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2018/01/06

このころのサラ・タヴァレスほど魅力的な音楽家がこの世にいるものか(1)〜 『バランセ』


天然コットン100%。そんな柔らかく肌触りのいい音楽をやるサラ・タヴァレス(ポルトガル)。『バランセ』(2006)とか『シンティ』(2009)あたりだと、そのままなんどもなんどもいくら続けて聴いても、飽きたりいやになったり、ちょっとほかの音楽を聴きたいと思ったり…、なんてことがないもんなあ。あまりにも心地良いから、文字どおりいくらでも聴き続けていたいし、実際、僕はそうしている。

『バランセ』でサラ・タヴァレスを知って、大好きになっちゃって、だから(ライヴ DVD をはさみ) 次の『シンティ』も当然買った僕。でもそのころはまだ iTunes をほとんど活用していなかったし、使うといえば自分でなにかのコンピレイション CD-R を作成したいときだけで、CD からインポートして編集してディスクに焼いたら、Macの内蔵 HDD 容量を気にしてそのままオーディオ・ファイルを削除していたもんなあ。

だからサラ・タヴァレスの『バランセ』『シンティ』も iTunes で聴くようになったのはわりと最近の話。この二枚を一つにしたプレイリストを、文字どおり、上で書いたようになんどもなんども自動リピート設定にして、たとえば深夜の自室などで何時間続けて聴いても、本当に素晴らしさが減らないから、マジでそればかり延々と聴いているばあいだってある。心地良いしくつろげるから、ベッドへ行く前の格好の入眠剤にもなりうる。

サラ・タヴァレスの『バランセ』『シンティ』は、音楽が好きだという趣味の人であれば、まず間違いなくひとり残らず全員が気に入ってくれるだろうって思うような、それくらいの強い、そして普遍的な魅力を持った音楽アルバムだよなあ。声も歌いかたもキュートで可愛くてコケティッシュ。でも浮ついたところはなく、しっかり地に足つけたフィーリングで、そして違う意見もあるけれど、僕の耳には両親の出身地たるカーボ・ヴェルデの音楽がかなり影響しているように聴こえる。

それから、最近世間で言われるオーガニック・サウンドってやつ。あのころのサラ・タヴァレスなんか、まさにこれなんだけど、音楽についてオーガニックと表現するのはいつごろはじまったんだろう?少なくとも僕は20世紀のあいだには見なかった。21世紀、あるいはここ10年ほどの表現なんじゃないかなあ。オーガニック、すなわち(添加物なしの)有機的なサウンドってだれも定義しないから、僕なりに考える「(音楽の)オーガニックとは?」は以下のようになる。

電気楽器、電子楽器、コンピューターを使ったデジタル・サウンドやエフェクトをなるべく使わない。録音後の音加工や処理などもなるべくやらない。生に近い音、っていうかアクースティック楽器中心(ばあいによってはそれだけ)のサウンドで、なおかつナチュラルな素の感覚を兼ね備えたようなもの。

そんな楽器面、録音面だけでなく、スロー・テンポでゆったりとした曲調。やさしくささやくようなヴォーカル。しかし一部で、地味ながら効果的に激しい演奏をしたりデジタルなサウンドが入ってきたりする、そしてできあがりを聴くと、洗練されていてなんとなくオシャレで透明な感じがする。

そんなこんなで、歌手(音楽家)の息遣いが感じられる生の歌唱や演奏が活かされているような音楽。それでやさしくて、結果的に聴いている僕たちまにで心の平安をもたらしてくれて、ゆったりリラックスできる。そんな音楽がオーガニック・ミュージック。

…なのかなあ。

でもほかの音楽家もそうだけど、サラ・タヴァレスの音楽は内面にかなりの激しさ、厳しさを感じるもので、そうじゃなかったら、ただサウンドや声の質感が心地良いだけでここまで好きになっちゃったりしないもんなあ。サラ好きのみなさんそうだと思うけれど、細やかな漏れる息遣い、ブレスの音のひだのひだまで愛おしいんだから、もはや音楽家として好きだというだけのレベルじゃないような気がする。好きだぁ〜、サラ〜!

『バランセ』『シンティ』(とそのあいだに出たライヴ・アルバム)に夢中だったころはそんな感じだったサラ・タヴァレスへ向かう僕の気持ち。『シンティ』を2009年にリリースしたあと新作情報がパッタリと途絶え、昨2017年に久方ぶりのニュー・アルバム『フィーチャドゥ』(でいいの?『FITXADU』の読みは?)が出て、Spotify でまず繰り返し聴いた。ずいぶん感じが変わっちゃったなあと思うんだけど、なんでも死をも覚悟しなくちゃいけないほどの重い病で手術までしたらしい。そのときまだ30歳だったから、そんな若い年で自分は死ぬのかも?と覚悟しなくちゃいけなかった体験が、サラの声まで変えちゃったんだなあ。

新作はついいましがた(2017/12/27、正午過ぎ) CD が届いたので、これもそのうち書こうと思っている。今日と明日は、サラ・タヴァレスがいちばんキュートだった2006年『バランセ』、2009年『シンティ』について、もうちょっとだけ書いておく。いやあホント同じことばかり言ってもうしわけないけれど、このころのサラだったら、間違いなくみんな好きになってくれると思うんだよね。Spotify とかにないから CD 買ってほしい(って、まだふつうに売ってるの?)。

サラ・タヴァレスの『バランセ』。附属ブックレットに一曲ごとの参加メンバーと使用楽器が記載されているのを見ると、どうやらやっぱりコンピューターなどのデジタル・サウンドはなしみたいだ。でもいわゆるふつうの意味での楽器としては使っていなくても、ところどころデジタルな質感の音処理をしているんじゃないかと聴こえるんだけど、僕の気のせいかなあ。でもそれ以外は電子楽器なしで、電気楽器だってエレキ・ギターとエレベがちょろっと入るだけ。ほかはマジでぜんぶアクースティック・サウンド。

オーヴァー・ダビングも、サラ・タヴァレスのヴォーカルは幾重にも録ってバック・コーラスにしてあるのと、自身のパーカッションとだけで、それ以外はぜんぜん僕にはわからない。してないんじゃないかなあ。そんなサウンドにサラのやさしくささやくような声が、しかし強く芯のある表現で(聴感上は)そっと乗ってきて、それがまるでキュートな鳥の声みたいで、『バランセ』というアルバム全体が、本当にコットン100%な触り心地。しかも音楽としてこんなにチャーミングに(かつ激しく)迫ってくるものはなかなかないから、だからメディアはあまりそうは言ってくれないけれど、サラの『バランセ』なんかを音楽のオーガニック名作、代表作として扱ってくれてもいいんじゃないの〜?

ご存知ないかたがたのために書いておくと、サラ・タヴァレスはヴォーカルだけでなくギターを弾き、各種パーカッションもやる。特に自身が弾くアクースティック・ギターはかなりうまい。なんて言いかたはサラに失礼きわまりないのであって、一流の腕前なんだよね。弾きながら歌っている動画があるので、ぜひ観てほしい。YouTube にもたくさんあるので、ぜひ。 アルバムを聴いたらやっぱり声と歌いかたがキュートで極上のチャーミングさだなと思う僕だけど、ライヴ・シーンを観れば、同時にギター演奏にも惚れてしまう。たとえばこういうのはどう?
アルバム『バランセ』だと、たとえば3曲目の「リスボア・クヤ」は、ほぼサラ・タヴァレスひとりでのアクースティック・ギター弾き語り。7曲目の「アモール・エ」もそう(だけどカラバスター・ドラムの音もしっかりある)。12曲目の「ムナ・シェイア」がギター弾き語りにピアノだけ入るもの。アナ・モウラがゲスト参加のラスト13曲目「ディ・ヌア」では、二人のヴォーカル以外にはパーカッションだけで、それ以外なにもなし。

これら四曲が、僕にとってはサラ・タヴァレスの『バランセ』では傑出して素晴らしいように聴こえるんだよね。ゆっくりゆったりじんわりジワジワと来るやさしいサウンドとヴォーカルで(んん〜と、パーカッションだけでやるラスト13曲目はそうでもないか)、しかもリズムのノリというかフィーリングは、やっぱりいかにもカーボ・ヴェルデ系だと僕は感じるんだけどね。ブラジル音楽ふうな、というかポルトガルのものか、サウダージ横溢でありながら、やっぱりアフロ・クレオールなグルーヴがあるじゃないか。コラデイラとかフナナーに近いようなリズムがあるよ。3曲目とか7曲目とか10曲目とか。モルナみたいなものだってある。4曲目とか9曲目とか12曲目とか。

アクースティック・ピアノだけがゲスト参加のその12曲目「ムナ・シェイア」が、も〜う最高にすんばらしい。こんなにしっとりしたバラード(調)の曲で、おだやかに歌い、サウンドも静かなゆったりしたものだけど、アクースティック・ギターで弾き語るサラ・タヴァレスはまるで二人っきりの部屋のなかか、あるいはだれも見ていない海辺の夕刻に、僕だけに愛をやさしく語りかけてくれている。好きだぁ〜、サラ〜!でも後半からピアノが入ってきて、するとしかし音楽としてはもっとよくなる。

6曲目「ボカ・テーハ」では、メロ D(アンゴラ出身の在ポルトガル男性)がヴォーカル&ラップで参加。この曲はヒップ・ホップ・ソウルでありながら、同時にアフロビートとアンゴラのセンバも混ぜてあるようなもの。このへんだったら、あんまり落ち着きすぎない音楽のほうが好きだという、しかも新しい傾向の音楽が好きだという向きにもイイって思ってもらえそう。

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