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2018/03/01

君のことをギターほどには愛せない 〜 プリンス『プラネット・アース』

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これもポップなロック・アルバムみたいなプリンスの2007年作『プラネット・アース』。コロンビアと契約していた時期の作品なのでさぞや売れて…、っていうと、たしかに売れたけれど、なんでも一騒動あったらしい。これは僕もリアルタイムな記憶があるのだが、この CD をプリンス本人はふつうに売らず、イギリスではタブロイド紙のオマケとして無料配布してしまい、それ以外の地域ではふつうに売ったはずだけど、その騒動がニュースになっていた。

イギリスでだけどうしてそうしたのか?そういえば、この前後あたり、プリンスは通常のフィジカル・メディアを流通商品としては考えない方向に傾いていたかもしれないよねえ。ネットで配信してもいたそうじゃないか。当時からそんな情報を僕も見ていたから、まだまだネットで音楽を聴くという習慣がなかったあのころ、ふつうに CD 買いたいなと思う僕なんか、なんかやっぱりちょっとメンドくさいやつなのか?とプリンスのことを考えていた。

いずれにせよ、自身の CD を売らずに無料配布品とするなんて、いかにライヴ・ツアーで潤っていたかっていう証拠だよねえ。それだからプリンスはほとんどライヴ・アルバムを出さなかったのだろうか?CD(など)はスタジオ録音で行って、生演唱が聴きたいみなさんはライヴへどうぞっていう、そんな売り分けポリシーだったの?日本に住んでいたんじゃあ、よっぽど気合いが入ってないとむずかしい話だ。

2007年作『プラネット・アース』。これ以後亡くなるまでに計六作あるオフィシャル CD がイマイチな感じに僕には聴こえてしまうので、ここでハッキリ言っちゃうが、これがプリンスの生涯ラストの…、あ、いや、わかりませんが、なんだかそんな気が個人的にはしてしまい…、あ、でもいや、やっぱり明言するのはやめときます。

しかもスタジオ録音作だと、『プラネット・アース』の前が『3121』で、その前が『ミュージコロジー』、その前の『N.E.W.S.』は飛ばして、もう一個前が『ザ・レインボウ・チルドレン』だから、なんだかんだ言って21世紀もかなり充実していたプリンス作品群。だから〜、まあその〜、『プラネット・アース』ってなんだか小粒なっていうか目立たないっていうか、あまり評価は高くないよねえ。

でも『プラネット・アース』は聴きやすくとっつきやすいポップ・アルバムで、重たいものは敬遠したい気分のときはこれもなかなかいいんだ。粘り気のあるファンク・ミュージックを期待すると裏切られるけれど、軽いロックやポップスやバラードや、陽気に盛り上がるにぎやかなアッパー・スウィンガーはわりといいと思う。

全体を通して聴くと、『プラネット・アース』は、どっちかというと甘美な(ファルセットでやる)R&B バラードに重点が置かれているのかなという印象。三曲目「サムウェア・ヒア・オン・アース」、五曲目「フューチャー・ベイビー・ママ」、六曲目「ミスター・グッドナイト」、七曲目「オール・ザ・ミッドナイツ・イン・ザ・ワールド」、宗教曲だからバラードとは言いにくいものの八曲目「ライオン・オヴ・ジューダ」と、数も多い。

それらのなかでも特に三曲目「サムウェア・ヒア・オン・アース」と五曲目「フューチャー・ベイビー・ママ」が美しい。前者ではアナログ・レコードを再生する際のスクラッチ・ノイズがサンプリングされて入っているけれど、曲調もなんだかレトロ。ちょっとスモーキー・ロビンスンが書きそうな曲だ。しかもハーマン・ミュートを付けたトランペットのオブリガートとソロもかなり印象的。

五曲目「フューチャー・ベイビー・ママ」も素晴らしい。プリンスのファルセット・バラード集でも作るとするならば、これは個人的に欠かしたくないと思うほどイイ。リズムは100%打ち込みのデジタル・ビートだけど、効果的にエレキ・ギターや鍵盤楽器がキレイに入り、バック・コーラスはプリンス一人の多重録音か、あるいはちょっと女声っぽいものも混じっているみたいだけど、どうだろう?それにしても、この曲でのファルセットの冴え渡りかたはすごい。聴きながら曲に身を委ねていると、心までとろけそう。

それら R&B バラード以外だと、八曲目の「チェルシー・ロジャーズ」が派手派手ゴージャスなファンク・チューン(オールド・スタイルのディスコっぽくも聴こえる)なのだけが例外(メイン・ヴォーカルはシェルビー J)で、そのほかはポップなロックばかり。なかにはかなりメッセージ性の強い曲もある。

アルバム一曲目のタイトル・チューンでも地球の環境問題を歌い、上でも触れたバラード系だけど歌詞は宗教的内容の八曲目「ライオン・オヴ・ジューダ」とか、ラスト十曲目「リゾルーション」も、曲調はアッサリしたポップスだけど、中身は戦争などの問題を解決するために人々に呼びかけるというもの。そういえば、ずっと前の1981年『コントロヴァーシー』に「ロニーよ、ロシアと話し合え」という曲があったよなあ(ロニーはレーガン大統領)。

それらのメッセージ・ソング。一曲目の「プラネット・アース」は歌詞内容だけで勝負したいかのようなおもしろくないもので、メロディもリズムも取り柄がなく、ラスト50秒ほどになるまではぜんぜん盛り上がりもなく、う〜ん、こりゃ、どこがいいの?暗くて沈鬱で、やたら仰々しくドラマティックではあるけれど、音楽としての楽しさが薄いよなあ。う〜ん、困った。でもこれ一個だけだ。ほかのものは音楽的に聴きどころがちゃんとある、と上でも指摘したとおり。

そのおもしろくない曲「プラネット・アース」のおもしろいラスト50秒はなにか?というと、プリンスのエレキ・ギター弾きまくりパートなんだよね。そう、ギター。ギターこそがこのアルバム『プラネット・アース』の隠しテーマ。影の主役だ。いや、隠れたり影になったりしていないのか?、二曲目のタイトルが「ギター」だもんね。

その曲「ギター」は、プリンスのギター・バカ宣言みたいなもので、歌詞も「君を愛しているけれど、僕のギターほどには愛せない」というのがテーマ。しかしそんなテーマは歌詞内容というよりもこのサウンドで表現されている。派手でケバい歪み系エフェクターを深くかけてエレキ・ギターを弾きまくるプリンスのその姿にこそ、彼のギター愛宣言が込められているんだよね。

曲「ギター」。これはギター愛宣言であるからして、つまり音楽愛宣言だ。ギターを弾くしか、音楽を愛するしか能のないバカの一途な思いをそのまま表白したもので、僕は心の底から激しくこの曲に共感する。なんでもないただのギター弾きまくりハード・ロックだけど、プリンスの揺るぎないギター愛、身じろぎもしない音楽愛がストレートに伝わってきて、僕は嬉しい気分なんだよね。

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