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2018/02/21

立ち去りがたく 〜 プリンス『クリスタル・ボール』

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プリンスの『クリスタル・ボール』(1998年3月リリース)。僕が持っているのは、通常の流通品である CD 四枚組だ。すなわち本体三枚+『ザ・トゥルース』付き。この附属のアクースティック・サイドはまたちょっと毛色の異なるものなので今日は話題から外しておこう。『クリスタル・ボール』本編三枚で、個人的なお気に入りの曲についてだけ書いておく。いっぱいあるけどね。

どれが個人的愛聴曲なのか、まず最初に一覧にしておこう。(自分自身の)整理のために。括弧内は推定録音年。

一枚目
1「クリスタル・ボール」(1986)
5「ラヴ・サイン」(1994)
6「ハイド・ザ・ボーン」(1993)
7「2モロウ」(1995)
8「ソー・ダーク」(1994)

二枚目
5「クルーシャル」(1986)
7「セクシャル・スイサイド」(1985)
8「クローリン・ベイコン・スキン」(1983)
9「グッド・ラヴ」(1986)
10「ストレイズ・オヴ・ザ・ワールド」(1993)

三枚目
3「プーン・プーン」(1996)
4「シー・ゲイヴ・ハー・エンジェルズ」(1996)
6「ザ・ライド」(1995)
10「グッバイ」(1995)

一枚目の、というか三枚組最大の目玉がオープニングの曲「クリスタル・ボール」であるのは間違いない。僕も大好き。いかにもあのころ、つまりリアルタイム・リリースでは『パレード』『サイン・オ・ザ・タイムズ』になったものと同じ傾向のファンキー・ナンバーだ。

ベース・ドラムのベタ打ち+パーカッション(どっちもたぶんコンピューター・サウンド)というプリンス一人の多重録音に、あのカミーユ声でヴォーカルが登場し、クレア・フィッシャーの編曲指揮によるストリング・アンサンブルが入ってくるが、その後どんどんビートが強くなる。エレキ・ギターのかっこいいソロもある。

しかもなんだかドラマティックな展開があって、曲も10分超えの大作。後半部のビートはかなりファンキーで強靭だ。さながらシアトリカル・ファンク by カミーユといった趣で、イイネこれ。そういえばかミーユって、だいたいがシアトリカルなミュージカル・キャラクターなのだった。曲「クリスタル・ボール」一つだけで十分お腹いっぱいになりそうなくらい。

がしかし『クリスタル・ボール』にある長尺ナンバーというなら、僕のばあい、二枚目8曲目の「クローリン・ベイコン・スキン」のほうが好き。「クリスタル・ボール」よりさらに長い15分37秒。ドラムスとエレベとヴォーカルしかなく、プリンスはエレベとヴォーカル担当。ドラム・セットを叩いているのがモーリス・デイ。だからもとはザ・タイムのためのものだったのかもしれない。

「クローリン・ベイコン・スキン」はただのルーズなジャムで、ひたすらダラダラやっているだけなんだけど、ファンク・ミュージックはこういうのが気持ちいいんだよね。なんの盛り上がりも起承転結もしまりもなく、ワン・グルーヴで延々継続しているスカスカのビートを聴いているだけでイイ。ビート・リスナーの僕は満足だ。

やっぱりこの1980年代半ばの『パレード』『サイン・オ・ザ・タイム』のあたりからはファンカーへと完全脱皮していたプリンス。だからたとえば一枚目6曲目の「ハイド・ザ・ボーン」のエレキ・ギターのカッティングなんか、超快感だ。ドラムスの音はかなり加工されてひしゃげているけれど、それがバンバン!と鳴るたびにいい気分。いやあ、しかしこのキレキレのギター・カッティング!最高だ。

たぶんアルバム『クリスタル・ボール』全体のなかで僕がいちばん好きなのが「ハイド・ザ・ボーン」なんだけど、これ、たったの5分程度しかない。どっちかというとこれを15分続けてほしかった。っていうか LP 片面相当の25分くらい聴いていたい。ドント・ストップ・ザ・グルーヴ!

「ハイド・ザ・ボーン」の次に好きなのが三枚目6曲目の「ザ・ライド」。これは以前プリンスのストレート・ブルーズ楽曲にかんする記事で書いたので、詳しいことはそちらをお読みいただきたい。もうほんと、こういったエレキ・ギターを中心とするバンド編成での泥臭いモダン・ブルーズってサイコーですよね。たまりません。プリンスのこういったのはジミ・ヘンドリクスから来ているのかな?ドント・ストップ・ザ・ブルーズ!

二枚目7曲目の「セクシャル・スイサイド」。曲題の意味はサッパリだが、これも疾走感満載のファンク・チューンだ。カッコイイよなあ。ホーン・セクションのリフの入れかたはオールド・スクールなファンク・マナーで、1990年代半ばあたりからプリンスは意識的にそれへ回帰していたように見える。懐古趣味とかいうんじゃないと思うなあ。

三枚目3曲目の「プーン・プーン」。曲題はたぶん女性のあれのことじゃないかと思うんだけど、それを曲のなかで延々と反復するっていう、なんだか、えぇ〜、いいの〜?これ〜(笑)?だから僕は部屋のなかでいつも笑いながら聴いている。それはともかくこの曲もビートがいいと思うんだよね。ビートの根幹はプンプンプンプンって言葉、ずっとそればかりリピートするので創っているわけだけどさ。打楽器の音はここでもコンピューター・サウンドだ。

最初に書いた自選リストにあるもののなかで、ここまで書いた曲以外は綺麗だったり切なかったり哀しかったりするバラード系のものばかり。しかもけっこうジャジーだったりする曲もある。それらがもう本当に素晴らしいと思うんだよね。美しい。

一枚目5曲目の「ラヴ・サイン」(リミックス)はジャジーだ。都会の夜を思わせる雰囲気でイイネこれ。7曲目「2モロウ」もまったく同系のジャズ・バラード。そして続く8「ソー・ダーク」もブラス(金管楽器)の使いかたがジャジーで、美しくて泣ける切ないバラード。こりゃ最高だ。ヴォーカル・コーラスも綺麗。プリンスは終始ファルセットで攻める。三曲とも都会的洗練と夜の雰囲気を非常に強く感じて、大の僕好み。

二枚目5曲目の「クルーシャル」!こ〜れが!すんばらしい。アルバム『クリスタル・ボール』の個人的クライマックスが「ハイド・ザ・ボーン」なら、万人的クライマックスがこの「クルーシャル」だろう。名曲と言うしかない。ポップ・バラードなんだけど、とってもとってもキュートでチャーミングでプリティだ。もともとアルバム『サイン・オ・ザ・タイムズ』に入れる予定だったのを「アドア」に差し替えたらしい。その差し替えは正解だったと思うけれど、「クルーシャル」は「クルーシャル」で十分負けていないキラーだ。

「クルーシャル」って、たぶん愛する女性のことを「あなたは僕にとって非常に大切、かけがえのない存在です」と歌うような意味だろうけれど、歌詞を聴くとたしかにそんなことみたいだが、あわせてこれはラテン語で十字架のことなんだよね。つまり「ザ・クロス」(『サイン・オ・ザ・タイムズ』)。それにも入っていたエレキ・シタールが「クルーシャル」でもとても効果的に使われているのが印象的。甘美でいいね。

しかもリズム・スタイルだって甘い「クルーシャル」後半部ではプリンスのエレキ・ギター・ソロが爆発する。まるで敬愛する女性への憧いが感極まったかのように弾きまくる。サイコーだ。プリンスが全生涯で残したギター・ソロのなかでも一、二を争う出来じゃないかと僕は思うね。しかしそれは弾き切らずフェイド・アウトしてしまう。もっと聴きたかったなあ。せめてあと三分、ほしかった。

多幸感あふれる「グッド・ラヴ」(カミーユ)、クレア・フィッシャーの書いた美しいアレンジも冴える「ストレイズ・オヴ・ザ・ワールド」(ファルセット)もいいんだが、個人的には三枚トータルのオーラスである「グッバイ」。これで降参してしまう。

「グッバイ」。ここでもエレキ・シタールが甘美に使われているが、クレア・フィッシャーの仕事も文句なしの美しさ。そして歌詞がどうのこうの言うんじゃなく、この曲のリズム・スタイルとプリンスの歌うメロディの動き、伴奏のサウンド 〜 それらが僕にはあまりも沁みすぎる。たまらない気分だ。

どんなふうにたまらないかというと、こうだ。たとえば長距離恋愛中で、愛する相手に一年に一度くらいしか会えないときってあるでしょ。そのごくたまの貴重できらめいた楽しい時間も終わってしまい、帰りの新幹線とか飛行機に乗らなくちゃいけないっていうその駅や空港で、二人が本当に離れがたく、一方はゲートに向かうんだが、乗り込むことができず、なんどもなんども振り返り相手を見つめては、またちょっと進んで立ち止まり振り返る 〜 そんなときがあるでしょう。

プリンスの「グッバイ」を聴く体験は、僕にとってはそんな時間なんだ。だから曲が終わりに近づいて、あぁ、もうお別れなんだと思うとたまらない気分になって、終わりたくなくて、いよいよ再生終了となると別れられないから、左向きの矢印ボタンを押して、もう一回聴く。それをなんども僕は繰り返す。いつまでもやっていてもしょうがない。いつかはお別れしなくちゃいけないんだからと思って、つらい気分で聴き終えて、自室の静寂にたたずんでいるんだ。

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