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2017/12/29

お気楽ムード・ミュージックとしてのマイルズ『クールの誕生』

ところでキャピトルって紙ジャケットでは CD リイシューしてくれないんだろうか?僕の持つマイルズ・デイヴィスのアルバムは、彼の生前リリース作品に限ればぜんぶ紙ジャケット製なんだよね。キャピトルの一枚とブルー・ノートの二枚を除いてはね。ブルー・ノート盤の二枚は、あるいはひょっとして僕が見逃しているだけかもしれない。日本法人がよくブルー・ノート盤の紙ジャケットを出すことがあるから。

でもキャピトルはマジでぜんぜん出してくれないよなあ、紙ジャケット。プラスティック・ジャケット(ジュウェル・ケース)の利点とは、平積みして崩れにくいということと、ラックに並べたときに背中で確認して見つけやすいということと、この二つだけだ。ケースにヒビが入ったり割れたり、その他デメリットはいっぱいある。最近の新作フィジカル・リリースに紙ジャケットやデジパックがどんどん増えているのは、製作者側も認識しつつあるんじゃないのかなあ。

そんなわけでプラスティック・ケース入りのものしかないキャピトル盤とは、マイルズのばあい、もちろん『クールの誕生』のことだ。このアルバム、僕の印象だと最初から12インチ LP レコード(写真左 or 上)だったような感じなんだけど、もちろんオリジナルは SP 盤シングルだ。それもたったの四枚、つまり八曲しかリリースされなかった。

その後1954年に10インチ LP『クラシックス・イン・ジャズ:マイルズ・デイヴィス』になったのだが、10インチゆえ、やはり八曲だけの収録で、SP 盤の八曲をどうしてだか一部再録せず、未発売だったものを混ぜたりなどしていた。キャピトルは1957年になってようやく12インチ LP 化して、録音されていた全12曲をこのとき初めてフル収録。そして、名高き『クールの誕生』の名前は、その12インチ発売時に初めて考案されアルバムにつけられたものだ。それまでそんな呼ばれかたはぜんぜんなかったんだよ。いまではこのアルバム、1948年のロイヤル・ルーストでのライヴ収録からラジオ放送音源されたものも含めた完全盤が標準だ(写真右 or 下)。

“Birth Of The Cool” とはキャピトルのピート・ルゴロの命名で、マイルズ自身はこれに不満だったらしい。ルゴロは、そもそもマイルズ九重奏団が1948年にロイヤル・ルーストに出演したのを生現場で聴いていて、こりゃいいと思って、キャピトルにレコーディングしないかと持ちかけた当人だ。つまりあのノネットはハナから録音物化を企てて発足したのではなく、なんというかちょっとしたワークショップみたいな動きがあって(たぶんギル・エヴァンズを中心に)、それをナイト・クラブで試しにやってみたっていう、はじめはただそれだけの意図しかなかった。

ピート・ルゴロは1950年代前半から作品を発表していたし、それらのアレンジはのちに言われるクール・ジャズに分類されるもので、ルゴロだけではなく多くの(主に白人の)ジャズ・メンが似たような音楽をやって一種の潮流のようになっていた。1957年だとちょうどクール・ジャズという呼び名が定着していたころだったと思うので、マイルズのそれらを12インチ LP 化する際のルゴロは、そこからを拝借して、このマイルズのノネットがその発祥なんですよ〜っていう感じだったんだろう。現場の生演奏を聴いていたんだし、それをスタジオ録音したものに1957年当時の時代の新潮流の冠をかぶせれば売れるはずだっていう、会社としての目論見があったはず。

ギルとマイルズが1948年にどうしてああいったノネットをやろうと思ったのかは、また長くなってしまうので詳しいことは今日は省略するが、マイルズのほうはチャーリー・パーカーのバンドのレギュラーだったわけだから、ああいった熾烈で生き馬の目を抜かんがごときシビアな真剣勝負の世界からいったんちょっと距離を置きたかった、ひとやすみしたかったということもあったんじゃないかなあ。そういったものだけがマイルズの音楽志向でないのは、その後の自分のバンドでの1991年死去までの音楽をたどっていけば分ることだ。

ハードでシビアなゴリゴリのジャズをやったかと思うと、いっときそこから離れてソフトで軽いもの、言い換えればイージー・リスニングふうなムード・ミュージックみたいなものをやる 〜 この二つがマイルズの全音楽生涯における二軸なんだよね。この二つを行ったり来たりして、ばあいによってはその中間で、というか両者を折衷したようなものをやることもあったじゃないか。

だからパーカーのバンドを辞めた直後の1948年のマイルズが、(結果的にフル・アルバム『クールの誕生』になった)あんなふんわりやわらかいソフト・サウンドをやってみたのも、ほんのちょっとした<気分>だけだったんだと僕は考えている。その際着目したのが、自分の書いた(名義はパーカーの)「ドナ・リー」をビッグ・アンサンブル化してくれた、クロード・ソーンヒル楽団の編曲担当者ギルだったということかもなあ。実際組んでやってみたサウンドをマイルズが本当に心から気に入ったのは間違いない。そうじゃなきゃギルの死去まで途切れることなくずっと終生親交が続くわけないもんね。エレクトリック化、ロック/ファンク化と、二人はいっしょに歩んだ。

ただしかし1948年時点では、マイルズもギルもそこまで考えてコンビを組んだわけじゃないんだから、ほんのいっときの休憩みたいなものとしてあのノネットをやったんじゃないか、そこにあんまり大きく強い意味を読みとりすぎないほうがいいんじゃないか、特にクラシック芸術音楽志向のジャズ・リスナー、専門家のみなさんは気負いすぎじゃないでしょうか、っていうのが僕の考えなんだよね。

だいたいマイルズ自身もそう言っている。上でご紹介したように『クールの誕生』とのキャピトルの命名は気に入らないと言ったのと同時に、あのノネットはほんのちょっとしたソフトなライト・サウンドをやってみようとしただけなんだ、ただそれだけだったんだ、会社が勝手にあんな名前を付けたんだよ、と明言している。音楽家本人の言葉だから額面どおりに受け取れないばあいもあるが、このノネットにかんしては実際の録音物を聴けば、マイルズ本人のこの発言内容に間違いはなかったんだと実感できる。

つまりマイルズの『クールの誕生』は、ハッキリ言っちゃうが、ぜんぜんシリアス・ミュージックじゃないぞ。イージー・リスニング・ミュージックにほかならない。特に日が暮れて暗くなってから(深夜がベスト)、部屋の照明をあまり明るくしすぎず音量も上げすぎないで、『クールの誕生』を流し聴きしてみてほしい。BGM として。するとかなりいい雰囲気になるんだよね。心地良いムード・ミュージックなんだ。

こういったことが『クールの誕生』という音楽の本質だと僕は考えている。なんだか難しいことを、しちめんどくさいことをみんな言うけれどさあ、これはたんなるライト・ポップスだ。眉間にしわ寄せて学問書に相対するような態度で聴くことはないんだぞ。お気軽 BGM として、ただなんとなくダラダラと流していればそれでオッケーな音楽で、そういう楽しみかたこそ、このマイルズ九重奏団の本当の聴きかただ。

うんいやまあもちろん本当も嘘もない。音楽をどう聴こうが関係ない。だれがどんな聴きかたしようと、どんな作品でも、それはまったく自由だ。だから学問的に『クールの誕生』を聴いてなにかそんなことを書いたりなどしようともぜんぜんオッケー。文句はない。だから、ひるがえって僕がこういう聴きかたをしてもいいんじゃないでしょうか?少なくとも僕はこういうものだと信じて聴いています、っていうか流していますと、今日ここまで自説開陳しているが、笑って見逃してくれないか。

実はマイルズの『クールの誕生』にかんし、こんなことに結びつくような声がずいぶんとむかしからあったのだ。僕はそうじゃないのだが、どの曲も同じに聴こえる、どこがいいの?印象に残らない、右の耳のから左の耳へと心地よく通り過ぎていってしまう 〜 こういった感想が約30年以上前からあがっていたのを、僕も目にしてきた。それらはぜんぶ、このアルバムへの否定的言辞として述べられていた。

だがしかし、そんな部分にこそ、このマイルズ『クールの誕生』の聴きどころ、というか流しどころかな、まあそんなものが、肯定的価値観として浮かび上がってくると僕は思うんだよね。マイルズやそのほかソロをとる楽器の音色が、バックのサウンドとキレイに溶け合っているアンサンブルだし、ノネット編成の管楽器アンサンブルは、重層的だが滑らかに流動する心地良さがある。だから流し聴き用の BGM 的ムード・ミュージック、イージー・リスニングとしては最適なんだよね。

そんな音楽の楽しみかただってあるだろう?

イージー・リスンなムード・ミュージックだっていうのは、マイルズ&ギルのコラボ作だと、コロンビア盤の『マイルズ・アヘッド』『クワイエット・ナイツ』まで続いているんだしね。

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コメント

BGMとしての「クールの誕生」、そして「Quiet Night」。好きだからね。僕は夏になるとどういうわけかマイルスとギルが聴きたくなるんだけど、きっとアタマの回転が暑くて鈍ってるようなときに丁度いい感じなんだろうね。

『クワイエット・ナイツ』は、たしかにひでぷ〜がすんごく好きそうな音楽だなあ〜。

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