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2017/08/27

人生、チャンスは一度きり 〜 モントルーのレイ・ブライアント

Alone_at_montreux








「アフター・アワーズ」というピアノ・ブルーズ・クラシックは、僕の場合、レイ・ブライアントのソロ・ピアノ演奏で知ったんだった。もちろん例のアトランティック盤『アローン・アット・モントルー』。ブルーズの得意なジャズ・ピアニストだから、もっと前に録音・発売されたものがあるかもしれない。また録音されないライヴ演奏でなら、間違いなくかなり前からレイは「アフター・アワーズ」あたりはやっていたはずだ。

アースキン・ホーキンズ楽団のピアニスト、エイヴリー・パリッシュが1940年に書き、同楽団で作者自身をフィーチャーし初演した「アフター・アワーズ」。黒人国歌とまで呼んだ人もいる曲だが、この曲の持つそんなような意味合いが、正直言うと、以前、僕にはどうもピンと来ていなかったのだった。ふつうのジャズ・ピアノ・ブルーズとして、レイ・ブライアントだけでなく本当にいろんな人がやっているので、なにも考えず楽しんできた。12小節定型だしなあ。

ただまあ「アフター・アワーズ」が持つ、あの一種独特な、なんというかレイド・バックしたようなフィーリングと、タメの効いたディープなノリは、やっぱり黒人音楽だけあるよね、それも1940年初演という時代にフィットしたものだよね、つまり要するにスロー・ジャンプだよねと、間違いなく僕も思う。しかし、ジャンプはジャズの一部ですからゆえ〜。「アフター・アワーズ」なんかは完全にスタンダード化していて、特に黒人色を押し出さないジャズ・ピアニストだってふつうにどんどんやっている。

レイ・ブライアントはというと、まあやっぱり黒人色を全面的に打ち出すようなジャズ・ピアニストなんだろうなあ。ブルーズ・ナンバーの弾き方なんか聴いていると、これは間違いない。…、とこう書いたが、レイのこの一番の特徴が、誰でもはっきり鮮明に分るようになったのは、実を言うと、上述1972年のアトランティック盤『アローン・イン・モントルー』によってだったんだよね。そして、レイ・ブライアントという、こんなにも素晴らしいピアニストがいるんだということが、全世界のジャズ・ファンに広く一般的に認識され人気も出たのが、この72年のライヴ・アルバム以後なのだ。つまり、それまでだって長く立派なキャリアを持ち、実力も一流であるにもかかわらず、72年のモントルーまでレイは知る人ぞ知るという存在でしかなかった。

これは超有名エピソードだから書いておく必要もないだろうが、レイ・ブライアントの『アローン・アット・モントルー』になったパフォーマンスが行われた1972年6月23日のモントルー・ジャズ・フェスティヴァルには、本当ならオスカー・ピータースンが出演するはずだった。それもソロ・ピアノで。しかし、ピータースンは(本当かどうか知らないが)ソロ・パフォーマーとしての準備不足を理由に、突然出演をキャンセル。それで主催者側が急遽代役として抜擢したのがレイ・ブライアントだった。

しかしどうしてレイ・ブライアントだったんだろう?1972年にソロ・ピアノで立派なライヴ演奏ができるジャズ・ピアニストは他になんにんもいたと思うのだが、モントルー・ジャズ・フェスティヴァル側は、とにかくレイに白羽の矢を立てたのだった。立てられた側のレイとしては、まずそれまでヨーロッパで公演を行ったこともなく、またライヴ・コンサート全編丸ごとソロ・パフォーマンスを繰り広げた経験も、こっちはアメリカ本国ですらも、まだ一度もなかったはず。

しかしこれはレイ・ブライアントにとっては千載一遇の大チャンスだったんだよね。人生でたった一回巡ってくるかこないかというような大チャンスで、一世一代の大勝負だった。1972年6月23日のソロ・ピアノ・ステージをほぼ全編ブルーズ・ナンバーで行くと決めたのは、間違いなくレイ本人の意向だろう。人生を賭けるたった一回しかない勝負の場で、ただでさえ緊張度はマックスに達すると本人もあらかじめ自覚できたはず。じゃあ自分はブルーズこそが自家薬籠中のものなんだから、それで通せばパフォーマンスが成り立つんじゃないかっていう、そんな算段だったんじゃないかな。

そのレイ・ブライアントの目論見が成功したかしないかなんて、いまさら僕がなにも言うことなんてない。アルバム『アローン・アット・モントルー』を聴く人全員が分ることだから。しかし、直前で書いた「自分はブルーズこそが自家薬籠中のもの」だとレイ自身が考えたはずだというのは、もちろん結果になったアルバムを聴いて僕も判断しているわけで、このモントルー・ライヴ盤以前には、ブルーズが得意なピアニストだと仲間内のジャズ・メンなら全員知っていたはずだが、世間一般のファンはまだそこまで認識できていなかったんだよね。

レイ・ブライアントの『アローン・アット・モントルー』。CD だと五曲目の「アフター・アワーズ」こそが、その後の僕のアメリカ黒人音楽人生を考えたら最も意義深い一曲で、演奏内容も実際素晴らしいと思う。レイ自身の曲紹介では「私の知る限り現存する最も古いブルーズ・ピースの一つです、それを演りたいと思います、世界で最も偉大なピアノ・ブルーズ・ソロ、エイヴリー・パリッシュの”アフター・アワーズ”」となっている。演奏の展開はお馴染のまま。「世界で最も偉大なピアノ・ブルーズ・ソロ」も同感だが、「現存する最も古いブルーズ・ピース」とはちょっとおかしいよね。まあでも MC だから瑣末なことだ。

僕がレイ・ブライアントの『アローン・アット・モントルー』で最も好きなのは、しかし「アフター・アワーズ」ではなく、オープニングの2トラック「ガタ・トラヴェル・オン」と「ブルーズ #3/ウィロー・ウィープ・フォー・ミー」なんだよね。前者はレイ自身もしゃべっているがアメリカ南部に古くから伝わるフォーク・ブルーズ・ピース。後者はレイのオリジナルと有名スタンダードとの合体メドレー。

「ガタ・トラヴェル・オン」なんか、これ、本当に公の面前、しかもモントルー・ジャズ・フェスティヴァルみたいな舞台における、人生初のソロ・ピアノ・パフォーマンスだったのか?そんな(マイナス方向での)緊張や気負いなんてちっとも感じられないほどの躍動的なフィーリングだよなあ。

2トラック目のメドレーでは、リラクシングというかレイド・バックしたスロー・ブルーズでのレイ・ブライアントの絶妙な上手さがよく分る優れたパフォーマンスで、こういったくつろいだジャズ・ブルーズ演奏が大好きな僕にはたまらない味わい。しかも右手のタッチは一点一画たりともおろそかにしない丹念さだなあ。さすがに20年以上にわたり一流ジャズ・ピアニストとしてやってきただけあるという風格が感じられる。「アフター・アワーズ」その他、ジャンプ系ジャズ・ブルーズでよく聴ける、三連の反復を叩き盛り上げるパターンが、それも終盤ではなく中盤のチェンジ・オヴ・ペースとして使われているのも面白い。

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