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2017/12/23

このメランコリーはなんだろう?〜 スアド・マシの三作目が素晴らしい





毎週土曜日になると、最近スアド・マシばっかり書いているような気がする。そうでなくたってマイルズ・デイヴィスのことはあいかわらずどんどん書くし、それ以外のことも気に入ったマイ・ブームみたいなものばかり続けて書くようになっているここのところの僕。抑制が効かなくなっているのかもしれない。多いですね、フランク・ザッパとか岩佐美咲とか原田知世とか、そのへんばかりが。ちょっとのあいだご辛抱ください。

スアド・マシの三作目は2005年のアルバム。僕が CD で持っているものは英語題のほうが先に来ていて『honeysucke (mesk elil)』。ジャケット裏でもブックレットでも、曲題だって英語文字のほうが大きい。だがしかしそれと中身が同じものはネット配信ではまったく見つからないのだった。Spotify には少しずつ内容の異なる『メスク・エリル』が三つあるが、僕の持つ CD と同内容のものがない。

あ、ちょっと待って、アラブ系音楽はこっちのほうが…、と思い Anghami で探してみたら、ありました同じやつが…、と思ってよく見たら、たしかに曲順は同じだが(Spotify にあるものは曲順がだいぶ違うんだよね)、あれっ?、一曲足りないや。10曲しかないじゃないか。英語題で歌詞も英語が多い「テル・ミー・ワイ」がオミットされている。アラブ音楽ファン向けの配信サーヴィスだからかなあ?いやあ、関係ないよなあ。

というわけで、曲順が違っているものの、曲そのものは結局ぜんぶある(そんでもって、ボーナス・トラックみたいなものが入っているばあいもある)Spotify のものを使って、曲順を僕の持つ『ハニーサックル(メスク・エリル)』と同じになるように並べかえたのがいちばん上でリンクを貼った自作プレイリストだ。本当はこっちの(ワールド向け?)CD のほうがおかしいのかもしれないが。

それから Spotify にあるもののばあい、付記されているのは英語ではなくフランス語。同じ意味の言葉が書かれてあるけれど、ひょっとしてこのスアド・マシの2005年作は、アラブ圏向け、フランス国内向け、ワールド向け(は CD だけ?)と、三種類違うものをリリースしてあるのかなあ?スアドのばあいもアルジェリアを追われフランスに亡命してきたんだそうで、そこいらへん、ちょっとややこしい事情があるのかもしれないが、まったく知らない。

でも音楽は音楽だ。スアドのばあいもそんな個人的事情や、脱出した母国への郷愁の念、あるいは、これはサウンドと声のトーンに聴きとれるから、歌詞の意味は分らないが、間違いなくあるんだと僕は思うなんらかの政治的戦闘姿勢を示すメッセージ性 〜 これらが音楽と不可分一体になっているんだろうけれど、音楽は自律美だ。これが僕の不変の信念で、だからサウンドやリズムに<音の意味>を聴きとりたいと思う。いつも、だれにかんしても、ずっとそうしてきた。

スアドは、『ハニーサックル(メスク・エリル)』というこの三作目でかなり大きな音楽的充実を見せているように、僕には聴こえる。こないだ書いた二作目よりも一作目のほうが個人的には好きだという僕だけど、この三作目は先立つ二作の毛色の異なる部分をうまく合体融合させて、より一段高いレベルに持ってきて、さらに拡大し、そして…、なんだかずっと一層メランコリックになっているように…、聴こえる。曲調やスアドの声の色合いに深い深いメランコリーを僕は感じる。このあまりにも深い憂いはなんだろう?

スアドが『ハニーサックル(メスク・エリル)』で表現するメランコリーは、音楽的にはアラブ・アンダルースのそれがずっと保ってきたものを引き継いでいるように聴こえる。みなさんご存知のとおり、アルジェリアで花開いたアラブ・アンダルース音楽は、もとはイベリア半島で誕生したものだ。そしてスアドの『ハニーサックル(メスク・エリル)』には、スペイン音楽みたいな要素もまた色濃くあって、さらにアフロ・セントリックな音楽要素が前二作よりも強くなっている。あいかわらずフォーキーな部分はあるけれど、みなさん(特にオフィス・サンビーニャさん)、フォーキーって言いすぎじゃないでしょうか?

ジョーン・バエズみたいな米英フォーク・ミュージックっぽいものって、スアドの『ハニーサックル(メスク・エリル)』だと一曲もないに等しいんだもんね。アクースティック・ギター弾き語りでちょっとそれっぽい感じになっている6曲目「my grandfather's house (dar dgedi)」だってヘヴィな感じの打楽器が聴こえる。たぶんダルブッカじゃないかと思うサウンドだけど、参加ミュージシャン一覧のクレジットとは一致しない。そこだけでなく、またこのアルバムだけでもなく、スアドのフィジカル・リリースでは、楽器クレジットと聴こえる音に違いが多いんだよね。

ドラム・セットも使われている「my grandfather's house (dar dgedi)」だけど、中盤のアクースティック・ギターのソロがこれまたずいぶんと濃い影を落としているし、全体の曲調も暗くメランコリックで、曲題から察するに(ひょっとして亡くなった?)祖父への思い、それはアルジェリアにあるんだろうから、そんな部分から来ているのだろうか?

7曲目の「there's worse (hagda wala akter)」だって、基本、アクースティク・ギター弾き語り&ヴァイオリンで、そこまでなら米英フォークっぽいが、ここまでの深いメランコリーはそういった世界でなかなか聴けない。ここでもやはり北アフリカ系の打楽器が入っている。さらにボワ〜っとスペイシーなサウンドが聴こえ、エコーなど録音効果だけのことかもしれないが、シンセサイザーかなにかで音を足してあるかもしれない。まあでもスアドもアルペジオをフィンガー・ピッキングで弾きながら歌っているしで、巷間言われるような形容詞が付くのは理解できないでもないのだが。

4曲目のアルバム・タイトル曲「honeysuckle (mesk elil)」なんか、ジョーン・バエズじゃなくてジェイン・バーキンだもんね。だから似ているといえば似ているのだが。でもこの曲ではストリング・アンサンブルがサウンドに彩りを添えていて、ちょっぴりゴージャスな感じにも聴こえ、フォーク・ミュージックの素朴感からはかなり遠い。ウード(リュートとのクレジットだが、この音はウードだろう?)もいい感じでオブリガートやソロを弾く。そこはいかにも北アフリカのアラブ音楽、ことにシャアビっぽく聴こえて、楽しい。

ウード(だよね?リュートじゃなくて?だってクレジットが信用できないから)のサウンドといえば、アルバムのオープナー「soon (kilyoum)」で、いかにもなマグレブ音楽ふうにウードが鳴りはじめ、リズムも強くグルーヴィでノリがいい。基本的にはシャアビなんだろうけれど、フラメンコみたいなフィーリングもあるし、またモルナっぽい要素も聴きとれるのが面白い。この曲は相当いいなあ。アルバム『ハニーサックル(メスク・エリル)』では、これが二番目にいいんじゃないの?一曲目になっているおかげで、こないだ聴きなおしたとき、再生開始と同時にこ〜りゃイイネ!って嬉しかった。いやあ、スアド・マシってこんなにも素晴らしい音楽家なんじゃないですか(って、いまごろか、僕は)。

ウード(?)は続く二曲目「that's life (denya wezmen)」でも大きくフィーチャーされていて、しかもここでは典型的なアラブ音楽スタイルのストリングスも伴奏で参加。典型的っていうのは、たとえばエジプトのウム・クルスームの音楽で聴けるようなスタイルのストリング・アレンジじゃないかって意味なんだけどね。ネイ(笛)も使われている。しかしウムにはないアンダルース風味がスアドにはある。僕はどっちも好きで、そりゃウムの大きさといまのスアドは比較すらできないけれども。

3曲目の「inspiration (ilham)」はサハラ以南のブラック・アフリカの音楽みたいな要素があって、ちょっぴり砂漠のブルーズみたいだったり、ちょっぴりサリフ・ケイタみたいだったりするように聴こえる。ここでのドラマーのシンバルの使いかた、すなわち裏拍でカンカン入れるっていうやりかたが僕はかなり好きなんだよね、どんな音楽でもね。

5曲目「i won't foeget my roots - manensa asli (miwawa)」はモーリタニアのダビー・トゥーレとのデュオ。男性歌手とデュオで歌うものは、ほかに8曲目「tell me why」(パスカル・ダナエと)、「 let me (khalouni)」(ラバ・ハルファと)がある。三つともどっちかというとスアドよリも男性歌手を聴かせるようなアレンジで、ある時期以後の一部のアフリカ音楽でも目立ってきているネオ・アクースティック路線みたいな感じだ。

そして、ここまで書いてきたことぜんぶ終わっての、アルバム10曲目「why is my heart sad (malou)」が、とってもとっても素晴らしい。上で1曲目がアルバムで二番目にいいと書いたが、一番素晴らしいのがこの10曲目だ。も〜う、このメランコリーはなんなのだ?こんなにも深い哀しみや苦しみを抱えたまま(って、スアドになにがあるのかぜんぜん知りませんが、音と声のカラーからそう感じているだけ)それを身悶えするようでもなく、ただひたすら淡々としっとり歌うことのできる人間って、相当なメンタルの強さじゃないかと僕は思うんだけどね。「マァルー」って繰返すこの言葉の意味は僕には分らないが、なんだかそのたびに聴いているこっちまで…。いったいスアドになにがあるんだろう?

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