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2018/05/21

大好き、パット・マシーニーの『ウィ・リヴ・ヒア』

かなりポップだから、ふつう一般のジャズ・リスナーや、あるいはパット・マシーニー(メセニー)・ファンですら敬遠しているかもしれない1995年リリース作、パット・マシーニー・グループ名義の『ウィ・リヴ・ヒア』。打ち込みビートを使っているのも評判が悪い一因かもしれない。しかしなにを隠そう、僕のいちばん好きなパットのアルバムはこれだ。

その打ち込みビートとポップさこそが、僕は大好きなんだよね。しかもブラック・ミュージック・フィールなんだ。黒い感覚が間違いなく聴ける。しかしそれら A 面でだけ。と言うとエッ?って思われるよね。『ウィ・リヴ・ヒア』は CD しかない(はず)だから A面もB面もないんだけど、なんだかそれがありそうに思えるくらいのコンセプトの差みたいなものが、1〜4曲目と5〜9曲目にある。

1〜4曲目を(仮想)A 面として、5〜9曲目を B 面とすると、A 面はデジタルな打ち込みビートをメインに据えたポップなブラック・ミュージック。B 面は生演奏で組み立てたジャズ・フュージョンと言っていい。それをつないでいるのが B 面1曲目(全体の5曲目)の「ウィ・リヴ・ヒア」におけるアフリカン・ビート。

僕がパット・マシーニー・グループの『ウィ・リヴ・ヒア』で好きなのは仮想 A 面であって、生演奏ジャズである B 面はイマイチ(だけど、従来的なファンだと間違いなくこっちだね)。だから今日は A 面たる1〜4曲目の話だけしたい。ところでこの一枚は、パット、ライル・メイズ、スティーヴ・ロドビー、ポール・ワーティコのレギュラー・バンド(+α)でやったラスト作なんだっけ?あ、違うのか…。

でもポール・ワーティコとスティーヴ・ロドビーは、A 面だとほぼなにをやっているのかわからないと思うほどの薄い存在感だよなあ。ベースとドラムスといったリズム面はかなりの部分がコンピューターを使った打ち込みで組み立てられていて、それをやったプログラマー名が明記されている。生演奏のパーカッショニストはいるみたいだ。

それから、いつもながらパットはヴォーカルの使いかたがうまい。1曲目「ヒア・トゥ・ステイ」、2曲目「アンド・ゼン・アイ・ニュー」でそれを痛感する。デジタルなリズム・ループの上にライル・メイズの鍵盤演奏とパットのギターが乗るのだが、それプラス、人声をポリフォニックにからめてある。

パットの弾くギター・ラインもそれまでとは違って強めのブラック・フィーリングがある。まるでウェス・モンゴメリー。っていうか、この A 面でのギター・スタイルは、ウェスへのオマージュ的なものを意識したのか?と思ってしまうほど。

特に、ヴォーカリストの入らない3曲目「ザ・ガールズ・ネクスト・ドア」。これは間違いなく黒い。あ、ここではスティーヴのコントラバスがはっきり聴こえるなあ。しかしこのドラム・サウンドはやはり打ち込みを使った部分もあるかも。それをポール・ワーティコのドラムス生演奏と混ぜてあるのかな。その上でパットがひとりで黙々とブルージーに弾きまくる。後半のトランペットはあくまでチェンジ・オヴ・ペースみたいなもの。

ソウルフルと言ってさしつかえないほどの、そんな「ザ・ガールズ・ネクスト・ドア」の前の1、2曲目は、もっと僕好みだ。それら二曲ではスティーヴ、ポールの二名はほぼ存在感がなく、レギュラー・グループからはパットとライルの二人が、あ、いや、パットひとりが目立ちまくっている。いちおうベーシストもドラマーも演奏はしていると思うんだけど、デジタルなサウンドに混ざって溶け合って、ほぼわからない。

ヴォーカル・ラインもパットが書いたものに違いない。それがポップだよね。僕はこういうパットの人声の使いかたが大好きなんだ。この1995年作よりもずっと前からあるそういうのがね。この音楽家最大の特色なんじゃないかと思うし、またそれはブラジル音楽から、特にミナス系のそれから学んだんじゃないかな。ジャズ・フュージョンとミナス音楽の関係は深い。

1曲目「ヒア・トゥ・ステイ」、2曲目「アンド・ゼン・アイ・ニュー」ともに、メロディ・ラインも明快なポップさだけど、このデジタル・ビートも聴きやすいよね。それを出したいがゆえに、またポップさとブラック・フィーリングを合体させて同時共存させたいがゆえに、コンピューター・プログラマーを使ったんじゃないかな。

1曲目「ヒア・トゥ・ステイ」。後半、マーク・レッドフォードが繰り返す一定のヴォーカル・ライン(はテーマのヴァリエイション)に乗ってパットがアド・リブ・ソロを弾く部分が、僕はたまらなく大好きだ。そのポリフォニーはかなり整っているから、ギター・ソロもアド・リブじゃないんじゃないかと疑うほど。

2曲目「アンド・ゼン・アイ・ニュー」だと、そんなポリフォニーの楽しさが極まっていて、この曲が個人的にはアルバム『ウィ・リヴ・ヒア』でいちばん好き。も〜う!大好きだ。最初、ライルとパット中心のテーマ(?)演奏部で、それがパッと止まってブレイクになりドラムス・サウンドだけになる箇所も気持ちいい。そこはポール・ワーティコの演奏?

2曲目「アンド・ゼン・アイ・ニュー」がもうたまらん快感になるのは、中間部の静かなバラード調パート(ではいつもどおりのセンティメンタリズムをパットが弾く)を経て、ライルのシンセサイザーが転調して、その後のグルーヴ・パートになる 6:12 から。そこからマーク・レッドフォードのヴォーカルが入ってくる。

その後、曲が終わるまでの約1分40秒間、パットのギターも用意されたラインを反復して弾き、同じくアレンジされたラインを歌うマーク・レッドフォードとツイン・ポリフォニーでからみあい、黒いデジタルな祝祭ダンス・ビートの上でツー・ラインが対位的に同時進行する。かなりな細部まで綿密丁寧に創り込まれているが、ここの快感ったらないね。泣きそうなくらい、爽快。

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