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2018/02/04

これが蔵出し音源だなんて!〜 プリンスの実力

プリンスのばあい、リアルタイムで発売されずお蔵入りしたもののその理由は、湧き出て止まらないという制作スピードが速すぎるのと、レコード会社とのビジネスをめぐる諸事情でそうなっただけで、楽曲の質が低いのどうのこうのという理由ではなかった。いまだ未発売のままの、漏れ聞くところによれば CD 換算で計50枚分ほどもあるという未発音源がどうなのかは知らないが、いままでに公式リリースされている蔵出し音源はぜんぶクオリティが高い。

それにプリンスの音源はほとんどいつ録音したものなのか、はたしてそれが過去の未発音源なのかどうかがわからないケースだってけっこうあるよね。そのあたり、今後研究が進むのだろうか?でもどうも本人が記録していなかったんじゃないかと思えるフシだってあるよなあ。そうでもないのかな?フランク・ザッパ同様録音マニアみたいな面もあったプリンスだから、ザッパと同じくぜんぶ記録してあるのだろうか? ワーナー時代にかんしてはワーナーも記録してあるだろう。

だからどのアルバムのどれがそうだと指摘しにくい部分もあるけれど、これは間違いない蔵出し未発音源集の一つ『ザ・ヴォールト:オールド・フレンズ・4・セール』。ワーナー盤だけど、発売が1999年の8月だから、プリンスはすでにこの会社との契約は終わっていた。リアルタイムでのワーナー・ラスト作が96年7月発売の『ケイオス・アンド・ディスオーダー』(僕はあんがい好き)で、その次の同年11月『イマンシペイション』から EMI の配給になった。

『イマンシペイション』の次には1998年3月に『クリスタル・ボール』が発売されているが、これもワーナー盤『サイン・オ・ザ・タイムズ』(1987年3月発売)とほぼ同時期録音の未発表音源集らしい。『クリスタル・ボール』だってレヴェルの高いアルバムだ。プリンスのソロ名義作品は、リリース順ならその次に『ザ・ヴォールト:オールド・フレンズ・4・セール』が来るんだよね。もう契約は終わっていたのに、どうしてだかここで突如ワーナーがこれをリリースした。

契約終了後の、なんというかワーナーのイタチの残りっ屁か(違う)悔し涙か(これも違いそう)、とにかく売れまくるようになっていたプリンスだったので、会社側としては手放したくなかったはずのプリンスに出て行かれ、悔し紛れにどさくさにリリースしたみたいなものかもしれないなあ、『ザ・ヴォールト:オールド・フレンズ・4・セール』は。

しかしこの『ザ・ヴォールト:オールド・フレンズ・4・セール』だってかなりおもしろい。楽しいんだ。少なくとも僕はかなり好き。大好き。全体的にブルージーでジャジーでスウィンギーだというのが、僕にとってはこのアルバム最大の美点。しかも、短いたった40分間を締めくくるバラードは絶品で、悶絶するほど美しい。

たった一点、音楽の中身そのものには関係ないことだけれど、ワーナーが手抜きしてリリースしたものだから、『ザ・ヴォールト:オールド・フレンズ・4・セール』の詳しいデータがぜんぜん記載されていないのだけが残念。ジャケット代わりのペラッペラの薄い一枚の紙しかなくて、それを開いても、だれがどの曲でどの楽器を演奏しているのかわからないし、録音年月日にしても「1/23/85から6/18/96のあいだ」とだけしか書かれていないんだ。

そんな約10年間の音源集というにしては、アルバム一枚のサウンドに統一感がある。そうなるようにワーナーがチョイスしたということなのか、あるいはプリンスの音楽がそうなのか、はたまた一説によれば『ザ・ヴォールト:オールド・フレンズ・4・セール』は、ワーナー最終作『ケイオス・アンド・ディスオーダー』の次に出すべくプリンスが準備していたとのことだから、すでに完成に近い状態で残っていたからということなのか。

僕の最愛の曲たちから話をすると、三曲目「シー・スポーク・トゥ・ミー」、四曲目「5・ウィミン+」、十曲目「エクストローディナリー」だ。「シー・スポーク・トゥ・ミー」は、中間部以後メインストリームのストレート・ジャズに変貌する。「5・ウィミン+」はブルーズ(B.B. キングふう)。「エクストローディナリー」は、上でも書いたが絶品美のバラード。

しかしこれら三曲は、いままでにも書いてきている。「シー・スポーク・トゥ・ミー」はプリンスのジャズ関連で述べ、「5・ウィミン+」はブルーズ関連で、「エクストローディナリー」はいつだっけ?とにかく過去記事に複数回登場している。”(曲名) black beauty” で Google 検索すればぜんぶ出ます。

だから『ザ・ヴォールト:オールド・フレンズ・4・セール』では最愛のそれら三曲を除くもののことを今日はちょっと書いておきたい。アルバム・オープナーの「ザ・レスト・オヴ・マイ・ライフ」は相当にスウィンギーなアッパー。ピアノ・リフが印象的。テナー・サックスのソロもあり、またホーン・セクションも聴こえるが、それらがジャジーだ。

ホーン・セクションは、別にジャズに限らず米ブラック・ミュージック界であたりまえのものだけど、それらだってもとを正せばジャズ・ビッグ・バンドに由来するんだもんね。プリンスもある時期以後どんどん管楽器のソロやアンサンブルを使っているが、『ザ・ヴォールト:オールド・フレンズ・4・セール』では特に目立って聴こえるようにジャジーだ。

アルバム二曲目「イッツ・アバウト・ザット・ウォーク」も早足で歩くかのようなテンポのスウィンガーで、リズムは8ビート・シャッフルだから、やはりジャズ界にだって戦前から多い。実際、この曲のグルーヴ・タイプやホーン・セクションの使いかたに、ジャズ・ビッグ・バンドのそれを読みとれると僕は思う。

五曲目「ウェン・ザ・ライツ・ゴー・ダウン」は、さながらラテン・ジャズ・ファンク・ジャム。しかし曲全体の質感はかなりヒンヤリと乾いたクールさで、その加減もいい。さらに淫靡な雰囲気もある。それを表現するプリンスのヴォーカル部分は、しかし少ししかなく、楽器演奏パートがメイン(プリンスはギターではなくピアノ)だから、ふつうのポップ・ミュージック・ファンにはウケないだろう。僕は好きだけど。

六曲目「マイ・リトル・ピル」は、マンハッタン・トランスファーの「トワイライト・ゾーン」に少し似ているが、一分間ちょいであっという間に終わってしまい、次の七曲目、ゴスペル・ソウルみたいな「ゼア・イズ・ロンリー」に突入。曲調もタイトルどおり哀しげだが、ギター・ソロのフレイジングからも孤独感がひしひしと伝わってくる。

八曲目「オールド・フレンズ・4・セール」は、旋律の動きやコード・ワークなどが、ジョージ・ガーシュウィンの書いたスタンダード「サマータイム」(『ポーギー・アンド・ベス』)に似ていると思うのは僕だけ?なんでもプリンスは曲「サマータイム」が好きだったらしく、コンサート前のリハーサルだかサウンドチェックだかで演奏している動画を見たことが僕もあるよ。ジャズ音楽家もよくとりあげる曲だ。

九曲目「サラ」は、一曲目「ザ・レスト・オヴ・マイ・ライフ」と同系の快活でスウィンギーなアッパー・ファンク・チューンで楽しい。ここでもギター・ソロがあるのだが、これもそうだしほかの曲でもそうだけど、アルバム『ザ・ヴォールト:オールド・フレンズ・4・セール』でのプリンスは、全体的にクリーン・トーンで通している。ジャズ・ギタリストみた〜い。

それらもいいんだけど、次にラストの十曲目「エクストローディナリー」が来ると、曲の美メロに酔ってしまう。ほんっと〜っに!綺麗!「♪えっ、くすとろ〜でぃっ、なぁりぃ〜♫」と歌うたびに、三連符でストップ・タイムが入るリズム・ブレイクも素晴らしく効果満点。愛する人が近くにいれば、だれだってこう歌いたい。

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