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2018/02/19

あぁ、アナ・ステシア、アラブのミューズよ、僕を解き放ってください

プリンスに中近東音楽ふうのものが意外に少ないと以前書いたけれど、『ラヴセクシー』をじっくり聴きかえすと、この一枚のなかになんと四曲もあるじゃないか(^_^;)。要はいままでちゃんと聴いていなかったということだよなあ。以前書いたように、LP だと片面が、CD だともっとひどくなって丸ごとぜんぶがワン・トラックというイケ好かない仕様のため、個人的にどうも聴きにくかった。

昨年だったか一昨年だったかに自分で『ラブセクシー』のトラック分割をやったので、それでグッと聴きやすく認識しやすくなった。個人的にはね。このアルバムのことは、もちろん昨日『ザ・ブラック・アルバム』のことを書いたからその関連で聴きなおし書いている。1980年代のリアルタイムではその発売中止品の代替のように発売されたから。

がしかし『ザ・ブラック・アルバム』がド直球真っ向勝負のストレートでハードなファンク・アルバムで、ある意味 evil な音楽だったのに比べると、『ラヴセクシー』は明るい肯定感に満ち満ちたポップ・アルバムだ。『ザ・ブラック・アルバム』の発売中止を決めた直後の短期間で仕上げたものらしいから、ホントこの当時のプリンスはなんでもできちゃってたよなあ。

まず上でも書いた四つの中近東音楽ふうなものの話からすると、三曲目「グラム・スラム」、(意外にも?)四曲目「アナ・ステシア」、八曲目「アイ・ウィッシュ U ヘヴン」、九曲目「ポジティヴィティ」。しかしこれらほど鮮明でなくとも、そこかしこにそれっぽいスパイスはまぶされている。たとえば五曲目「ダンス・オン」で自身のヴォーカルにからめるギター・オブリガートはアラブ音楽似のスケールを使ってある。六曲目「ラヴセクシー」でも同様。

とこう書いて思いが及んだので付記しておく。プリンスのギター・プレイは本当にとても上手いと僕は思っているのだが(「世界でいちばん上手いギタリストと言われる気分?それはプリンスに聞いてくれ」by エリック・クラプトン)、なかには手持ちのネタが少なくて実はあまり大したことはやっていないという意見をネットで散見する。とんでもない話だ。

プリンスのばあい、ギター・ソロで弾きまくることはたしかに多くないよね。でもここぞという場面では華麗に弾いて決めているじゃないか。それにこの人は、まあすぐれた総合音楽家はデューク・エリントンにしろフランク・ザッパにしろみんなそうだけど、あくまで全体の構成とか作品としての完成度を念頭に置いて(ソロなど)楽器演奏も有機的なパーツとして組み込んでいる。

だから必ずしも(ギター・)ソロでは目立たないだけなんだよね。イントロ部、本編などでのカッティングの絶妙さや、ヴォーカルにからむオブリガートの効果満点さや、そのほかどこでどう弾いたら曲を、つまり歌を際立たせることができるか、微細な部分まで考え抜いた上でシンプルに演奏しているのが、ギターに限らないプリンスの楽器技巧だ。ヴォーカル技巧も同様だけどね。

さて、『ラヴセクシー』にある中近東音楽ふうのもの。三曲目「グラム・スラム」では北アフリカ系の打楽器が使ってあると思うんだけど、これ、なんの音だろうなあ?マグレブ音楽なんかで聴き慣れたものなんだけど、パッと思い出せない。それもアルバムにたくさん参加しているシーラ・E の演奏なんだろうか?そんなパーカッションと(これもシーラ・E の演奏する?)ドラム・セットが、アメリカン・ファンクのようでもありかつ北アフリカのアラブ系音楽のリズムのようにも聴こえるものを叩き出す。

しかも「グラム・スラム」では、まず出だしのエレキ・ギターがハッキリ中近東ふうに弾いてイントロをかたちづくるばかりか、歌本編もそれっぽい旋律の動きをする。それにからむオブリガートのギターもそうだ。しかも後半、シンセサイザーと各種打楽器のからみが露骨にアラビアンで、しかもそれらの楽器が派手に合体しグイグイっと盛り上がる。

この「グラム・スラム」後半部の高揚感の表現法は、アルバム『ラヴセクシー』全編を通し共通の語法ともなっているんだよね。曲「ラヴセクシー」でも、また「アナ・ステシア」でも「ダンス・オン」でも「アイ・ウィッシュ U ヘヴン」でも「ポジティヴィティ」でも同じやりかたをとっている。

明るい歓びや肯定感に満ちたアルバム一曲目「アイ・ノウ」、二曲目「アルファベット・ストリート」でも、いかにも専業ドラマーではないパーカッショニストだという叩きかたのシーラ・E の、とっちらかってはいるが跳ねる軽快なドラミングに乗せ、ホーン群(とシンセサイザー)の合奏で分厚く高揚する。ちょうど流行っていた時期だし、ワシントン D.C. のゴー・ゴーにも似たファンクなリズム・ナンバー。

『ラヴセクシー』で聴ける中近東のアラブ音楽ふうなものの話(を今日はしたいんだから)に戻そう。八曲目「アイ・ウィッシュ U ヘヴン」。曲題もそうだし、歌詞の中身をじっくり聴くと宗教的な内容なのか?と思う。それはこの曲だけでなく、アルバムを貫く一本の芯になっているんだよね。しかし「アイ・ウィッシュ U ヘヴン」のこのリズム・スタイルと、メロディや楽器演奏のもとになっているスケールはアラブのマカームに近い。それを知らなくても、なんだかちょっとエキゾティックな感じだなと感じるはずだ。

アルバム・ラストの「ポジティヴィティ」となると、もうどこからどう聴いても中近東音楽だ。リズムもメロディもなにもかもがアラビアン。アルバム『ラヴセクシー』は、基本、バンド編成で録音したものらしいけれど、この終始ポコポコ聴こえるパーカッシヴな音は打楽器?シンセサイザー?弾きかたを工夫したエレキ・ギターか?僕にはわからない。しかしそれがおもしろい。

女声を中心とするバック・コーラスが「♪ぽじてぃゔぃてぃ〜♫」と、まるで教会内でやっているかのごとく反復合唱しながら、そのあいだ楽器演奏が淡々と盛り上がり、しかも後半、四分半あたりでプリンスのヴォーカルがもう一回出てくると、その歌もギターもその他の楽器もコーラスも、ぜんぶが一斉にアラビアン・ナイトに突入する。それもメロディアスに盛り上がるのではなく、一定パターンを呪文のごとく反復することで高揚している。というかそもそも曲「ポジティヴィティ」のメロ(リズムも)が平坦で、まるでお経。

アラブふうなお経といえば、アルバム『ラヴセクシー』なら四曲目の「アナ・ステシア」で決まりだ。これが最高の一曲。アルバムのクライマックスに違いない。美しい。女性名を使ってあるが、たんなる異性愛、恋愛、肉愛のことではなく、まるで女神のようにたてまつり、僕を解放してくれ、導いてくれと祈りをささげる敬愛の対象としてアナ・ステシアが置かれている。神への愛の告白だよね、この曲は。

それはある意味、音楽愛でもあるんだ。つまり、アナ・ステシアはミューズだってこと。そんな歌詞内容が曲が進むにつれどんどん盛り上がっていき、「♪ラ〜ヴ・イズ・ガッ〜ド、ガッ〜ド・イズ・ラ〜ヴ♫」とバック・コーラスがリピートしながらバンドの演奏もどんどん熱を帯びてくる。この高揚感ったらないね。教会内でのそれにも似ているが、俗世間でのあれのそれにも似ている。

プリンスの弾くエレキ・ギターもそうだけど、「アナ・ステシア」では特に後半部で著しく高揚するあいだ、たとえばシンセサイザーなどがはっきりと中近東音楽に似たフレーズをかたまりで繰り返す。それを聴きながら「あなすてしあ」「あなすてしあ」「愛は神、神は愛」と反復されるのを聴いていると、僕も昂まりながら、これはアラブの音楽女神信仰の歌なんじゃないか、アルバム『ラヴセクシー』全体がそんなようなものじゃないかと思えてくるのだった。

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