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2017/10/31

原田知世と鈴木慶一の世界(1)〜『GARDEN』

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原田知世のフォー・ライフ盤アルバム『GARDEN』(1992)。ムーンライダーズの鈴木慶一がこの歌手をプロデュースした三作品のなかでいちばん最初に出たものだが、僕にはこれがいちばん面白い。端的に言うと、これはデジタル・テクノなエスノ・ポップだ。10年くらい遅れて日本に来たトーキング・ヘッズみたいで、だからロック・フィールドのエスニシティに興味がある洋楽ファンにもオススメする。

アルバム『GARDEN』。誤解をおそれずに言うならばヴォーカルは原田知世でなくともよかった。鈴木慶一の創りだす音空間のなかで歌手が軽々と舞っていて、いやあ、しかしこんなサウンドでこんなにフワッと軽く乗って歌えるのは、やっぱり知世しかいないのかなあ。無個性にも思える知世の声と歌いかたが、このサウンドに実によく似合っている。

僕が原田知世に出会った伊藤ゴロー・プロデュース作品群(といっても1980年代前半の角川期に耳に、目に、していたはずだが)でもまず感じたことだけど、知世の資質ってもとからデジタルな感触があると思うんだよね。声質や歌いかたやフレイジングや、そもそもノン・ヴィブラート・ヴォイスだしね。ちょっと無機的。伊藤ゴロー作品ではそれがすごく高い次元でサウンドにピタッとハマっているのだが、鈴木慶一作品では、また別の意味でサウンドとヴォイスの高次元トータリティが実現している。

ただ伊藤ゴロー作品のばあい、軽くソフトでアンビエントふうなサウンドが多い(その半面、ブラック・ミュージック的にファンキーなものもある)のだが、例えば『GARDEN』で聴ける鈴木慶一サウンドは、やっぱり強靭な感じだ。なかにはストリングスをメインに配したジャズ・ナンバー仕立ての4曲目「Walking」や、また弦楽四重奏の伴奏だけでやった、角川期の曲のセルフ・カヴァーであるラスト11曲目の「早春物語」などもあるが、アルバムのメインはデジタルなビートの効いたエスニック・ナンバーだ。

それらでは生演奏楽器も随所で使われているので、某所で書いた「ぜんぶコンピューター・サウンドかも」との自発言は撤回しなくちゃいけないが、それでもやっぱり音の組み立ての中心はデジタル・サウンドで、実際、ブックレットを見ても、それらでは全曲プログラマーの名前がトップに掲載されている。

しかも(日本内外の)アジア音楽ふう、アフリカ音楽ふう、カリブ音楽ふうなど、鈴木慶一のプロデュースで世界を旅した結果が、室内にあるコンピューターで(いい意味で)こじんまりと整って庭園のなかにきちんと並べられているかのようなアルバムに仕上がっているんだよね。そう、室内楽だ、これは。チェインバー・ミュージックなんて、外へ向かうような部分があるロックと正反対のイメージだろうが、原田知世のヴォーカル資質はそういうものによく似合っている。

原田知世はだいたい声量の小さい歌手だし、ヴォブラートもまったくなし、コブシもメリスマなんかも当然ゼロ。小さな声でそっと優しく、まるで耳元でささやいているかのような歌いかた。こう書くと、僕なんかはあのアメリカ黒人ジャズ・トランペッターのことを連想しちゃうんだよね。マチスモ的イメージがつきまとうトランペットなのに、あの人は音量も小さいストレート・サウンドで女性的な表現法をとった。

原田知世の『GARDEN』では1曲目の「都会の行き先」がまるでアフロ・ポップみたいで、これはまさに10年熟成の日本版『リメイン・イン・ライト』みたい。だが僕の耳を強く惹いたのは2曲目の「さよならを言いに」だ。作詞作曲編曲すべて鈴木慶一で、この曲は沖縄音階を使っていて、しかもリズムはレゲエで、さらに途中のピアノ・サウンドにダブふうな処理が施されている。その他いろんなジャマイカ音楽ふうのサウンド・エフェクトが挿入されている。

「さよならを言いに」。アルバム・ヴァージョンは当然のように YouTube で見つからないので、テレビのなにかの歌謡番組に原田知世が出演した際のものをご紹介しておく。どんな曲だか、だいたい分っていただけるはず。ってかこれはカラオケ伴奏で、ひょっとしてアルバム・ヴァージョンの伴奏をそのまま使っているの?歌もリップ・シンクかもしれない。長さが半分になっているが。
また、こういったちょっと面白いヴァージョンもあったのでご紹介しておこう。鈴木慶一にくわえ、佐野史郎(がギター人間であるのは有名なはず)が参加して、アクースティック・ギター・デュオの伴奏で、「さよならを言いに」を原田知世が歌っている。レゲエだとかダブだとかの面白さは消えて、ふつうのポップ・チューンになっているが、なかなかいいじゃん。
アルバム『GARDEN』のなかで、「さよならを言いに」の次に僕のお気に入りが8曲目の「夢迷賦」。これは中国大陸音楽の趣なんだよね。パーカッショニストの名前がないので、その打楽器サウンドもコンピューターで創っているんだろうなあ。 中国琴(古琴)のような音も目立っているが、それもデジタルなんだろう。原田知世が歌う主旋律も中国ふう。書いたのは崎谷健次郎で、アレンジも崎谷となっている。ネットに音源が見つからないのが残念。Spotify にもないなあ。

6曲目「中庭で」、9曲目「ノア」もアフロ・ポップな強靭なリズムとサウンド。デジタル・ディヴァイスでそんなサウンドを創りあげヴォーカルを乗せる手法は、トーキング・ヘッズ、というかデイヴィッド・バーン&ブライアン・イーノ以来たくさん出現したが、1992年の原田知世&鈴木慶一の『GARDEN』は、サウンド・メイカー鈴木とヴォーカル・パフォーマー知世が組んで生み出した、そんななかでもかなり稀有な優秀作だ。

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コメント

 このブログを発見してそんなに時間がたってないのですが、ブログを読んでレコード棚をひっかきまわしたり、レコ屋に走ったり、youtube見たり(Spotifyって何?というレベルですが)、コメント書いたり(ご迷惑かもしれませんが)と楽しんでいます。感謝!

 『GARDEN』は持ってなかったのですが、次作の『カコ』(これはヒットポップスカバーなので買った)や、原田知世が鈴木慶一、トーレ・ヨハンソンと二股かけてる『クローバー』を20年ぶりぐらいに聞いた。『カコ』も確かにデジタル・テクノだった。買ったときはほとんど聞いた記憶がない『クローバー』はトーレ制作のものでのびのびと歌ってるのが気に入った。

 

迷惑なんてことはぜんぜんなくって、コメントが付くのはうれしいもんですから、どうか気がねなくどんどん書いてください。

原田知世は、鈴木慶一のプロデュース作、トーレ・ヨハンソンのプロデュース作、近年の伊藤ゴローのプロデュース作と、これら三種はどうやら必聴のようです。

僕は伊藤ゴローのやった原田知世がいちばん好きです。『恋愛小説』『恋愛小説 2』をぜひに。レンタルCDショップなどにも置いてあるようですから。

http://hisashitoshima.cocolog-nifty.com/blog/2017/06/1-26d8.html
http://hisashitoshima.cocolog-nifty.com/blog/2017/08/2-8ad4.html

 おススメのうち洋楽カバーの恋愛小説』を買ってみました。
素晴らしいです。紹介していただいて感謝します。
どの曲も良いですが、私はアマゾンの書き込みでは不評の声もあった「ラブ・ミー・テンダー」が
エルヴィスとは全く違う淡々とした歌いぶりで、とりわけ気に入りました。

でしょう〜!僕も嬉しいです!

シングル版(Silvyのカップリング)ですが。
<https://youtu.be/r_koC_xPyh0>

シングル版(Silvyのカップリング)ですが。
https://youtu.be/r_koC_xPyh0

ありがとうございます。YouTubeにあるんですね。助かります。「さよならを言いに」が見つかるともっと嬉しいです。

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