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2017/11/18

スアド・マシさんご本人に直接謝りに行きたいレベルです

(Spotify にあるこのアルバムは全17曲だけど、僕の持つ同じ人の同じタイトルの CD は14曲の収録です。)



現在、パリに住みフランスを中心に活動する女性歌手スアド・マシ。出身はアルジェリアで、ベルベル人(カビール系らしい)。いままでに六枚だったかな?ソロ・アルバムが出ていて、今世紀のマグレブ音楽家としては最も面白い存在の一人かもしれない。聴くと、やっぱりいかにもアルジェリア音楽だという部分があって、伝統的なシャアビなどを基調としながらも、広くマグレブ音楽を吸収し、それに米英産のロック・ミュージックをブレンド。さらにこれはどうだか自信がないが、ポルトガルのファド歌手の歌いかたの影響もあるような…、気がするけれど、どうだろう?

いまでは僕も大好きなスアド・マシなんだけど、わりと最近までこの音楽家の魅力に気がついてなくて、ずっと苦手だなあ〜って思っていたのがどうしてだったのか、いまとなっては自分でもぜんぜん理解できない。だいたい僕がスアド・マシを最初に買ったのは(どのアルバムからだったかは忘れちゃった)、アルジェリアの歌手だということだったからであって、マグレグ音楽好きの僕としては聴き逃せないだろうと思ったのだ。

ところが、ホントどのアルバムだったか、聴いてみても濃厚なアラブ節が聴こえず(とそのころは思っていた)、若手歌手でも、例えばパレスチナのムハンマド・アッサーフ(はそろそろ二作目を出してほしい)みたいな、濃厚なアラブ古典歌謡の発声とコブシ廻が好きな僕だから、スアド・マシにはそれがないように最初のころは聴こえていて、なんだかアッサリしてんな〜、そっかアルジェリアのジョーン・バエズとか呼ばれてんのか、それじゃあ僕はちょっと遠慮したいなぁっていう、そんな気分だったんだよね。

昨年暮れか今年頭ごろに、ちょっと気を取り直してという気分でもういっかいスアド・マシを、っていうか僕のばあい、気に入らなかった音楽 CD も処分せずに部屋のなかで寝かせておいて、しばらく置いて時間が経ってのち、ふたたびチャレンジするという人間なわけで、するとこ〜りゃ素晴らしい!と世間に大きく遅れて感動することがしばしばあるんだ。だからさ〜、やっぱ音楽 CD なんかをそうそう処分しちゃダメなんだってば。

そんなわけでスアド・マシも聴きなおして、あぁ〜、こりゃ素晴らしい、どこがアラブ色が薄いもんか!たっぷり濃厚じゃないか、シャアビなどのアラブ音楽が最大のベースになっているぞ、たしかにフォーキーな音楽性があるかもしれないが、あんまりフォーキーフォーキー、ジョーン・バエズバエズだとか言わないほうがいいぞ〜…、ってこりゃたんに僕がバエズのことが気に入らないだけの狭量なだけなんだけど(^_^;)。

スアド・マシの、それまで買っていない CD アルバムもぜんぶ買ってぜんぶ聴いて、なかにはそれでもやっぱりイマイチかも?と思うものがあったような気がするけれど、面白いものが多いし、どう聴いても僕好みの音楽家なので、少しずつとりあげて書いていくつもり。一度に複数枚をまとめて、しかも手短で簡潔に凝縮して書くという、いわゆる文才のない僕だから、今日はデビュー・アルバム『Raoui』(ラウイ?でいいの?読みは?フランス語題の10曲目を除き心配だから、これ以下の曲名もアルファベット表記でいく)だけをとりあげたい。

スアド・マシのアルバム『Raoui』は2001年のソロ・デビュー作。そして彼女のいままででぜんぶで六枚あるアルバムのなかでは、いまのところ僕のいちばんのお気に入り。その理由は、まださほど米英フォーク、ロックなどの色彩が濃くないから。あ、いや、かなりフォーキーではあるな。でもそのフォーキーさは、アルジェリアのカビール人としての自然発生的な弾き語り様式から来るもののように、いまの僕には聴こえる。

うん、たしかにアルバム『Raoui』でも、スアドのアクースティック・ギター弾き語り部分が大きいんだ。オープニングの「Raoui」からしてそう。でもこの曲、アルペジオで演奏されるギター・ノーツはアラビアンだし、スアドのヴォーカルが出ると、こりゃもう間違いなくアラブ音楽の歌手だと分る歌いかた。アッサリ味ではあるけれども。しかもなんだか哀しそうというか、深い憂いを帯びているように聴こえる。どうしてこんなにメランコリックなんだろう?このメランコリーは、例えばアラブ・アンダルース音楽のそれから来ているものだけじゃないような気が、ボンヤリとしている。

アルバム1曲目の「Raoui」は最初から最後までスアド一人での弾き語り。2曲目「Bladi」でウード奏者が参加し、スアドのギター・カッティングとからむ。そのウードが奏でるフレーズは、北アフリカ地域のアラブ音楽を聴き慣れたみなさんなら違和感なく受け入れられるものだ。スアドの歌のほうには、しかしそんなに濃厚なアラブ節はないような気がする。二曲目も最後まで伴奏はスアド自身のギターともう一名のウードだけ。

3曲目の「Amessa」!これが素晴らしいんだ。まずゲンブリ(モロッコのグナーワなどで主に用いられる低音三弦の楽器)が聴こえ、あ、いいな、と思っているとドラム・セットがバンバン!と入って強くて激しいビートが入り、同時にカルカベ(鉄製カスタネット、これもグナーワで使われる)がチャカチャカ刻みはじめ、ゲンブリ+カルカベのサウンドにかなり弱い僕としては、快哉を叫びたいほど。

エレキ・ギターも入り、ドラマーが叩き出すビートはどんどん強くなっていき、しかもフィル・インが気持いいし、上物であるスアドのヴォーカルも躍動的で文句なしに素晴らしい。これはアルジェリアとかモロッコとかシャアビとかグナーワとかいうんじゃなくって、汎マグレブ的な音楽要素を、そんな楽器も使いつつ、同時にロック・バンド様式で表現したものだ。う〜ん、この3曲目「Amessa」はグルーヴィだしカッコイイなあ。素晴らしい。

そんなノリの曲が、アルバム『Raoui』だとほかに五つある。6曲目「Nekreh El Keld」、7曲目「Denya」、11曲目「Awham」、12曲目「Lamen」、13曲目「Enta Dari」。これらはすべてドラム・セットが使われていて、テンポが高速でも中庸でもビート感が強烈で、ノリよくグルーヴィで、しかも根幹にはアルジェリア(やその他マグレブの)の伝統音楽や現代大衆音楽がある。

モダン・シャアビな6曲目「Nekreh El Keld」も、このスアドのアルバム『Raoui』では僕の大のお気に入り。男性歌手とからみながら歌うスアドは、この曲のばあい、シャアビふうに濃厚なアラブ節をやっているのが本当に僕好みなんだよね。ドラマーはちょっとオカズ入れすぎかもしれない。特にハイ・ハットが少しうるさいかも。もっと淡々と叩いてスアドのアラビアン・ヴォーカルを際立たせたほうがよかったかも。5曲目「Hayati」も(バンド形式ではないが)シャアビっぽいね。

11曲目「Awham」と13曲目「Enta Dari」は、ほほアルジェリアン・ロック・ナンバーの趣だが、12曲目「Lamen」は、なんだか分らない(シンセサイザーの電子音?でもクレジットでは鍵盤奏者なしだからエレキ・ギターだね、きっと)音が浮遊するようにアラブ音楽ふう、というかアザーンのような旋律をふわふわと奏で、そこにスアドのアクースティック・ギターがからみ、エレキ・ギターとエレベとドラムスのリズムも入ってきて、スアドが、やはりここでもフォーキーに歌っている。でもその声の質に独特の翳りというか、上のほうでも書いたが憂いがあるんだよなあ。なんだろうこれは?

これら以外の曲は(ロックふうな)バンド形式ではなく、やはりスアド一人でのアクースティック・ギター弾き語りか、そこにウードやその他若干名の伴奏が入るだけのシンプルなもの。アルバムの曲を書いたのもぜんぶスアドだし、だからやっぱりシンガー・ソングライターには違いないのだが、それでもいま聴きかえすと、それらでもけっこうなアラブ臭があっていいなあ。

アラビア語の歌詞内容が理解できないのでなにも言えないが、この独特の憂い、哀しさとか、あるいはまた曲によってはかなり戦闘的、それも政治的意味合いを帯びた闘いの歌であるような雰囲気が、曲調と声の質、カラー、出しかた、節廻しなどに感じるばあいがあるスアド・マシのアルバム『Raoui』。ホントそのあたりなにがあるんでしょう?僕の持つ CD は輸入盤なので…、と思ったら、あっ!附属ブックレットに曲名も歌詞もフランス語訳が載っているじゃないか!マジでここまで書いてきてたったいま気がついた(^_^;)。これから読もうっと。

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