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2018/01/09

神様、サラのものはサラのものです、返してあげてください

サラ・タヴァレスのライヴ DVD『アライヴ・イン・リスボン』。CD が二枚附属しているが、それはこないだ書いたようにダブるものだから、 DVD だけ一枚でリリースしてくれていたら完璧に文句なしだった。あるいは同じライヴ音源を CD 二枚組でもリリースしてもらえたらうれしいんだけどなあ。でも DVD になっている2007年3月27日のリスボン・ライヴは本当にキラキラしていて素晴らしいんだよね。サラが最高にチャーミングだ。

サラのリスボン・ライヴはぜんぶで13曲。トータルで1時間20分程度だから、音楽ライヴの DVD 作品としてはちょっと短めだ。でも観聴きすると、たぶん2007年3月27日のライヴのオープニングからラストまでフル収録されているのかも?思う。パフォーマンスが行われたリスボンのシネマ・S ・ジョルジュがどこだかわからないが、いずれにしても DVD に映し出される観客席を見ると、岩佐美咲がコンサートをやってきたのとピッタリ同じくらいのキャパの会場だね。

オープニングの1曲目「バルキーニョ・ダ・エスペランサ」はサラひとりでの弾き語り。といっても楽器はギターではなく親指ピアノだ。両親がカーボ・ヴェルデ移民だとはいえ、サラはリスボン生まれのリスボン育ちでポルトガル人。でもアフリカン・ルーツ志向みたいな部分を、こんなオープニングにも見てとれるんじゃないかと思うんだよね。親指ピアノ一台だけでやる「バルキーニョ・ダ・エスペランサ」は本当に素朴で純で、一部のアフリカ音楽が保ってきている要素と同時に、(このころまでの)サラの持つ、そんなストレートに素直で屈折していない内面をも表現しているように感じる。

そういえば、このライヴ・アルバムでは、サラの弾くギターのスタイルが、西アフリカのンゴニやコラの奏法をなぞったような弾きかたにときどき聴こえるんだけど、僕の耳がおかしいのかなあ。ばあいによっては親指ピアノのフレーズの創りかたをギターで表現しているの?と思ったりもするんだけど、こっちは僕の考え違いだろう。でも特にコンサート前半でのサラのギターは、たしかに西アフリカの弦楽器を移植したみたいじゃないだろうか。

2曲目「リスボン・クヤ」からサラもナイロン弦のアクースティック・ギター(といっても、ブラジル人などもよくステージで使うやつで、サウンド・ホールはふさいであって、ピエゾ・ピックアップで音を拾ってアンプにつないでいるもの、各種調節スライダーも見える)を弾き、バック・バンドも入ってくる。バンド・メンは、ドラムス、エレベ、パーカッション、ギター&パーカッション、(完全クリーン・トーンの)エレキ・ギター。

彼らのなかにはサラのこのころのスタジオ録音作品でもお馴染みの面々もいるみたい。アンゴラのンドゥ(ドラムス)、ギネア・ビサウのゴギ・エンバロ(ベース)、カーボ・ヴェルデのミローカ・パリーシュ(パーカッション)、ポルトガルのリカルド・アウヴェス(ギター、パーカッション)、セネガルはダカール生まれのカーボ・ヴェルデ人、ボイ・ジ・メンデス(エレキ・ギター)。そしてリカルド・アウヴェスやボイ・ジ・メンデスが歌う曲や、また全員がバック・コーラスも担当。

3曲目「チューバ・ジ・ヴェロン」の後半からリズムが強く快活になってきて、とたんに激しくグルーヴしはじめるのが快感だ。サラもスタジオ作同様に可愛くチャーミングな声でありながら、スタジオ作では強調しない強靭な張りのある伸びる声で、ややシャウト気味に歌ったりもして、本当に楽しそう。

3曲目が終わると同時にははじまる4曲目「バランセ」。お馴染みの曲だが、このリスボン・ライヴでの「バランセ」があまりにも素晴らしすぎる。極上のチャーミングさじゃないか。サラの弾くギターもすごくうまい。声はそっとやさしく、しかし同時に強い。サラのルックスや弾きかた、歌いかた、仕草、表情、歌のフレーズの合間合間に入れる声など、なにもかも可愛いし、美しい。ものすごく楽しそうだ。演唱の出来も文句なしのスウィング感で、この4曲目の「バランセ」は、このライヴ盤『アライヴ・イン・リスボン』の個人的クライマックスにして、サラのいままでの音楽人生でも最高のワン・トラックなんじゃないかなあ。

4曲目「バランセ」では、伴奏陣も文句なしのサポートでサラを支えている。後半からエンディングにかけて何度か入るリズム・ブレイクのキメも抜群にシャープな斬れ味。「♪ば〜らんせ〜♫」と小さくやわらかい声で入れるバック・コーラスも絶妙だ。ボイ・ジ・メンデスのギター・オブリガートやソロも素晴らしい。リズム隊のグルーヴもタイトだ。サラがここまでチャーミングに軽くスウィンギーに躍動するこんな「バランセ」聴いちゃったら、感嘆のため息しか出ないよなあ。僕は今回も口を開けて眺めているだけだった。この「バランセ」が永遠に続けばいいのに…。

サラひとりのギター弾き語りでやる5曲目の「グイザ」はあくまでしっとりと。ボイ・ジ・メンデスが歌う6曲目の「ミラグレ」(では後半サラもヴォーカルを取る)だと、徐々にジンワリと盛り上がっていく。7曲目「プラネタ・スクリ」は快活なグルーヴ・チューンで、ここでもサラとのデュオでボイ・ジ・メンデスがかなり歌っている。エレキ・ギターも決して派手には弾きまくらないが、ツボだけを確実に外さずおさえていく名人芸。7曲目では演奏も後半から賑やかになっていく。

8曲目「ノヴィダージ」から、ドラマーとパーカッショニスト以外、ステージ上のみんなが立ち上がり、サラもそれまで膝にかかえて弾いていたギターにストラップをつけて肩から掛けて弾く。サラは観客にしゃべりかけ、一緒に盛り上がりましょうみたいなことを言っている。実際、サラとオーディエンスとのコール&レスポンスになっている。バンドのリズムのグルーヴィさと斬れ味が素晴らしい。サラのヴォーカルも楽しそうに躍動している、っていうかまぶしすぎるほどの輝き、キラメキで、ちょっと直視できないかと思うくらいの光を放っている。歌のワン・フレーズの合間合間に入れるしゃべりというか叫ぶような声のいちいちぜんぶで、僕は毎回やられてしまうんだ。

9曲目の「ミ・マ・ボ」、10曲目の「ボン・フィーリング」からリズムがヘヴィになる。特にベース・ドラムとエレベの低音が強くずっしりと効きはじめ、グルーヴもカーボ・ヴェルデ系とかポルトガルのなにかというよりも、アメリカのヒップ・ホップ・ミュージックみたいなノリだよなあ。強い低音やギター・フレーズが短い同一パターンを反復し、サラのヴォーカル・スタイル、フィーリングもそれにあわせ変化している。そうかと思うとアフリカ系のリズムみたいに聴こえる部分もある。

11曲目の「ワン・ラヴ」が18分以上もあって、このライヴ盤ではいちばんの長尺だし、盛り上がりかたも最高ということになるはずだ。サラは「椅子に座ってないで、みんな立ち上がって踊って!」と観客にうながしている。サラは本当に楽しそうに、ステージで踊りながらギターを弾き歌っている。歌もダンスしているじゃないか。バンドの演奏もかなりアツイ。リカルド・アウヴェスが歌ったり、エレベ・ソロもあり、また打楽器オンリーのアンサンブルで激しく盛り上がるパートもある。一時期のサンタナ・バンドのライヴ後半部での盛り上がりかたにも少し似ている。

この「ワン・ラヴ」の異様な興奮が、このサラ・タヴァレス2007年3月27日リスボン・ライヴのクライマックスに違いない。いやあ、素晴らしい。その後、サラがふたたび座ってギターを弾きながら歌う12曲目「ニャ・クレチェウ(ミウ・アモール)」はラヴ・バラード。そしてラスト13曲目は「バランセ」のリプリーズ。「リミックス」と記載があるが、生演奏だ。

「バランセ・リミックス」は、軽快に舞っていた4曲目と違ってグッと重心を落とし、ずっしり来る重たいグルーヴで、しかもこれは明らかにレゲエだ。エレベとギターのパターンがはっきりとレゲエを刻んでいる。空間のあるクールにスカしたノリにアレンジしなおしてある。サラも4曲目とは歌いかたをかなり変えてノッているのがわかる。後半部で、リズム・ブレイクをともないながらやるキメも、フィーリングが変化している。

そのまま「バランセ・リミックス」の演唱後半途中で DVD のエンディング・クレジットが流れてきて、この楽しい楽しい2007年のサラ・タヴァレス2007年のリスボン・ライヴは終幕となってしまう。

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