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2018/04/25

可愛いニーナ

楽しく美しい音楽は、日々の生活で心にたまったほこりを洗い流してくれる。ニーナ・ヴィルチの2012年デビュー作『ジョアナ・ジ・タル』もそのひとつ。昨日書いた昨年の新作『ション・ジ・カミーニョ』もいいけれど、僕の好みだと断然『ジョアナ・ジ・タル』だなあ。だ〜いすき!

ルイス・バルセロスとの(ほぼ)完全デュオ作だった『ション・ジ・カミーニョ』は、ややシリアスな方向に流れていて、重く暗めになっていたと僕は思うんだよね。そういうコンセプトの作品だったけれど。ニーナ・ヴィルチ本来の(?)言ってみればライト・タッチのコメンディエンヌ的な資質が全開なのが『ジョアナ・ジ・タル』だ。キュートで可愛くてコケティッシュで。すんごくいいなあ、このデビュー作のニーナは。

それはアルバム・ジャケットでも端的に表現されている。『ジョアナ・ジ・タル』のジャケ・デザインは、ご覧のようなレトロなコメディ・タッチ。そして中身の音楽も、完璧にオールド・ファッションドなショーロ・サンバなんだよね。でも必ずしも懐古趣味にひたるばかりではなく、サラリと自然に仕上げているのが好感度大。

だからまあたぶん、ブラジルという国の音楽は、過去の伝統が現代まで断絶せず、北米合衆国の音楽みたいに古いものを否定しないと新しいことができないみたいな(日本もそうか)そんな考えかたがないんだろうな。ごく自然に流れて受け継がれているっていう。だから2012年にニーナ・ヴィルチがこんなデビュー・アルバムも出せて、それが瑞々しく響くっていう。いいなあ、ブラジル。

『ジョアナ・ジ・タル』ではホント〜ッに可愛いニーナ・ヴィルチ。たったの30分しかないこのアルバムの全11曲は、新旧サンバ楽曲を取り混ぜて歌っている。曲順に歴史的年代は考慮されていないが、その必要もなかった。できあがりを聴けばスムースに流れゆく。

旧世代のアロルド・バルボーザ(1)、ノエール・ローザ(2)、ボロロー(9)、ルピシニオ・ロドリゲス(11)も、また、新世代のギリェルミ・ジ・ブリート(4)、ウィルソン・モレイラ(6)、マルコス・サクラメント(7)、ペドロ・アモリン(10)も、まったく違和感なく溶け合っている。

そんな統一感のあるサウンドを練りこんだのが、プロデューサーなのか、ニーナ・ヴィルチなのか、あるいは全曲のアレンジをやっている弟グート・ヴィルチなのか、三者のコラボなのかはわからない僕。でもたぶんサウンドの方向性はグートが決めたんじゃないかという気がする。選曲をしたのがだれだかは、やはりわからない。

伴奏陣は、10弦バンドリン(ルイス・バルセロス)、7弦ギター(一曲を除きラファエル・モールミチ)、ベース(グート・ヴィルチ)、パーカッション(チアーゴ・ダ・セリーニャ)の四人が、基本、全曲の土台。それにアコーディオンが参加していることが多く、またクラリネットやトランペットが吹いているものがある。トランペッターはアキレス・モラエスみたいだ。

オールド・タイミーでオシャレで趣味のいいサンバ・アルバムなんだけど、サンバといってもニーナ・ヴィルチの『ジョアナ・ジ・タル』はエスコーラのカーニヴァル・サンバとかのたぐいじゃない。室内楽的なサロン・ミュージックとしてのサンバ/ショーロなんだよね。

上記伴奏陣がそんな軽快でノリよく趣味もいいサウンドを、100%生音の生演奏でやる上に、ニーナ・ヴィルチの軽みを前面に出しながらも丁寧につむぐキュートなヴォーカルが乗り、丁寧にといっても重くはならずあくまで軽くコミカルでキュートに微笑みながら、リラックスした様子で歌う。とってもイイ。声そのものと歌い口が、とっても可愛い。ニーナ…可愛いよ、ニーナ。

ニーナ・ヴィルチは、曲によっては歌いながら軽くしゃべるように笑う声が聴こえたり、一個一個のフレイジングの末尾をコケッティシュに持ち上げてみせたり。あまり声も張らず伸ばさず、たぶん声量じたい小さいのかも。だけど、歌のあいだ、歌の終わりでかすれ気味に弱くなっていって消え入る瞬間も、たまらなく愛おしい。

この『ジョアナ・ジ・タル』のニーナ・ヴィルチの声だけずっと聴いていたい。永遠に、この時間が続けばいいのに。ノエール・ローザの2曲目「ヴォセ・ソー...メンチ」は4ビートのストレートなオールド・ジャズ・ソングにアレンジされていて、ニーナの声が楽しく軽く、しかし仄かにゆらめいたり。

ギリェルミ・ジ・ブリートの4曲目「アキリ・ジスペルタール」が怪談音楽みたいにややおどろおどろしかったり、5「アカーゾ」では途中ちょっとタンゴっぽいザクザク刻むリズムになって、アコーディオンがバンドネオンみたいに聴こえたり、マルコス・サクラメントの7「オージェ・エ・プラ・ミン」では本当にユーモラスで、ニーナもキュートに振舞って可愛く聴こえるし。

ボロローの9曲目「クラレ」ではパーカッショニストがずっとギロを刻んでいるが、このゆったり大きくノる歌と演奏では、ややキューバ音楽ふうなニュアンスもあり、特にエンディングでルイス・バルセロスの10弦バンドリンが「ラ・パローマ」ちっくなアバネーラを弾くのもいい。

アルバム・ラストの11曲目「ゼ・ポンチ」。オルランド・シルヴァも歌ったこのルピシニオ・ロドリゲス・ナンバーが、こりゃまた最高に魅惑的。このアルバムで僕の最愛曲がこれだ。しっとり系バラード。伴奏は途中までヤマンドゥ・コスタの7弦ギターのみ。

途中からグート・ヴィルチの(コントラバスではない)ベース・ギターが入ってくるが、ほぼギター伴奏と歌だけというようなアレンジで、ニーナは微笑むようにそっとやさしく語りかけてくれる。ほかの曲よりニーナの声に深めにエコーが効かせてあって、そんなところもサロンふうな音響でいい雰囲気。ちょっとこう、ニーナと室内で二人きりでいるかのようなアトモスフィア。

あぁ、ニーナ・ヴィルチの『ジョアナ・ジ・タル』、早く CD 届かないかな。五月半ば以後から六月ごろらしいんだけど。

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