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2018/03/06

プリンスのカミーユにかんする一考察

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フル・アルバムとしては、いまだ未発売のままであるプリンスの『カミーユ』。もとは1986年10月にレコーディング・プロジェクトが発足したものらしい。この前後は、リアルタイムで発売されたもの、されなかったものなどいろいろと込み入っていて面倒なので、ちょっと整理しておきたい。

(1)『パレード』に続き、『ドリーム・ファクトリー』という LP を計画。1986年7月ごろに二枚組として完成した模様。しかしこれをプリンス本人が破棄。

(2)直後あたりにレギュラー・バンドのザ・リヴォルーションを解散。

(3)1986年10月末ごろからスーザン・ロジャーズとともに『カミーユ』の録音にとりかかる。まず「ハウスクエイク」から開始し、約十日ほどでアルバム一枚分を完成させる。

(4)1986年11月5日には『カミーユ』のマスタリングも終了。多数のテスト盤もカットされた模様だが、発売前に中止を決める。

(5)『カミーユ』発売中止を決めたあと、それに収録予定だった曲と、その他の未発表曲(『ドリーム・ファクトリー』のものなど)なども含め、LP 三枚組の『クリスタル・ボール』を計画。しかし三枚組という規模をワーナーに反対され、発売は断念せざるをえず。

(6)予定だった三枚組『クリスタル・ボール』からサイズ・ダウンして LP 二枚組にして、1987年3月に『サイン・オ・ザ・タイムズ』がワーナーから公式発売される。

(7)『カミーユ』収録予定だった曲は、『ドリーム・ファクトリー』にも存在した。リアルタイムでの公式リリースでは数曲が『サイン・オ・ザ・タイムズ』に入り、またシングル B 面になったり(「フィール・U・アップ」「ショカデリカ」)などした。

(8)ワーナーが1994年に発売した『ザ・ブラック・アルバム』に、一曲、『カミーユ』セッションからの曲が入っている。

(8)1998年1月に NPG レーベルからリリースされた CD 三枚組『クリスタル・ボール』にも『カミーユ』セッションから少し収録されている。この公式発売された『クリスタル・ボール』は、1986年に予定されて未発のままになった『クリスタル・ボール』とは大きく内容が異なっている。

(9)その後21世紀になってネット配信オンリーかなにかで、『カミーユ』からの一曲「リバース・オヴ・ザ・フレッシュ」がリリースされたらしいが、おそらくはもはや入手不可能なのではないだろうか?

(10)したがって、種々のアルバムに少しずつ収録され散発的に公式リリースされている『カミーユ』は、以下の四つの CD アルバムにすべて入っている。ほかにあったとしても入手できないはずだ。以下、リリース順。

1. Sign O' The Times
2. The Hits/The B-Sides
3. The Black Album
4. Crystal Ball

これらからカミーユを拾っていくと、以下のようなプレイリストができあがる。

1 Housequake
2 U Got The Look
3 If I Was Your Girlfriend
4 Strange Relationship
5 Feel U Up
6 Shockadelica
7 Scarlet Pussy
8 Rockhard In A Funky Place
9 Crystal Ball
10 Dream Factory
11 Good Love

またネット上の情報によれば、1986年に計画していた LP アルバム『カミーユ』のトラック・リストはこうだったらしい。

Side 1

1 Rebirth of the Flesh
2 Housequake
3 Strange Relationship
4 Feel U Up

Side 2

1 Shockadelica
2 Good Love
3 If I Was Your Girlfriend
4 Rockhard in a Funky Place

ってことは、「リバース・オヴ・ザ・フレッシュ」だけを僕は入手できていないが、その一曲を除けば未発アルバム『カミーユ』収録曲は、すべて公式リリースされていることになる。ほかにそれらにくわえ、上記のようにカミーユが一部聴けるものが三曲あり、上記の11曲でトータル再生時間約53分。CD なら問題なく一枚におさまる。

さて、カミーユとはなんだったのか?プリンスは1985年のフランス映画『ル・ミステール・アレクシーナ』を観て知って興味を持ったんじゃないかと思う、その作品の主人公のモデルである19世紀のフランス人、エルキュリン・バルバン(カミーユ・バルバン)。この人はインターセックスだったらしい。

プリンスは、たぶん、ここから音楽のオルター・エゴであるカミーユを思いつき、両性具有的なハイ・ピッチな声で歌っているとなるように曲創りをし、そんな(中性的な)声で歌った、というかそうなるように(テープ回転速度を上げるかピッチシフターを用いて)加工して完成品にした。

そんなカミーユ・ヴォーカルで創りあげた曲だけでアルバム一枚丸ごとぜんぶとし、さらにそのアルバム名も『カミーユ』と命名し、そしてその作者、歌手、演奏家、プロデューサーなどもすべてカミーユとクレジットし、したがってレコード発売時にはプリンスの名を完全に伏せて、カミーユとしてリリースするという予定を立てた。

そんな『カミーユ』がマスタリングも終了し、多数のテスト盤も出回ったにもかかわらず販売中止となったのには、やはり一つにはワーナーの圧力もあったんだろう。商品のどこにも「プリンス」の名前がないものを発売するのに強い難色を示すのは当然のことだから、ワーナーの態度は理解できる。

会社側の反対が『カミーユ』発売中止にいたる直接の最大要因だったとしても、いっぽうプリンスの側にも音楽的な理由でとりやめたいという部分があったかもしれないと思う。ハイ・ピッチ・ヴォイスの両性具有的なオルター・エゴがアルバムのなにもかもぜんぶをやったとし、「プリンス」名はいっさい伏せるのには抵抗があったんじゃないかという気が少しするんだよね。

しかし、いま2018年においてジェンダー・フリーな考えかたも浸透しつつあるような世界になってきている(と思うんだけど?)わけだから、各種公式リリース作品からカミーユ楽曲を拾って集めて並べ、擬似的にアルバム『カミーユ』を作成し楽しむことは、意味のあることなのかもしれないよね。

プリンスいわくカミーユはフィーメイルで、善人格、良心、ライト・サイドだとのこと。このへんはどうなんだろう?カミーユ・ソングをまとめて続けて聴いても、正直なところそのことは僕にはピンと来ない。音楽的には声のピッチが高いんだなと思うことだけなのと、あとリズムというかグルーヴのパターンに、多くのカミーユ・ソングは共通性がある。

そのグルーヴの共通性をとりだして考えてみても、善人格だとかっていうのはぜんぜんわからないことだよなあ。たとえば「ハウスクエイク」と「ショカデリカ」はビート・メイキングが瓜二つで、まったく同じと言ってもさしつかえない。またその同一パターンに「ロックハード・イン・ア・ファンキー・プレイス」「フィール・U ・アップ」もよく似ている。

がしかしそれら四曲はハードなストレート・ファンクで(ビートはコンピューターで創っている)light どころかけっこう evil なサウンドだよなあ。evil という単語は、録音順なら次作にあたる『ザ・ブラック・アルバム』についてプリンス自身が使ったものだけど、音楽的には『カミーユ』も『ザ・ブラック・アルバム』も根本的には違わない。少なくとも明/暗、ポジティヴ/ネガティヴみたいな区分は不可能だと思える。

カミーユとスプーキー・エレクトリック(『ザ・ブラック・アルバム』を形成する悪魔的なオルター・エゴ) は一枚の紙の表裏。カミーユがスプーキー・エレクトリックを招き入れた。少なくとも作品として公式リリースされているものを聴くと、本質的に違わないダークなハード・ファンクで同一路線だ。

そのあいだ、1986年前後に、プリンスのなかでなんらかの意味で(何度か?)音楽自我が変貌する経験があって、音楽精神的な直感を得て、それで一度は『カミーユ』『ザ・ブラック・アルバム』を産んだものの、もう一度、次いで今度はこの二枚を棚上げして発売中止にしたってことかもしれないよね。それでその次のポジティヴな賛歌的大傑作『ラヴセクシー』につながったと、そう考えることもできそうだ。

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