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2017/10/22

あぁ、ナンシー、あなたはなんて素晴らしい光 〜 祭 2

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ああ書いたら、やっぱり僕の性分からして案の定我慢できなくなって聴き狂ってしまったのだった。カーボ・ヴェルデの女性歌手ナンシー・ヴィエイラの2007年作『ルース』。昨日も書いたが、ここまで素晴らしく光っているアルバムだとは、当時買って聴いたときにぜんぜん気が付いていなかった(恥)。それで早速書きたくなったのだ。

ところでこのアルバム、ポルトガルの HM ムジカ原盤なんだね。ここ、例のファド歌手ジョアナ・アメンドエイラが所属するところだ。ってことはナンシー・ヴィエイラの『ルース』もそのツテで世界に広がり、日本でも買える、日本盤もあるってことなんじゃないのかな?かな?っていうより、きっとそうに違いない。このことも気が付いていなかった。

ナンシー・ヴィエイラの『ルース』では落ち着いたシットリ系の曲と、快活で陽気なビートの効いた感じの曲がバランスよく、ほぼ交互に並べられている。昨日も書いた同国のモルナ、フナナー、コラデイラ、バトゥーケ(っぽいようなもの)がぜんぶ出てくるものの、カーボ・ヴェルデ音楽新世代のナンシーらしく新感覚でモダンなフィーリングで再解釈され料理されていて、しかもかなりブラジル音楽要素が濃く、さらにペルーのランドーや、キューバのボレーロもあるっていうような具合。

『ルース』一曲目のタイトル・ナンバーはペルーの黒人音楽ランドーなんだよね。ギター中心と、その他少しの伴奏でしっとりとバラード調歌謡ふうに歌いはじめるのだが、途中からカホンなどの打楽器が賑やかになってきて、ダンス・ミュージックに変化する。男性の掛け声が入るあたりもランドーっぽい。終盤で聴こえるウッド・ベースの音が野太くていいなあ。
二曲目の「チョーロ・カンタード」(Tchoro cantado)は、リズムのスタイルもアコーディオンが入るところもやっぱりフナナーなんだろうが、やや新感覚だ。まったく泥臭くなくオシャレに洗練されていて新鮮だ。曲題の “Tchoro” とは、ブラジル音楽でいうショーロと似たようなことなんだろうか?でも音楽的にショーロっぽい要素は聴きとれない。特に泣いているようなサウダージもない。”cantado” だから歌うショーロのカーボ・ヴェルデ版ってことかなあ?後半ではやはりリズムを強調し、ダンス・ミュージックに化ける。

三曲目「愛の真実」(Verdade d'Amor)はゆったりテンポの歌謡曲でモルナだなと思っていると、四曲目「青い海の希望」(Esperança de mar azul)で〜〜、来た来た!これぞサウダージ溢れるボサ・ノーヴァだ。どこからどう聴いてもブラジルから入ってきたボサ・ノーヴァにしか聴こえない。これが!超カッコイイぞ!楽しくて美しい。踊ってよし、聴いてよし、泣いてよしの完璧な一曲だ。特にこのピアニストはだれだろう?素晴らしい。録音が極上なせいもあるだろうが、ボサ・ノーヴァにキューバン・スタイルを混ぜたみたいなチャーミングな弾きかたで耳を奪われる。ハーモニー感覚のモダンさもボサ・ノーヴァから学んだんだろう。男性歌手はティト・パリス、ってだれ?
いやあ、この4曲目「青い海の希望」があまりにも素晴らしすぎるので、こればっかりリピート再生してしまうのだが、ほかの曲のことも書いておかなくちゃ。この4曲目に少し似た、サウダージ横溢のブラジリアン(or アフリカン)・グルーヴ・チューンは、ナンシーのアルバム『ルース』だと、ほかに5曲目「悪い世界」(Mundo rabés)、ちょっとテンポが落ちるが6曲目「温厚なヤクザもの」(Manso malondre)、10曲目「ニャ・クマードゥレ」、11曲目「私たちの贈り物」(Nõs dom)あたり。

これらのうち、5曲目はテンポ速めのフナナー。6曲目はこれまたブラジル由来のサンバでミドル・テンポに近く、ゆったり大きくノリながら、伴奏のリズムの刻みは細かいっていう、サンバ(やショーロなど)ではよくあるパターン。10曲目はいちおうバトゥーケなんだろうが、昨日書いたようなプリミティヴなもの、すなわち足踏みと手拍子+ヴォーカルのコール&レスポンスで構成されているようなものではぜんぜんない。グッとモダンに洗練されていて、これもやはりボサ・ノーヴァ以降のブラジル新世代から学んだものなのかも。上で書いた4曲目とならび、ナンシーのアルバム『ルース』のハイライトじゃないかな。
11曲目「私たちの贈り物」はコラデイラだけど、これもブラジル音楽の要素が濃く、サウダージ(はもとはポルトガルのものだから、ブラジル音楽から学んだわけじゃないだろうが、なんだかちょっと、ファドみたいなものとは違うフィーリングがあるよ)といい、リズムの感じといい、楽器編成といい、やはりボサ・ノーヴァ由来じゃないかなあ。つまりナンシー・ヴィエイラは、カーボ・ヴェルデの伝統音楽をブラジル新世代ふうに再解釈し、現代的な音楽として聴かせてくれている。いいなあ、これも。
これら、特に4曲目「青い海の希望」と11曲目「私たちの贈り物」の二つがあれば、すごく幸せな気分にひたっていられる僕。7曲目「熱烈な心」(Coração vulcão)とか9曲目「これがモルナ」(É morna)とかは完璧なモルナで、しっとりバラード。でも伴奏楽器編成とそのサウンドは伝統的ではなく現代ふう。二曲ともナンシーの優しく情深いところが沁みてくる。特に9曲目の出来が素晴らしい。歌詞もモルナという音楽とはこうなのよというものをモルナ・スタイルでやるっていう、いわばメタ・ミュージック。それを表現するのにふさわしい深みと風格のある歌唱だ。風格のほうは旧宗主国のアマリア・ロドリゲスを思わせるところすらある。
ナンシー・ヴィエイラのアルバム『ルース』のしめくくり、ラスト12曲目は、ちょっとビックリの古いキューバン・ボレーロ・スタンダード「ペンサミエント」。これは伴奏も歌いかたもボレーロ・スタイルに忠実で、現代カーボ・ヴェルデ音楽ふうな料理をせず、そのままやっている。ナンシーは古い歌手の録音ではなく、おそらくはオマーラ・ポルトゥオンドあたりの新しめのヴァージョンを下敷きにしているんだろう。しっとりした情感が漂っていてなかなかいい。

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コメント

 祭1を読んだときはカーボ・ヴェルデが国名ということさえ分からなかったし、ましてや何処にあるかも知らなかった。
 インド洋側のターラブとか聞いて面白いと思ったけど、大西洋側にもこんな面白い音楽があるとはね。
 文中にあった、セザリア・エヴォラ、ナンシー・ヴィエイラやマイア・アンドラーデなど少し聞いてみたけど、たしかに「青い海の希望」「ニャ・クマードゥレ」は最高。

でしょ!チャーミングですよね。なんでもカーボ・ヴェルデの音楽は、旧ポルトガル圏の国の音楽では、ブラジルに次ぐ第二位の人気を誇るんだそうです。

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