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2018/03/28

人間の声ってこんなにすごいんだぜ 〜 入門ゴスペル・サウンド

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ジャケット・デザインがこんなうっす〜い感じだから、中身のものすごさが伝わっていない気がするゴスペル入門のアンソロジーでは最高のものの一つ『ザ・ゴスペル・サウンド・オヴ・スピリット・フィール』。CD は1991年リリースだが、LP が何年のものかわからない。編者はかのアンソニー・ヘイルバットだ。つまり、著書『ゴスペル・サウンド』で有名な人だけど、その音教材ってことなんだろうか?
いや、ホントこれ、もっとこうパンチの効いた強力なジャケット・デザインにしていれば、もっと知名度が上がったはずだと思うんだけどね。中身は文句なしに素晴らしくパワフルなんだから。僕だって1990年代初期にどこかの CD ショップ店頭で見て、う〜ん、これはなんだろう?あんまり買う気になれないなと感じつつレジに持っていって、帰って聴いて、ブッ飛んだよ。

なんたってまずオープニングのシスター・ロゼッタ・サープ「99 1/2」(1949)!とんでもなくスウィンギー!いや、強力にドライヴしていて、その快感に抗うことなど不可能だ。どうです、この声!冒頭から聴こえるピアノと、ロゼッタと一体化してからみあっている女性ヴォーカリストは母、ケイティ・ベル・ヌビン。いや〜、こりゃあ〜、すごいねぇ!
自分のなかにイヤなことやつらいことがあっても、このシスター・ロゼッタ・サープ娘母の「99 1/2」を聴くと、そんなもん、ぜんぶ吹っ飛んでいってしまうっていう、そんな歌だよね。そういうのがまさにゴスペル・ソング、すなわち宗教歌の果たす役割、もららす効果じゃないかな。僕はいつもこれを聴いて腰や膝や手が動き、それで癒されている。

CD アンソロジー『ザ・ゴスペル・サウンド・オヴ・スピリット・フィール』にはもう一つ、五曲目にもシスター・ロゼッタ・サープの「キャント・ノー・グレイヴ・ホールド・マイ・バディ・ダウン」(1947)も収録されている。ちょっとテンポ・ダウンしただけの「99 1/2」みたいなもんで、ほぼ似たパターンだ。

シスター・ロゼッタ・サープの本質は伝統的なギター・エヴァンジェリストなんだけど、女性でギターを弾きながらゴスペルを歌う存在はやはり珍しかった。この人の弾くギターには飛ぶように軽快なスウィング感もあって、しかしヴォーカルのほうには強い粘り気とパワー、そして(世俗の)色気が漂っている。

それなもんだから、たぶん彼女自身の意向でもあっただろうけれど、1930〜40年代の(ジャンプ系)ジャズ・バンドがしばしばシスター・ロゼッタ・サープと共演し、公式録音も多く残っているよね。ある意味、ロックンロールの祖母ともいうべき存在なんだよね。ラッキー・ミリンダー楽団も、それからキャブ・キャロウェイ楽団も彼女と共演した。

そんなキャブ・キャロウェイは、アルバム『ザ・ゴスペル・サウンド・オヴ・スピリット・フィール』の13曲目「ブレスト・アシュアランス」(1951)を歌うマダム・エミリー・ブラムをスカウトしようとしたらしい。エミリーが断ったそうだ。ネットでこのサヴォイ録音が見つからないが、なんというパワフルで威厳に満ちた声なのか。俗なセクシーさがプンプン香るシスター・ロゼッタ・サープと違って崇高さに満ちているが、そのピュアさゆえにかえってダーティな美しさをも獲得しているかのようだ。

アルバム『ザ・ゴスペル・サウンド・オヴ・スピリット・フィール』に収録されている歌手たちのなかでゴスペルの代名詞的な最有名人は、3、9曲目と二つ収録されているマヘリア・ジャクスンに違いない。1947年と50年のアポロ録音で、いずれもソロで歌う。力強く声を張る部分とデリケートさと、隅々にまで配慮が行き届いた、一つの宇宙とも言うべき歌唱だ。

「アイ・ゲイヴ・アップ・エヴリシング」https://www.youtube.com/watch?v=ZoeY8AxjI4M

ソロ・シンガーでいうと、このアンソロジー収録のうち、7曲目「ウィ・シャル・ウォーク・スルー・ザ・ヴァリー」(1948)、19「アイ・サンキュー・ロード」(1957)のアーネスティン・ワシントンは重くきしむような声質で、聴いている部屋の空気がビリビリ震え、大きな存在感を見せつける。
ところで、上の動画のうち、教会のマス・クワイアの入るライヴ録音の後者「アイ・サンキュー・ロード」の説明文に "Church Of God In Christ"とあるでしょ。これは略称 COGIC というホーリネス系教会のことで、上のシスター・ロゼッタ・サープもそうなんだよね。アルバムの11、25曲目のシスター・ジェシー・メエ・レンフォも COGIC 系だ。

アルバム『ザ・ゴスペル・サウンド・オヴ・スピリット・フィール』収録のソロ・シンガー。15、17曲目と二つ収録のクラーラ・ワード、21、27曲目と二つ収録のメアリオン・ウィリアムズも素晴らしいが、ことに17曲目、マリー・ナイト(メアリーじゃないはず)の「キャーヴァリー」(1953)が相当おもしろい。
このネット動画ではシスター・ロゼッタ・サープの名があって写真もツー・ショットだが、たしかにデュオで人気だったけれど、この「キャーヴァリー」はロゼッタと関係ないんだ。誤解を招きやすいなあ。それはいいとしておもしろいのは、この曲、ラテン・ゴスペルなんだよね。はっきりいえばタンゴだ。エコーも深めにかかっていて、かなりエキゾティックな雰囲気。聖なる空気感からやや遠い。ただのいち音楽ファンである僕には楽しいだけ。

カルテット・スタイルのものや、ゴスペル・シンガーズ、マス・クワイアなどなど、このアンソロジー『ザ・ゴスペル・サウンド・オヴ・スピリット・フィール』に収録されているほかのゴスペル歌唱について述べる余裕が少なくなった。カルテットなら、4曲目「カナン」(1947)のソウル・スターラーズも絶品。R・H・ハリス時代のもので、ハリスのなめらかで自在な表現が聴ける。
14、26曲目と二つ収録のディキシー・ハミングバーズ、16、22曲目とこれまた二つ収録のセンセイショナル・ナイティンゲイルズ、いずれもモダン・カルテットの名門。10曲目のスピリット・オヴ・メンフィスも18曲目のフェアフィールド・フォーもそうだ。なかでもディキシー・ハミングバーズの14曲目「プレイヤー・ウィール」(1953)でリードをとるアイラ・タッカーのブルージーさとリズム感は抜群。
クワイアものは、アルバム収録のなかから一つ、音源だけご紹介しておこう。二曲目「ルック・フォー・ミー・イン・ヘヴン」(1948)をやるロス・アンジェルスの聖ポール・バプティスト教会クワイア。リードはプロフェッサー・アール・ハイン。これは当時のラジオ放送音源のようだ。そりゃそうだよね、ゴスペルだもん、ラジオ・チャンネルがあって、よく流すものだ。

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