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2018/07/22

ウェザー・リポートの熱帯地上舞踏音楽トリロジー(3)〜『ヘヴィ・ウェザー』

今日が三週目の完結編。
それでも『ブラック・マーケット』までは、アルバム・トータルで聴くと突出している曲があったりイマイチだったするものも混じっていたけれど、1977年3月発売の『ヘヴィ・ウェザー』には一分の隙もない。完璧なんだよなあ。いやあ、こんなアルバム、どんな音楽世界にもなかなかないもんだよ。

オープナーの「バードランド」や、ジャズ視点からは実はあんがいこっちのほうがすごいクローザーの「ハヴォナ」(大傑作!)などだけでなくぜんぶがいいし、また A面B面の差もなく、B 面トップのライヴ音源だって有効に機能しているし、片面四曲づつの構成が見事なら、全八曲すべて曲創りも演奏も文句をつけるところがない。レコードで盤面ひっくり返して聴いて完璧だったけれど、CD(やネット配信)でトータル連続再生でも完璧っていう、こんなアルバム、ほかにあるのか?

ふつうのジャズ・ファンやウェザー・リポート好きがいちばんアレッ?って思うのが、たぶん7曲目の「ザ・ジャグラー」(ジョー・ザヴィヌル作)なんだよね。この曲だけはやっぱりイマイチなんじゃないの?って思われそうだけど、ラテン・アメリカ音楽視点からは興味深いもの。この曲の土台はアフロ・ペルー音楽だ。アンデス音楽とも通じていそう。これら二点、二年以上前に recio y romantico さんにご教示いただきました。感謝します。
『ヘヴィ・ウェザー』を録音した当時のこのバンドのレギュラー・ドラマーはアレックス(アレハンドロ)・アクーニャ。周知のとおりペルー出身の打楽器奏者。「ザ・ジャグラー」の作者はジョー・ザヴィヌルだけど、アレックスが持ち込んだものがかなりありそうだ。『幻想夜話』『ブラック・マーケット』と、二つの記事でも書いてきたが、ジョーとウェイン・ショーターのワールド・ミュージック志向がこのころからジャズ・フュージョンのなかに溶け込んでくるようになって、その後もずっと続いている。

「ザ・ジャグラー」のばあいは、(たぶんかなり直接的に)アレックス・アクーニャからの流入があったと思うんだけど、ウェザー・リポートが取り組む前から独自にブラジル音楽と融合したウェイン(『ネイティヴ・ダンサー』、1974)がバンドに還元したものや、ジョーの独自開拓したものだってたくさんある。だからアレックスの教示がなくてもたどりついた可能性は高い。

アフロ・ペルー音楽というとマリネーラ、ランドー、フェスティーホあたりかな。ウェザー・リポートの「ザ・ジャグラー」のばあい、アンデス音楽的なペンタトニック・スケールを使ってあるけれど、リズムの三拍子はフェスティーホ系のものかもしれない。しかしかなりシンプルなビートにしてある。マリネーラもランドーもフェスティーホも、もっと複雑なポリリズムなんだけど、ジャズ・フュージョン化するにあたりジョーが整理したのかもしれない。ジョーはギターとタブラも演奏している。

祝祭のダンス・ビートといえば、『ヘヴィ・ウェザー』には5曲目に「ルンバ・ママ」があるよね。1976年夏のモントルー・ジャズ・フェスティヴァルでのライヴ録音。マノロ・バドレーナとアレックス・アクーニャの打楽器デュオ演奏で、特に後半 1:37 あたりから二名がシンクロして猛烈にグルーヴしはじめてからはすごい快感だ。だからあっという間に終わってしまう。

しかし次の瞬間に6曲目「パレイディアム」冒頭の轟音が響きわたり、ジャコ・パストリアスがラインを刻みはじめたら、さらにまた違う快感が来る。この曲ではウェインもかなり活躍しているが、ジョーのアレンジ、オーケストレイションも見事だ。オーバーハイム・ポリフォニック・シンセサイザーを使えるようになったので、まるでビッグ・バンド・アンサンブルのような広がりが…、っていうのは先週きっちり書いたので省略。でもなんだかんだ言って、ジョーはまだまだ ARP 2600とフェンダー・ローズをメインに使っている。

それからアクースティック・ピアノの響きが格別美しいってことも『ヘヴィ・ウェザー』の特長の一つだ。それを痛感するのがおなじみ1曲目「バードランド」。印象からするとエッ?と思われるかもしれないが、このスタジオ・オリジナルでいちばん目立って活躍する鍵盤楽器はグランド・ピアノなんだよね。重厚なアンサンブル部ではもちろんオーバーハイム・ポリフォニック・シンセとウェインのサックスを重ねてある。

「バードランド」(や「ア・リマーク・ユー・メイド」「ティーン・タウン」)の魅力については語られ尽くされているように思うので多言無用だ。ただ一つ、あの印象的な導入部(と中間各所)のシンセ低音。ARP 2600で出していると思うんだけど、これ、1976年末〜77年初頭の録音だ。ってことは、たとえば楽器はすこし違ってもスティーヴィ・ワンダーなんかがまったく同様のシンセ・ベースを使っているアルバムが発表済みだった。スティーヴィはムーグ・ベース(シンセ)なんだけどね。

ジャズ・ファンのみなさんには、スティーヴィの『トーキング・ブック』(1972)〜『フルフィリングネス・ファースト・フィナーレ』(1974)をぜひちょっと覗いてみてほしいんだよね。ジョーが「バードランド」でやっている低音シンセの使いかたと同じものが、すでにある。ジャズ界でも、っていうか、1970年代半ばまでにはふつうのシンセ活用法となっていた。

あっ、そういえば、チューバやスーザフォンなど管ベースと、弦ベースと、(オルガンなどの)フット・ペダル・ベースと、こういった鍵盤シンセ・ベースと、これら四者の関係を考えてみたらおもしろいかもしれないよね。

「ア・リマーク・ユー・メイド」については、以前詳しく書いた。
アルバム・ラスト「ハヴォナ」。上でも書いたがジャコ作のこの一曲は、ある意味アルバム『ヘヴィ・ウェザー』でいちばんすごい演奏だ。白眉と言ってもいい。かなりジャジーで、4/4拍子を基調としているし、順にソロまわしが続くという組み立てもストレート・ジャズに近いアレンジ構成。そして、ジャコのベースが!とんでもないね!

ベース・ソロ部分できわめてリリカル(このひとのベース・プレイ最大の特徴だ、スペイシーさとあわせ)で美しく、間の活用も見事。ストラヴィンスキーを引用したり、細かいパッセージを弾く部分と大きく乗る部分とのコントラストも完璧で、もう文句なしの絶品じゃないか。「ティーン・タウン」よりすごいぞ。

さらにジャコは自分のソロのあいだだけじゃなく、ジョーやウェインのソロの背後でもベース・ソロを弾いている(ようなもんだ)し、それはアンサンブル部分でも同じ。ジャコもほかの三人も(そう、「ハヴォナ」ではマノロのいないカルテット演奏)、ソロといい合わせる部分といい、この完璧さをかんがみるに、ジョーがかなりな部分までアレンジしてあったとは思う。だけどそれでも、ここまでのスポンティニアスさを持ちかつ構成のトータリティも美しい音楽にはなかなか仕上がらないもんだよなあ。

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コメント

傑作アルバム『ヘビー・ウェザー』の中で日の当たらなかった(かも知れない)「ザ・ジャグラー」に光を当てて頂きありがとうございます。

アレックス・アクーニャは、ペルーを訪れたペレス・プラドに才能を見いだされた打楽器奏者。渡米後も幼少期から親しんだアフロ/キューバン音楽を演奏する傍ら、自身のルーツに対する強い想いもあったと思います。それを世界中の音楽に関心を持つザヴィヌルがうまく汲み上げたと考えてもおかしくはない。

「ザ・ジャグラー」のリズムはフェステホが主体となっていますが、ご指摘の通り洗練されたスタイルになっています。これも無理からぬ事で、3/4と6/8が交互に現れるパターンは、例えばサンタナが『キャラヴァンサライ』の2曲目の「躍動」で使っている形になるのが自然だと思います。

でも洗練されたスタイルを入口として、複雑なポリリズムの部分に入っていくのも音楽の楽しみのひとつ。聴き手をいろいろな世界に案内してくれるザヴィヌルには感謝あるのみです。

もうひとつ、ジャコに関して。ザヴィヌルがベーシストに求めていたのは(グルーブの他に)クラシック音楽のオーケストラのコントラバスの役割で、ジャコが感覚的にそれを持っていたことがザヴィヌルにとっては嬉しい誤算だったんじゃないのかな。

そんなことを考えながらウェザーリポートの1作目からジャコが在籍した『ウェザー・リポート』までを1作1作聴き直しています。発売当時はスルーだった『ミスター・ゴーン』が全然違って面白く聞こえたこともきっかけで、このバンドは深いと今更ながらに感じます。


ご教示いただかなかったらたどりつかなかったと思いますので、感謝しております。

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