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2017/11/17

マイルズのカリブ&ラテン&アフリカ(2)〜 パン・アトランティック・グルーヴ




マイルズ・デイヴィスが(ギル・エヴァンズとのコラボレイションで)1968年の6月と9月に録音したアルバム『キリマンジャロの娘』から、1975年夏の一時隠遁前のラスト・スタジオ録音である同年5月の「ミニー」まで、マイルズのやったカリビアン〜ラテン〜アフリカンなジャズというと、鮮明なのは五曲だけ。録音順に「キリマンジャロの娘」「フルロン・ブラン」、それから「カリプソ・フレリモ」「マイーシャ」「ミニー」。

だけど、このころ、特に1970年代のマイルズ・ミュージックでは、特に鮮明でなくとも中南米〜アフリカの音楽を志向する部分があった。いちばんはっきりしているのがポリリズムで、もはやジャズの保守本流ビートは、この時期、かえりみられなくなっていて、ファンク度をかなり強めていた。マイルズのばあいも、そのポリリズミックなファンク・ビートにはラテン〜アフリカンなアクセントが、そこはかとなくではあっても、漂っていたのだ。

この事実はマイルズだけのことじゃない。そもそも北米合衆国のファンク・ミュージックとは、ラテン音楽をルーツの一つにしていたような部分がある。反復しながら強く跳ねてシンコペイトするリズム・パターンなどは、間違いなくラテン・ビート由来だ。マイルズだって、直接はジェイムズ・ブラウンやスライ&ザ・ファミリー・ストーンから学んだんだろうが、これら二者の音楽にラテン・アクセントがあることを、鋭敏に嗅ぎ取っていたはずだ。

マイルズのばあい、ファンク・ミュージックとの出会い以前からラテン要素があったことは、先々週と先週金曜日の文章で指摘したし、またジャズ・ミュージックはそもそもそういうものとして産まれ流れてきたものだということも、前から指摘してある。ジャズにあるそんなラテン要素は、1940年代のジャンプ・ミュージックを経て、その後のリズム&ブルーズ、ロック、そしてファンクへも受け継がれたので、じゃあ<アメリカ>音楽ってなんなんだってことになっちゃうなあ。ラテン・アメリカ音楽との境界線を、英語/スペイン語ということ以外で引けるのか?という根源的な問いが頭をもたげてくる。

そんな根源的な疑問は、1970年代マイルズを聴いていると、やはり強く持つものなんだよね。だからいちばん上でご紹介したプレイリスト作成には、少し時間がかかった。最初に書いた五曲はあまりにも鮮明だけど、そうでなくともラテン/アフリカン・ジャズなんて至るところにあって、マイルズ・ミュージックのなかに消化されて溶け込んで具現化しているから、いったん気になりはじめると、アッこれも、これもだ、となってしまって、ぜんぶ入れないとダメじゃないかという気がしてきたのだった。

それでも絞りに絞った結果、やはり長めの三時間弱のものになってしまったのだ。Spotify のリンクを貼ったプレイリストに入れなかったものでも、中南米音楽やアフリカ音楽の痕跡があるなと感じる曲、トラック、テイクは多いので、その点はご承知おきいただきたい。

オープニングを『キリマンジャロの娘』から(アルバム収録順ではなく録音順に)二曲チョイスしてある。曲「キリマンジャロの娘」は、1968年6月21日のセッションでの録音で、マイルズが率いたかのセカンド・レギュラー・クインテットのラスト録音だ。すでにハービー・ハンコックもロン・カーターも楽器をエレクトリックなものに持ち替えている。これと、九月録音でチック・コリアやデイヴ・ホランドといった新バンドになった「フルロン・ブラン」は、本当に面白い。

この「キリマンジャロの娘」「フルロン・ブラン」二曲のことは、いつになるか分らないがアルバム『キリマンジャロの娘』一枚をフルでとりあげた文章にするという腹づもりでいるので、今日は書かない。聴けばだれでもサウス・アフリカン・ジャズだと分るほど鮮明、というか露骨にマイルズの学習成果が表面化していて、う〜ん、いま2017年末の僕としては、マイルズが残した1949〜91年の全アルバム中『キリマンジャロの娘』が最も面白いようなきがしてきている。だ〜れもそんなこと言わんけれどもだなぁ。

そんなわけで話はプレイリストのその次「スプラッシュ」「スプラッシュ・ダウン」となるのだが、これらは1968年11月の録音で、当時は未発表のままだった。といっても前者だけは短縮編集ヴァージョンが1979年リリースの LP 二枚組未発表集『サークル・イン・ザ・ラウンド』に収録されてはいた。後者は完全未発表のもので、前者のフル・ヴァージョンとあわせ、2001年のレガシー盤ボックス『ザ・コンプリート・イン・ア・サイレント・ウェイ・セッションズ』で日の目を見た。

「スプラッシュ」も「スプラッシュダウン」も、曲調がカリビアンなばかりか、なかでも特にトニーのドラミングに鮮明にラテンふうポリリズムを聴くことができる。チックとハービー二名同時演奏のフェンダー・ローズも、コード・ワークやトーナリティに南洋ふうのものを聴きとれると僕は思う。しかもかなりファンキーだよね。アメリカ黒人音楽で聴けるようなファンキーさだ。ってことはつまりやっぱりああいったファンクネスは、ラテン由来だったのかも。

これの次が1969年8月21日録音の「スパニッシュ・キー」で、アルバム『ビッチズ・ブルー』に収録されてリアルタイムで発表されていた。曲題どおりスパニッシュ・スケールを使ったところに最大の特色があるものだ。中南米音楽も、リズムはアフリカ由来かもしれないが、旋律の創りかたはスペイン(やポルトガル)人が持ち込んだものがあるので、1969年8月21日のマイルズも、スパニッシュ・ナンバーをやりながら、リズムはアフリカ大陸のほうを向くということをやっているんじゃないかなあ。僕にはそう聴こえるけれど、みなさんどうでしょう?

「スパニッシュ・キー」に続く「グレイト・エクスペクテイションズ」「オレンジ・レイディ」は、最初1974年リリースの二枚組 LP『ビッグ・ファン』に、一枚目 A 面いっぱいを占めるメドレー形式で収録されていた。69年11月19日録音で、もちろん別個に演奏されたもの。でもつなげたテオ・マセロはやはり素晴らしかった。同日録音だからということもあって、サウンドに統一感があるし、さらにどっちもラテン、というかブラジリアン・ジャズっぽい。

「グレイト・エクスペクテイションズ」にも「オレンジ・レイディ」にもアド・リブ・ソロはなく、三本の管楽器はただひたすら同じモチーフを反復するばかり。だからソロ演奏を聴きたいふつうのジャズ・リスナーにはオススメできないが、モチーフ反復の背後で、主に複数の電気鍵盤楽器が織りなすサウンド・テクスチャーのカラフルな変化や、リズム・セクションの演奏するビート感のやはりカラフルさや動きかたの変化に聴きどころがあるはず。僕はこういうの悪くないと思うんだけど、マイルズ愛好家にもジャズ・ファンにも、そしてそれ以外の音楽リスナーにも、きわめて評判が悪い。

8曲目の「デュラン(テイク4)」は、『ザ・コンプリート・ジャック・ジョンスン・セッションズ』からとったもの。ふつうのアメリカン・ファンク・チューンで、1970年3月17日録音。右チャンネルで叩くビリー・コバムが(この時期のマイルズ・スタジオ・セッションで叩くものはぜんぶそうだけど)えらくファンキーなドラミングでカッコイイ。タイトで斬れ味良く、しかし複雑なポリリズムを表現しているあたりに、僕はラテン/アフリカ由来のリズム・ニュアンスを感じとるので、今日のプレイリストに選んでおいた。ふつうのファンクだけど、ふつうのファンクがそもそもアフリカ志向の音楽だったから…、って上でも書いたので。

9〜13曲目は、もちろん『ザ・コンプリート・オン・ザ・コーナー・セッションズ』からの選曲。今日の話題からするとあまりにも鮮明な、10「カリプソ・フレリモ」、12「マイーシャ」、13「ミニー」のことは書いておく必要がないはず。このあたりの(リアルタイム・リリースだと)『ゲット・アップ・ウィズ・イット』期のマイルズ・ミュージックでは、ラテン・ファンク路線が一つの売り物だった。

がしかし、9曲目「チーフタン」や11曲目「エムトゥーメ」などで聴ける、リズムがちょっとよれて突っかかるような変拍子系ポリリズムや、また、リズム・セクションは小さく細かく刻むのを繰り返しながら、上物の管楽器ソロ(はふつうの音楽でいえばヴォーカルだ)は大きくゆったりと乗りうねるあたりのフィーリングとか、そのへんにもアフリカ音楽の影響を僕は強く感じる。

バックは細かくせわしなく刻みながら、同時にトランペットやサックスその他上物が大きく乗って、この感覚の異なる二種類が同時に(ぶつかりあいながら)進むことで、その波動で独自のグルーヴが産まれるんだよね。それはどこの国のどの音楽がというんじゃなく、ほぼ全世界のいろんなアフロ・クレオール・ミュージックに共通するものだ。このころのマイルズもまた、その一翼を担っていたのだった。

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