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2018/06/21

ブラジル・インストのソロと名演 1949-1962

このフレモー&アソシエの三枚組『ブレジル・アンストルモンタル:ソリスト・エ・ヴィルチュオーズ・ブレジリアン 1949-1962』は、基本的に、っていうか完璧に、ショーロ・アンソソロジーってことだね。ポピュラー・ミュージック界におけるインストルメンタルというとみんなジャズを連想するけれど、ジャズにおける発展形とは異なった感覚で進んだ楽器演奏音楽がある。それがショーロ。このことをしっかり示した編纂盤だ。

『ブレジル・アンストルモンタル』は、アルバム・タイトルに忠実に全63曲で歌入りは一個もなし。完全に100%楽器演奏のみ。ショーロはまぁそういう音楽だけど、実はあんがいヴォーカルものだってあるし、ヴォーカリストの伴奏音楽にもなるしで、だからこのアンソロジーの意図は鮮明だ。CD 三枚に収録されているショーロに古いものはなく、1949〜62年だから、実質1950年代録音が中心。そのころのショーロに聴けるインストルメンタル・ブラジルの洗練が聴ける。

ショーロとジャズとの最大の違いは、楽器ソロの持つ意味。ジャズでは楽器のソロ・インプロヴィゼイションが主役で、そのメカニカルな表現可能性を拡大する方法にどんどん進んだが、ショーロには違う美学があった。それを端的に言えば、ショーロにおける楽器ソロとは、そこにいないヴォーカリストの代用品、というか楽器ソロがすなわち「歌」なのだ。それがショーロにおける楽器ソロの意味、役割だ。楽器演奏が歌なのだ、ショーロでは。

『ブレジル・アンストルモンタル』は、まずジャコー・ド・バンドリンの「ミガーリャス・ジ・アモール」(1952)で幕開けするが、だいたい曲がいいよね。そのいい旋律をそのまま「歌」としてバンドリンで弾くジャコーが最高なのだ。後半テナー・ギターのソロもあるが、それもあくまで歌うということに徹している。
急速調のものなら、アルバム3曲目にあるおなじみ「ブラジレイリーニョ」。ここに収録されているのは作者ヴァルジール・アゼヴェード自身の1949年録音。こんなカヴァキーニョ弾きまくりナンバーでも、ヴァルジールはきれいに歌わせていることに注目してほしい。
どっちがいい悪いじゃなくって、ショーロとジャズはソロ展開のしかたが違うのだ。ジャズのソロのばあいは(特にビ・バップ革命後は)メカニカルに進むことが多いけれど、ショーロだと、どんなテンポと楽想でも「歌う」ということから外れない。ジャズ・ショーロとか、あるいはまたショーロ自身の内側で変化もあったかもしれないが、基本的にはここが徹底されている。

一枚目8曲目、パウロ・モウラ(クラリネット)の「ヴァルサ・トリステ」(1959)。ラダメス・ニャターリの曲だけど、パウロの表現する哀愁とか湿った情緒が聴きとれるよね。これは本当に泣いて(choro)いるかのよう。やはりクラリネットという楽器で歌っている。ヴォーカリストはいないけれど、これが歌だ。
今日話題の三枚組『ブレジル・アンストルモンタル』では、収録されている音楽家の数というかヴァリエイションは限定的で、ジャコーやパウロ、またバーデン・パウエル、アベル・フェレイラ、ラダメース・コン・セウ・セステート、ロウリンド・アルメイダ、ルイス・アメリカーノとか、ほか若干名。この人選と曲選にも、二名の編者、特にテカ・カラザンスのほうの意図を感じるものだ。

全体的には、アンソロジー『ブレジル・アンストルモンタル』で聴けるショーロ最大の特長は、楽器ソロ奏者がとてもよく歌うということの次に、(ストリート感覚を隠しながらの)サロン・ミュージックであるということだ。かなりヨーロッパふうで、落ち着いて典雅な雰囲気を感じられると思う。

BGM とかムード・ミュージックとかっていう存在や表現がお嫌いな向きもいらっしゃるみたいなんだけど、『ブレジル・アンストルモンタル』三枚組の音楽は、そういうものとしてよく機能する。ちょっとしたナイト・クラブとかバーとか、まあぼくは下戸なので自室のなかでコーヒー飲みながらだけど、リラックスできて、ちょうどいい雰囲気をつくってくれると思うなあ。

もちろん、なんの邪魔にもならないほどスムースに歌っているように聴こえる楽器ソロとは、すなわちヴァーチュオーゾのなせるわざだから、に違いないのではあるけれど。そこまでの技巧、そこまで存在感を消せる卓越こそ、実は最も見事なものなんじゃないかと、そう思うんだよね。 

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