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2018/02/13

楽しくポップでサイケなプリンス

プリンスの『パープル・レイン』前後をクルクルまわるシリーズ第二回。今日は次作の1985年『アラウンド・ザ・ワールド・イン・ア・デイ』をとりあげて、チャチャッと。昨日だって短くすると言いながら、なんだかんだで長くなっちゃったもんね。よりみちに入る(それこそが僕的には楽しいんだけど)からそうなってしまうんだ。今日こそ手短に for you again。

アルバム『アラウンド・ザ・ワールド・イン・ア・デイ』は、もちろんジュール・ヴェルヌのあの有名小説から、あるいはそれを映画化したものからタイトルをもらっているはずだ。アルバム・ジャケットもカラフルでサイケデリックで楽しそう(?)。でも中身の音楽は必ずしもそうじゃない面だってある。

ところで『八十日間世界一周』ならともかく、たった一日で世界をまわるというんだから、いまはインターネットがあるから簡単にウェブ旅行ができるけれど、1985年だからまだネットは普及していない。したがってつまり妄想の脳内旅行、心的旅行とならざるをえず、ってことはやっぱりサイケデリック・ミュージックだってことになるよなあ。

実際、アルバム・オープナーの曲「アラウンド・ザ・ワールド・イン・ア・デイ」は、以前ちょっとだけ触れたように中近東ふうだ。ウード(弦楽器)もダルブッカ(打楽器)も聴こえる。プリンスの世界旅行とは中近東旅行の意味だったのだろうか?しかもこの曲、プリンスお得意のベース・レス。ドラム・セットもない。ベース・ドラムみたいな打楽器音がずっと鳴っているが、これはなんの音だろう?ビート感もポップじゃないしロック然ともしておらず、なんだかよくわからない雑種音楽だ。

歌詞の出だしが「オープン・ユア・ハート、オープン・ユア・マインド」ではじまり、その後も似たようなラインが続くから、だからやっぱりサイケデリックな精神解放旅行の意だよなあ。20年くらい遅れてのドラッグ&ヒッピー・カルチャーみたいな感じか。それを1985年にやったから摩訶不思議な感じに聴こえるが、時代が時代なら、中近東ふうであることもその他サウンドやリズム面も含め、そんなに違和感は強くないだろう。

しかし二曲目以後にはそんな不思議で無国籍でサイケデリックな要素は少ない。むしろわかりやすくとっつきやすくポップ。なかでも2「ペイズリー・パーク」、4「ラズベリー・ベレー」、7「ポップ・ライフ」の三曲は、プリンスというこの異形の天才の全音楽生涯で最も聴きやすくわかりやすくピースフルで、とりわけポップ。歌詞もメロディもリズムも、つまりサウンド全体がそうだ。

以前、曲「ラズベリー・ベレー」が僕は大好きだと書いた。その際、「リトル・レッド・コーヴェット」「テイク・ミー・ウィズ・U」と三つ並べたんだけど、うしろの二曲が夜の行為を暗示した成人指定な内容だったのに比べて(それでもやっぱりそれらにだっていやらしさはなく、ポップでキャッチーだけどね)、「ラズベリー・ベレー」は心底明るくキュートだ。

「ポップ・ライフ」も楽しいサウンドだけど、しかしどこか切ない刹那的なはかなさ、それがゆえの美しさがあって、少し泣いちゃうな。ちょっと聴いた感じではそんなところなんて全然ないのになあ。どうしてだろう?たぶん、ポップ・ライフだとか人生がどうしたこうしたとかいう言いかたがイカンのだ。無性にはかない。泣きたい気分。こんなポップ・ソングでさ。音楽っておそろしい。

それらとは真反対のどエロティック・ファンクである五曲目「タンバリン」。これもプリンス一人の多重録音トラックらしいが、エレベとドラムスがぶりぶりの剛球ファンクで、コード感無視で突っ走るビートがカッコイイよね。キリキリ演奏しキリキリ歌い身悶えるプリンス。これこそいつものお馴染みプリンスだ。「ポップ・ライフ」なんかアカンちゅ〜ねん。

八曲目「ザ・ラダー」は、これも父ネルスンが共作者としてクレジットされているが、どう関わっているのだろう?それがなんにせよ、これは救済を求めるゴスペル・ソングだ。曲題と歌詞の「だれもがはしごを求めている」だけでわかるはずだ。しかし言葉の意味はともかく、このサウンドやリズム・フィールやコーラス隊のヴォイスや、むやみにスピリチュアルなサックスのサウンドも含む盛り上がりかたが、いかにもアメリカの黒人キリスト教会ふうじゃないか。

続くアルバム・ラストの十曲目「テンプテイション」は性的誘惑の歌で、出だしのファズの効いたエレキ・ギターのサウンドからしてモロにそれふう。リズム・フィールもコード・ワークも旋律の感じもプリンスの歌いかたも、それらはすべてブルーズだ。12小節3コードの定型ではないけれど、どブルーズだよね、この曲。やっぱりあっち関係の歌は、アメリカのブラック・ミュージックだとブルーズになっちゃうのかなあ。

プリンスみたいな音楽家だと『アラウンド・ザ・ワールド・イン・ア・デイ』でも、「タンバリン」とか「テンプテイション」みたいな路線がいちばん楽しいと僕は思うんだけど、いっぽうで「ラズベリー・ベレー」や「ポップ・ライフ」みたいな、ちょっと気恥ずかしくもなるほどのキュートなポップ・ソングもあるのがいいよねえ。それでいて救済を求める「ザ・ラダー」に共感したりもして、気持ちがいそがしいアルバムだ。あっ、だから世界旅行なのか?

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