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2018/02/22

新時代プリンスの夜明け 〜 『バットマン』

ジャック・ニコルスンのものすごく奇怪な容姿だけがいまでも強く脳裏に刻まれているアメリカ映画『バットマン』(1989)。映画館で封切り上映を観たんだけど、音楽をプリンスがやっているということは、たぶんまったく気がついていなかった(^_^;)。まあこんなもんです、僕は。

その映画のサウンドトラック盤としてプリンスのアルバム『バットマン』がリリースされたということにも、僕はぜんぜん気がついていなくって(^_^;;)、いつごろ知ったんだっけなあ?CD があるということを知ったのが亡くなる前であることはたしかだ。でもなんだかこれは余興というか箸休め的な一枚なんだろう?と聴きもしないのに勝手に判断して買わず。買ったのは、こないだも書いたが2016年4月21日に亡くなったあとだったのです(^_^;;;)。こんなことばっかりだ。

だからかなり最近ちゃんと聴いてみたプリンスの音楽アルバム『バットマン』。そうしたらこりゃカッコいいファンク・ミュージックじゃんねえ。いままで聴きもしないで勝手に遠ざけていてごめんなさい。反省しています、マジで。ふだんから「音楽は聴いてみなくちゃわからない」と口すっぱく繰り返している僕だけど、自分自身に向けなきゃいけない言葉だった。

音楽アルバム『バットマン』のリリースは1989年6月なので、リアルタイム・リリースでは『ラヴセクシー』の次になる。これもこないだ書いたが、あの『ラヴセクシー』は、いまではプリンスの音楽生涯のピークだったんじゃないかとすら僕も考えているけれど、当時のリアルタイムで持った感想としては、イケ好かない仕様だなあって。そんなこともあって次作になる『バットマン』に注意が行っていなかったのかもしれない。

さらに音楽アルバム『バットマン』はいちおう映画のサントラだけど、映画で使われたそのままではなく、そこからインスパイアされたオリジナル・スコアみたいな中身らしい。う〜ん、そうだったのか…。んでもって聴いてみたら、こりゃ万人向けのわかりやすく楽しいポップ・ファンクみたいなもんで、あたりまえに大ヒットしたらしい。

だいたい前作の『ラヴセクシー』があまり売れずプリンスも落ち込んでいたらしいが、そんなこといったってあんなジャケット・デザインでもって本人はいける、売れると判断したんだろうか?とにかくその少し前から少しずつ売り上げが縮小傾向気味だったらしいので、『バットマン』の大ヒットで一躍復活みたいな部分もあったらしい。

『バットマン』みたいな明快なポップ・ミュージックで、しかもトラックだってぜんぶちゃんと切れているし、ジャケットはあの当時日本でも街中でどんどん見かけた例のあのバットマン・ロゴだしっていう、そんな音楽アルバムをプリンスが創った背景にはそんなこともあったようだ。

そうはいってもジックリ音楽に耳を傾けると、いかにもヒットするようなわかりやすさではあるものの、『バットマン』でのプリンスは、実はサウンド的にしたたかな攻めに入っている。よく聴くと、それまでのプリンスの音楽にあった従来路線は少なくて、1990年代以後にプリンスが強く傾いたハード・ボイルドなゴスペル・ファンク(はまあオールド・スクールなんだけど)へすでにしっかり向いている。

『バットマン』の次が、以前書いた『グラフィティ・ブリッジ』になるわけで、あれをゴスペル・ファンクと呼んだ僕だけど、その後の作品でプリンスがこの路線を強化していって、それプラス、ジャジー&ラテンな方向性もあわせ、新時代のプリンス・ミュージックが形成される。その端緒が1989年のこの『バットマン』だったよなあ。これの前が、だから頂点としての『ラヴセクシー』だったと。そう考えるとわかりやすい。

一曲目「ザ・フューチャー」でフィーチャー(ややこしい)されているコーラス隊は、なんとあのサウンズ・オヴ・ブラックネスらしい。ついさっきはじめて知ったんだけど、道理でねえ。サウンズ・オヴ・ブラックネスの CD アルバムは僕も少し好きで聴くんだよね。でもサウンズ・オヴ・ブラックネスのマス・クワイアはプリンスの「ザ・フューチャー」ではそんなに目立っているというほどでもないなあ。

「ザ・フューチャー」ではゴスペルふうなマス・クワイアじゃなくて、それからクレア・フィッシャーのアレンジしたオーケストラ・サウンドもあまり目立っていないのでそれでもなく、たぶんコンピューター・サウンドじゃないかと思うドラムスのずんずん来るビート感と、引っ掻くように弦をはじくエレキ・ギターのカッティングが実にシャープでカッコイイ。ヴォーカルのほうはなんだかアカ抜けしたようなというか、毒を抜かれたような聴きやすさ。

二曲目「エレクトリック・チェア」。これだよ、これこれ。これが新時代のプリンス・ファンクだ。重たく引きずるようなビート感、エレキ・ギター&エレベのファンク・リフ、ど派手なサウンド。ザラザラした感触がいいよね。ギター・ソロも聴けて、サウンド的にもいままでの路線から抜け出して刷新されている。ヴォーカルはかなりおとなしいが、それでもプリンスとしては、って意味だ。

この新時代の派手派手ゴージャス・ファンク路線の、『バットマン』における集大成がアルバム・ラストの「バットダンス」だ。映画で使われた(?、記憶がありませんから)ジャック・ニコルスンの高笑い声で入り、その後粘度の高いファンクネスで攻める。エレキ・ギターの音色創りからしてそれまでとは違っているもんね。ギターとエフェクターはなにを使っているんだろうなあ?

「バットダンス」では、中盤三分目ごろにパッとパターンが一変して、ミドル・テンポのディープなノリになる。そこからのエレキ・ギター・カッティングが気持ちいいのなんのって。まあ1960年代後半からある典型的なファンク・ギター・カッティングではあるんだけれど、この弾きかたには1989年という時代のレレヴァンスをも感じる。しかもコンテンポラリーにポップでわかりやすく聴きやすい。やはり天才だったとしか言いようがない。

アルバム『バットマン』では、たとえば四曲目の「パーティーマン」や五曲目の「ヴィキ・ウェイティング」もコンテンポラリーでかっこいいファンク・ミュージックだ。賑やかで楽しい前者のビート感には軽めのややラテンなノリがある。また、後者のこの大きくゆったりうねるグルーヴも最高だ。特に転調する部分で鳥肌が立つ。カッチョエエ〜。アクースティック・ギターも地味だが効果的に使われている。

このあと1990年代以後は、プリンスの音楽はこんな「エレクトリック・チェア」や「ヴィキ・ウェイティング」みたいなサウンド、音色に塗り替えられていくので、と言ってもその後のプリンスのほうを僕は先に聴いていたけれど、そう考えると『バットマン』もおもしろいよねえ。しかもこっちは大ヒットしたポップさがあるしね。

シーナ・イーストンとデュオで歌う「ジ・アームズ・オヴ・オリオン」は、ひねりはないもののストレートに綺麗だし、ポップ・バラードとしてふつうに聴きやすく楽しめたり、八曲目「スキャンダラス」はお得意のエロティック・ソングでファルセットでいやらしく歌っている…はず…、と思うと、あんがいそんないやらしさがない。歌詞内容はたしかにそのままなんだけど、歌声にはなんだか爽快感すら漂っていて美しく、荘厳でもあって、スキャンダラスな感じなんてない。あのどすけべ粘着プリンスはどこ行った?

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