持っていたのか、いろんな考えが浮かんでくる。

端的に言えば、アメリカ新大陸におけるアコーディオンは<貧者のピアノ>だった。もちろんピアノみたいな鍵盤型じゃないアコーディオンだってあるけれど、やっぱり鍵盤型が主流なのでいちおうそれに話を限定するとしよう。ピアノは高価だし、部屋のなかに据え置いて弾くしかない楽器だし、音もかなりデカイ。ピアノ用楽譜などを買って、 仕事が終わった夜や週末などにそれを見ながら弾いて、家族や友人と和やかで暖かい時間を過ごす 〜 これはある程度裕福な中流以上のライフ・スタイルだ。

鍵盤はどの音がどこと目に見えるので、練習さえすればちょっとは弾ける。管楽器などとは、この<音の場所>が見えるという点が非常に大きな違いだ。ギターだって場所を目視できるけれど、ギター・フレット上でそれを眺めるのは、ピアノ鍵盤を見るのとはちょっと種類が違っているよねえ。だいたいピアノはある一つの音程を出す場所は一箇所のみ。対してギターでは同音程を複数箇所で出せる(ので、同じ旋律をいろんな弾き方でできるのがギター奏法上の面白さだけどね)。

だからピアノ用譜面を買ったり、買わなくても「ここはこの音」と思う場合、鍵盤楽器は音を拾いやすいんじゃないかと僕は思うんだよね(まったく弾けないのによく言えるな→自分!)。しかし書いたようにピアノを自宅に買って置いて弾くのは、ある層にとっては難しい(かった)。同じように鍵盤が並んでいるアコーディオンなら、まだ手が出しやすいという側面があったんだろうと僕は想像する。しかもアコーディオンは持ち運び容易だから、屋外で、友人宅で、その他どこででも演奏できる。

そんな具合で貧者・低層向けピアノだった(かもしれない)アコーディオンが新大陸アメリカで使われている音楽も、『アコーディオン・イン・アメリカズ 1949-1962』三枚組で辿ると、やはり貧乏人向けに貧乏人が演奏するストリート・ミュージックや、そんなような類のもの、あるいはそれが出自のものがほとんどだ。二枚目の北米合衆国ジャズだけがちょっとそうでもないようなラウンジ風のものが並んでいて、しかもどうしてだかぜんぶモダン・ジャズばかりなので(これはホントどうしてだ?)、貧乏人楽器でやる貧乏人音楽という、僕の『アコーディオン・イン・アメリカズ 1949-1962』解釈からは少し外れる。しかしながら、そのジャズを収録した二枚目は、目(耳)もくらむようなアコーディオン超絶技巧が聴けるので、それはそれでかなり楽しい。

『アコーディオン・イン・アメリカズ 1949-1962』一枚目のブラジル篇。中心はやはりショーロだ。全23曲のうち最もたくさん収録されているのがシキーニョ・ド・アコルジオン。こ〜れは貴重!だってシキーニョのアコ演奏を CDで聴けるものって、ほかにないだろう?唯一この三枚組だけじゃないかなあ。しかもかなりの名手だ。シキーニョのアコ技巧の見事さは、例えば七曲目の「ブラジレイリーニョ」だけでも容易に分る。 もともとカヴァキーニョ奏者ヴァルジール・アゼヴェードが超絶技巧を披露する目的で書き、ほかのカヴァキーニョ奏者も同目的で演奏するショーロ・ナンバーだけど、鍵盤だってこんな超速テンポでこんな細かいフレーズを正確に弾きこなすのは、もちろん同様に至難の技だ(管楽器では「早吹き」などとは言わない)。YouTube にはないが、1950年のトダメリカ録音。

『アコーディオン・イン・アメリカズ 1949-1962』一枚目のブラジル篇では、その他お馴染シヴーカ、ルイス・ゴンザーガなどが並んでいて、やはりショーロかショーロ風のインストルメンタル演奏が多い。同国のカルメン・ミランダが歌ったのが最も有名な「チコ・チコ・ノ・フーバ」だって、これはシヴーカが演奏しているのが六曲目に収録されている。そしてこれまた貴重なのが12曲目のジョアン・ドナートだなあ。いまやピアノやエレピやシンセサイザーなどの演奏家だとしか認識されていないかもしれないが。

ジョアン・ドナートで思い出したので書く。ピアノその他同族鍵盤奏者の<持ち替え楽器>というのもアコーディオンの大きな存在理由だ。鍵盤型の場合は同じ感覚で弾けるわけだから。そんなアルバム、いっぱいあるよね。ポール・マッカートニーの MTV アンプラグド・ライヴ『公式海賊盤』でも、ピアノ担当が持ち替えでアコーディオンも弾いていた。いやホント、いっぱあるので。

『アコーディオン・イン・アメリカズ 1949-1962』二枚目の北米合衆国モダン・ジャズ篇は、バディ・デフランコ名義の音源が最も多い。全23曲中8曲もある。言うまでもなくデフランコはクラリネット奏者で、その八つの音源でアコーディオンを弾くのはミルウォーキー生まれのトミー・グミーナ(1931-2013)。すべて1960/61年録音で、しかもボスであるはずのデフランコのクラリネットよりも、グミーナのアコーディオンを大きくフィーチャーしたようなものが多い。3曲目の「ポルカ・ドッツ&ムーンビームズ」、9曲目の「ストリート・オヴ・ドリームズ」、12曲目の「スクラップル・フロム・アップル」などなど。

それら、例えばバラードなどではアコーディオンならではの、あの暖かいボワ〜っていう音色が独特の情緒を醸し出していて、こ〜りゃいいね。バディ・デフランコのクラリネットは僕はイマイチ好きじゃないんだけど、クラの背後でもずっとトミー・グミーナが蛇腹でザ〜ッとやってくれているので、かなりいい感じのラウンジ風ジャズに聴こえ、モダン・ジャズだけどスウィング・ジャズっぽい雰囲気。

だが一つ、「スクラップル・フロム・アップル」だけはそうじゃない。このビ・バップ・ナンバーでだけはバディ・デフランコのクラリネットもトミー・グミーナのアコーディオンも、ものすごくスリリングな超絶技巧を聴かせる。そりゃビ・バップ・スタンダードだからなあ。クラリネットもさることながら、アコーディオンという楽器の持つなんだかのんびりとしたイメージ(があるんじゃない?)を根底からくつがえす弾きっぷりで素晴らしい。この1961年マーキュリー録音も YouTube にないのか。残念だ。

CD2収録のほかのジャズ・アコーディオン奏者のことは全部省略して、『アコーディオン・イン・アメリカズ 1949-1962』三枚目のカリブ〜コロンビア〜メキシコ篇に行かなくちゃ。でも僕はこのあたりの音楽で聴けるアコーディオンのことをあまりよく知らないんだよなあ。三枚目に一番たくさん収録されているのがコンフント・マドリガルなんだけど、メキシコの音楽家だよね。誰がアコーディオンを弾いているかは明記がない。五曲目の「ラ・イグエーラ」なんか相当いい演奏内容だと思うんだけどなあ。

その「ラ・イグエーラ」はテックス・メックス風でもある。いかにもライ・クーダーの作品でフラーコ・ヒメネスが弾いてますみたいな感じに聴こえる。今日最初の方で、『アコーディオン・イン・アメリカズ 1949-1962』三枚組にザディコとテックス・メックスは収録なしと書いたけれど、テックス・メックスの方だけは親戚関係のものがあるんだよなあ。

『アコーディオン・イン・アメリカズ 1949-1962』三枚目に二曲収録されている、バミューダ(英国領)のタルボット・ブラザーズも嬉しい。なかなか CDで聴けないもんで。 英語圏だから英語で歌手が歌っているけれど、北米合衆国音楽風なニュアンスは聴きとれない。二拍子系で跳ねるリズムも完璧なカリビアン・ミュージックだ。19曲目の「バミューダズ・スティル・パラダイス」の方は、セバスティアン・イラディエールの「ラ・パローマ」のパターンだ。すなわちキューバのアバネーラ風。

「ラ・パローマ」風、というか正確にはキューバのアバネーラ風なリズム・パターンを使ってあるものは、『アコーディオン・イン・アメリカズ 1949-1962』三枚目にはたくさんあって、いちいち指摘するとキリがない。アフリカン・ルーツのカリンダとかベレとかが土台になっている汎カリビアン・ミュージックだってことだよね。『アコーディオン・イン・アメリカズ 1949-1962』三枚目は、一枚目・二枚目とは明らかにリズムのフィーリングが大きく異なっている。アコーディオン奏者もザ〜ッと長めに蛇腹を動かすのではなく、歯切れよくザッ・ザッと短いフレーズをリズミカルに刻んでいる。

あ〜、ってことはルーツ的には同族楽器であるバンドネオンを使ったアルゼンチンのタンゴでもそんな刻み方をしているものがたくさんあるし、タンゴのリズム・スタイルもアバネーラ由来だし、やはり同じ「アメリカ」だし、四枚目を足して、アルゼンチン・タンゴも『アコーディオン・イン・アメリカズ 1949-1962』に収録したらよかったのになあ。

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